【膝関節疾患の評価方法と運動療法について】問診や身体診察が重要

病態理解を深める
記事内に広告が含まれています。
リハビリくん
リハビリくん

こんにちは! リハビリくんです!

  

今回は、膝関節疾患に対する理学療法について解説させて頂きます!

 

膝関節疾患を有する患者様のリハビリテーションを実施する時に、膝関節ばかりに注目して介入を進める場合があると思うのですが、それだけではうまくいかないこともあります。

 

確かに膝関節は人体最大の関節の1つであり、種々の靭帯や半月板、筋肉等から成る複雑な構造ですので膝関節の評価は必要になります。しかし、関節疾患患者は高齢者や肥満者も多く、治療対象となった関節以外の関節、さらには呼吸や循環に影響する内科疾患が併存していることが少なくないこともわかっています。

 

そのため、膝関節疾患患者のリハビリテーションでは患部の機能評価にとどまらず、呼吸循環機能、膝関節の機能・能力障害を代償するための非患側機能、患者の背景因子なども含めて全人的に評価する必要があります。

 

そこで今回、実際に膝関節疾患を有する患者様を担当したと想定して、リハビリテーションの流れを解説させて頂きます!

リハビリくん
リハビリくん

【簡単に自己紹介】

埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です

現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!

  

主な取得資格は以下の通りになります

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級


「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く1児の父です!

  

3学会合同呼吸療法認定士/認知症ケア専門士/透析技術認定士/糖尿病療養指導士/終末期ケア専門士等の医療系資格の勉強はアステッキをご利用するのも良いと思います。独自のeラーニング講座と専用アプリが搭載されており、隙間時間に学習を進めることができます!

      ↓↓↓


膝関節は人体最大の関節の1つ

2019年度の国民生活基礎調査の概況によると、要支援者が支援を必要とするようになった主な原因は関節疾患が18.9%と最も多く、関節症およびその症状がADLを阻害し得ることが分かっています。

膝関節の実質的な運動方向は屈曲および伸展で、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の関節可動域表示ならびに測定法によると可動域は0〜130°となっています。

しかし、膝関節は単純な蝶番関節ではなく、6自由度(屈曲/伸展、内旋/外旋、内反/外反、前方/後方glide、内側外側shift、圧縮compression/引っぱりdistraction)を有し、これらの組み合わせにより膝の屈伸を行うため実際の膝関節の運動範囲は130°よりも広くなります。

膝関節は筋および靱帯、半月板といった軟部組織により安定性を得ています。日常生活動作において膝関節には可動性と安定性が求められ、リハビリテーションを行う上でこれらを評価する必要があります。

膝関節疾患患者に対するリハビリテーションでは膝関節の評価だけを行えば良いでしょうか。膝関節疾患で入院した患者が、膝以外の問題を抱えていることも少なくありません。

膝関節疾患のリハビリテーション治療を実施するにあたり、入院病名やリハビリテーション処箋に記載された対象疾患名にとらわれず、膝関節評価と同時に患者全体を評価する必要があります。

運動の種類や負荷量は膝関節以外の要素も考慮して決定する

膝関節疾患術後の患者のリハビリテーションでは術者に安静度を確認する必要があります。しかし、安静度内の運動でも、併存症などにより運動負荷に注意が必要なことがあります。

筋力増強練習

例を上げると、下肢および股関節の筋力増強訓練は変形性膝関節症患者の痛みやQOLを改善に繋がります。そして、関節疾患のリハビリテーションでは筋力増強訓練が推奨されることが多いです。

等尺性運動(Isometric exercise)は、等張性運動(dynamic exercise)に比べて筋力増強効果の高い運動様式でありますが、過剰に血圧を上昇させるため、冠動脈疾患、大動脈弁狭窄症、大動脈瘤など心・血管系に大きな問題を抱えた患者では注意が必要になります。

有酸素運動

有酸素運動は減量効果や筋骨格系の痛みの改善に有効と言われています。最大酸素摂取量は有酸素運動能力の指標となり、心拍出量と動静脈血酸素較差の積(Fickの式)で規定されています。

有酸素運動には酸素運搬能と肺、作業筋におけるガス交換が重要となります。これらの機能に問題のある患者では運動負荷が過剰にならないように注意しなければなりません。

ストレッチ

ストレッチは関節可動域の拡大、歩行速度の向上などが報告されており、膝関節疾患患者のリハビリテーションにおいて頻用される訓練方法となっています。循環動態に与える影響は少なく、比較的安全ですが、著明な血小板減少などによる出血傾向の患者では過度の関節可動域訓練が関節内出血を起こすこともあるので注意が必要です。

実際に膝関節疾患を診るときの診療の流れ

運動療法に最低限必要な要素は、運動負荷に対し筋骨格系と呼吸・循環動態が耐え得ることができる耐久性です。変形性関節疾患の患者は高齢者や肥満者も多く、心・血管系疾患およびそのリスクである生活習慣病その他の疾病を合併するものも少なくありません。骨格系の問題としてはがんの骨転移などによる脆弱性が問題となることも考えられます。

膝関節疾患の患者においても、一通りの問診をしてから身体診察を行います。その結果から、問題点を挙げ理学療法を立案します。適宜、理学療法効果の判定を行い、問題点の抽出、治療計画の修正を繰り返す必要があります。

問診:①既往症

既往歴およびその治療経過を聴取することで予測できる問題点もあります。例えば、糖尿病でインスリンを使用している患者が介入中に低血糖発作を生じることがありますが、既往歴から予測しておけば慌てずに対応することができます。

②常用薬

服薬が循環動態や運動機能に及ぼす影響についても配慮が必要です。例えば、降圧作用のあるB遮断薬は心拍応答を低下させるため心拍数を運動強度の指標とするのが相応しいとは言えませんし、利尿薬は循環血漿量を減少させ、運動耐用能や体温調節能を低下させる可能性が考えられます。

③個人・生活歴

生活環境やスポーツ歴に応じて目標とするゴール設定も変わります。例えば和式で生活している方であれば、より広い膝関節の可動域を要し、関節への負担も大きいことが考えられます。

身体診察:①バイタルサイン

バイタルサインは血圧、脈拍、呼吸数、体温などの測定になります。安静時の脈拍の不整は不整脈が疑われ、心電図を確認しておく必要があります。

バイタルサインを評価するにあたって、血圧の正常値を理解しておくことは必須になります。このテーマについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【血圧の正常値と管理方法についての記事はこちらから

②身長・体重

肥満は変形性膝関節症のリスク因子の1つとなります。それは歩行時、膝関節には体重のおよそ3倍の力が加わるためです。体重1キロ減量することで膝関節にかかる力が3~4キロ減弱したという報告もあります。

減量が膝関節疾患の重要な治療の1つであることは間違いありません。そのため特に肥満のある患者では体重を定期的に測定し、管理する必要があります。

③一般身体所見

一見元気に見える患者であっても、スクリーニングレベルで良いので一般身体所見を確認しましょう。必要に応じ適宜フォローし、検査結果の確認、追加検査などを行うと安心です。

④残存機能の評価

障害部位に目が向きがちとなりますが、残存機能の活用はリハビリテーションの1つのポイントとなります。非術側に関しては、患側に対し健側と表現するが、健側にも関節症や筋力低下なとの疾患、機能障害を有することも少なくありません。

そのため、腰や患側および健側の下肢の診察も忘れてはいけません。また、術後の免荷や転倒予防、歩行の安定のために杖や歩行器を導入することがあります。これらを利用するのに十分な上肢機能、認知機能があるか否かも判断する必要があります。

⑤膝に関する理学療法評価

a)圧痛

膝関節周囲は脂肪組織が少なく、関節外の構造物を触知しやすい特徴があります。圧痛の位置から痛みの原因となる部位を推察することができます。

膝関節圧痛部位

b)大腿周囲長

膝関節の手術後に不動・寡動の影響により、大腿部の筋萎縮が生じている可能性があります。大腿四頭筋の中でも内側広筋は萎縮しやすい特徴があります。

そのため、大腿周囲長を測定し、数値の変化を評価します。一般的には膝蓋骨上縁から10cmで計測し、1cm以上の周囲径の短縮を筋萎縮と判定し膝関節の機能障害を示唆します。

c)腫脹、膝蓋跳動、局所熱感

膝関節周囲の腫脹は関節液の増加を示唆します。全体的な腫脹であれば関節内、局所的な腫脹であれば滑液包の関節液貯留を疑います。関節内の浸出液が多い場合には、膝蓋跳動が観察することができます。

局所の熱感は活動性の炎症を示唆しますが、炎症の活動期は、関節運動を伴わない運動にするなど適宜プログラムを調節する必要があります。

d)関節可動域

膝関節の可動域は0〜130°となっておりますが、和式生活はより深い膝関節屈曲を必要とします。関節可動域の改善が不十分な場合には生活様式の変更や動作指導が必要となることもあります。膝関節の過伸展は健常女性でも認めることがありますが、左右差のある場合は異常を疑います。

e)靱帯と半月板

主要な膝関節の支持機構は前後と内外側それぞれに存在する前十字靱帯、後十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯からなります。これらを種々の筋群が動的にサポートしております。

半月板は関節軟骨と協働しクッションとして作用し円滑な運動を助けます。これらに不安定性がある場合や靱帯損傷の術後などに膝装具を使用することになります。

前十字靱帯の診察手技として、①前方引き出しテスト ②Lachman Test ③Pivot Shift Test ④N-Test、後十字靱帯の診察手技として、①後方引き出しテスト ②脛骨後方落ち込み徴候が有名です。

側方動揺性には外反ストレステストと内反ストレステストが知られており、それぞれ内側側副靱帯と外側側副靱帯を評価できます。McMurray Test、Apley Testは半月板損傷などで陽性となります。

f)筋力

変形性節症患者の大腿四頭筋筋力と膝の痛みおよびADLには相関があります。筋力測定に関しては、バイオデックスを用いることで、客観的に筋力を計測することが可能です。

しかし、高価であり設置場所が必要にもなるため、多くの病院や施設では徒手筋力試験(MMT)が簡便で最も頻用される筋力評価となっております。

筆者の職場では酒井医療株式会社が開発したモービィZシリーズという徒手筋力計を使用しております。こちらはポケットに入る大きさですので持ち運びも可能で便利だと思います。

g)立位、歩行

足を閉じて立位をとったとき、内反変形では左右の大腿骨内顆同士が離れてみえます。日本の高齢女性では内側型関節症による内反膝を認めることが多い特徴があります。

反対に外反変形では脛骨内顆同士が離れます。果間距離を測定することで客観的に評価できますが、X線画像による大腿脛骨角(FTA)を用いて評価したほうが正確に評価できると思います。

内側型関節症の患者では踵接地直後に膝関節が内反するように動揺することがあります。また、靱帯損傷、下肢の麻痺や大腿部の筋力低下などにより立脚期に反張膝を認めることがあります。

長期の異常歩行は膝関節の負担となり、変形性膝関節症や軟部組織の損傷を引き起こす可能性があるため、歩容の変更を検討する必要があります。

ひざ痛 変形性膝関節症 自力でよくなる! ひざの名医が教える最新1分体操大全 正座できない、寝ていてもつらい、水がたまる、階段がつらい、立ち上がると痛むなど激痛がスッと和らぐ症状別ケア (健康実用) [ 黒澤尚など4名 ]

価格:1,518円
(2023/1/25 22:40時点)
感想(42件)

まとめ

最後までお読み頂きありがとうございます!

この記事では膝関節疾患に対する理学療法についてまとめさせて頂きました。

医療機関に入院する患者様や施設に入所する利用者は、例え主たる疾患が膝関節疾患であったとしても、内科的疾患を併存していたり、その他の関節に問題を抱えている場合があります。

筆者の経験上、本人や家族からも膝に関するエピソードや訴えが多くなる傾向にありますが、リハビリテーションを行う上では、しっかりと他の要素にも目を向けて適切なリスク管理に努める必要があります。

そのためには前述したように、問診、身体診察、理学療法評価をくまなく行い問題点を正確に抽出する必要があります。

膝関節疾患に限りませんが、リハビリテーションを行う上で重要なことは患部だけを見るのではなく、患者を全人的に診察し評価することだと思います。

膝関節疾患は慢性疼痛となることがあり、厄介な症状になると思いますが、近年、運動療法自体に慢性疼痛を改善させる効果が期待できると考えられています。このテーマについては、他の記事でまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【EIH(疼痛抑制効果)についてについての記事はこちらから

リハビリくん
リハビリくん

【密かにブームの”特許取得・整体枕”! Cure:Re THE MAKURA】

医療従事者となると仕事の大部分は患者様や利用者様に対するケアや支援になりますが、それらの実態は肉体労働であり、医療従事者自身の身体を酷使しすぎてしまうことはよくあることだと思います。

 

そんな医療従事者にオススメしたいのが、こちらの枕です!

睡眠の質を高める上で、寝具を替えることは近道となりますが、身体を支える寝具においてはマットレスとともに重要なのが枕になります。枕が自分の身体に合っていないと、肩こりやいびきの原因になることもわかってきています。


参考文献

  1. 鳥取部光司,帖佐悦男,宮﨑茂明.変形性関節症のリハビリテーション.Jpn J Rehabil Med.2016,53,p922-927.
  2. 津田英一.変形性膝関節症のリハビリテーションに必要な評価法と活用.Jpn J Rehabil Med.2017,54,p854-859.
タイトルとURLをコピーしました