はじめに:本ハブの使い方
本ページは、病棟・老健・在宅で誤嚥性肺炎に直面する理学療法士のための実務ハブです。現場で迷いがちな「予兆サインの拾い方」「スクリーニングの選び方」「何から手を打つか」を 1 ページで俯瞰し、詳細は各プロトコル記事へ同一タブで遷移できるように整理しました。
統計や分類の総論よりも、まずは 「明日からの観察・介入」に繋がる要点を厳選しています。スクリーニングは RSST/MWST/WST 等の運用ポイントをリンクで深掘り、予防はバンドル化して抜け漏れを防ぎます。
予兆のつかみ方と初期対応の流れ
高齢者の肺炎は発熱が軽微・非特異症状が先行しやすく、見逃しがちです。まずは「いつもと違う」を言語化し、観察項目を定型化して早期に多職種へ共有します。最初の一手は、体位・水分・呼吸負荷の微調整と、口腔内の状態確認です。
下表は病棟 PT 向けの観察テンプレ(抜粋)です。サイレント誤嚥プロトコルと併用して、スクリーニングや主治医コールの判断を補助します。
観察ポイント | どう問題になるか | PT の初期対応 |
---|---|---|
湿性嗄声・湿った咳・痰量増加 | 気道クリアランス低下で不顕性誤嚥が持続。 | 座位での気道クリアランス誘導、呼吸リズム再調整、看護と口腔ケア連携。 |
食思不振・脱水傾向 | 唾液粘稠化→嚥下負担増→誤嚥リスク↑。 | 水分摂取の環境調整、嚥下に優しい体位(軽度前屈)、栄養職と連携。 |
昼間傾眠・せん妄様 | 覚醒低下は嚥下反射低下と連動。 | 日中活動量の微増(+ 2–3 Ex/日)、光/睡眠覚醒の整え。 |
呼吸数微増・SpO2 低下 | 微小吸引の集積や換気量低下を示唆。 | ヘッドアップ 30–45°、胸郭モビライゼーション、主治医と酸素設定確認。 |
スクリーニング 5 点セット(最短ルート)
スクリーニングは薄く広く、反復で追うのがコツです。下記 5 点を基本に、「数値+所見+体位」のセットで記録しましょう。
・RSST( 30 秒反復嚥下)/ ・MWST・WST(水嚥下)/ ・咳テスト(随意・誘発の両面)/ ・口腔衛生観察(舌苔・歯肉・乾燥)/ ・呼吸数/SpO2/声質のセット
予防は“バンドル”で:7 要素
単発介入は抜け漏れが生じやすいです。以下の 7 要素を毎日 checklist で回す設計にしましょう。口腔ケアの質と姿勢管理、日中活動量の底上げが基盤です。
①体位(ヘッドアップ 30–45°+摂食時の軽度前屈)/②口腔ケア(看護・歯科衛生と同調)/③早期離床・微増 Ex(+ 2–3 Ex/日)/④呼吸訓練(呼吸再調整・咳嗽力強化)/⑤水分・栄養最適化/⑥服薬の眠気・口渇影響の把握/⑦排痰・気道クリアランスの習慣化
家族説明用:NHCAP を 300 字で
NHCAP は「医療・介護と継続的に関わる方に起きやすい肺炎」を指し、市中肺炎と院内肺炎の中間に位置づけられます。高齢・要介護・最近の入退院・透析や化学療法などが該当の目安です。特徴は、発熱が軽い/むせや咳が目立たない“サイレント誤嚥”が背景にある点。予防のカギは、口腔内を清潔に保つこと、食事や内服の体位を整えること、日中に身体を動かすこと、そして早めの気づきと共有です。本ハブでは家族にも伝えやすい実務要点に絞って紹介しています。