EAT-10(イート・テン)とは?評価用紙の使い方・スコアの見方と聖隷式嚥下質問紙との違い

栄養・嚥下
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EAT-10 とは?(概要と使いどころ)

EAT-10(イート・テン)は、摂食・嚥下障害のリスクを手早く把握するための自己記入式の簡易嚥下評価ツール(嚥下スクリーニング質問紙)です。10 項目を 0〜4 点で自己評価し、合計 0〜40 点の EAT-10 スコアとして表します。日常の「食べにくさ」を定量化できるため、嚥下リハビリテーションの導入判断や経時的フォローに適しています。

臨床では合計 3 点以上をスクリーニング陽性の目安とし、感度・特異度のバランスが良いと報告されています。一方で、Rasch 解析などから構成妥当性の課題も示されており、EAT-10 単独ではなく他の嚥下スクリーニングと組み合わせた運用が前提になります。本記事では、EAT-10 評価用紙(EAT-10 評価スケール)の実施手順や EAT-10 カットオフの考え方、聖隷式嚥下質問紙との違い、EAT-10 の欠点・限界を含めて整理します。

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実施手順(EAT-10 評価用紙の運用フロー)

  1. 準備:静かな環境と筆記具を整え、配布元の条件に従って入手した公式の EAT-10 評価用紙(原版または公認日本語版)を用意します。
  2. 説明:「最近の食べにくさについて、0〜4 の 5 段階で当てはまる度合いを選んでください」と簡潔に案内します。質問への確認は構いませんが、誘導的な言い換えは避けることが重要です。
  3. 自己記入:読字困難・視覚障害がある場合は、設問を代読し代筆してもかまいません。ただし、語尾やニュアンスを変えず、原文の意味を保つようにします。
  4. 回収・合計:各項目 0〜4 点を合算し、0〜40 点の EAT-10 スコアを算出します。外来ではカルテ、入院ではリハビリテーション経過記録や NST・嚥下チームのシートに残します。
  5. 判定・次アクション:3 点以上でスクリーニング陽性とし、誤嚥性肺炎の既往、体重減少、脱水、食事中のむせ・湿性嗄声などと合わせて、VE・VFSS、WST(反復・ 100 mL など)の実施や食形態・姿勢調整、嚥下訓練の必要性を検討します。

嚥下スクリーニング質問紙やリハ栄養評価の全体像は、栄養・嚥下評価ハブとして別途整理しておくと、多職種での共有がしやすくなります。

EAT-10 スコアの見かた(カットオフと臨床的な意味)

EAT-10 スコアと臨床的対応の目安(単独で確定診断はしない)
合計点(EAT-10 スコア) 示唆される状況 推奨される対応
0〜2 点 スクリーニング陰性。自覚的な「食べにくさ」は小さい。 栄養状態や体重、誤嚥性肺炎の既往などを確認しつつ経過観察。症状変化や ADL 低下があれば再評価。
3 点以上 スクリーニング陽性。自覚的嚥下障害が疑われる。 VE・VFSS を検討し、WST や嚥下内視鏡下嚥下評価など客観評価を追加。食形態・とろみ・姿勢・一口量・服薬形態の見直し、嚥下訓練を計画。

一般的にはEAT-10 カットオフ 3 点が最もよく用いられています。施設によっては 2 点をカットオフとする場合もありますが、その際は偽陽性の増加と後段の精査件数の増加を見越して運用設計を行う必要があります。

聖隷式嚥下質問紙との違いと使い分け

日本では、EAT-10 と並んで「聖隷式嚥下質問紙」が簡易嚥下評価ツールとして使われることがあります。いずれも自覚症状を点数化する嚥下スクリーニング質問紙ですが、以下のような違いがあります。

EAT-10 と聖隷式嚥下質問紙の比較(概要)
項目 EAT-10(イート・テン) 聖隷式嚥下質問紙
対象 成人の摂食・嚥下障害全般 高齢者を中心とした嚥下障害リスク
項目数 10 項目 設問数・構成は別途マニュアルに準拠
スコアリング 0〜4 点 × 10 項目(0〜40 点) 独自のスコアリング(詳細は配布元資料を参照)
特徴 国際的に広く用いられ、文献も豊富 日本の臨床現場に即した設問構成

どちらか一方に「優劣」があるというより、施設で採用している評価スケールや、多職種カンファレンスで共有しやすいかどうかが選択のポイントです。EAT-10 は海外文献との比較がしやすく、聖隷式嚥下質問紙は日本語での運用に馴染みやすいといった特徴があります。

現場の詰まりどころ(よく迷うポイント)

  • 評価用紙の入手・権利関係があいまい:「ネットにある PDF を印刷して使って良いのか」「翻訳版をそのままコピーして良いのか」で止まってしまうケースが多いです。必ず配布元(Mapi Research Trust)の指示に従い、正式に入手した評価用紙を用いることが前提になります。
  • 誰が説明し、どこに記録するかが決まっていない:外来・病棟・通所など、場面ごとに「説明は誰が担当するか」「スコアはどの記録様式に残すか」を決めておかないと、せっかく取った EAT-10 スコアが活かされません。
  • 他の嚥下スクリーニングとの関係が整理されていない:WST や 3g 水飲みテスト、VE/VFSS の位置づけと結びつけておかないと、「とりあえず EAT-10 だけとる」で終わってしまいがちです。
  • 認知症・高齢者への適用に迷う:中等度以上の認知症や失語症では、EAT-10 の回答の信頼性が下がることがあります。介護者からの情報や食事場面の観察をどの程度重視するか、チームで方針を共有しておくとスムーズです。

EAT-10 のコツと限界(欠点をどう補うか)

  • あくまで「主観」をみるツール:EAT-10 は自覚症状ベースの評価スケールです。無症候性誤嚥(silent aspiration)など、本人が自覚しにくい誤嚥は拾いにくいことが EAT-10 の欠点の一つです。
  • 他のスクリーニングと組み合わせる:WST や 3g 水飲みテスト、食事観察、栄養評価(体重・ BMI・血清アルブミンなど)と組み合わせ、「主観 × 客観」で判断します。
  • 同一患者の経時変化に注目:絶対値だけでなく、EAT-10 スコアの増減を見ることで、嚥下リハ介入や食形態変更の効果判定に利用できます。
  • 認知機能への配慮:中等度以上の認知症では、回答の一貫性に限界があります。介護者の情報や食事場面の観察を合わせて解釈します。
  • 翻訳版の質とライセンス:非公認の翻訳や改変版を使用すると、測定特性が保証されません。必ず配布元が承認した版を使用し、ライセンス条件を守ることが重要です。

記録ワークシート(項目本文なし/印刷用)

本記事では、EAT-10 の項目本文を掲載せず、スコアの記録枠だけをまとめた記録用ワークシートを別ファイルとして用意しています。公式の EAT-10 評価用紙と併用し、カルテや嚥下チームカンファレンスでの共有にご利用ください。

入手方法と権利面(原典の扱い)

  • 配布・翻訳の管理:EAT-10 の配布・翻訳・電子化・商用利用などは、海外の団体である Mapi Research Trust(ePROVIDE) が管理しています。
  • ライセンス手続き:研究・臨床利用であっても、無料・有料にかかわらず事前の申請が必要です。詳細は EAT-10 のページ を確認してください。
  • 禁止事項:原文の設問本文や公式評価用紙の画像・ PDF を、許可なく転載・改変・再配布することはできません。ロゴや表記の改変も避ける必要があります。
  • 本記事の方針:当ブログでは、EAT-10 の設問本文を掲載せず、「評価の位置づけ」「スコアの解釈」「記録枠」の解説に限定しており、原典テキストの著作権を尊重した運用を行っています。

FAQ(よくある質問)

各質問をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q. EAT-10 だけで摂食・嚥下リハ介入の要否を決めてもいいですか?

EAT-10 は簡易嚥下スクリーニング質問紙として有用ですが、これだけで介入要否や食形態決定を行うのは推奨されません。VE・VFSS、WST、食事観察、栄養評価、既往歴・併存症などと統合して判断してください。

Q. 聖隷式嚥下質問紙と併用しても良いですか?

同じ患者に対して 2 種類の質問紙を併用すること自体は可能ですが、どちらを「公式な評価」として記録するか、カットオフやスコアの解釈をチーム内で統一しておくことが重要です。二重にスクリーニングを行う場合は、スタッフの負担や患者さんの理解度も考慮してください。

Q. EAT-10 の欠点は何ですか?使わない方がいいケースはありますか?

主な欠点は、無症候性誤嚥など自覚しにくい問題を拾いにくいことと、中等度以上の認知症では回答の一貫性が低下しやすいことです。強い認知機能低下がある方や意思疎通が難しいケースでは、EAT-10 の結果を鵜呑みにせず、食事観察や他のスクリーニングを優先して判断します。

おわりに

EAT-10 は、「簡易スクリーニング → 詳細評価 → 食形態・訓練プラン → 再評価」という摂食・嚥下リハの流れの中で、最初の一歩を支えるツールです。評価のリズムをチームでそろえておくことで、誤嚥性肺炎や低栄養をできるだけ早くキャッチし、リスクを最小限に抑えることができます。

日々の臨床では、限られた時間のなかで「どこまで評価するか」「どの症例に介入を優先するか」に迷う場面が多くなります。そうしたときは、面談準備チェックや職場評価シートなども活用しながら、自分自身の働き方や学び方も定期的に見直していくと、嚥下リハの質とキャリアの両方をバランスよく整えやすくなります。面談準備や情報整理には、マイナビコメディカルの面談準備チェック&職場評価シートも参考にしてみてください。

参考文献

  1. Belafsky PC, et al. Validity and Reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. PubMedDOI
  2. Zhang PP, et al. Diagnostic Accuracy of the EAT-10 in Screening Dysphagia: Systematic Review & Meta-analysis. Dysphagia. 2023;38:1216-1233. PubMedDOI
  3. Hansen T, et al. Item analysis of the EAT-10 by the Rasch model. Health Qual Life Outcomes. 2020;18:164. PubMed CentralDOI
  4. Mapi Research Trust / ePROVIDE. Eating Assessment Tool (EAT-10). ePROVIDE

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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