FSST( Four Square Step Test )とは?敏捷性と転倒リスクをみる評価
Four Square Step Test( FSST )は、床に作った 4 区画を「前後・左右」に素早くステップし、所要時間から動的バランス能力と敏捷性( agility )をみるテストです。方向転換と障害物またぎを含むため、静的バランス検査だけでは拾いにくい「つまずきへの立て直し」や「外乱への素早い対応」を反映しやすいのが特徴です。
本ページでは、臨床で迷いがちなセッティング/手順/無効条件(再測定ルール)/安全管理を先に整理し、つづけてカットオフの読み方と介入への落とし込みまでを 1 本の流れでまとめます。
FSST の評価方法(やり方)|最短で押さえる 5 つの要点
FSST は「コースがずれていた」「両足接地があいまい」「杖に触れても続けた」などの小さなブレで、タイムが簡単に変わります。まずは同じ条件で再現できる測定を作ると、経時変化や介入効果が読みやすくなります。
歩行・バランス系評価をまとめて整理したいときは、関連:評価指標まとめ(評価ハブ)もあわせて参照してください。
| 項目 | 結論(これだけは固定) | よくあるブレ |
|---|---|---|
| コース | 十字のラインで 4 区画を作る(段差は低く・同条件で統一) | マスの大きさが毎回違う/杖が動く |
| 開始位置 | スタート区画を固定(例:左前)し、順序を統一 | 開始マスが変わる/順序が曖昧 |
| ルール | 各マスで両足接地、できるだけ順番通りに移動 | 片足だけで抜ける/順序が飛ぶ |
| 測定回数 | 練習 1 回 → 本番 2 回、速い方を採用 | 練習なしで本番/遅い方を採用 |
| 無効条件 | 杖に触れる・倒す、順序逸脱、転倒回避介助が入ったら再測定 | 触れても継続して記録してしまう |
準備・セッティング
- 床に 4 本の杖(またはテープ)を十字に配置し、同じ大きさの 4 区画を作ります。
- 段差(杖の高さなど)はできるだけ低く、毎回同じ条件で統一します(目安:およそ 2〜2.5 cm 程度)。
- 補助具(杖・ T 字杖・歩行器など)は「普段どおり」を基本にし、記録に明記します。
測定手順(チェックリスト)
- 開始区画を固定します(例:左前)。
- 時計回りに 1 周 → つづけて反時計回りに 1 周し、開始区画に戻るまでの時間を測ります。
- 各区画では両足をしっかり接地し、できるだけ順番通りに移動します。
- 練習を 1 回行い、本番を 2 回実施して速い方のタイムを記録します。
説明のテンプレ(声かけ)
- 「杖(テープ)に触れないように、できるだけ速く、順番通りに動いてください」
- 「各マスで両足をしっかりつけてください」
- 「不安があれば止まって大丈夫です(安全を優先します)」
安全管理と中止基準(臨床での現実解)
| 観察ポイント | 中止・変更の目安 | その場での対応 |
|---|---|---|
| ふらつき・バランス喪失 | 転倒回避介助が必要/著明な失調 | 介助量を上げて「評価の継続」より安全優先、条件を記録 |
| 疼痛・強い不安 | 動作が止まる/痛みで代償が増える | 休憩・中止、別指標( TUG など)へ切替を検討 |
| 杖に触れる・倒す | ルール逸脱(無効) | その試行は無効として再測定(疲労に注意して休憩) |
カットオフ値と臨床的意義|「 1 本で決めない」ための読み方
FSST は「方向転換」「またぎ」「多方向ステップ」をまとめて評価できる一方、結果は歩行補助具、怖さ(恐怖心)、注意配分、疲労などの影響を受けます。カットオフは便利ですが、単独で転倒リスクを断定しないのが安全です。
まずは「同一条件での再現性(同じセット、同じ説明、同じ補助具)」を担保し、歩行速度や TUG、バランス尺度と合わせてリスク層別化に使うと、判断がぶれにくくなります。
| 対象 | 目的 | 目安 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 地域在住の高齢者( 65 歳以上) | 複数回転倒リスクの目安 | > 15 秒 | まずは「同条件での再測定」を優先し、他指標と併用 |
| 前庭障害( vestibular disorders )を含む成人 | 方向転換の困難さのスクリーニング | > 12 秒 | めまい・怖さで遅くなることがあるため、休憩と説明を統一 |
| 脳卒中(急性期〜回復期) | 移動課題の難しさの把握 | 「時間」だけでなく失敗( unsuccessful trial )の有無も重要 | 安全確保のうえ、段階づけ(補助具・介助)を記録する |
よくある失敗と「再測定ルール」|現場の詰まりどころ
| よくあるミス | 何が起きる? | 対策(現実的な落としどころ) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 各マスで両足接地が曖昧 | タイムが短く出やすい | 「両足を置いてから次へ」を声かけで固定 | ルール遵守の可否 |
| 杖に触れても続行 | 本来は無効試行になりうる | 「触れたら無効、休憩して再測定」を最初に共有 | 無効理由(接触・順序逸脱・介助) |
| 開始区画・順序が毎回違う | 比較ができない | 開始位置(例:左前)と順序を紙 1 枚で固定 | 開始区画/順序の統一 |
| 疲労で 2 回目が極端に遅い | 「機能」より疲労を測ってしまう | 十分な休憩、呼吸苦・痛みを確認してから実施 | 休憩時間/主観( Borg など) |
信頼性・妥当性(ざっくり把握)
原著では、FSST は高い再現性( test-retest reliability )が示され、バランス・移動能力を反映する臨床テストとして位置づけられています。脳卒中や前庭障害など複数集団でも、妥当性・信頼性が検討されています。
ただし、対象集団や測定条件で「難易度」が変わりやすい点が FSST の特徴です。とくに脳卒中では失敗試行が一定割合で生じるため、「時間」だけでなくできた/できない、介助量、補助具まで記録すると臨床的に役立ちます。
リハビリテーションへの応用|評価を介入に直結させる
- 課題指向型:方向転換、またぎ、側方ステップを分解し、段階づけ(速度→正確性→複合課題)で練習する
- 二重課題:会話・計算などの認知負荷を追加し、注意配分の変化を観察する(安全最優先)
- 環境調整:通路幅、家具配置、段差や敷居など「つまずきポイント」を具体化して指導につなげる
転倒対策の重要性
入院や施設入所中に転倒が起こると、外傷が軽くても「また転ぶかもしれない」という恐怖心から活動性が低下し、廃用による筋力低下やバランス悪化を招きやすくなります。結果として転倒リスクが上がる悪循環に入りやすいのが臨床の難しさです。
転倒予防は「起きた転倒への対応」だけでなく、前段階でのリスク評価と早期介入が重要です。FSST は「方向転換」「またぎ」を含むため、静的バランスだけでは見えにくい課題を拾う補助線になります。
敏捷性の評価と転倒リスク
転倒は「方向転換中」「障害物をよけるとき」「二重課題で注意が散ったとき」など、複雑な状況で起きやすい現実があります。こうした場面では、筋力だけでなく敏捷性( agility )の低下が関与します。
敏捷性は「状況に応じて身体の動きを素早く・正確に切り替える能力」です。FSST を加えることで、歩行速度や静的バランスでは拾いきれないリスク層を把握できる可能性があります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
本番は何回やって、どの値を採用しますか?
一般的には、練習 1 回のあとに本番を 2 回行い、速い方のタイムを採用します。疲労しやすい対象では休憩を十分に取り、条件(補助具・介助量)を必ず記録します。
杖(ライン)に触れたらどう扱いますか?
杖に触れる・倒す、順序逸脱、転倒回避の介助が入るなどは、原則として無効試行として扱い、休憩して再測定します。臨床では安全を優先し、再測定できない場合は「無効理由」を残して評価の解釈に反映します。
「向きを変えないで」と言うべきですか?
FSST は方向転換を含む課題なので、厳密に「向きを固定」しすぎるよりも、順序・両足接地・安全を優先して条件を統一する方が実務的です。説明は毎回同じ文言に揃えると比較しやすくなります。
カットオフ( 15 秒など)はそのまま使っていいですか?
カットオフは便利ですが、対象集団や条件で変動します。まずはセッティングと説明を統一し、歩行速度や TUG、転倒歴などと組み合わせて層別化に使うのが安全です。
まとめ
FSST( Four Square Step Test )は、多方向ステップと障害物またぎを組み合わせて「敏捷性」と「動的バランス」を短時間でみる評価です。臨床ではセット・説明・採用ルール(練習 1 回+本番 2 回、速い方)を固定し、無効条件(接触・順序逸脱・介助)を明確にすると、評価がぶれにくくなります。
運用のリズムは「安全の確保 → 段階づけ(条件統一) → 記録(補助具・介助量も) → 再評価」です。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える「面談準備チェック( A4・ 5 分)」と「職場評価シート( A4 )」は、当サイト内のマイナビコメディカル紹介ページのダウンロード欄にまとめています(必要なときに探せる形で活用してください)。
参考文献
- 藤原求美,山口実果,手塚康貴,太田忠信.Four Square Step Test の信頼性と妥当性について.理学療法学.2006;33(67):330-333.
- Dite W, Temple VA. A clinical test of stepping and change of direction to identify multiple falling older adults. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(11):1566-1571. DOI: 10.1053/apmr.2002.35469 / PubMed: 12422325
- Blennerhassett JM, Jayalath VM. The Four Square Step Test is a feasible and valid clinical test of dynamic standing balance for use in ambulant people poststroke. Arch Phys Med Rehabil. 2008;89(11):2156-2161. DOI: 10.1016/j.apmr.2008.07.010 / PubMed: 18996240
- Whitney SL, Marchetti GF, Morris LO, Sparto PJ. The reliability and validity of the Four Square Step Test for people with balance deficits secondary to a vestibular disorder. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(1):99-104. DOI: 10.1016/j.apmr.2006.10.027 / PubMed: 17141644
- Moore M, Barker K. The validity and reliability of the Four Square Step Test in different adult populations: a systematic review. Syst Rev. 2017;6:187. DOI: 10.1186/s13643-017-0577-5 / PubMed: 28810834
- 菅田伊左夫,ほか.地域在住虚弱高齢者の 6 ヵ月後の転倒発生に対する Four Square Step Test の有用性.理学療法科学.2016;31(4):615-620.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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