時計描画テスト(CDT)のやり方|河野法 9 点法に合わせた最短手順
CDT は 1〜3 分で実施できる視空間認知・実行機能のスクリーニングです。本ブロックでは、院内でそのまま使える標準スクリプト(10時10分指定)と採点スキームの選び方、落とし穴を先出しで整理します。確定診断ではなく、追加評価の要否をふるい分ける目的で用います(施設 SOP/主治医指示を優先)。
準備(所要 1〜3 分)
- 無地 A4 用紙 1 枚、黒ペン(消せないもの)。
- 筆記しやすい机・肘掛け、メガネ・補聴器の装用確認。
- 聞こえ・理解の確認(氏名・日付・場所など短い会話)。
やり方(標準スクリプト:読み上げは 1 回のみ)
- 円を描く:「この紙に丸い時計の円を書いてください。」
- 数字を入れる:「その中に1 から 12 までの数字を時計のように入れてください。」
- 時刻を示す:「10時10分を指すように針を書いてください。」
※ ヒントや再教育は行いません。迷った場合は「わからない」で構いませんと促し、所要時間・再指示の有無・中止理由を記録します。利き手、眼鏡の有無、筆記中の発話も転記。
採点スキームの選び方(カットオフ目安)
経時比較のため、施設で採点法・満点・閾値を統一します。代表法を簡潔に比較します。
| 採点法 | 配点 | 主眼 | カットオフの目安 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 河野法(日本語・9 点法) | 0–9(高得点=良) | 数字配置・針の整合性・全体像 | ≤ 8 を陽性の目安 | 本記事の中心スキーム |
| Shulman | 1–6(高得点=良) | 全体印象 | ≤ 3 で異常の目安 | 短時間で実施可 |
| Sunderland | 0–10(高得点=良) | 数字・針の正確性 | ≤ 5〜6 を異常の目安 | 項目観察に向く |
| Rouleau / Mendez | 0–10(高得点=良) | 配置・スペーシング・針 | ≤ 7 前後 | 教育歴の影響あり |
| Mini-Cog の CDT | 合否 | 明らかな誤りの有無 | 合否で記録 | 3 語想起と併用 |
よくあるミス(やり方の落とし穴)
- 指示にヒントを加える(例:「もう少し右に」)→ 禁止。標準スクリプトのみ。
- 時刻の混在 → 本記事は河野法に合わせて 10時10分で固定。
- 視力・巧緻性の影響の未記載 → 眼鏡の有無、利き手、麻痺の有無を別記。
- 採点法を都度変更 → レポートに採点法・満点・閾値を明記し統一運用。
時計描画テストとは
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時計描画テスト(Clock Drawing Test)とは、時計の絵および指定された時刻に針を配置する描画検査になります。
描画に対する評価の方法としては、時計の絵の構成やその時計に併せて描く指定された時刻の適正度から行います。
時計描画テストで評価することができる能力や機能は以下の通りになります。
- 構成能力
- 視空間能力
- 抽象概念や数の概念などの言語理解能力
- 言語的記憶
- 知的機能
- 視覚性記憶想起および視覚イメージの再構成
- 遂行機能(プランニング)
- 抽象化能力
- 知覚刺激干渉に対する抑制などの前頭葉機能
上述した通り、時計描画テストでは、さまざまな機能や能力を評価することができます。
また、紙と鉛筆があれば机上で基本的には短時間で実施することができるため、集団での実施にも向いています。これらのことより、臨床において有用なスクリーニングテストの 1 つになると考えられます。
有効性やエビデンス
時計描画テストは、従来は視空間機能の評価法とされてきましたが、近年は認知機能のスクリーニングとしても使用されるようになっています。
認知機能のスクリーニングとして使用されるようになった裏付けとしては、認知症の人の時計描画テストの点数が認知症ではない人よりも低く、他の認知機能検査の結果や認知症の重症度とも相関することが、多くの研究で報告されてきたことが理由になります。
先行研究による報告内容の一部を紹介します。
アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease:AD)などの認知症の診断に有用である
Wolf – Klein ら(1987)、Rouleau ら(1992)
アルツハイマー病(AD)は前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia:FTD)より CDT の成績が低下した
Blair ら(2006)
認知症の類型診断への有用性を認める
Blair ら(2006)
CDT には遂行機能や抑制など前頭葉に関連する要素から、遂行機能障害によっても CDT の成績が低下する可能性がある
Shulman ら(2003)
CDT は単独では認知症検出への感受性は低いが、Mini – Mental State Examination(MMSE)など他の検査との併用で検査の信頼性や有効性が高くなる可能性がある
長濱ら(2001)
以上のように CDT は臨床における認知症の診断へ有用な指標を示す 1 つの検査となっております。
河野法 CDT
CDT 検査方法、評価方法にはさまざまなものが提唱されています。
例をあげると Sunderland ら(1989)、Rouleau ら(1992)、Mendez ら(1992)、星野ら(1993,4 点満点)、Manos ら(1994)、Freedman ら(1994,15 点満点)、河野ら(2004,9 点満点)などがあり、目的に応じて選択することが望ましいとされています。
今回は筆者が普段の臨床で使用している河野ら (9 点満点)の方法による時計描画テスト(CDT)の評価方法を解説します。
評価用紙
河野法では B5 サイズの紙を 3 枚(A、B、C)使用します。
書式 A:白紙
書式 B:紙の中央に直径 8 cm の正円

書式 C:紙の中央に直径 8 cm の円と文字盤

筆記具は鉛筆(B)が推奨されています。
評価方法

テストは周囲に時計がない環境下で行います。
河野法は書式 A・B・C を使用した 3 つのテスト(テスト A・B・C)で構成されています。それぞれのテストの評価方法について解説します。
テストA(最大 1 点)
白紙の用紙(書式 A)に「この紙に時計の文字盤を描いて下さい」 と教示します。
時計の円を描いてから、数字も描くことが予想されますが、テスト A ではあくまで円を描くところを評価します。
文字盤まで描いてくれる場合には、完成まで見守ります。
【採点基準】
- 適度な大きさの綺麗な円が描ければ 1 点(満点)、円が全く描けなかったら 0 点
- 円の「異常」を認める場合は 0.5 点を減点する(円のサイズが不適切、ゆがんでいる、2 重になっている)
- 「異常」が 2 種類以上あっても減点は 0.5 点までとする
- 円のサイズが小さすぎる(直径 2.8 cm 以下)
- 円のサイズが大きすぎる (直径 13 cm 以上)
テストB(最大 6 点)

書式 B の用紙を用意して「こちらの用紙には予め円が描かれています。この円を時計の円として、数字を全部描いて下さい」 と教示します。
3、6、9、12 のように 12 個全て描かなかった場合には、「今度は 4 つだけでなく文字盤の数字を全部描いてみてください」 と教示し直します。
テスト A で完璧に描けた方は、テスト B を省略することも可とされていますが、B で異常が出ふことも考えられるため、可能であればテスト B も実施することが推奨されています。
【採点基準】
- 文字盤の数字の数や配置を評価する
- 数字 2 個に対して1点を与える(最大 6 点)
- 数字の欠損や数字を配置する位置のズレ、全体偏位および部分偏位など「異常」があれば 0.5 点を減点する
- 「異常」が 2 種類以上あっても減点は 0.5 点までとする
テストC(最大 2 点)

書式 C の用紙を用意して「完成された文字盤になります。ここに 10 時 10 分の針を描いて下さい」 と教示します。
説明時に針は 2 本と説明しないように注意する必要があります。
【採点基準】
- 正確に針を描くことができているのかを評価する
- 2 本の針が正しく 10 時と 10 分に向かっていれば 2 点となる(針 1 本の正答につき 1 点)
- 針の消失や示している時間が違うなど針の「異常」があれば 0.5 点を減点する
- 「異常」が 2 種類以上あっても減点は 0.5 点までとする
判定基準、カットオフ値
テスト A・B・C の合計得点から結果を判定します。
総合評価点は(1 + 6 + 2)点で 9 点満点となります。
カットオフ値は 8 点となり、8 点以下で認知症(疑い)と判定されます。
仕上げ|解釈のコツ・レポート例・ミニ FAQ
解釈のコツ(次アクション)
- 視空間性:左半分の欠落・数字偏り → 半側空間無視や視空間失認の示唆。線分二等分・キャンセレーションを追加。
- 実行機能:数字の重複・順序錯綜・針の取り違え → プランニング低下の示唆。TMT-A/B などを追加。
- 理解・注意:指示保持が困難 → 聴理解・注意課題(Digit Span など)を併用。
- 失行・失書:円や針の構成が著しく不良 → 模写タスク・上肢運動評価で補完。
レポートの書き方(テンプレ)
CDT:右手利き。理解良好。河野法 9 点法で 6/9。数字の重複と 10時10分の針方向誤り。所要 1 分 40 秒。追加:TMT-A/B、線分二等分。
再検タイミング
- 同一条件・同一スキームでの再検を推奨:亜急性〜回復期は 1〜3 か月、急性期は退院前後。
- 学習効果の注記:同一時刻でも可だが、解釈時に既知課題の可能性を明記。
ダウンロード(チェックリスト)
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ミニ FAQ(PAA 対策)
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教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべき?
まずは院内の学習機会(症例検討・同行・評価レビュー)を確認し、3 か月で改善が乏しければ外部見学や情報収集も。臨床が伸びないサインが複数当てはまる場合は、早めに選択肢を広げるのが安全です。


