FES-I とは?(何がわかる尺度か)
結論:FES-I は、日常活動ごとの「転倒への不安」を点数化し、どの場面で回避が起きているかを見つける尺度です。合計点だけでなく、高不安の項目を拾って介入へつなぐと価値が出ます。本記事は、FES-I を臨床でどう実施し、どう解釈し、どう記録して次の一手に落とすかを 1 ページで整理した実務ガイドです。
このページで答えるのは、FES-I のやり方・解釈・Short 版の使い分け・記録の型です。ABC や MFES との詳しい比較は別記事に任せ、このページでは「 FES-I 単独運用で迷わないこと」に絞ります。転倒歴がある、屋外活動が減った、家族が止めがち、自信低下で行動が縮んでいるケースで、身体機能テストだけでは拾いにくい回避行動を見える化したいときに向きます。
評価の型は、個人の努力だけで安定するとは限りません。今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、見本となる先輩が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
5 分で回す運用フロー(実施 → 記録 → 次の一手)
FES-I は “採点” よりも “使い方” が成否を分けます。最初に前提(歩行自立度・転倒歴・屋外頻度)をそろえ、次に高不安の項目を介入へ翻訳する流れに固定すると、チーム内でブレが減ります。
下の手順をテンプレとして固定し、初回評価・再評価のたびに同じ順番で回してください。スマホでは表を横スクロールできます。
| 手順 | やること | 記録の要点 |
|---|---|---|
| ① 前提そろえ | 歩行補助具、屋外頻度、直近 6〜12 か月の転倒/ヒヤリを確認 | 転倒の有無より「回避行動の有無」を併記 |
| ② 実施 | 「転倒の不安だけを考えて」4 段階で回答する | 実施形態(自記/聞き取り)を固定 |
| ③ 採点 | 合計点(16〜64 点)と “3〜4 点” の項目を抽出する | 合計点だけで終えず、高不安項目を列挙する |
| ④ 翻訳 | 高不安項目を「場面 × 要因 × 代替手段」に分解する | 環境要因(段差/照明/手すり)を必ず確認 |
| ⑤ 介入へ | 環境調整 → 介助下練習 → 安全環境で単独 → 実生活へ一般化 | 成功体験を週単位で設計し、再評価時期を決める |
実施と採点(FES-I のやり方)
FES-I は 16 項目を1〜4 点で回答し、合計点で転倒不安の強さを把握します。運用のコツは、最初に質問の焦点(転倒の不安)をそろえ、次に回答の迷いを減らすことです。忙しい場面では Short FES-I も選択肢ですが、縦断比較では同じ版を継続してください。
実施時は「何が怖いか」を具体化できるよう、合計点だけでなく高不安項目を必ず残します。ここを残すだけで、再評価と介入の質が上がります。
| 版 | 項目数 | 得点範囲 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| FES-I | 16 | 16〜64 | 介入設計まで落とし込みたい | 合計点より “高不安項目” が介入に直結 |
| Short FES-I | 7 | 7〜28 | 短時間のスクリーニング | 16 項目版と混在させると経時比較が崩れる |
- 説明(統一文):「転倒の不安だけを考えて、各場面でどれくらい不安かを選んでください」
- 採点:単純加算。合計点と 3〜4 点の項目を同時に記録する
- 実施形態:自記が難しければ聞き取りで可。ただし同じ形で継続する
- 欠測対応:FES-I は 4 項目以下、Short FES-I は 2 項目以下の欠測なら平均で補正し、これを超える場合は比較対象にしない
- 運用上の注意:未経験の場面を無理に推定させず、理由を短く記録して次回確認場面を設定する
カットオフと解釈(地域在住高齢者の目安)
FES-I のカットオフは集団依存です。地域在住高齢者では、低い/中等度/高いの目安が示されていますが、実務では「どのゾーンか」だけで終わらせず、何が怖いのかと怖さの背景を必ずセットで押さえることが重要です。
施設在住、脳卒中後、パーキンソン病などでは分布や意味合いが変わるため、施設内で対象(地域/施設・疾患・歩行自立度)を明記し、同じ前提で縦断比較してください。
| 合計点 | 不安の目安 | 次の一手(臨床) |
|---|---|---|
| 16〜19 点 | 低い | 活動制限が本当に少ないか、屋外頻度と生活範囲で確認する |
| 20〜27 点 | 中等度 | 3〜4 点の項目を抽出し、屋内/屋外/段差ごとに課題化する |
| 28〜64 点 | 高い | 閉じこもり・廃用の連鎖を想定し、環境調整と段階的成功体験を設計する |
併用と目標設定(実装テンプレ)
FES-I は「心理」の尺度ですが、臨床では身体・環境・行動と並べて使うほど強くなります。身体機能テストで安全域を押さえ、FES-I で回避している場面を特定すると、介入の優先順位がぶれにくくなります。
以下の 4 ステップで、FES-I を “やること” に翻訳してください。
- 身体機能の把握:静的・動的バランス、歩行、反応性などをみて「身体としてどこまで安全に動けるか」を整理する
- 高不安項目の抽出:3〜4 点の項目を “場面(いつ/どこで)” に落とす
- 要因の分解:痛み、めまい、視覚、疲労、注意配分、過去の転倒経験、環境(段差・照明・手すり)を整理する
- 段階づけ:環境調整 → 介助下練習 → 安全環境で単独 → 実生活へ一般化する
カルテ記録の型(そのまま使える例)
“点数だけ” の記録は再評価の価値が下がります。合計点に加えて、高不安項目と介入の仮説を 1 セットで残すと、次回の評価が速くなります。
施設の文体に合わせて、下の型をそのまま置き換えてください。
| 項目 | 書くこと | 記録例 |
|---|---|---|
| 所見 | 合計点と高不安項目 | FES-I 29 / 64。高不安:段差、屋外移動、入浴。 |
| 解釈 | 能力と回避のズレ | 身体機能は保たれるが、屋外活動の回避が強く生活範囲が縮小。 |
| 方針 | 環境調整と段階づけ | 手すり・照明の確認、介助下で段差練習を開始し、2〜4 週後に再評価。 |
FES-I 自動計算ツール
FES-I の合計点をすばやく確認したいときは、自動計算ツールが便利です。全 16 項目を入力すると合計点と判定が自動表示されるため、採点ミスを減らしやすくなります。
一方で、臨床では合計点だけでは足りません。計算ツールで点数を確認したあと、高不安項目・回避場面・次の一手は下の記録用紙に残す運用がおすすめです。
記事内で自動計算ツールをプレビュー表示する
FES-I 記録用紙ダウンロード
FES-I を実施して終わりにせず、合計点・高不安項目・次の一手まで 1 枚で残したいときは、下の記録用紙を使うと運用しやすくなります。初回評価と再評価で同じ様式を使うと、比較もしやすくなります。
記録用紙のプレビューを開く
よくあるミス(OK / NG 早見)
FES-I は “不安” の尺度なので、扱いを誤ると過度な制限か放置のどちらかに傾きます。特に「不安=危険」と短絡しないことが重要です。
下表の NG を潰すだけで、介入の質と説明の一貫性が上がります。
| NG | 起きやすい理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 「不安=危険」と短絡する | 心理指標を身体リスクと同一視しやすい | 転倒歴・身体機能・環境を併記して総合判断する | 安全域(身体)と回避(行動)を分けて書く |
| 合計点だけで終わる | 評価が “採点作業” になりがち | 3〜4 点の項目を必ず抽出して課題化する | 高不安項目を 2〜3 個まで列挙する |
| Short 版と 16 項目版を混在させる | 忙しい日に版を変えてしまう | 経時比較は同じ版で固定する | 使用版(FES-I/Short FES-I)を明記する |
| 欠測をそのまま合計してしまう | 採点ルールが共有されていない | 欠測数を確認し、補正可否を先に判断する | 欠測理由と補正の有無を記録する |
| 理解・注意への配慮が足りない | 質問意図がずれると回答がぶれる | 説明文を統一し、必要なら聞き取りで補助する | 実施形態(自記/聞き取り)を記録する |
現場の詰まりどころ(詰まり → 解決の型)
転倒不安は “気持ち” の話に見えて、実際は環境・家族・成功体験の不足が絡むことが多いです。詰まりをパターン化しておくと、説明と介入が速くなります。
先に確認:よくあるミス / 5 分フロー
関連:歩行・バランス評価ハブ
| 詰まり | 起こっていること | 整理のコツ | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 高得点だが転倒は少ない | 回避が強く “転ばない” だけのことがある | 屋外頻度・活動量・生活範囲をあわせてみる | 安全環境で成功体験を段階設計する |
| 本人と家族の印象が一致しない | 遠慮や支援の過剰で差が出る | 「どの場面が怖いか」を具体化する | 家族へ “止める以外” の支援案を提示する |
| 環境要因が点数に埋もれる | 段差・照明不足が “本人要因” 化しやすい | 評価前後に環境チェックをセット化する | 環境調整後に再評価して変化をみる |
| 版と採点ルールが施設で揃っていない | 担当者ごとに運用が違う | 説明文、使用版、欠測対応を先に共有する | 記録欄に版名と実施形態を固定で残す |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1. 高得点なのに転倒歴が少ないのはなぜですか?
回避行動が強く、難しい活動や屋外場面を避けているため “転ばない” パターンがあります。この場合は転倒歴だけでなく、屋外頻度・活動量・生活範囲の縮小をあわせて評価します。FES-I は「転倒したか」ではなく「どの活動が怖くて縮んでいるか」をみる尺度として使うと解釈しやすいです。
Q2. ABC や MFES とはどう使い分けますか?
FES-I は「転倒への不安」をそのまま拾いやすいのが強みです。ABC は “できる自信” を、MFES は “転倒せずにできる自信” をみる色合いがやや強く、評価軸が少し異なります。詳しい比較は FES-I・ABC・MFES の比較記事 にまとめています。
Q3. 欠測があるときはどう扱いますか?
FES-I は 4 項目以下、Short FES-I は 2 項目以下の欠測であれば、回答済み項目の平均を使って補正できます。これを超える欠測がある場合は、スコアを比較対象にしない運用が安全です。実務では、欠測理由と補正の有無を一緒に残してください。
Q4. 自動計算ツールと記録用紙はどう使い分けますか?
自動計算ツールは合計点を素早く確認したいときに向いています。一方、臨床では高不安項目、回避場面、介入方針、再評価時期まで残す必要があるため、記録用紙と併用すると運用しやすくなります。
次の一手(続けて読む)
参考文献
- Yardley L, Beyer N, Hauer K, Kempen G, Piot-Ziegler C, Todd C. Development and initial validation of the Falls Efficacy Scale-International (FES-I). Age Ageing. 2005;34(6):614-619. doi: 10.1093/ageing/afi196. (PubMed: 16267188)
- Kempen GIJM, Yardley L, van Haastregt JCM, Zijlstra GAR, Beyer N, Hauer K, Todd C. The Short FES-I: a shortened version of the Falls Efficacy Scale-International to assess fear of falling. Age Ageing. 2008;37(1):45-50. doi: 10.1093/ageing/afm157. (PubMed: 18032400)
- Delbaere K, Close JCT, Mikolaizak AS, Sachdev PS, Brodaty H, Lord SR. The Falls Efficacy Scale International (FES-I): a comprehensive longitudinal validation study. Age Ageing. 2010;39(2):210-216. doi: 10.1093/ageing/afp225. (PubMed: 20061508)
- Kamide N, Shiba Y, Sakamoto M, Sato H. Reliability and validity of the Short Falls Efficacy Scale-International for Japanese older people. Aging Clin Exp Res. 2018;30(11):1371-1377. doi: 10.1007/s40520-018-0940-y. (PubMed: 29594873)
- Montero-Odasso M, van der Velde N, Martin FC, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022;51(9):afac205. doi: 10.1093/ageing/afac205. (PubMed: 36178003)
- University of Manchester. FES-I / Short FES-I official site. Web
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


