ABMS-2の評価と予後予測|基本動作リハビリでの使い方

評価
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ABMS-2( Ability for Basic Movement Scale-2 )とは?

臨床で迷わない評価→介入の進め方をまとめて見る

ABMS-2 は、寝返り/起き上がり/座位保持/立ち上がり/立位保持の 5 つの基本動作を 1〜6 点で評価し、合計 5〜30 点(点が高いほど良好)で示す簡便なベッドサイド指標です。特別な器具が不要で、急性期の離床レベルの把握歩行自立の見通しに役立ちます。同系の概念ツールである BMS と併用することで、経時変化の追跡や在宅復帰の準備まで一連の評価が整理しやすくなります。

ABMS-2 は「今どこまで安全に動けるか」を 1 枚のシートで共有できる点が強みです。医師・看護師・リハ・病棟スタッフ間で共通言語として使うと、離床基準や歩行許可、移乗方法などの検討がスムーズになります。

実施手順(ベッドサイド:目安 3〜5 分)

  1. 環境準備:ベッド(またはプラットフォーム)で安全を確保し、柵やナースコールの位置を確認します。ドレーン・点滴ライン・在宅酸素などの有無も事前に把握します。
  2. 医師指示・安静度の確認:安静度やリハビリ制限により当該動作が禁止されている場合は、その項目は実施せず 1 点とします。
  3. 各動作を観察:寝返り→起き上がり→座位保持→立ち上がり→立位保持の順に実施します。座位・立位は数十秒程度の安定保持まで観察し、ふらつき・息切れ・痛みなども確認します。
  4. 介助・補助具の要否を判定:補助具・装具や手すり使用の修正自立( 5 点 )、監視のみ( 4 点 )、部分介助( 3 点 )、全介助( 2 点 )などを、後述の判定基準に沿って評価します。
  5. 合計点と所見を記録:5 項目の合計( 5〜30 点 )を算出し、うまくいかなかった理由(疼痛・恐怖・筋力低下・バイタル変動など)を「所見」に具体的に記載します。

判定基準( 6 段階 )

ABMS-2 判定基準(成人・2025 年版)
点数 ラベル 目安
6 完全自立 安全かつ安定して自立。補助具なしで時間制限なく遂行できる。
5 修正自立 補助具・装具・手すり等の使用や時間超過はあるが、身体介助なしで遂行できる。
4 監視・口頭修正 転倒リスクなどから近接での見守りや声かけが必要だが、身体介助は不要。
3 部分介助 動作の一部で身体介助が必要(例:立ち上がり初動・方向転換で一時的に支える)。
2 全介助 動作全体を通して継続的な身体介助が必要であり、自力遂行は困難。
1 禁止 医師の安静・禁忌指示などにより当該動作を評価しない。

観察ポイント( 5 項目 )

  • 寝返り:肩甲帯と骨盤の回旋のタイミング、片脚フックの有無、体幹回旋の連続性。痛みによる防御やライン牽引にも注意します。
  • 起き上がり:側臥位→端座位への移行パターン(腕支持の有無・体幹の起こし方)、起き上がり直後のめまい・血圧変動・表情の変化を確認します。
  • 座位保持:骨盤の前後傾、座面への荷重の左右差、随意課題(両上肢挙上・物の受け渡し)を行ったときのバランス変化を評価します。
  • 立ち上がり:前方への重心移動(体幹前傾)、股・膝・足関節伸展の協調、初動のためらい・恐怖の有無、立ち上がり直後のふらつきを確認します。
  • 立位保持:両脚立位での骨盤・体幹アライメント、膝過伸展や側屈などの代償、失調的な揺れの有無、数十秒の安定保持が可能かを観察します。

スコアの読み方と臨床活用

ABMS-2 は、とくに急性期脳卒中における機能予後や歩行自立の予測に有用とされます。報告によってばらつきはありますが、入院早期の ABMS-2 が高いほど退院時 ADL が良好で、14 日時点の歩行自立は 26 点以上、90 日時点は 15 点以上が一つの目安になり得るとする研究があります(詳細は参考文献を参照してください)。

ただし、対象疾患・施設のリハ体制・併用している評価(例: BBS・TUG・FIM など)によってカットオフは変動します。単一のカットオフ値に頼り切るのではなく、経時変化( Δ 点 )と他指標、バイタル・疼痛・認知機能などの情報を組み合わせて「今の離床レベル」と「次の一歩(ゴール)」をチームで共有することが重要です。

ABMS-2 記録シート( A4 /印刷可 )

ダウンロード不要の印刷用 HTML 版です。ブラウザの印刷機能から、用紙設定を A4 タテ/余白最小/ヘッダー・フッター非表示にして印刷または PDF 保存してお使いください。病棟・外来・在宅いずれでも、そのまま評価用紙として利用できます。

ABMS-2 スコアシート(成人・2025 年版)
項目 1 禁止 2 全介助 3 部分介助 4 監視 5 修正自立 6 完全自立 所見
寝返り
起き上がり
座位保持
立ち上がり
立位保持
合計( 5〜30 )

禁忌・中止の例

ABMS-2 実施時の注意(成人・一般内科外科病棟想定)
区分 対応
医師指示 安静度・禁忌手技の明示(術直後・出血リスク 等) 当該動作は 1 点(禁止)とし、状態が安定した別日に再評価します。
安全面 重度低血圧・高度低酸素血症・新規胸痛・急激な意識変容 など 直ちに評価を中止し、バイタル確認と医師報告を優先します。
疼痛 手術部位・骨折部位の疼痛増悪や防御反応の出現 疼痛コントロールとポジショニングを優先し、許容範囲内でできる動作から再構成します。

現場の詰まりどころ(よくある迷い)

ABMS-2 運用で詰まりやすいポイントと対策
詰まりどころ 起こりやすい誤り 対策のヒント
1 点(禁止)か 2 点(全介助)か 安静度が曖昧なまま「少しなら動いてよいだろう」と実施し、2 点で記録してしまう。 医師指示で明確に禁止されている動作は評価を行わず 1 点。迷う場合は必ず指示を再確認する。
4 点(監視)と 5 点(修正自立)の線引き 「声かけが不安だから」と、実質完全自立でも 4 点にとどめてしまう。 身体介助が不要で、補助具を用いながら自力遂行できれば 5 点。転倒リスクで近接するだけなら 4 点と整理する。
時間帯や環境差によるブレ 朝と夕で点数が違うのに、どちらか一方だけをカルテに残してしまう。 「眠前は 1 ランク低下」など、時間帯や疼痛コントロール状況を所見欄に残し、再評価時に比較できるようにする。
バイタル変動の見落とし 点数だけに意識が向き、立ち上がり後の血圧低下や動悸などを十分に記録しない。 ABMS-2 は安全な離床レベルの確認が目的。バイタル変化や自覚症状もセットで記録し、看護師と共有する。

大まかな「詰まりどころ」はこの表で押さえ、具体的なケースごとの判断や、点数が揺れる場面への対応は下の「よくある質問」で少し深掘りしています。

おわりに

ABMS-2 は、安全確認→基本動作評価→離床レベルの共有→再評価という臨床のリズムを、チームでそろえるためのシンプルなツールです。スコアそのものよりも、スコアの変化とそこに至る背景(痛み・体力・精神面・環境)が見えてくるほど、介入の優先順位やゴール設定がクリアになります。

「どこまで動いてよいのか」「歩行訓練を始めてよいのか」で迷う場面ほど、ABMS-2 をきっかけに多職種で対話することが有効です。本稿のシートやチェックポイントを、明日のカンファレンスやベッドサイド評価にそのまま持ち込んでいただければ幸いです。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.ABMS-2 と BMS、どちらを優先して使えばよいですか?

ABMS-2 は寝返りから立位保持までの 5 基本動作を 1〜6 点で評価し、「今どこまで安全に動けるか」をコンパクトに把握するのに向いています。一方、BMS は 9 基本動作を 1〜5 点で細かくみるため、回復期以降の経時変化や生活期のフォローアップに適しています。急性期・入院早期での離床レベルの確認は ABMS-2 を軸にし、安定してきた段階では BMS など他の基本動作評価にスイッチしていく、という使い分けが実務上はスムーズです。

Q2.ABMS-2 の点数が日によってブレるときはどう解釈すればよいですか?

ABMS-2 は「その時点での最良パフォーマンス」を評価するため、疼痛や疲労、服薬タイミング、メンタルなどの影響を受けやすいスケールです。1〜2 点の揺れであれば日内変動やコンディション差の可能性が高く、同一条件(時間帯・疼痛コントロール・補助具)での再評価を優先します。3 点以上の変化や、安全面の悪化を伴う変化は病状変化を疑い、バイタル・検査値・神経所見と合わせて医師と共有してください。

Q3.ABMS-2 のカットオフ値は「絶対基準」として使ってよいですか?

研究で示されるカットオフ値(例:14 日時点 26 点以上で歩行自立など)は、特定の対象やリハ体制で得られた統計的な目安にすぎません。個々の症例では、既往歴や併存疾患、認知機能、生活背景によって予後が大きく変わります。カットオフは「退院時のゴールを検討する際の一材料」として位置づけ、最終的な判断は他の評価(歩行速度、バランス評価、FIM など)や本人・家族の希望と組み合わせて行うのが安全です。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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参考文献

  1. Tanaka T, et al. J Rehabil Med. 2010;42(3):233–237. PubMed
  2. Uwatoko H, et al. Eur Neurol. 2020;83(1):49–55. doi:10.1159/000506421. PubMed
  3. Gu R, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019; ePub ahead of print. PubMed
  4. ABMS-2 の構成・採点に関する和文レビュー:5 項目・各 1〜6 点・合計 30 点の概要。J-STAGE(PDF)
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