足関節周囲の整形外科テストとは
足関節周囲の整形外科テストは、外側靱帯損傷(足関節捻挫)、三角靱帯損傷、アキレス腱断裂、足根管症候群、深部静脈血栓症( DVT )などを疑う際に用いられます。代表的なものに、足関節の前方・後方引き出しテスト、内反・外反ストレステスト、Thompson テスト、足部の Tinel 徴候、Homans 徴候などがありますが、いずれも単独で診断を確定するものではなく、受傷機転・視診・触診・画像検査と組み合わせて解釈する必要があります。
本記事では、これらのテストを「外側靱帯」「三角靱帯」「アキレス腱」「足根管」「 DVT スクリーニング」という 5 つの視点で整理し、理学療法士が押さえておきたいレッドフラッグや禁忌、評価結果をリハビリテーションへどう落とし込むかを解説します。単に「捻挫」とひとまとめにせず、どの靱帯・腱・血管・神経が疑われるのかをイメージしながら評価していきましょう。
外側靱帯損傷を疑うテスト(前方引き出し・内反ストレス)
足関節捻挫の多くは前距腓靱帯を中心とした外側靱帯損傷で、内反ストレス(内がえし)と底屈位での受傷が典型的です。足関節の前方引き出しテストは、距骨の前方移動を評価することで前距腓靱帯の機能を推定するテストであり、内反ストレステストは外側靱帯全体へのストレスをかけ、不安定性や疼痛を確認します。
| テスト名 | 主な操作 | 評価する所見 |
|---|---|---|
| 足関節の前方引き出しテスト | 下腿を固定し、踵を前方へ引き出す | 距骨の前方移動量とエンドフィール(前距腓靱帯) |
| 内反ストレステスト | 距骨下関節を軸に足部を内反方向へ動かす | 外側靱帯部の疼痛と不安定性 |
臨床でのポイントは、「どの肢位で」「どの部位に」「どんな質の痛みや不安定感が出るか」を受傷機転と照らし合わせて整理することです。Grade Ⅰ〜Ⅱ 程度の損傷では、疼痛はあるが明らかな不安定性は乏しいことも多く、逆に腫脹が目立ちにくいのに前方引き出しで明確なゆるみがあるケースもあります。評価中に強い疼痛や恐怖感が出た場合には、力を弱めて可動範囲を制限し、必要以上のストレスを避けることが重要です。
リハビリテーションでは、急性期には外側靱帯部へのストレスを抑え、腫脹・疼痛のコントロールと荷重制限、足関節周囲の軽いアイソメトリック収縮から開始します。亜急性〜回復期には、前方引き出しや内反ストレスでの不安定性・疼痛の変化を確認しつつ、距骨下関節のモビリティコントロール、足部内在筋・下腿筋の協調性、片脚立位やステップ動作などの機能的課題へと進めていきます。
三角靱帯損傷を疑うテスト(外反ストレス)
三角靱帯損傷は頻度こそ外側靱帯より低いものの、外顆骨折や距骨骨折などを合併することがあり、見逃しを避けたい病態です。足関節の外反ストレステストでは、距骨下関節を軸に足部を外反方向へ動かし、内果周囲の疼痛や不安定性を評価します。外反ストレスで三角靱帯部に強い疼痛があり、腫脹や圧痛も伴う場合には、単なる「捻挫」と決めつけずに骨折の可能性も含めて考える必要があります。
また、三角靱帯は距骨の内反・外反制御や縦アーチの安定にも関わるため、損傷があると歩行時の内側アーチ崩れや過回内が目立つことがあります。視診・触診で内側アーチや踵骨アライメントも合わせて確認し、膝・股関節・骨盤の回旋との関連も意識しましょう。レッドフラッグが疑われる場合には、ストレステストを最小限にとどめ、速やかに整形外科医へ情報提供することが重要です。
アキレス腱断裂を疑うテスト(Thompson)
スポーツ中の急な踏み込み・スタートダッシュ・ジャンプなどで「後ろから蹴られた感じ」「バチンと切れた音がした」といった訴えがある場合には、アキレス腱断裂を強く疑います。Thompson テストは、腹臥位または下腿をベッドから出した膝屈曲位で下腿三頭筋を握り、足関節底屈が起こるかどうかを観察するテストです。正常では腓腹筋を握ると足関節が底屈しますが、完全断裂では底屈反応が消失します。
部分断裂や陳旧例では、底屈がごくわずかに残ることがあり、Thompson テストだけでは判断が難しいこともあります。アキレス腱部の陥凹や圧痛、足関節底屈筋力、つま先立ちの可否、受傷機転などを総合して評価することが大切です。アキレス腱断裂が疑われる場合には、早期の整形外科受診と固定・手術などの治療方針決定が最優先であり、理学療法士が反復して Thompson テストを行う必要はありません。
リハビリテーションでは、治療法(保存・手術)、固定肢位、荷重制限の方針を医師と共有しながら、合併症予防( DVT や関節拘縮など)と下肢全体の活動性維持を図ります。回復期には、アキレス腱へのストレス量とタイミングを慎重に調整しながら、カーフレイズや片脚支持、段差昇降・ランニングなどへ段階的に進めていきます。
足根管症候群を疑うテスト(足部の Tinel 徴候)
足底のしびれ・焼けるような痛み、夜間や歩行後の増悪などがある場合には、足根管症候群など脛骨神経の絞扼障害を疑います。足部の Tinel 徴候では、内果の後方〜足根管部を軽く叩打し、足底への放散痛やしびれ感が誘発されるかを評価します。典型例では、脛骨神経支配領域(足底内外側)に電撃痛やビリビリするような感じが放散します。
ただし、 Tinel 徴候は陰性だからといって神経障害を完全には否定できず、逆に強い叩打や患者の緊張で偽陽性になることもあります。しびれの分布、歩行や立位での変化、足部アライメント(扁平足・後脛骨筋機能)なども含めて評価し、頸椎や腰椎からの症状、糖尿病性ニューロパチーなど他の原因も鑑別する必要があります。
理学療法では、内側縦アーチや後脛骨筋機能を意識した運動、足底への過度な圧迫を避けるインソール・靴の調整、立位・歩行姿勢の見直しなどを検討します。症状が進行している場合や夜間痛が強い場合には、手術の適応も含めて整形外科・足の専門外来との連携が重要です。
深部静脈血栓症を疑うテスト(Homans 徴候)
下腿の腫脹・熱感・発赤、一側性の強いふくらはぎ痛、呼吸困難や胸痛などが疑われる場合には、深部静脈血栓症( DVT )の可能性を考える必要があります。Homans 徴候は、膝伸展位での足関節背屈により、ふくらはぎの疼痛が誘発されるかを確認する古典的なテストですが、感度・特異度ともに十分とはいえず、現在は DVT 診断の決め手にはなりません。
また、強い背屈ストレスは理論上、血栓を動かすリスクも指摘されており、疑いが強い場面でわざわざ力強く背屈させることは推奨されません。理学療法士としては、テスト結果に頼るのではなく、Wells スコアなどのリスク評価や視診・触診から DVT を疑った時点で医師に報告し、必要に応じてエコーや D ダイマー検査などの実施を促すことが重要です。
リハビリテーションでは、術後や安静が長期に及ぶ症例に対して、弾性ストッキングや下肢の自動運動・早期離床など標準的な DVT 予防策を、施設のプロトコルに沿って実践します。疑わしい症状が出現した場合には、即座に負荷の高い運動やマッサージを中止し、医師の評価が終わるまでは安全側に倒した対応を徹底します。
評価結果をリハビリテーションにどう活かすか
足関節周囲の整形外科テストは、「どの靱帯・腱・神経・血管にストレスがかかると症状が出るのか」を整理するための道具です。外側靱帯損傷では前方引き出し・内反ストレス、三角靱帯損傷では外反ストレス、アキレス腱断裂では Thompson テスト、足根管症候群では足部の Tinel 徴候、 DVT では Homans 徴候よりも全身状態と視診・触診が大切、というように、テストごとの位置づけを理解しておくと臨床で迷いにくくなります。
理学療法では、評価結果をもとに 「避けるべきストレス」 と 「安全に行える動き」 を患者と共有し、荷重ライン・足部アライメント・下肢全体の運動連鎖を考えた練習メニューを組み立てます。捻挫後の症例であれば、痛みが落ち着いても早期にジャンプやカッティングを再開しないよう、片脚立位やバランストレーニング、歩行・段差昇降の安定化を段階的に進めることが再受傷予防に直結します。
再評価では、毎回すべてのテストを繰り返すのではなく、病態に直結する 1〜3 個のテストと、疼痛スケール・歩行能力・スポーツ動作の再現性などを追うと効率的です。テストを「チェックリスト」で終わらせず、「評価 → 介入 → 再評価」を回すためのナビゲーションとして使っていきましょう。
配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)
足関節捻挫やアキレス腱断裂は、スポーツ現場から病棟・在宅まで幅広い場面で遭遇し、早期復帰と再受傷予防のバランスが求められる領域です。症例を通じて自分の臨床スキルを磨くと同時に、「この環境でどこまで関われるのか」「どのチームなら自分の知識・技術を活かしやすいか」を考えることも、長期的なキャリアを守るうえで重要です。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードページを見る。
おわりに
足関節周囲の整形外科テストは、「靱帯損傷か、腱断裂か、神経・血管の問題か」という安全性の確認から、「どのような動きでストレスがかかるのか」を動作へ翻訳するところまで、一連の評価フローを支えてくれる道具です。テスト名や手順だけでなく、「今このテストで何を知りたいのか」「結果をどうリハビリの方針に反映させるのか」を意識することで、足関節症例で迷いにくくなります。
面談準備チェックと職場評価シートも活用しつつ、自分の学び方・働き方を定期的に振り返り、足関節・足部評価とバランス訓練に強いセラピストとしての引き出しを少しずつ増やしていきましょう。日々の臨床で得た気づきをチーム内で共有することが、患者さんのアウトカムと自分自身のキャリアの両方を支えてくれます。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
足関節前方引き出しテストがわずかに陽性でも、スポーツ復帰してよいですか?
わずかな前方移動だけであれば、テスト所見だけでスポーツ復帰の可否を決めることはできません。疼痛の有無、腫脹の程度、片脚立位やカッティング動作での安定性、ジャンプ着地時のコントロールなど、機能面も含めて総合的に判断する必要があります。痛みが残っている、着地で不安定感が強い、左右差が大きい場合には、もう一段階リハビリを積んでから復帰時期を検討するのが安全です。
Thompson テストが陰性なら、アキレス腱断裂は完全に否定できますか?
Thompson テスト陰性でも、部分断裂や陳旧例などでは足関節底屈がわずかに残ることがあります。受傷機転や「蹴られた感じ」の有無、アキレス腱部の陥凹・圧痛、つま先立ちの可否なども併せて評価し、少しでも断裂が疑われる場合には早めに整形外科での画像検査を依頼すべきです。陰性=断裂なしと安易に判断しないよう注意が必要です。
Homans 徴候だけで DVT を判断してもよいですか?
いいえ、Homans 徴候は古典的なテストですが、感度・特異度とも十分ではなく、現在は DVT 診断の決め手としては用いられません。片側の下腿腫脹・熱感・発赤・圧痛、全身状態、術後・長期臥床・悪性腫瘍などのリスクを総合的に評価し、疑いがあれば医師に報告してエコーや血液検査などを検討してもらうことが重要です。理学療法士独自の判断で強い背屈ストレスを加える必要はありません。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

