呼吸困難スケールは「何を決めたいか」で選ぶ
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このページは「呼吸困難スケールの選び方」に絞った総論です。全体の順番や実施手順は、下の導線から役割別に確認できます。
関連:呼吸評価の全体像
続けて読む:主観評価の運用と記録の型
呼吸困難は、何を知りたいかで使う尺度が変わります。生活場面での障害度を見たいのか、運動中のつらさを調整したいのか、いまこの瞬間の強さを数値化したいのか、自記が難しい患者さんを観察で推定したいのかで、第一選択は変わります。
このページで答えるのは、mMRC・Borg・NRS / VAS・D-12・MDP・CDS・RDOS をどう選ぶかです。各尺度の完全手順や全文項目、ライセンス手続きまでは深掘りせず、まずは「何を選ぶか」を 5 分で決め、そのあと必要な兄弟記事へ進める構成にしています。
まずは早見表|目的別の第一選択
| 目的 | 第一選択 | 補助 | メモ |
|---|---|---|---|
| 生活場面での息切れ障害度を見たい | mMRC | NRS / VAS | ベースラインの層別化に向きます |
| 運動中の強度設定・負荷調整をしたい | Borg(CR10 / 6–20) | NRS / VAS | その場のつらさを見ながら調整します |
| いまの強さを短時間で数値化したい | NRS / VAS | Borg | 安静 → 活動直後 → 回復で同条件比較します |
| 困り方の質や不快感まで知りたい | D-12 | MDP / CDS | 強さだけでなく質・情動反応まで見ます |
| 自己申告が難しい | RDOS | 疼痛 / 不安 / せん妄評価 | 観察所見から呼吸苦を推定します |
5 分で決める|スケール選択フロー
迷ったときは、最初に「生活障害度」「運動中のつらさ」「いまの強さ」「質の違い」「自己申告の可否」のどれを知りたいかを決めます。この順番を固定すると、尺度選択がぶれにくくなります。
| 順番 | 確認すること | 選ぶ尺度 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 知りたいのは「生活での困り度」か | mMRC | 日付と生活場面を短文で添えます |
| 2 | 知りたいのは「運動中のつらさ」か | Borg | 取得タイミングを固定します |
| 3 | 知りたいのは「いま」の強さか | NRS / VAS | 安静・活動・回復の条件をそろえます |
| 4 | 質や不快感まで掘りたいか | D-12 / MDP / CDS | 期間や誘発条件を先に決めます |
| 5 | 自己申告が難しいか | RDOS | 疼痛・不安・せん妄と切り分けます |
呼吸困難スケール記録シート(A4)
尺度の選択、評価条件の固定、点数の根拠メモ、再評価時の差分整理を 1 枚で残せるように、A4 記録シートを用意しました。初回評価と再評価で同じ順番を保ちやすく、申し送りやカンファレンスにも使いやすい構成です。
配布物:呼吸困難スケール記録シート(A4・PDF)
mMRC・Borg・NRS / VAS・RDOS などの選択メモ、評価条件、再評価メモを 1 枚で整理できます。印刷してそのまま使えます。
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主要スケールの比較(特性と注意)
| 尺度 | 主な場面 | 出力 | 強み | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| mMRC | 生活場面の障害度 | 0–4 | ベースラインの層別化がしやすい | 即時変化には不向きです |
| Borg(CR10 / 6–20) | 運動中の強度調整 | 0–10 / 6–20 | セッション内で比較しやすい | 説明のしかたを固定しないとブレやすいです |
| NRS / VAS | いまの強さ | 0–10 / 0–100 mm | 短時間で取りやすい | 質的情報は拾いにくいです |
| D-12 / MDP / CDS | 質・不快・情動反応 | 合計 / 下位尺度 | 困り方の内訳が見えやすい | 項目全文は転載せず公式入手が前提です |
| RDOS | 自記困難例の観察 | 観察スコア | 非言語的な患者でも評価しやすい | 閾値運用は施設ルールに合わせます |
mMRC と Borg は「用途」が違います
mMRC は、日常生活のどの程度で息切れが出るかを見て、ベースラインの障害度をざっくり層別化する尺度です。一方の Borg は、その場の運動中のつらさを数値化して、強度設定や中止判断、負荷調整に使います。つまり、mMRC は「生活での困り度」、Borg は「運動中のつらさ」です。
迷ったら、初診や節目は mMRC、実施日の運動療法や歩行練習は Borg で考えると整理しやすいです。Borg スケールの使い方では、CR10 と 6–20 の違い、取得タイミング、記録法まで詳しく扱っています。
mMRC の要約表
| スコア | 患者説明用の言い換え |
|---|---|
| 0 | 激しい運動のときだけ息切れする |
| 1 | 早歩きや坂道で息切れする |
| 2 | 同年代より遅れる、または途中で立ち止まることがある |
| 3 | 平地を少し歩くと息切れで止まる |
| 4 | 外出や更衣など軽い動作でも息切れする |
注:上表は教育用の要約です。実評価は施設の標準票に準拠し、版と日付を記録してください。
NRS / VAS は「いまの強さ」を短時間で取るときに向いています
NRS / VAS の強みは、説明コストが低く、安静 → 活動直後 → 回復で同条件比較しやすいことです。病棟や在宅で短時間に回したい場面では、まず NRS / VAS を採用し、必要に応じて客観指標(SpO₂ / HR / RR)と合わせて解釈すると、実務に落とし込みやすくなります。
ただし、NRS / VAS だけでは「なぜつらいのか」「どの質が強いのか」は見えません。数値だけで結論を出さず、主観スコア × 客観指標 × 介入変更点の 3 点でまとめるのが基本です。
D-12・MDP・CDS・RDOS は「強さ以外」を補います
D-12・MDP・CDS は、息切れの強さだけでなく、質や不快感、情動反応まで見たいときの候補です。症状の困り方を深く知りたいときや、介入の効きどころを整理したいときに向いています。
RDOS は、終末期、ICU、認知機能低下などで自己申告が難しいときの観察評価です。表情、呼吸パターン、補助呼吸筋の使用、バイタルなどを束ねて見ます。どちらの系統も、本文では目的と使いどころに絞り、項目全文は掲載しません。
補足で押さえる尺度|BDI / TDI・OCD / NYHA
このページの主役は上の 5 系統ですが、研究や慢性呼吸器・心不全の文脈では、補足的に押さえておきたい尺度もあります。ここでは詳細解説ではなく、位置づけだけ整理します。
| 尺度 | 主な用途 | このページでの扱い | メモ |
|---|---|---|---|
| BDI / TDI | ベースライン重症度と変化量の評価 | 補足 | 研究・外来フォローで有用です。入手は公式導線を確認してください。 |
| OCD | 活動許容量の自己評価 | 補足 | 原図の扱いに注意し、院内運用は公式版で確認します。 |
| NYHA | 心不全の機能分類 | 補足 | 呼吸困難単独の尺度ではなく、心不全文脈で読みます。 |
現場の詰まりどころ|よくある失敗と直し方
尺度そのものより、どの場面で何を取るかが曖昧なまま運用が始まると、記録がそろいません。とくに、mMRC と Borg の混同、NRS / VAS の条件不統一、RDOS の単独解釈は起きやすい失敗です。
| 詰まりどころ | 起きやすい原因 | 直し方 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| mMRC と Borg を同じ意味で使ってしまう | 生活障害度と運動中強度を混同している | mMRC は節目、Borg は実施日に分けます | 初診 mMRC 2、歩行練習時 Borg 4 |
| NRS / VAS の数字だけを並べて終わる | 条件固定ができていない | 安静・活動・回復の条件を毎回そろえます | 安静 2 → 歩行直後 5 → 2 分後 3 |
| 質的尺度を入れても活用しきれない | 強さと質の役割を分けていない | まず量的尺度、必要時のみ質的尺度を追加します | D-12 を追加して不快の質を確認 |
| RDOS を単独で読んでしまう | 疼痛・不安・せん妄の併存を見ていない | 観察所見を束ねて解釈し、他症状も同時評価します | RDOS 上昇、疼痛と不安も併記 |
公式配布・情報ページ
- American Thoracic Society:Dyspnea / Breathlessness Outcome Measures
- ePROVIDE(Mapi Research Trust)
- GOLD
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
mMRC と Borg はどちらを先に使えばいいですか?
迷ったら、初診や節目では mMRC、実際の運動療法や歩行練習では Borg を優先します。mMRC は生活場面での障害度、Borg は運動中のつらさを扱う尺度なので、役割を分けたほうが記録が安定します。
NRS / VAS は Borg の代わりになりますか?
短時間で「いまの強さ」を取りたい場面では代用しやすいですが、運動中の強度調整や患者教育では Borg のほうが使いやすい場面が多いです。どちらを使うかより、同条件で前後比較できるかが重要です。
D-12 や MDP の項目を記事内に全部載せてもよいですか?
本文では、目的・構成・解釈の要点にとどめ、全文転載は避ける運用が安全です。実際の利用は公式配布先や施設内の許諾ルールに沿って進めてください。
記録シートはどんな場面で使いやすいですか?
初回評価、運動療法の前後比較、カンファレンス前の情報整理、再評価時の差分確認で使いやすいです。尺度名だけでなく、条件固定や根拠メモも 1 枚で残せる形にしておくと、再現性が上がります。
次の一手
呼吸評価の順番まで含めて全体像を整理したい場合は、呼吸評価の全体像 から確認してください。
主観評価を記録に落とす実務まで進めたい場合は、呼吸困難の主観的評価|同条件比較と記録の型 が続きの記事になります。
参考文献
- Parshall MB, Schwartzstein RM, Adams L, et al. An official American Thoracic Society statement: update on the mechanisms, assessment, and management of dyspnea. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(4):435-452. DOI:10.1164/rccm.201111-2042ST
- Bestall JC, Paul EA, Garrod R, Garnham R, Jones PW, Wedzicha JA. Usefulness of the Medical Research Council dyspnoea scale as a measure of disability in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 1999;54(7):581-586. PubMed
- Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. PubMed
- Yorke J, Moosavi SH, Shuldham C, Jones PW. Quantification of dyspnoea using descriptors: development and initial testing of the Dyspnoea-12. Thorax. 2010;65(1):21-26. DOI:10.1136/thx.2009.118521
- Banzett RB, O’Donnell CR, Guilfoyle TE, et al. Multidimensional Dyspnea Profile: an instrument for clinical and laboratory research. Eur Respir J. 2015;45(6):1681-1691. DOI:10.1183/09031936.00038914
- Campbell ML, Templin T, Walch J. A Respiratory Distress Observation Scale for patients unable to self-report dyspnea. J Palliat Med. 2010;13(3):285-290. DOI:10.1089/jpm.2009.0229
- Tanaka K, Akechi T, Okuyama T, Nishiwaki Y, Uchitomi Y. Development and validation of the Cancer Dyspnoea Scale: a multidimensional, brief, self-rating scale. Br J Cancer. 2000;82(4):800-805. PubMed


