結論・早見表(ポイントだけ先に)
NIHSS (National Institutes of Health Stroke Scale)は、急性期脳卒中の神経学的重症度を「共通言語」でそろえるスケールです。上位表示を狙うキーワードのとおり、本記事は「 NIHSS の評価方法(手順の固定化)」に焦点を当て、 10 分前後で再現性を担保する運用を整理します。脳卒中の評価全体像(病期別フロー)は 脳卒中リハの評価項目(病期別フロー) にまとめています。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 目的 | 急性期の重症度を共通言語で把握し、経時変化と治療・リハの優先順位づけに直結。 |
| 総点 | 0〜 42 点(高いほど重症)。0 :症状なし/ 1–4 :軽症/ 5–15 :中等症/ 16–20 :中等–重症/ 21–42 :重症(便宜的目安)。 |
| 評価原則 | 初回の反応で採点。誘導・過度の練習は不可。普段の補助具は装着可。 |
| 時間 | 原則 10 分前後。手順・声かけ・保持角度・時間規定を固定化(再現性重視)。 |
| 次アクション | 合計点に加え 項目内訳(失語/無視/運動など)をもとに、姿勢管理・嚥下リスク・褥瘡対策を即時設計。 |
評価前の準備(環境・前提)
| カテゴリ | 確認事項 |
|---|---|
| 環境 | 静かな環境、十分な照明。家族や同席者には見守りのみ依頼。 |
| 補助具 | 眼鏡・補聴器・義歯など普段の補助具は装着可(成績を上げるための過度な補助は不可)。 |
| 体位 | 上肢:座位 90° または 仰臥 45°、下肢:仰臥 30° を取れる体位を準備。 |
| 鎮静・疼痛 | 鎮静・強い疼痛・せん妄は採点に影響。必要なら保留や注記(「検査不能の理由」を明記)。 |
| ベースライン | 失語・認知症・視聴覚障害など既存の障害を所見に明記(「発症前から」か「急性増悪」かを区別)。 |
評価方法(採点手順: 10 分で回す型)
- 説明 → 同意 → 体位調整:検査の流れを簡潔に伝え、普段の補助具を装着。
- 実施順: LOC → 注視 → 視野 → 顔面 → 上肢 → 下肢 → 失調 → 感覚 → 言語 → 構音 → 無視(原則の順序)。
- 採点:初回のパフォーマンスで採点(やり直しで「ベスト」を取らない)。
- 注記:検査不能の理由(疼痛・理解困難・既存障害など)を明記。
| テーマ | 要点 |
|---|---|
| 誘導 | 過度な練習・ヒントは不可。指示は最小限・統一文言で。 |
| 補助 | 検査を容易化する補助は不可。普段の補助具は装着可。 |
| 時間 | 上肢保持 10 秒、下肢保持 5 秒など規定時間を守る。 |
| 区別 | 失語(理解・表出)と構音障害(発話の明瞭度)を分けて採点。 |
| 内訳 | 合計点だけでなく、どの項目が高得点かを臨床に反映(例:無視が強い→転倒・逸脱対策)。 |
11 項目の要点(早見表)
| # | 項目 | 点数レンジ | 判定のカギ |
|---|---|---|---|
| 1 | 意識レベル(反応・質問・命令) | 0–3・ 0–2・ 0–2 | 覚醒、見当識、命令の遂行(失行・失語の影響に留意)。 |
| 2 | 注視 | 0–2 | 共同偏視の有無(追視で判定)。 |
| 3 | 視野 | 0–3 | 同名半盲・全盲(顔向け反応・瞬目も参照)。 |
| 4 | 顔面麻痺 | 0–3 | 対称性・随意運動(額・歯の露出・頬)。 |
| 5 | 上肢の運動 | 0–4 × 2 | 90°(座位)/ 45°(仰臥)で 10 秒保持のドリフト。 |
| 6 | 下肢の運動 | 0–4 × 2 | 30°(仰臥)で 5 秒保持のドリフト。 |
| 7 | 四肢運動失調 | 0–2 | 協調運動(指鼻・踵膝)、麻痺による制限は除外。 |
| 8 | 感覚 | 0–2 | 針刺激の左右差・減弱。 |
| 9 | 言語(失語) | 0–3 | 呼称・復唱・理解。構音障害とは独立。 |
| 10 | 構音障害 | 0–2 | 発話の明瞭度。義歯・口腔状態の整備。 |
| 11 | 消去現象/半側空間無視 | 0–2 | 二重同時刺激での消失。視野欠損と区別。 |
各項目の解説(手順と判定のコツ)
1. 意識レベル(反応・質問・命令)
狙い:覚醒・見当識・指示理解の土台を評価します。三部構成(反応・質問・命令)でそれぞれ採点し、以降の項目の「実施可能性」も見立てます。
- 反応:呼名や痛み刺激への反応( 0 正常〜 3 無反応)。刺激方法と強さを一定に保つ。
- 質問:「年・月」など 2 問。繰り返しの誘導は避け、初回反応で採点。
- 命令:開閉眼・握開手など 2 命令。失語・失行・理解困難の影響を所見に残しつつ、明らかな遂行不能は減点。
2. 注視
狙い:共同偏視の有無を評価します。指やペン先を水平にゆっくり動かし、頭位はできるだけ固定して追視を確認します。
- 偏視が持続: 2 点、部分的制限: 1 点、正常: 0 点。
3. 視野
狙い:同名半盲など視野欠損を評価します。四分円ごとに指動かし・指カウント・瞬目反応を観察します。
- 片側で持続的な見落としがあれば半盲を疑う。両側同時提示は参考所見として扱い、無視との混同に注意。
4. 顔面麻痺
狙い:額のしわ寄せ、歯の露出、頬膨らまし等で顔面筋の左右差を判定します。
- 完全麻痺: 3、部分麻痺: 2、軽度(わずかな左右差): 1、対称: 0。
5. 上肢の運動
狙い:抗重力保持とドリフトを評価します(左右それぞれ)。
- 座位 90° / 仰臥 45° で 10 秒保持。保持不可・支持物への接触は減点。
- 「最後まで保持できたか」だけでなく、ドリフトの出方を観察して採点する。
6. 下肢の運動
狙い:下肢の抗重力保持能力を確認します(左右それぞれ)。
- 仰臥位で股関節 30°・ 5 秒保持。保持不可・ベッド接触は減点。
- 体幹の代償や疼痛が強い場合は「検査不能の理由」を注記し、再評価条件をそろえる。
7. 四肢運動失調
狙い:小脳性失調の有無を評価します(麻痺の影響は除外)。
- 指鼻試験・踵膝試験を行い、明らかな測定障害や振戦があれば加点。
- 筋力低下で十分に動かせない場合は麻痺による制限として注記し、失調とは分けて判断。
8. 感覚
狙い:針刺激で左右差・減弱を確認します。
- 同程度の強さで左右を比較し、「鈍い/わからない」が持続するかを確認。
- 疼痛・理解困難・鎮静の影響が大きい場合は、その旨を所見に明記。
9. 言語(失語)
狙い:呼称・復唱・理解で言語機能を評価します(構音障害とは独立)。
- 呼称と復唱、指示理解を組み合わせて評価し、反応の質(錯語・迂言・無反応)を記録する。
- 重度失語でも、追従・ジェスチャーなどの残存反応を観察し、経時変化の比較材料にする。
10. 構音障害
狙い:発話の明瞭度を確認します。義歯・口腔内を整えたうえで実施します。
- 短い定型文の読み上げ等で 0–2 点を判断し、聴き手が理解できるかを基準にする。
- 失語(内容)と混同せず、「音の出し方」の障害として切り分ける。
11. 消去現象/半側空間無視
狙い:視覚・体性感覚の二重同時刺激での「消失」を確認し、半側空間無視を拾い上げます。
- 単独提示では両側とも認識できるのに、左右同時提示で一方が消える場合は陽性。
- 視野欠損(半盲)との重なりは整理し、 ADL での偏り(衝突・食べ残し等)と統合して解釈。
合計点の読み方と臨床活用
| 合計点 | 目安 | 臨床メモ |
|---|---|---|
| 0 | 症状なし | 再評価・画像所見と統合して判断。 |
| 1–4 | 軽症 | 失語・無視などは点数の割に ADL 影響が大きいことに注意。 |
| 5–15 | 中等症 | 合併症予防と早期離床の優先順位を、全身状態とセットで検討。 |
| 16–20 | 中等–重症 | 体位管理・シーティング・呼吸循環への影響を重視し、刺激量と再評価条件を固定。 |
| 21–42 | 重症 | 全身管理が最優先。誤嚥・褥瘡・拘縮予防をチームでバンドル化して共有。 |
合計点は重症度の概算に有用ですが、実際のケアは 項目内訳に強く依存します。例えば無視が強ければ転倒・逸脱対策、失語が強ければコミュニケーション支援と嚥下連携が必要です。早期リハでは「安全な刺激量」と「再評価のタイミング」を先に決め、条件をそろえて比較できる状態を作ると運用が安定します。
現場の詰まりどころ(判定で迷いやすいポイント)
| 迷い | 見分けの軸 | 次アクション |
|---|---|---|
| 失語 vs 構音障害 | 内容(理解・表出)の障害か、音(明瞭度)の障害かを切り分ける。 | 9(言語)と 10(構音)を別物として採点し、所見に「どちらが主か」を明記。 |
| 意識障害と失語の重なり | 自発開眼・呼名反応・追視の有無で覚醒を見てから、理解・表出を評価する。 | まず 1(意識レベル)を固定し、そのうえで 9(言語)を評価(詳しくは FAQ Q2 )。 |
| 時間規定のブレ | 上肢 10 秒、下肢 5 秒を短縮すると「できた」印象になりやすい。 | 規定時間を守り、再評価も同じ条件(体位・角度・声かけ)で実施。 |
| 過度な誘導 | ヒントや練習で成績が上がると、初期状態の比較が崩れる。 | 初回反応で採点し、言い回しは統一文言に寄せる。 |
| 既存障害の扱い | 発症前からの障害か、急性変化かを区別しないと解釈がぶれる。 | ベースラインを所見に明記し、「変化分」を追える記録にする。 |
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. ベースラインの失語・認知症がある場合、 NIHSS はどう考えればよいですか?
A. 既存障害の影響を所見に明記したうえで、可能な範囲で発症前からの変化を採点します。たとえば慢性失語があり会話はもともと単語レベルでも、「呼びかけへの反応が乏しくなった」「ジェスチャーも減った」などの変化があれば、 1(意識レベル)や 9(言語)の解釈に反映します。
Q2. 意識障害と失語が重なっているとき、どこまで NIHSS で評価できますか?
A. まず「覚醒度」(自発開眼・呼びかけへの反応・追視の有無)から 1(意識レベル)を決め、そのうえで「理解・表出の障害」として 9(言語)を評価します。呼名への反応や視線の追従があれば、ある程度の覚醒はあると判断できるため、「全く反応なし」とは分けて採点します。
Q3. PT・OT・ST など複数職種で NIHSS を使う場合、どこをそろえると良いですか?
A. 「声かけの文言」「姿勢・保持角度」「時間規定」「補助具の扱い」の 4 点を運用ルールとして文章化し、全職種で共有するのがおすすめです。特に 5・ 6(運動)と 9・ 10(言語・構音)は、少しの違いで点数が変わりやすいため、評価者間のばらつきを減らしておくと経時比較の信頼性が高まります。
公式資料(学び直しの入口)
- NIHSS は「順番どおりに実施」「各項目ごとに記録」「採点を戻して変更しない」など、運用ルールを前提に設計されています。まずは公式の資料で原則を確認してから、施設の運用に落とし込むと再現性が上がります。
おわりに
急性期脳卒中では、「安全の確保 → NIHSS による重症度評価 → 合併症予防バンドルの設計 → 再評価」というリズムを作っておくと、チーム全体で同じ優先順位を共有しやすくなります。 NIHSS は点数そのものよりも、「どの項目が高いか」を読み解き、姿勢管理・嚥下リスク・コミュニケーション支援などの具体的なケアに落とし込むことが重要です。
日々のカンファレンスやベッドサイドで NIHSS を使い慣れておくと、「いまの状態はどのくらい変化したのか」「次に何をすべきか」が整理しやすくなります。自分の施設での運用ルールやチェックリストも整備しながら、再現性の高い評価とリハビリ介入につなげていきましょう。働き方を見直すタイミングでは、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェックと職場評価シートを、マイナビコメディカル活用ガイドで無料公開していますので、必要に応じて印刷してご活用ください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
参考文献
- Brott T, Adams HP Jr, Olinger CP, et al. Measurements of acute cerebral infarction: a clinical examination scale. Stroke. 1989;20(7):864–870. doi: 10.1161/01.STR.20.7.864 / PubMed: 2749846
- National Institute of Neurological Disorders and Stroke. NIH Stroke Scale(資料・ブックレット). NINDS / NIHSS PDF: PDF
- Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al. Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines. Stroke. 2019;50(12):e344–e418. doi: 10.1161/STR.0000000000000211 / PubMed: 31662037


