
こんにちは! リハビリくんです!
今回は理学療法における栄養学の重要性について解説させて頂きます!
皆様の周りの理学療法士はどの程度、栄養に関心を持ち理学療法を実施しているでしょうか。体重やBMI等の数値は栄養だけではなく全身状態の把握にも繋がるデータです。それにも関わらず、毎月行う体重測定の結果を確認せずに、日々淡々とリハビリテーションを行う理学療法士は意外と多いと思います。
また、エネルギーバランスについて考えながら理学療法を実施できているでしょうか。例えば、経口摂取も経管栄養も実施できず末梢部からの点滴しか行えていない患者がいたと仮定します。そのような患者に対し、誰にも相談しないまま、機能改善を目標に負荷量が高い理学療法を行なっている場合、エネルギーバランスが負の状況にあるため、むしろ筋力は低下してしまうはずです。
このように栄養学の知識がないまま理学療法を行うと機能改善させるどころか弊害に繋がる可能性があります。こちらの記事では理学療法における栄養学の重要性について理解できるように解説させていただきます。

【簡単に自己紹介】
埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です
現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!
主な取得資格は以下の通りになります
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!
3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!
↓↓↓

理学療法には栄養学の知識が必要
理学療法とは「病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法」と日本理学療法士協会で定義されています。
そして、日本理学療法士協会の中の栄養理学療法部門では栄養理学療法は以下のように定義されています。
「栄養理学療法とは、対象者の機能、活動、参加、QOLを最大限高めるために栄養障害、サルコペニア、栄養摂取量の過不足を把握したうえで、状況に適したゴールを設定し、理学療法を実践するものである。それにあたって、理学療法士は管理栄養士などの多職種と栄養評価や理学療法評価を共有し、活動量、筋緊張、不随意運動などを考慮した栄養管理と栄養理学療法を検討する」
上述した通り、理学療法では運動療法や物理療法を扱います。栄養学の知識なしに運動療法や物理療法を行うと、運動機能の維持・改善という目的を果たせないことがあります。
低栄養かつ栄養状態が悪化している患者に、機能改善を目的としたレジスタンストレーニングや持久性トレーニングを行うと、栄養状態がさらに悪化することで運動機能も悪化してしまいます。
皮下脂肪の少ない低栄養患者と皮下脂肪の多い肥満患者で同じように温熱療法を行うと、低栄養患者では熱傷などの有害事象を生じやすく、肥満患者では効果が得られにくくなってしまいます。
栄養学を意識しないで理学療法を行う理学療法士は少なくない
解剖学や生理学は養成校で学習していることもあり、すべての理学療法士が基礎的な知識を有していると思いますが、栄養学についてはどの程度の関心があるのでしょうか。
例えば、呼吸器疾患や循環器疾患を患う方が酸素療法を行いながら理学療法を行っている光景はよく目にすると思います。酸素流量を設定するのは主に医師であり、不適切な酸素療法が行われていることは少ないはずです。このような症例に介入するうえで、自覚症状の確認や酸素飽和度の測定をしないで、理学療法を行う理学療法士はいないと思います。
また、酸素流量が2ℓ/分と設定された方が入院された場合に、初回介入の結果、老作時に呼吸苦が強くなり酸素飽和度が低下したとします。このようなケースでは、医師と運動時の酸素流量について相談すると思います。安静臥床時と運動などの理学療法を行っているときでは、必要な酸素量が異なることは理学療法士の誰しもが理解していると思います。
一方、浮腫・脱水・低栄養・過栄養の場合、水電解質管理や栄養管理について意識しながら理学療法を行えている理学療法士がどれだけいるでしょうか。
水電解質管理や栄養管理を行うのは、主に医師や管理栄養士となります。安静臥床時と運動などの理学療法を行っているときでは、必要な水分量とエネルギーやたんぱく質の必要量が異なります。
残念でありますが、水分状態・水電解質管理・栄養状態・栄養管理を知らずに、浮腫・脱水・低栄養・過栄養の患者に理学療法を行う理学療法士はたくさんいます。
医師や管理栄養士などが、常に適切な水電解質管理や栄養管理を行っていれば、水分状態・栄養状
態・水電解質管理・栄養管理のことを知らずに理学療法士は理学療法を行えるかもしれません。
しかし、前述した酸素療法と比較して、栄養管理は不適切に行われていることが少なくありません。
日本が超高齢社会になったことで栄養学の必要性はより一層高まっている

21世紀を迎えた頃は、理学療法の対象者が現在よりずっと若く、栄養学のなかで問題になるのは肥満が主な要因でした。
現在の日本では、時には肥満が問題となることもありますが、理学療法の対象者が高齢化したため、肥満より低栄養やフレイル、サルコペニアのほうが問題になることが増えてきました。
高齢者は低栄養になりやすく、低栄養のために生活機能が低下することも少なくありません。ただし、低栄養の場合に理学療法で過度の運動を行うと、低栄養が悪化することで栄養学的にも生活機能的にも悪影響となりやすいことがわかっています。
これらのことから、現在の日本で理学療法を行うのであれば、すべての理学療法士に栄養学の基礎知識が必要となります。
理学療法士は栄養管理を行う上で必要不可欠な存在
今度は今までとは逆の視点で、栄養管理になぜ理学療法学やリハ医学が必要なのか考察していきます。
結論から言うと、①理学療法による運動内容 ② 日常生活での活動量、筋緊張、不随意運動の有無と程度 ③理学療法やリハのゴール設定の把握が、最適な栄養管理の実施に必要だからということになります。
安静臥床時より理学療法で運動を行っているときのほうが、エネルギー消費量は多くなります。現在の栄養状態を維持したい場合の1日エネルギー必要量は、1日エネルギー消費量と同等になります。
そのため、運動によるエネルギー消費量を把握しなければ、最適な栄養管理の実施はできません。また、全患者の理学療法実施時に管理栄養士が立ち会うことは現実的ではありませんし、リハビリテーション以外の日常生活の活動レベルも理学療法士であれば適切な判定ができるはずです。
つまり、理学療法実施時のエネルギー消費量を最も的確に把握できるのは理学療法士であり、理学療法士が持つ情報を医師や管理栄養士と共有して栄養管理に努めることが求められます。
必要エネルギー量、消費エネルギー量についてのお話をさせていただきましたが、これらを考える方法の1つとして、ハリス-ベネディクトの式があります。このテーマについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【ハリス-ベネディクトの式についての記事はこちらから】

身体を動かすことはエネルギー消費量の増加に繋がる
日常生活での活動量はエネルギー消費量に大きな影響を与えます。例えば日中、車椅子で過ごしている患者の場合、自力で車椅子駆動を行いトイレ動作が自立している症例と、自力では手足を動かすことがほとんどできずに、主にテレビを見て過ごしている症例ではエネルギー消費量が異なります。
また、エネルギー消費に関わるのは活動量だけではなく、筋緊張や不随意運動等も関与します。例えば、弛緩性麻痺で筋緊張が低い場合と、固縮・痙縮で筋緊張が高い場合では、エネルギー消費量が異なり、筋緊張が高い場合の方が、絶えず筋肉に力が入りますのでエネルギー消費量が多くなります。
同様に、振戦・アテトーゼなどの不随意運動やクローヌス・運動失調についてもエネルギー消費量が増大する要因となります。
日常生活での活動量、筋緊張、不随意運動に関しては、管理栄養士より理学療法士のほうが詳しいと思います。そのため、これらに関する理学療法士の評価結果を管理栄養士に提供することが、最適な栄養管理の実施に必要となります。
エネルギー摂取量は活動量、異常筋緊張、不随意運動も考慮して設定しないといけない
エネルギー摂取量を単純に身長、体重、年齢だけで設定する場合、エネルギー消費量とうまくバランスがとれないことがあります。

その結果、必要以上にエネルギー摂取量が多くなり体重が増加していく場合もありますし、エネルギー摂取量が不足し低栄養が進行していく場合もあります。
大切なことは、日常生活における活動量を把握し、異常筋緊張や不随意運動等によるストレスがどの程度のものなのかを症例ごとに評価することになります。
例えば、心身機能や活動に改善の余地がなく、ベッド上で1日過ごしている患者がいたと仮定します。手足は弛緩しており、不随意運動も認めず自力で手足を動かすことはありません。BMIは25であり、アルブミン等の生化学検査値も正常値です。
このような症例では、エネルギー消費量を超えるエネルギーの摂取は脂肪として蓄積されます。脂肪蓄積の結果、生活機能がさらに低下して介護負担が増加することも考えられます。そのためこのような症例ではエネルギー摂取量=エネルギー消費量となるように栄養管理を行う必要があります。
一方、心身機能や活動に改善の余地があり、日中のほとんどの時間を車椅子に乗車し生活している患者がいたと仮定します。
車椅子は右上下肢を用いて駆動自立しています。自主トレーニングとして1日3回、1回あたり100メートルの駆動練習を行なっております。左半身の筋緊張は亢進しており、足クローヌスも頻繁に認められます。BMIは19.2であり、アルブミン値は2.8と低値です。
このような症例では、エネルギー消費量を超えるエネルギーの摂取と理学療法による運動の併用で筋肉量や筋力を改善することができます。
体重増加、アルブミン値改善のためにもエネルギー摂取量をエネルギー消費量よりも多くなるように設定しますが、活動量が多いことや筋緊張亢進、クローヌスなどのストレスも発生していることを踏まえて、エネルギー摂取量を決定する必要があります。このような症例ではエネルギー摂取量>>エネルギー消費量となるように栄養管理を行う必要があります。
![]() | PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養第3版 基礎からリハ栄養ケアプロセスまで [ 若林秀隆 ] 価格:3,630円 |

低栄養の診断基準
リハ栄養において低栄養というのは重要なキーワードになります。低栄養の診断基準は様々なものがありますが、2018年に公開されたglobal leadershipiniti tive on malnutrition(GLIM)基準を紹介します。
GLIM 基準では、最初に妥当性の検証された栄養スクリーニングツールで、低栄養のリスクありと判定されることが必要です。
GLIM基準や低栄養の分類方法については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【低栄養の分類と診断基準についての記事はこちらから】
スクリーニングツールについては、簡便で迅速(おおむね5分以内)に完遂できることが望ましく、妥当性や信頼性が検証されたツールを用いることが推奨されています。よく知られたスクリーニングツールとして、MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)があります。
MNA®-SF:簡易栄養状態評価表については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【MNA®-SF:簡易栄養状態評価表についての記事はこちらから】
GLIM 基準の診断方法については下記の表をご参照ください。

GLIM 基準による低栄養の診断で重要なことは、表現型に検査値が含まれていないことになります。血清アルブミン値が低いと低栄養と判断することが多いですが、GLIM 基準では血清アルプミン値は低栄養の診断には使用しません。
もちろん血液データも参考にしますが、GLIM基準に関しては、患者の体重と筋肉量を理学療法の中でよく観察したほうが低栄養と判定する感度が高くなるということです。
まとめ
最後までお読み頂きありがとうございます!
この記事では理学療法における栄養学の重要性について、まとめさせて頂きました。
体重やBMI等の数値は栄養だけではなく全身状態の把握にも繋がるデータです。それにも関わらず、毎月行う体重測定の結果を確認せずに、日々淡々とリハビリテーションを行う理学療法士は意外と多いと思います。
また、私たちは基本的に対象者を良くしようと考え、理学療法を立案し実行しているかと思います。しかし、栄養管理ができていないために、運動がかえって筋力低下を引き起こすかもしれません。
知識がないために起こることですが、これっておそろしいことですよね。理学療法士自らが後悔することがないためにも栄養学はきちんと押さえるべき項目になります。
すべての理学療法士が、リハ栄養や栄養理学療法に熟達する必要はないと思います。しかし、超高齢社会の日本で理学療法を実施するのであれば、栄養学の基本的な知識は理解するべきだと考えます。
栄養管理において栄養スクリーニングと栄養アセスメントの重要性は言うまでもないと思います。このテーマについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【栄養スクリーニングと栄養アセスメントについての記事はこちらから】

参考文献
- 若林秀隆.リハビリテーションと臨床栄養.Jpn J Rehabil Med.2011,48,p270-281.
- 若林秀隆.リハビリテーションと栄養管理(総論).静脈経腸栄養.2011,Vol.26,No.6,p3-8.
- 若林秀隆.理学療法とリハビリテーション栄養管理.理学療法学.2013,第40巻,第5号,p392-398.