【地域在住高齢者の転倒】自宅での転倒が多く環境因子への介入が有効

臨床での悩み
リハビリくん
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こんにちは! リハビリくんです!

 

今回は、地域で生活する高齢者の転倒骨折予防について解説させて頂きます。

 

地域在住高齢者の1年間の転倒頻度は15〜20%程度となり、転倒の特徴としては室内で多く発生し、女性が多くなっています。

 

転倒の要因として大きく分けて内的要因(身体機能や疾患が要因)と外的要因(住宅の環境や履き物などが要因)があります。運動を行うことは転倒予防効果があり、特にバランスを維持する要素の運動を含め、長期間運動を継続することで転倒予防に繋がります。

 

一方で、住宅内の転倒しやすい環境を見直すことは即効性のある転倒予防介入となります。


リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です

現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!

  

主な取得資格は以下の通りになります

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級


「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!

  

3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!

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地域在住高齢者の1年間の転倒頻度

転倒の定義について

転倒の定義はいくつかあるがGibsonの転倒の定義、「他人による外力、意識消失、脳卒中などにより突然発症した麻痺、てんかん発作によることなく、不注意によって、人が同一平面あるいはより低い平面へ倒れること」が高齢者における転倒の定義となっております。

この定義に従えば「躓く」だけでは転倒ではなく、ベッド上からの「転落」も転倒とは異なるということです。転倒予防対策を努めるうえで、高齢者に転倒歴を確認することは必須となりますが、「躓き」や「転落」も転倒に含めて解釈していることが多いため、聞き取り時には注意が必要です。

地域在住高齢者の転倒頻度

地域在住高齢者の転倒について調査した研究によると、1年間での転倒頻度は平均年齢70歳以上の男性が6.8〜19.2%、女性が13.4〜22.0%という結果になり男女で比較すると女性に多い傾向となりました。

こちらの研究では、要支援や要介護認定を受けていない健康な高齢者も含まれておりますので、リハビリテーション専門職が関わるような疾患を有する場合は転倒頻度が更に高くなります。

変形性膝関節症や関節リウマチなどを有する高齢者では年間40%以上が転倒すると言われています。

また運動器の衰えによって能力低下を呈した状態であるロコモティブシンドローム(ロコモ)と診断された高齢者の転倒頻度は年10%と報告されております。

自宅内で転倒することが多い

地域在住高齢者の転倒場所については屋外よりも室内が多い傾向にあります。

2008〜15年までの8年間の転倒場所を調査した報告によると転倒件数3,721件(男性1,379名 女性2,342名)のうち転倒場所は「自宅内」が64.9%、次いで「道路・交差点」が15.7%と圧倒的に室内が多いことがわかっております。

自宅内の転倒場所をみると「居室」が最も多く64.2%となっています。また、この報告では居室内での転倒は高齢女性に多く発生しております。

以上のように高齢者において自宅内での転倒事故が多いことから、自宅での転倒しやすい環境要因を見つけ、未然に対応しておくことが転倒・骨折予防に繋がります。

また高齢女性の転倒は脆弱性骨折に直結することから、地域社会全体への骨粗鬆症の予防や検査・治療の有用性についての啓発活動が重要となります。

転倒予防の基本的な考えについて

転倒の原因は内的要因と外的要因の2つに大別できます。内的要因と外的要因については、こちらの記事:入院患者の転倒予防策「一向に減る気配がない転倒をどう防ぐのか」で詳しく書いているため目を通して頂けると幸いです。

内的転倒リスク要因と外的転倒リスク要因について

内的要因とは運動機能や疾患など転倒を誘発する原因がその人の身体機能に関連するものが当てはまります。高齢者ではこれらの身体機能が年々低下するために転倒しやすくなります。

外的要因とは滑りやすい床面、カーペットの端のめくれた部位、段差など外部環境が当てはまります。

また、薬物も転倒を誘発する要因となります。特にベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤などは、筋弛緩作用があるため転倒に注意が必要となります。多剤投与自体が転倒と関連することもよく知られています。

地域高齢者の転倒予防を考えた場合、その高齢者がどのような内的・外的転倒リスク要因を持っているのか個別の評価が重要になります。

しかしながら、内的要因については、疾患から生じているものであれば改善が困難な場合もあります。

さらに高齢者の身体機能低下の改善には時間がかかり、転倒の内的要因への介入は即効性がないこともあります。

そのため、まずは服薬の見直しや外的要因に対しての改善策を講じることが明日の転倒発生リスクを軽減させる転倒予防介入となります。

運動療法による転倒予防介入

運動療法が筋力、バランス機能の改善をもたらし、心身機能を高めることは周知の事実であり運動療法介入による転倒予防効果についても数々の報告があります。

159件の臨床試験に登録された79,193例を対象としたメタアナリシスでは、転倒を軽減させる運動方法として筋力訓練やバランス体操など多種類のグループ運動、太極拳、個別の多種類の自宅運動などが転倒予防に重要であると報告されています。

一方で、他のシステマティックレビューでは中等度〜高度の負荷量のバランス訓練を行うことが転倒予防に効果があり、筋力増強運動のみではその効果を認めなかったとの報告もあります。

静的・動的バランス能力は転倒を回避するために重要な身体能力であり、その能力を維持・改善するためには立位バランスを維持する要素の運動を行うことが大きなポイントになります。

簡便に行えるバランス運動として開眼片脚立位保持運動がありますが、1分間保持を1日3回実施した結果、6か月後の介入群の転倒回数は対照群に比べて有意に減少したことが報告されています。

また、開眼片脚立位保持運動はバランス能力の改善だけでなく下肢筋力維持、増強効果もあると考えられています。

開眼片脚立位保持運動は簡便で処方しやすい運動ではありますが、身体機能の低い高齢者では転倒の危険もあるため、個人の体力差、疾患や関節痛などを考慮して運動療法の種類を選択する必要があります。

運動療法における転倒予防策としては、運動療法を実施し、転倒リスク(バランス機能)を評価し改善を図るといった流れになると考えられます。バランス機能評価の 1 つの方法にFSSTという敏捷性に重きをおいたバランス評価があります。

FSSTについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【FSST:Four Square Step Testについての記事はこちらから

外的要因(環境因子)への介入

転倒予防介入で即効性があるのは、住宅の環境整備などの転倒の外的要因に対する介入となります。

端がめくれた居間のカーペット、季節が変わって片付けられていない扇風機のコード、床に置いてある新聞などは転倒を引き起こす要因となります。

これらの環境調整を含む生活指導を実施することで、転倒リスクの軽減に繋がります。

ここ最近、実際にあった経験談ですが、入院中に担当させて頂いてた脳梗塞後遺症の患者様が、杖歩行が自立したため、自宅へと退院する運びとなりました。

こちらの事例では退院前訪問を行い、外階段に手すりを設置、脱衣所と浴室の段差の解消、居間の躓きの原因となりそうなカーペットの撤廃、2階には1人で上がらないことにしました。

退院後はデイケアを利用することでリハビリテーションを継続しつつ生活を送りましたが、退院3ヶ月後に自宅で転倒し、大腿骨近位部骨折を受傷しました。

本事例では、身体機能としては脳梗塞後遺症の影響により左下肢の痺れや冷感を認めており、認知機能は問題がありませんでした。

転倒は季節的に寒くなりはじめた頃に発生し、本人に転倒した時の話を伺ってみると「足が冷えてきたからスリッパを履いて歩いていた。」とのことであった。

このような経験から地域の高齢者へ対応する医療福祉スタッフは、高齢者の身体機能のみならず、歩行補助具や履き物などについても評価や指導を行い、この先の生活を予測することが転倒、骨折を予防するうえで重要となります。

また、実際の転倒は本事例のように脳梗塞後遺症により歩行機能が低下していたという内的要因にスリッパや気候変動といった外的要因が絡み合って転倒を起こしていることから、多面的な評価が転倒予防には求められているといえます。

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転倒予防のための地域高齢者に対するポピュレーションアプローチ

ポピュレーションアプローチとは、地域に暮らす高齢者集団全体への介入によって、地域全体の転倒を減らそうという働きかけになります。

例えば、地域の高齢者の転倒による骨折予防を啓発ていくために行われる予防パンフレットの配布キャンペーンや講演会などもそれにあたります

地域全体に対して行われた転倒予防のためのポピュレーションアプローチ研究を集めたシステマティックレビューでは、ポピュレーションアプローチを行うことで転倒による外傷が軽減したことが報告されています。

一方、ランダム化比較試験のような質の高い研究がないのが現状であり、その効果は限定的といえます。しかし、地域社会全体に対して介入することで、多くの住民が転倒・骨折についての正しい認識を持てば、自分自身の健康行動だけでなく他者へも健康のアドバイスや注意喚起をするようになります。

地域全体への啓発によって社会規範や骨折への意識や健康行動が変われば大きな成果を上げることに繋がるため、ポピュレーションアプローチを取り組む価値は十分にあると思います。

また、ポピュレーションアプローチによる介入は明確なプロトコルはありません。まずはその地域でなぜ転倒が発生しているのかといった背景要因を抽出することが必要です。地域の特性を量的、質的に評価して抽出された危険因子に対するオリジナルの転倒予防方法を考案すべきだと考えます。

おわりに

最後までお読み頂きありがとうございます!

この記事では在宅生活を送る高齢者の転倒骨折予防について、まとめさせて頂きました。

地域在住高齢者は屋外より自宅で転倒することが多く、自宅の中で考えると居室で転倒することが多いというデータがあります。

このデータに関しては、確かに自宅や居室の環境に転倒する要因となるものが潜んでいるという面もあるとは思います。

しかし視点を変えて考えてみると、ロコモティブシンドロームにより移動能力が低下し、1人で屋外に出る機会が減少し、生活範囲が狭小化していき居室で過ごす時間が増えたという解釈もできると思います。

転倒予防で即時的に効果をもたらすのは環境因子の改善ですが、居宅内の環境を整えて解決する問題ではないと思います。

転倒リスクが高い方の多くが、ロコモやフレイルと診断されています。環境因子に介入した後は、このロコモやフレイルに対して長期的に介入し、移動能力を向上させ、生活範囲の拡大を目指すべきです。フレイルに対する運動療法のポイントについては、こちらの記事:理学療法士の専門性で「フレイル」の改善が可能!運動療法の継続が鍵で解説しているため、目を通していただけると幸いです。

転倒は多因子で発生するため、完全に転倒の発生をゼロにするのは困難だと思います。しかし、個人の転倒リスクを内的・外的要因に分けて評価し、介入することで転倒リスク軽減へと導くことは可能です。是非、理学療法士の専門性で転倒骨折予防に貢献していきましょう!

リハビリくん
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【理学療法士、作業療法士の転職について】

リハビリテーション専門職であれば「転職」するべきなのか悩む人が多いのではないかと思っています。「転職」する、しないは置いといて、1度話を聞いて自分自身の客観的評価をしてもらった方が良いと思います。

  

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参考文献

  1. 村田伸,津田彰,稲谷ふみ枝,田中芳幸.在宅障害高齢者の転倒に影響を及ぼす身体及び認知的要因.理学療法学.2005,32,2,p88-95.
  2. 猪飼哲夫.高齢者における転倒の要因と対策.福祉のまちづくり研究.第6巻,第1号,p1-5.
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