TUGテストのやり方とカットオフ【3m標準化】

評価
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TUG テストのやり方とカットオフ【 3 m 標準化・声かけ文例つき】

Timed Up & Go( TUG )は、椅子からの起立 → 3 m 歩行 → 方向転換 → 着座に要する時間で移動能力とバランスを簡便に評価できる検査です。本記事は やり方(標準化手順)・声かけ文例・カットオフ値を中心に、派生版( TUG-manual / TUG-cognitive )、安全・中止基準、記録テンプレまでを臨床でそのまま使える形で整理しました。

評価は「同一条件の再現性」が肝心です。椅子条件・歩行補助具の有無・練習回数・測定回数・声かけをそろえ、転倒回避を最優先に実施しましょう。

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TUG とは( 30 秒で要点 )

TUG は、起立・方向転換・着座を含むため、単なる歩行速度では拾いにくいダイナミックバランス・下肢筋力・遂行機能の統合機能を反映します。転倒リスク・屋内外移動・退院判断の補助指標として広く用いられ、病棟・外来・在宅いずれの場面でもストップウォッチと 3 m の直線があれば実施可能です。

準備物と測定環境

  • 椅子:背もたれあり・座面高は施設標準(例: 40–45 cm )。肘掛は原則使用しない(施設 SOP に従う)。
  • 計測ライン:椅子の前脚を 0 m、目印(コーン)の中心を 3 m。直線上に障害物なし。
  • 計測機器:ストップウォッチ( 0.01 s 単位推奨 )。
  • 安全対策:見守り者を配置。必要に応じて歩行ベルト・随伴者。

やり方(標準化手順・声かけ文例)

標準化手順は下図のとおりです。

TUG テストのやり方( 3 m ・往復)図解 椅子から立ち上がり、3 m 先のコーンで方向転換し、椅子へ戻って着座するまでを計測する手順。矢印、3 m 寸法線、手順番号、計測と注意点を示す。 椅子(背もたれあり) 目印(コーン) 1 立ち上がり 2 最大歩行 3 方向転換 4 着座 3 m 椅子前脚 コーン中心 計測:立ち上がりで開始/着座で停止 ・補助具使用可(使用物品を記録) ・ 2 回実施し速い方を採用 ・安全最優先(見守り/転倒回避) 行き(立ち上がり→歩行) 戻り(方向転換→着座)
TUG テストのやり方( 3 m ・往復):立ち上がり → 最大歩行 → 方向転換 → 着座を計測

標準化ステップ(番号つき 5 手順)

  1. 開始肢位:背もたれにもたれ、両足底は床、手は大腿上。
    声かけ:「合図で立ち上がり、できるだけ速く前の目印を回って、椅子に座るまで戻ってください。」
  2. 計測開始:殿部が座面を離れた瞬間(立ち上がり開始)でスタート。
  3. 歩行速度:最大安全速度( usual ではなく fast )。補助具は使用可(使用物品を記録)。
  4. 方向転換:目印の回り方は自由(ぶつからない距離)。
  5. 計測停止:殿部が座面に触れた瞬間(着座完了)でストップ。 2 回実施し速い方を採用。

安全・中止基準(例)

  • ふらつき増悪・明らかな失調・胸痛・強い息切れ・低血圧症状(めまい・冷汗)・ SpO2 低下は直ちに中止
  • 最小限の接触介助で転倒回避(フェイルセーフ)。必要時は介助介入を優先し、その時点で計測は無効。
  • 再検時は同一条件(靴・補助具・座面高・声かけ・練習回数・測定回数)を厳守。

カットオフ値と解釈

TUG の臨床目安(施設 SOP を優先し、出典併記の“参考値”として利用)
基準 目安 臨床的含意 出典
転倒リスク(地域高齢者) 13.5 s 以上 転倒リスク高い可能性 Shumway-Cook 2000※1
屋内 ADL 自立 20 s 以上 屋内 ADL 自立は困難の可能性 Podsiadlo & Richardson 1991※2
運動器不安定症(診断要件の一部) 11 s 以上 要件の 1 つ( 3 m TUG ) 日本整形外科学会※3

注)対象・測定条件により閾値は変動します。施設の標準手順・主治医指示を優先してください。

年齢別・疾患別の目安(考え方)

  • 年齢:一般に高齢になるほど TUG は延長。個人差が大きく、経時変化でみるのが実務的。
  • 疾患:脳卒中・パーキンソン病・骨関節疾患・認知機能低下では延長しがち。疾患特異的な参考値は各領域のレビューを参照。
  • 退院判断:屋内 ADL の必要動作や住環境(段差・手すり有無)と併せて総合判断。

MDC / MCID(変化を「ある」と言える目安)

MDC(最小可検変化)は測定誤差を超える最小変化、MCID(最小臨床重要差)は患者にとって意味のある最小変化を指します。TUG の MDC / MCID は対象や場面で異なるため一律の数値適用は避け、同一条件での再測定と併用指標(歩行速度・ FRT ・静的バランスなど)で総合判断してください。実務上はおおむね数秒( 2–3 s 程度 )以上の変化を手がかりに、患者報告や安全域の変化と合わせて解釈します。

派生版の使い分け( TUG-manual / TUG-cognitive )

  • TUG-manual:手にコップ( 150–250 mL )等を持って実施。上肢占有によるバランス負荷を評価。
  • TUG-cognitive:暗算・曜日逆唱など二重課題を付与。遂行機能・注意配分の影響を評価。
  • 記録:派生版は課題内容を明記(例: TUG-cog( 3 の引き算 ))。

記録・報告テンプレ(コピー可)

TUG( 3 m ): 2 回実施,最短 10.8 s(補助具:なし)/見守りのみ,転倒なし。

TUG-manual:最短 12.6 s(紙コップ 200 mL 水,こぼれなし)/方向転換でややふらつき。

TUG-cognitive:最短 14.9 s(曜日逆唱),課題で歩行速度低下・二重課題干渉あり。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

TUG の声かけ文(例)は?

例:「合図で立ち上がり、できるだけ速く前の目印を回って椅子まで戻り、座るまでお願いします。」——速度は fast を明確化し、停止条件(着座で止める)を強調します。

練習回数と測定回数の標準は?

学習効果を均すため練習 1 回+本測定 2 回が実務的です。最短値を採用し、回数は記録に明記します。

補助具は使える?記録は?

補助具使用は。種類( T 字杖/歩行器など)を記録し、再検は同じ条件で行います。

肘掛けは使って良い?

原則は使用しません(施設 SOP に従う)。肘掛けを使った場合は使用の有無椅子条件を記録します。

転倒しそうなときは?

介助介入を優先し即時中止。その試行は無効として、休息後に安全確保のうえ再試行を検討します。

参考文献

  1. Shumway-Cook A, Brauer S, Woollacott M. Predicting the probability for falls in community-dwelling older adults using the Timed Up & Go Test. Phys Ther. 2000;80(9):896-903. doi:10.1093/ptj/80.9.896
  2. Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi:10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
  3. 公益社団法人 日本整形外科学会:運動器不安定症の定義と診断基準
  4. 日本理学療法士協会:Timed Up & Go test の測定について(配布 PDF)
  5. 我満 衛ほか:TUG に影響を与える運動機能因子の検討.総合健診.2014;41(5):586-590.

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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