【安静臥床の弊害と離床の効果】離床活動により廃用症候群を防止する

臨床での悩み
リハビリくん
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こんにちは!リハビリくんです!

  

今回は安静臥床が及ぼす全身への悪影響について解説していきます!

  

安静臥床、すなわち寝たきりが良くないことについては、ここ近年で世間の認知が進んだように感じております。しかし、何故寝たきりが良くないのかを詳細に説明することはできるでしょうか?

   

私は以前、離床活動を促進することについては、筋骨格系に加え呼吸循環系や消化器系に良い効果をもたらすということは理解しておりましたが、各器官に対し、どのような影響を与えるのかまでは理解しておりませんでした。

   

そこで今回、安静臥床が及ぼす全身への悪影響について復習し、離床することの意義を再認識して頂ければと思います!

リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です

現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!

  

主な取得資格は以下の通りになります

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級


「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!

  

3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!

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安静臥床が及ぼす全身への影響

安静臥床とは、不動・低運動・不活動などと同様に心身活動が低下した状態をいいます。それによって生じる様々な器官・組織の機能が障害された状態を廃用症候群といいます。

以前は重症患者にとって安静臥床が傷病の回復に有用だと考えられていました。しかし近年になって、安静臥床による合併症が患者のその後のQOLに影響を与えている可能性があることがわかり現在では早期離床が必要とされています。

治療と並行して早期にリハビリテーションを開始することの重要性は、平成30年の診療報酬改定で、「早期離床・リハビリテーション加算」が新設されたことからもわかります。また、平均在院日数の短縮にも、早期から集中的にリハビリテーションを施行することが有効といえます。

安静臥床の弊害として、最大酸素摂取量が低下、全身の血液量低下、心筋が萎縮することが分かっています。

上記に加え、安静や臥床といった身体の不活動状態は筋骨格系・循環器系・呼吸器系・消化器系・泌尿器系・精神神経系など全身に悪影響を及ぼします。安静臥床が各臓器機能に及ぼす影響を解説します。

筋骨格系

筋肉量減少・筋力低下

不動による筋蛋白質の合成低下、分解亢進により生じることがわかっています。筋肉の中でも、姿勢の保持と歩行に関係する抗重力筋に、特に強く症状が出ます。

安静臥床が継続されると、初期症状として1日に約 1〜3%、1週間に10〜15%の割合で筋力低下が生じ、3〜5 週間安静臥床が続くことで約 50%筋力低下が生じると言われています。

骨密度減少

先行研究にて、3週間の安静臥床により骨盤の骨密度が7.3%減少し、20週間に及ぶ安静臥床例では30〜50%の骨密度減少をきたしたという報告があります。そのため、安静臥床状態が続いた症例では、骨密度が減少していることを踏まえて支援していく必要があります。

不動による骨密度減少は、骨吸収亢進により生じると考えられており、低栄養状態やステロイド治療など、骨量減少の誘発要因がある患者は骨密度の減少がさらに進行しやすいことを踏まえて対応する必要があります。

骨の健康状態については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【丈夫な骨を作るために必要な栄養素についての記事はこちらから

関節拘縮

ラットの膝関節固定実験で、約2週間の安静臥床で関節包の厚さが減少し、疎性結合織が密性結合織に変化し、滑膜表層と脂肪織の萎縮や線維増生が起こると報告されています。

また、ラットの足関節ギプス固定実験では、皮膚や腓腹筋・ヒラメ筋といった付着筋が関節可動域へ関与することがわかっています。

循環器系

循環血液量の低下

安静臥床の継続は起立性低血圧の症状にも繋がることがわかっています。

まず、臥位から立位へと姿勢を変えた時に、血液が重力の影響で下肢へ移動します。その血液が移動する関係で静脈還流量が減少します。その結果、心拍出量が減少すると、血圧調節システムが機能しない限り血圧が低下します。

血圧の低下は、頚動脈洞と大動脈弓の圧受容体により感知され、圧受容体からのシグナルが脳幹の循環調節中枢に作用し、交感神経活動が充進することで,心拍数と末梢動脈抵抗が上昇し、心拍出量を維持することで血圧は維持されます。また、抗利尿ホルモンが分泌され循環血液量が増加し、血圧維持に働きます。

反対に立位から臥位になると、下肢から約700mLの血液が胸腔内に移動し、一時的に心拍出量が増加します。このとき、血圧を一定に保つよう圧受容体が作用し末梢血管抵抗を低下させます。

この状態を人体は心肺容量受容器を介して体液量の過剰状態と判断し、抗利尿ホルモンの分泌低下やレニン活性の低下、腎交感神経活動の低下および心房ナトリウム利尿ホルモンの分泌増加により排尿量の増加などを介して体液量の減少、循環血液量の減少をきたします。

Greenleafの総説では、臥床24時間後には血漿量の5〜10%の減少がみられ、20日後には15%もの減少がみられることを示しています。

また、心臓自体の変化も重要であり、Perhonenらは6週間のベッド上臥床が健常男性の左心室容量・平均心室壁厚を有意に減少させ、左心室拡張末期容量においては2週間の臥床で有意に減少することを報告しています。

つまり、臥床により循環血液量・体液量が減少することや、心臓への負荷が低下することによる心臓の廃用性変化が起立性低血圧の重要な要因となっていることが推察されています。

血圧低下や低血圧については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【低血圧や血圧低下の対応方法についての記事はこちらから

最大酸素摂取量低下

最大酸素摂取量は持久力の指標であり、心拍出量・末梢での動静脈酸素分圧較差などで規定されています。最大酸素摂取量は、安静臥床で1日あたり約0.9%低下することが知られています。

静脈血栓

深部静脈血栓症・静脈血栓塞栓症のリスクが安静臥床により高まり、これらは肺血栓塞栓症を引き
起こす原因となります。

静脈還流の要素となる筋ポンプが臥床していると機能しにくいこと、臥床で血液量が減少するため血液粘稠性が亢進することなどが、安静臥床による静脈血栓形成リスクの上昇の原因とも考えられます。

呼吸器系

臥床により腹部臓器に押し上げられ横隔膜は4cmほど挙上し、機能的残気量(FRC)を15〜20%減少させます。

FRCは安静時の呼気終末に肺の中に残っている肺気量であり、ガス交換に大きく関与します。FRCの減少は、肺内シャントの増加や換気血流比の不均衡をもたらし、酸素運搬能の低下をもたらします。

健常成人において、肺活量・最大吸気口腔内圧・最大呼気口腔内圧・最大咳嗽流速の項目は、座位姿勢と比較して臥床状態の時は低値となります。

座位では腹部臓器が下がり肺底部が解放され、胸郭拡張性と横隔膜の運動自由度が高まり、臥床よりも換気に有利となります。

また、臥位では下側となった肺領域がうっ血・肺胞圧迫・分泌物貯留しやすくなり、下側肺障害を招きやすくなります。貯留した分泌物が排出されなければ、そこから細菌が増殖し沈下性肺炎を起こす原因となります。

消化器系

不動は腸管内の食物通過時間を延長させ、便秘の原因となります。特に高齢者ではその傾向が強くなります。健常人であっても、安静臥床で腸管の運動が低下し、腹部の張りや痛みの訴えが増えたことが報告されています。

泌尿器系

不動による骨量減少と骨吸収の亢進により、高カルシウム血症・高カルシウム尿症が生じ、尿路結石が生じやすくなります。

精神神経系

健常者を対象にした安静臥床の検証では、検証前と安静臥床後で比較すると、活力が減り混乱が増えるという結果になっています。また、術後せん妄の発症については、手術当日の安静臥床の苦痛が有意に関与しているとの報告もあるように、安静臥床の精神機能への悪影響もケアしていく必要があります。

離床や運動負荷の効果

安静臥床による弊害を防ぐためには、過度な安静をとらせないことと臥床させ続けないことが必要になります。要するにベッドサイドで介入するにしても筋力を発揮させたり、様々な刺激を入力したり、可能であれば定期的な離床活動を促進することが廃用症候群を防ぐために重要になります。

筋骨格系

最大筋力の20〜30%の筋収縮を続ければ筋力は維持することが可能であり、30%以上の筋収縮を行えば筋力は増加するとされています。

早期から筋力訓練を開始し継続することは重要になります。筋力低下後も、最大収縮を1日1回行うことで、最大筋力の75%までは週12%程度の増加率で筋力は増加すると考えられます。

また、低栄養状態の患者の血清アルブミン値が改善すると運動療法によるBarthel Index の改善が顕著であるという報告があります。蛋白合成低下が筋量低下の原因となっており、その改善のためには運動時の十分な蛋白質や必須アミノ酸の投与の併用が有用と考えられます。

循環器系

運動療法によって最高酸素摂取量は15〜25%増加します。冠動脈疾患およびこれに基づく慢性心不全においては、運動療法単独で心不全増悪による入院を減らし、総死亡・心臓死を減らして生命予後を改善させる効果があります。

呼吸器系

開胸術後呼吸器合併症の発症率は呼吸理学療法を行うことで発症率が低くなると報告されています。また、早期に離床を行わせないことで、腹部術後の呼吸器合併症を3倍に増加させ、入院期間を有意に延長させるという報告があります。ことから、呼吸理学療法を含めた早期からの運動療法は周術期の呼吸器合併症に対して有用と考えられます。

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まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

この記事では、安静臥床が及ぼす全身への悪影響についてまとめさせて頂きました。

安静臥床が及ぼす悪影響は明らかなものとなっています。離床や運動負荷は不動による悪影響を防ぐだけではなく、最終的に到達する身体機能を高め、到達期間を短縮させる効果があります。

離床や運動負荷が重要な1つの治療として更に認識され、あらゆる患者に正しく提供されるように「安静臥床の弊害」と「離床の効果」を呼びかけていくことも重要になると思います。

寝たきりにより臥床状態が長期間継続された患者の離床を促進していく中でうえでは、どうしても起立性低血圧や血圧低下の症状が厄介になります。このテーマについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【起立性低血圧の予防法についての記事はこちらから

リハビリくん
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参考文献

  1. 佐藤知香,梅本安則,田島文博.安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について.Jpn J Rehabil Med .2019,56,p842-847.
  2. 田中敦士,春名由一郎.長期安静臥床と筋力トレーニングが単脚起立に及ぼす影響,Equilibrium Res.2000,Vol.59(6),p563-567.
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