- 呼吸困難スケールは「何を評価したいか」で選びます
- 結論|呼吸困難スケールの目的別早見表
- 尺度選択は「回答できるか」と「何を知りたいか」で決めます
- mMRCは生活への機能的な影響を分類します
- NRS・VASは現在の呼吸困難の強さを測ります
- 修正Borg CR10は運動中の息切れを反復評価するときに使います
- D-12・MDP・CDSは強さだけでは分からない症状を補います
- RDOSは自己申告できない患者の観察評価です
- 1つの尺度ですべてを評価しようとしないことが重要です
- 再評価では尺度名より「同じ条件」をそろえます
- 呼吸困難スケール記録シート(A4・PDF)
- 呼吸困難スケールで起きやすい4つの失敗
- 尺度を導入するときは公式情報と利用条件を確認します
- よくある質問
- 次に確認する記事
- 参考文献
- 著者情報
呼吸困難スケールは「何を評価したいか」で選びます
呼吸困難スケールは、すべて同じ症状を同じ方法で測るものではありません。生活への影響ならmMRC、現在の強さならNRS・VAS、運動中の強さなら修正Borg、症状の質や不快感まで確認するならD-12・MDP・CDSが候補です。本人による回答が難しい場合は、観察尺度のRDOSを検討します。
この記事では、呼吸困難を評価する医療従事者に向けて、各尺度の詳しい設問ではなく、どの場面で何を選ぶかを比較します。尺度を選んだ後に評価条件と根拠を残せるA4記録シートも用意しています。
結論|呼吸困難スケールの目的別早見表
最初に、機能への影響、現在の強さ、運動中の強さ、多面的な症状負担、観察所見のどれを評価するか決めます。同じ患者さんでも、評価目的が異なれば複数の尺度を組み合わせることがあります。
| 評価したいこと | 主な尺度 | 適した場面 | 選択時の注意 |
|---|---|---|---|
| 生活への機能的な影響 | mMRC | 初回評価、外来フォロー、生活範囲の変化 | 現在の息苦しさや運動中の変化を直接測る尺度ではありません |
| 現在の呼吸困難の強さ | NRS | 安静時、ケア前後、短時間の反復評価 | 質問する期間と評価条件を固定します |
| 連続線上での強さ | VAS | 介入前後の変化、臨床研究 | 線を見て印を付ける操作が必要です |
| 運動中の呼吸困難の強さ | 修正Borg CR10 | 歩行試験、運動療法、負荷調整 | 息切れと下肢疲労を分けて質問します |
| 症状の質や情動反応 | D-12・MDP・CDS | 単一の強度だけでは症状を説明できない場合 | 対象疾患、想起期間、公式版の利用条件を確認します |
| 本人による回答が難しい場合の呼吸窮迫 | RDOS | 意識障害、認知機能低下、終末期など | 主観的な呼吸困難と同一ではなく、観察所見から推定する尺度です |

尺度選択は「回答できるか」と「何を知りたいか」で決めます
尺度を選ぶときは、最初に本人が症状を回答できるか確認します。回答できる場合は評価目的から尺度を選び、回答が難しい場合は観察評価を検討します。
- 本人が回答できるか確認する
- 生活への影響と、その時点の強さを分ける
- 安静時か運動中かを決める
- 強さだけで足りるか、多面的な評価が必要か判断する
- 評価条件と再評価のタイミングを記録する
本人が回答できる場合
生活範囲への影響を知りたい場合はmMRC、現在の症状強度を短時間で確認する場合はNRSまたはVAS、運動中の息切れを反復して確認する場合は修正Borg CR10が候補です。
強度だけでは患者さんの困り方を説明できない場合は、D-12・MDP・CDSなどの多面的尺度を追加します。最初から多くの尺度を実施するのではなく、簡便な尺度で量を確認し、必要な場合に質や情動面を掘り下げると整理しやすくなります。
本人による回答が難しい場合
意思疎通が難しい患者さんでは、数値を代理人が推測してNRSやBorgへ入力するのではなく、RDOSなどの観察尺度を検討します。
ただし、RDOSは本人が感じている呼吸困難を直接回答した尺度ではありません。呼吸数、表情、呼吸パターンなどの観察所見を組み合わせて呼吸窮迫を推定し、疼痛、不安、せん妄、発熱などの影響も併せて確認します。
mMRCは生活への機能的な影響を分類します
mMRCは、日常生活のどの程度の活動で息切れが生じるかを分類する尺度です。現在の呼吸困難の強さを細かく測るのではなく、息切れによって歩行や外出、更衣などがどの程度制限されているかを整理します。
初回評価や定期的な再評価で、患者さんの生活範囲がどの段階にあるか確認する用途に向いています。一方、1回の運動療法や短時間の介入による変化を追う用途には適していません。
mMRCの患者説明用要約
| スコア | 生活場面の目安 |
|---|---|
| 0 | 強い運動をしたときに限って息切れが生じる |
| 1 | 早歩きや緩やかな坂道で息切れが生じる |
| 2 | 同年代より歩くのが遅くなる、または自分のペースでも途中で止まる |
| 3 | 平地を短い距離歩くと、息切れのため立ち止まる |
| 4 | 外出が難しい、または更衣などの軽い動作でも息切れが生じる |
注:上表は尺度の違いを理解するための要約です。実際の判定は、使用する標準票と施設の運用に従ってください。
NRS・VASは現在の呼吸困難の強さを測ります
NRSとVASは、患者さんが感じている呼吸困難の強さを、その時点または一定期間について数値化する尺度です。短時間で反復しやすいため、安静時、活動直後、回復時などの変化を比較できます。
NRSでは一般に、呼吸困難がない状態から最も強い状態までを数値で回答します。VASでは、両端に基準を示した線上へ患者さんが印を付けます。
臨床では、点数だけでなく次の条件をそろえて記録します。
- 安静時か活動時か
- どの動作を行ったか
- 評価した時点
- 酸素投与条件
- 体位や歩行補助具
- 介入後、何分で再評価したか
SpO₂、呼吸数、心拍数などは呼吸困難を補足する重要な情報ですが、患者さんの主観的な息苦しさと必ずしも一致しません。客観指標だけで呼吸困難の有無や強さを判断しないことが重要です。
修正Borg CR10は運動中の息切れを反復評価するときに使います
修正Borg CR10は、運動負荷試験や運動療法中の息切れを繰り返し確認し、負荷調整へつなげる場合に向いています。
歩行や自転車運動では、開始前、運動中、終了直後、回復時など、取得するタイミングをあらかじめ決めます。また、「全身のきつさ」「息切れ」「下肢疲労」のどれを尋ねているかを明確にします。
BorgにはCR10と6–20の形式がありますが、呼吸困難の強さを評価する場合は、一般に0~10で示す修正Borg CR10が用いられます。6–20尺度は、主として全身の主観的運動強度を評価する場面で使われます。
CR10と6–20の違い、提示方法、取得タイミング、記録方法は、Borgスケールの使い方で詳しく解説しています。
D-12・MDP・CDSは強さだけでは分からない症状を補います
D-12・MDP・CDSは、呼吸困難の強さだけでなく、感覚の質、不快感、情動反応などを確認したい場合の候補です。ただし、それぞれ対象、構成、想起期間が異なるため、同じ目的で置き換えられるとは限りません。
| 尺度 | 確認する主な内容 | 選択時のポイント |
|---|---|---|
| D-12 | 身体的な感覚と情緒的な負担 | 症状負担を多面的に整理したい場合に検討します |
| MDP | 不快感、感覚の質、情動反応 | 特定の時点や場面における呼吸困難を詳しく確認します |
| CDS | 呼吸努力感、不快感、不安感 | 主にがん患者の呼吸困難を多面的に確認します |
これらの尺度は、項目全文を独自に複製して使用するのではなく、公式配布先、利用条件、日本語版の有無、対象患者を確認して導入します。
RDOSは自己申告できない患者の観察評価です
RDOSは、患者さんが呼吸困難を自己申告できない場合に、呼吸窮迫を観察所見から推定する尺度です。mMRC、NRS、VAS、Borgの代理回答として使うものではありません。
意識障害、重度の認知機能低下、終末期などでは、呼吸状態、表情、身体運動、補助呼吸筋の使用などを系統的に観察します。同時に、疼痛、不安、せん妄、発熱、気道分泌物など、観察所見へ影響する要因も確認します。
NRS・VAS・D-12・MDP・CDS・RDOSの詳細な位置づけと記録方法は、呼吸困難の評価尺度と記録の型で確認できます。
1つの尺度ですべてを評価しようとしないことが重要です
呼吸困難には、症状の強さ、感覚の質、情動反応、生活への影響など複数の側面があります。そのため、臨床では目的に応じて尺度を組み合わせます。
| 評価場面 | 組み合わせ例 | 分かること |
|---|---|---|
| 初回の外来評価 | mMRC+NRS | 生活への影響と現在の症状強度 |
| 歩行練習や運動療法 | 修正Borg CR10+SpO₂・心拍数・呼吸数 | 運動中の主観症状と生理反応 |
| 介入前後の短時間比較 | NRS+評価条件 | 同じ条件における症状強度の変化 |
| 症状の内訳が分からない場合 | NRS+D-12またはMDP | 強度に加えて身体感覚や情動反応 |
| 自己申告が難しい場合 | RDOS+疼痛・不安・せん妄等の評価 | 観察される呼吸窮迫と他症状の可能性 |
再評価では尺度名より「同じ条件」をそろえます
再評価の信頼性を高めるには、同じ尺度を使うだけでなく、評価条件をそろえる必要があります。条件が異なる点数を単純に並べても、介入効果や状態変化を判断できません。
少なくとも、次の内容を記録します。
- 使用した尺度と版
- 評価日時
- 安静時・運動中・運動後などの取得時点
- 評価した動作や運動負荷
- 体位、移動方法、歩行補助具
- 酸素投与量とデバイス
- SpO₂、心拍数、呼吸数などの補足所見
- 前回から変更した介入や環境条件
記録例は次のように、点数と条件を一緒に残します。
記録例
安静時NRS 2。室内気、端座位。歩行器歩行30m直後は修正Borg息切れ4、下肢疲労3、SpO₂ 94%、HR 104回/分。座位休息2分後に息切れ2へ回復。
呼吸困難スケール記録シート(A4・PDF)
尺度の選択、評価条件、点数の根拠、再評価時の変化を1枚で整理できるA4記録シートです。初回評価と再評価の条件をそろえ、申し送りやカンファレンスで共有するときに使用できます。
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呼吸困難スケールで起きやすい4つの失敗
評価のばらつきは、尺度そのものより、評価目的や条件が共有されていないことで生じます。特に次の4点を確認してください。
| 失敗 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| mMRCとBorgを同じ意味で使う | 生活への影響と運動中の強さが混在します | mMRCは機能、修正Borgは運動中の強さとして分けます |
| 数値だけを記録する | 前回と評価条件が異なる可能性があります | 動作、体位、酸素条件、測定時点を併記します |
| SpO₂が正常なら息苦しくないと判断する | 主観症状と酸素化が一致しない場合があります | 主観尺度と客観指標を分けて記録します |
| 回答困難例の点数を代わりに推測する | 患者本人の主観評価ではなくなります | 観察尺度を検討し、他症状と併せて解釈します |
尺度を導入するときは公式情報と利用条件を確認します
尺度によって、公式版、日本語版、利用登録、改変、複製、研究利用などの条件が異なります。記事内の要約だけで評価票を作成せず、使用前に公式情報を確認してください。
- American Thoracic Society:Dyspnea / Breathlessness Outcome Measures
- ePROVIDE(Mapi Research Trust)
- Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)
よくある質問
各質問をタップすると回答が開きます。
mMRCと修正Borgはどちらを使えばよいですか?
生活への影響を分類する場合はmMRC、歩行や運動中の息切れを反復して確認する場合は修正Borg CR10を選びます。同じ患者さんに両方使っても問題ありませんが、それぞれの評価目的を分けて記録します。
NRSと修正Borgは置き換えられますか?
どちらも呼吸困難の強さを数値化できますが、同一の尺度ではありません。短時間に現在の強さを尋ねる場合はNRS、運動中にアンカーを見せながら反復評価する場合は修正Borgが使いやすい傾向があります。経時比較では途中で尺度を変更しないことが重要です。
患者さんが回答できない場合、家族や医療者がNRSを付けてもよいですか?
NRSは本人が感じる症状の強さを回答する尺度であり、医療者による推測値は同じ意味になりません。本人による回答が難しい場合は、RDOSなどの観察尺度を検討し、疼痛、不安、せん妄などの所見も併記します。
次に確認する記事
呼吸困難だけでなく、視診、聴診、バイタルサイン、喀痰などを含めて評価の順番を整理する場合は、呼吸評価の全体像を確認してください。
この記事で選んだ尺度を、質問方法、評価条件、記録へ落とし込む場合は、前述の各詳細記事へ進んでください。
参考文献
- Parshall MB, Schwartzstein RM, Adams L, et al. An official American Thoracic Society statement: update on the mechanisms, assessment, and management of dyspnea. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(4):435-452. doi:10.1164/rccm.201111-2042ST
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- 日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会編. がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン 2023年版. 東京: 金原出版; 2023.

