
こんにちは!リハビリくんです!
今回は認知症医療の最前線について解説させて頂きます!
超高齢化社会が進む中、認知症高齢者へのアプローチが医療・介護の1つのポイントになるのは間違いないと思います。しかし認知症においては、そのアプローチが非常に難しいところであり、症状に応じたアプローチを丁寧に行い、認知症の進行にも合わせてアプローチ方法を変化させていく必要があります。
後述しますが、認知症の疑いがある高齢者数は非常に多く、医療従事者だけて対応するのは難しいと思います。そのため、介護に関わるスタッフ、本人やご家族様に対して適切な説明や指導を行い、多くの人々で認知症の疑いがある方に関わっていく必要があります。
そのためには、まずは医療従事者が認知症対応の最新情報を知識として得ておく必要があるため、認知症の概要・4大認知症・薬物療法について詳しくまとめさせて頂きます!

【簡単に自己紹介】
埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です
現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!
主な取得資格は以下の通りになります
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!
3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!
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30%の高齢者が認知症の疑いがある

厚生労働省の調査によると、日本の認知症高齢者数は2012年時点で462万人、加えて認知症の予備軍であるMCIの人は約400万人と推計されています。この数字は65歳以上の高齢者3079万人を対象に算出されているため、およそ3割の高齢者が認知症の可能性があるということになります。
現在ではこの数字は更に増加し、認知症高齢者が600万人以上、MCIの人は500万人以上いると考えられています。超高齢社会に直面している日本にとって、このことは社会的問題といえるでしょう。
また認知症は、背景疾患が多様であるため、原因疾患ごとに臨床像が異なります。そして、認知症に対する画一的な対応方法がありません。認知症は症状自体も厄介なものになりますが、対応としても「このようにすれば上手く行く」といったものが見当たりません。そういったとろが尚更、認知症という疾患の難しさを際立ててると感じております。
概念と診断基準
軽度認知障害(MCI)
近年、認知症のハイリスク群を高頻度に含む軽度認知障害という概念が注目されています。もともとは、アルツハイマー型認知症へ進展するハイリスク群ないし前駆状態を想定した概念であり、記憶障害に重点を置いた診断基準となっていました。

しかしながら、アルツハイマー型認知症以外の認知症の前駆状態を診断するためには、記憶以外の認知機能障害にも注目する必要があるとの批判があり、最近では従来のMCIをamnestic MCI、それ以外の注意障害や遂行機能障害等が前景に立つものをnon-amnestic MCIと分類することが多くなっています。
2013年に米国精神医学会から刊行されたDSM-5では、mild neurocognitive disorderというMCIにほぼ相当する概念が提唱されています。アルツハイマー病(AD)だけでなく、前頭側頭葉変性症、レビー小体病、脳血管疾患、頭部外傷等、掲載されているすべての認知症性疾患について、このmild neurocognitive disorder の段階が想定されています。

認知症
最新の認知症の診断基準としては、上述したDSM-5が一般的となっております。この診断基準の大きな特徴の1つは、これまでほぽすべての診断基準が採用してきた複数領域の認知機能障害を必要とする立場から、複雑性注意・実行機能・学習および記憶・言語・知覚および運動・社会的認知のうち1つ以上の領域が低下していることを重視する立場に変わったこととなります。
MCIあるいはmild nurocognitive disorderとの違いも、これらの認知障害がADLの自立を阻害するかどうか(複雑かつ手段的なADLに援助を必要とするかどうか)という点のみであり、認知症かどうかという点よりも早期診断技術の進歩によりADやレビー小体病等の原因疾患の診断に、より力点を置いた基準になっております。
4大認知症と呼ばれるアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、ならびに前頭側頭型認知症について次項で説明していきます。
4大認知症
アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、潜在性に発症し緩徐に進行します。近時記憶障害で発症することが圧倒的に多く、進行に伴い見当識障害や頭頂葉症状(視空間認知障害・構成障害)が加わります。
実行機能の障害も早期から出現します。社会性が保たれていることが多く、場合わせ・取り繕い反応が目立ちます。
早期から局所神経症状を認めることはあまりありませんが、比較的早期から物盗られ妄想が認められる場合があります。
他の認知症と同様、進行に伴いアパシー(発動性の低下・無関心)が次第に目立つようになります。若年性アルツハイマー型認知症の場合は、記憶障害が目立たずに、失語や視空間認知障害等の巣症状、抑うつ等が前景に立つ例もあります。
アルツハイマー型認知症については、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【アルツハイマー病の原因と症状についての記事はこちらから】
血管性認知症

脳血管障害の後遺症で認知症に至った状態を、血管性認知症といいます。皮質-皮質下回路の要を損
傷するような皮質下小梗塞は、小さな単一の脳梗塞だけで重篤な認知障害を起こすため注意が必要です。
代表的な例に視床梗塞があります。複数の梗塞による場合は、脳卒中発作後に発症し階段状に進行しますが、多発性ラクナ梗塞やビンスワンガー病といった深部白質の虚血性病変によるものは、脳卒中発作との関連がはっきりせず緩徐に進行することが多くなります。
血管障害による病変の数・大きさ・場所によって症状は多彩でありますが、アパシーと実行機能障害が多くに認められます。活動の低下によって生じる廃用症候群は単独でも出現しますが、しばしば認知症、特に血管性認知症によっても生じ、認知障害をさらに増悪させます。
レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで多く、認知症の少なくとも10%以上を占めると考えられます。
発症と進行は緩徐で、認知障害もアルツハイマー型認知症に似ています。異なる点は、記憶障害が比較的軽度で、視空間認知や構成障害は早期から目立つことが多いことになります。
すなわち、前日のリハビリで6分間歩行テストを行ったことを覚えている方が、立方体の模写すらできないこともあります。
また、注意機能をはじめとした認知機能が激しく変動することも特徴の1つになります。状態のよいときは認知症の存在を疑うほどであっても、悪いときにはその場では認知症の有無の判定すら困難な状態となります。
状況によっては数分・数日あるいは数カ月の経過で症状が変動します。また、鮮明で生々しい幻視(人・動物・虫など)や錯視が特徴的です。
パーキンソン症候群が、認知障害の出現する前からみられることもあれば、認知障害が目立ってきた後に出現することもあります。
なお、嗅覚障害・便秘や起立性低血圧等の自律神経症状・レム睡眠行動異常症・うつ病等がこれらの中核的症状に先行することもしばしばあります。また誤認妄想や嫉妬妄想もみられることがあります。
前頭側頭認知症
前頭側頭型認知症(FTD)は、人格変化や行動障害、言語障害を主徴とし、大脳の前方部(前頭葉、前部側頭葉)に病変の主座を有します。
変性性認知症を包括した疾患概念であり、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語(PNFA)の3つの臨床サブタイプに分類されています。
最近では病理診断に基づく場合のみに前頭側頭葉変性症(FTLD)という用語を使用し、臨床では前頭側頭型認知症を使用することが多いと思います。
前頭葉に病変の主座があるbvFTDでは、人格変化(脱抑制)、常同行動(時刻表的生活、滞続言語、反復行動)や食行動異常(過食、嗜好の変化)等の行動異常が前景に立ちます。

bvFTDでは、礼節や社会通念が欠如し、他の人からどう思われるかを気にしなくなり、自己本位的な行動(我が道を行く行動)や万引きや盗食などの反社会的行動を呈することがあります。診断がついた場合は、直ちに生活の対策(車の運転の中止等)が必要になります。
側頭葉に病変の主座があるSDは、比較的早期からbvFTD同様の行動障害を呈するとともに、単語の呼称障害と理解障害を中心とする語義失語が出現します。
例えば、鉛筆を使用して名前を書いてくださいとお願いしたときに「えんぴつって何ですか?」、あるいは語頭音ヒントを伸ばしていったときに「えんぴっていうのですか?」と語頭部をあたかも語とみなして反問する症状が認められます。
このような失語(意味記憶障害)を本人や家族が”物忘れ”と訴えて受診することも多いので、注意が必要です。
FTDのうち、bvFTDとSDが2015年に指定難病に認定され公的支援を受けやすくなりました。65歳以下に発症した例に限られるため、早期の正確な診断がますます重要となっています。
治療と対応
治療の目標について
現時点では、ほとんどの認知症には根治療法がないため、自宅や施設でのQOLを維持するための支援が目標になると考えられます。
したがって、妄想・徘徊・不眠・暴力等の認知症に伴う精神症状や行動障害(BPSD)に対する対応が極めて重要になります。また、精神症状や行動障害が出現していなくとも、認知症に対しては介護サービス等を積極的に利用して、日中の生活リズムを整え廃用症候群を予防することが重要となります。
薬物療法について
上述した通り、ほとんどの認知症には根治療法がありません。そのため、認知症の方の生活の質を低下させないためには、症状に応じた適切な薬を処方することが重要です。認知症の種類によって推奨される薬剤も異なるため、それぞれ解説していきます。
アルツハイマ一型認知症
認知機能障害の進行抑制に関しては、コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル塩酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩、リバスチグミン貼付薬、メマンチン塩酸塩が用いられます。これらは、認知症疾患診療ガイドライン2017では、すべてグレードAと判定されています。
ドネペジル塩酸塩はアルツハイマー型認知症の軽度から重度まですべての段階に適用があります。これに対して、ガランタミン臭化水素酸塩とリバスチグミン貼付薬は軽度と中等度の症状に適応があります。メマンチン塩酸塩は中等度と重度に適応があります。
初期に診断できれば、コリンエステラーゼ阻害薬のうち1種類を選択して投与が開始されます。これら3剤の間で有効性に差はないとされているので、副作用のプロフィール・服薬回数・剤形・価格等で総合的に判断し、薬を選択するといいと思います。
コリンエステラーゼ阻害薬の注意点ですが、心疾患患者や喘息患者への投与は慎重に行う必要があります。嘔気等の消化器症状は最も出現しやすい副作用で、必要な場合は胃腸薬が併用されます。
リバスチグミン貼付薬は胃腸障害の副作用が少ない一方、紅斑や掻痒感等の皮膚症状が出現しやすくなります。
血管性認知症
高血圧症・糖尿病・脂質異常症等、血管障害の危険因子の治療や管理を徹底することが重要となります。自発性や意欲の低下に対しては、介護保険サービスを効果的に利用し、廃用症候群を予防する必要があります。
レビー小体型認知症
認知障害に対するドネペジル塩酸塩に保険適用が認められました(認知症疾患診療ガイドライン2017:グレードB)精神症状に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬・メマンチン塩酸塩・抑肝散の有効性も報告されています。レム睡眠行動異常症に対しては、クロナゼパムが有効となります。
前頭側頭認知症
脱抑制・常同行動・過食等に対してフルボキサミンマレイン酸塩等のSSRIの有効性が報告されています。認知症疾患診療ガイドライン2017:グレードC
BPSDへの対応
BPSDの治療は、家族教育や環境調整等の非薬物療法から実施することが原則となりますが、やむを得ない場合は薬物療法を検討する必要があります。
しかし、認知症に対する薬物療法として現在保険適用があるのは上述したアルッハイマー型認知症とレビー小体型認知症の認知障害に対する抗認知症薬のみとなるため、十分なインフォームド・コンセントが必要になります。
また、認知症患者は自ら身体的不調を訴えることが困難であるため、感染症・心不全・脱水・便秘・疼痛等、2次的に認知機能やBPSDを悪化させる身体的要因の早期発見と管理が必要になります。
家族教育や環境調整によっても対応が困難な物盗られ妄想や興奮等に対しては、リスペリドン等の
ごく少量の非定型抗精神病薬を用いることがあります。
特に、錐体外路症状の出現しやすい患者に対しては、クエチアピンフマル酸塩、ペロスピロン塩酸塩水和物が用いられます。
これらの抗精神病薬は認知症に対して保険適用がなく、認知症高齢者の死亡率を上げる可能性について注意勧告が出されているため、本人と家族に十分に説明したうえで使用の了解を得る必要があります。興奮や叫声等に対しては、漢方薬の抑肝散が有効な場合もあります。
BPSDや中核症状については、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【認知症の中核症状と行動・心理症状についての記事はこちらから】
まとめ
最後までお読み頂きありがとうございます!
この記事では認知症医療の最前線についてまとめさせて頂きました。
一概に認知症といっても、4大認知症があるようにそれぞれタイプも異なりますし進行具合にも差があります。
地域在住高齢者への対応として要支援を要介護にさせないことが1つのポイントになると思いますが、認知症に関してもこれと同じでMCIの人を認知症にさせない、あるいは可能な限り進行速度を緩徐にする必要があります。
これを実現するためには、やはり認知症に対する正しい知識を身につけ、早いタイミングでMCIを疑うことができるかどうかが重要になります。
介護者1人でMCIの存在を疑うことは、なかなか大変な作業であり精神的にも堪えるかもしれません。そのため、家族や介護に関わるスタッフ、医療従事者も含め、皆さんの力で支援できるように取り組んでいきましょう!
今回は主に認知症の病態について解説させて頂きましたが、リハビリテーションの内容についても気になる方がいらっしゃると思います。認知症に対するアプローチ方法の1つとなるコグニサイズについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【認知症に対しコグニサイズを活用したリハビリテーションについての記事はこちらから】

参考文献
- 池田学.認知症.高次脳機能研究.第29巻,第2号,p30-36.
- 遠藤英俊.認知症の薬物療法の実際とその効果.日医雑誌.2012年, 第141巻,第3号,p555-559.