
こんにちは!リハビリくんです!
今回は、入院患者様および入所利用者様に対する転倒予防策について解説していきたいと思います。
医療機関や施設での転倒骨折予防は多くの取り組みや研究がなされてきましたが、転倒事故は跡が絶たない状況だと思います。それもそのはずで、転倒予防における取り組みというのは本当に難しいんですよね。
実際、骨折のほとんどが転倒によって生じるため、まずは転倒予防策が急務となります。限られた職員数で転倒を防ぐには、1人1人に転倒予防策を投じることは困難であり、転倒リスク因子を評価して対象者を絞り込む必要があります。
これまでに非常に多くの転倒予防に関わる評価が開発されていますが、一概に1つのアセスメントツールをオススメすることは難しく、それぞれの病院・施設毎に自施設独自のものを開発することが効果的です。
私も若手の頃は、転倒リスクが考えられる対象者に対しては、バランス訓練や筋力強化を行って転倒リスクを軽減させよう!と考えていた時期もあったのですが、実際はそれだけで直結して効果がでるほど甘くありませんでした。
そこで今回、どのような取り組みが転倒予防に効果をもたらすのか、内的転倒リスク要因、外的転倒リスク要因を通してお伝えできればと思います!

【簡単に自己紹介】
埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です
現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!
主な取得資格は以下の通りになります
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!
3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!
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医療機関や施設による転倒事故

医療機関あるいは施設における転倒や外傷に関する問題意識は年々高まっており、多くの現場で対策取られています。
しかし、依然として多くの骨折が生じており、大きな問題であることに変わりはありません。入院・入所時の転倒骨折は訴訟問題に発展することもあり、職員全員が転倒骨折に関して明確な認識を持ち、明文化された対策を保持している必要があります。
転倒骨折には様々な要因が複雑に絡み合っていますが、ほとんどの骨折が転倒に伴うものであるた
め、まずは転倒対策が取り組むべき最優先課題となります。
転倒の要因には大きく分けて2つあり、1つは内因性転倒因子、もう1つが外因性転倒因子になります。
転倒が生じたとして、骨折に繋がる確率は高くはありません。転倒予防策をいくら講じても転倒が0になることはあり得ないと考えられます。そして、転倒対策を講じておりながら、奇しくも転倒したタイミングで骨折に結び付いてしまうこともあります。
これが転倒予防対策が抱える根本的な問題点であり、難しさであります。転倒骨折は入所者や患者にとってのみならず、医療機関や施設にとっても負荷がかかる出来事であり、これを防ぐ方策を立てる必要があります。
また、転倒予防対策の厄介な点は他にもあり、医療機関や施設における転倒予防に関する研究は「質の改善」の形を取るものが多く、得られた結果を他の環境に応用することが難しい点です。
要するに、他の病院や施設の対策を真似すれば上手くいくという訳ではなく、その現場ごとの特色に合わせた対策を投じる必要があります。

内因性転倒リスク因子
内因性転倒リスク因子には下図にあるように様々な要素があります。加齢による変化、身体的疾患、処方されている薬剤に分けて考えると整理しやすいと思います。

転倒歴がある人は転倒リスクが高い
これらのリスク因子の中で、最も上位にランクされる危険因子が転倒歴であり、ほとんどすべての臨床研究で常にトップにランキングされています。
その理由は、上図に挙げた他の内因性転倒リスク因子が各々独立した要因であるのに対して、転倒歴は様々な転倒リスク因子を包含した複合評価指標となっているためです。
これまでの研究で、転倒歴のある対象者の次なる転倒のオッズ比は3を超えており、転倒予防戦略が最も有効に作用するであろう対象であると考えられます。
内因性転倒リスク因子に対してリハビリテーションとして何ができるのか
良く出るアイデアとしては、「運動能力障害に対して筋力強化や歩行練習、あるいは日常生活動作訓練を行い転倒リスク低下を目指します。」この考え方は、決して間違ってはないと思いますし、リハビリテーションを行う上で必要な要素になると思います。
しかし、転倒予防策という視点から考えるとそれだけでは防げない転倒があると思います。それは医療機関や施設での転倒の半数程度が、入院・入所後1週間以内に発生しているためです。
そのため、内因性転倒リスクに対する転倒予防策は難しいものとなります。では、実際にどのような対応ができるかについて認知症を例に出して考えてみます。

内因性転倒リスク因子となる認知症に対して、認知機能を補うような支援(①色のコントラストに強弱をつける ②足元への常夜灯を設置する ③導線上に案内板を掲示する)をすることで転倒リスクを軽減させることができます。
このように、疾患の特徴に対して、転倒予防を図るためのアプローチをすることが内因性転倒リスク因子については効果が得られやすいです。
筋力強化やバランス機能向上のように長期間かからずに、即効性のある対応が可能なので入院入所直後の転倒予防にも繋がりやすいと思います。
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外因性転倒リスク因子
内因性転倒リスク因子には、「年齢」や「性別」のように、全く介入できないものも存在します。しかし、外因性転倒リスク因子は主として環境要因であるために、正しく認識されていれば速やかに改善が可能となります。

入院患者の外因性転倒リスク因子としては、施設としての環境要因、浴室における手すりなどの設置状況や照明の明るさ、睡眠導入剤や抗うつ薬の投与が挙げられています。
入院・入所したばかりの患者様利用者様は環境の急激な変化や疾病の存在により不眠をきたすことが多く、そのコントロールのために睡眠導入剤などを処方することもあると思います。
投薬は、時としてリハビリテーションを円滑に進める手助けともなりますが、転倒リスクを上昇させていることも認識する必要があります。

上の図は外因性転倒リスク因子を物理的環境要因、人的環境要因、治療要因に細分化しそれぞれの対応方法についてまとめた資料になっております。
理学療法士は物理的環境を改善させるための提案は得意分野だと思います。しかし、人的環境や治療環境には目を向けられていないことが多い印象があります。
治療要因にあるように、転倒事故は対象者だけの問題ではなくスタッフ側の質にも左右されます。もっと大きくいえば医療機関、施設全体の問題だと言えると思います。
転倒事故を最小限に食い止めることができている医療機関・施設は教育やスタッフのメンタルケアが行き届いていると感じますし、反対に転倒事故が多い所は、管理者側に問題がある可能性もあると思います。
転倒リスクアセスメントツールについて
環境要因として、手すりを適切な場所に設置したり、床上の障害物を減らす努力は全ての患者様および利用者様に対して必要な対策です。
しかし全ての患者様および利用者様に対して個別に転倒予防対策を取ることは、マンパワーから考えると難しいと思います。対策をとったほうが転倒防止に繋がるのは間違いないのですが、結果的には人手が足りず、対応が行き届かず、転倒事故が起こります。
重要なのは、より転倒リスクの高い患者様および利用者を同定し、集中的に転倒予防を行うことです。
これまでに非常に多くの転倒予防に関わる評価が開発されています。
厚生労働省により作成された転倒・転落アセスメントスコアシート、日本医師会により作成された転倒・転落アセスメントスコアシート、リハビリテーションで評価されることが多いBerg Balance Scale、Timed Up and Go test、10m歩行テスト等あげればキリがないですが様々な評価があります。
しかし、転倒・転落アセスメントスコアシートの感度や得意度は、医療機関や施設の特性や患者様や利用者様の個人要因により大きく変わることが考えられます。
したがって、転倒アセスメントツールを使って危険因子を有する患者群を抽出しようとする際は、既存のツールを利用することは問題ありませんが、あくまでも自施設用に項目や内容を改変して使用するべきです。
ポイントは感度および特異度が受け入れ可能なレベルまで高いツールを関係者全員で作り上げていくことです。
運動療法における転倒予防策としては、運動療法を実施し、転倒リスク(バランス機能)を評価し改善を図るといった流れになると考えられます。バランス機能評価の 1 つの方法にFSSTという敏捷性に重きをおいたバランス評価があります。
FSSTについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【FSST:Four Square Step Testについての記事はこちらから】
最も効果的な転倒予防策
転倒リスク因子を有する患者様あるいは利用者様が同定できたとして、どのような介入が効果的でしょうか。
環境要因に問題点があるのであれば対応するべきです。しかし、前述したように内因性転倒リスク(個人要因)に対しては介入できない部分もあります。
そこで注目したい項目は薬剤投与です。病院から病院へと転院した場合もしくは病院から施設に入所した場合は前院から処方された薬剤を持参します。
この傾向は高齢者において特に顕著であり、多剤服薬はそれ自体が転倒のリスク因子となります。
イギリスで行われた2年間にわたる5,213名の高齢者(60歳以上)を対象とした追跡研究で、多剤服薬者(5剤以上)の転倒率が21%高かったと報告されています。
このことから、入院および入所の段階で内服薬の評価を行い、可能であるならば減薬に努めるべきです。むしろ、患者が入院したときが減薬する最高のタイミングです。
まとめ
最後までお読み頂いてありがとうございます!
この記事では、入院患者様および利用者様に対する転倒予防策について解説させて頂きました!
転倒予防策は、リハビリテーションスタッフや看護ユニットが主体となって行い、設備改修なども考慮すれば、施設にも協力を求める必要があります。
そして、最も重要な参加者が患者および利用者本人となります。例えば、入院高齢者などの脆弱な患者の場合、転倒骨折予防戦略に患者を関与させることで、転倒リスクに対する患者の意識を高め、退院後の転倒リスク軽減につなげることができます。
最後に、すべての転倒が予防できるわけではなく、患者や入所者の危険因子は大きく異なり、多くは異なるアプローチを必要とすることを覚えておくことが重要です。転倒骨折予防に特効薬は存在しないため、多職種による効果的なアプローチが必要です。
この記事では入院患者の転倒予防策についてまとめましたが、ご自宅で生活する地域在住高齢者については、転倒予防策の視点がまた少し変わってきます。
地域在住高齢者の転倒予防策については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【在宅で生活する高齢者の転倒予防策の記事はこちらから】

- 猪飼哲夫.高齢者における転倒の要因と対策.福祉のまちづくり研究.第6巻,第1号,p1-5.
- 角田亘,安保雅博.転倒をなくすために.慈恵医大誌.2008,123,p347-371.
- 鈴木亨,園田茂,才藤栄一,村田元徳,清水康裕,三沢佳代.回復期リハビリテーション目的の入院脳卒中患者における転倒,転落事故と ADL.リハビリテーション医学.2006,43,p180-185.
- 宮越浩一,高橋静子,吉田康之,夏目隆史.入院初期における転倒転落の予測因子の検討.日本医療マネジメント学会雑誌.2010,Vol.11,No2.