リスクマネジメント委員会と医療リスクの全体像
リスク委員・委員会業務で「赤信号」を感じたときの動き方を見る( PT キャリアガイド)
医療リスクマネジメントは、転倒・誤薬・誤嚥・医療機器トラブルなどのインシデントを個人の注意だけに頼らず、組織的な仕組みで減らしていく取り組みです。その中核を担うのが、リスクマネジメント委員会(リスク委員会)です。医療安全管理体制や身体拘束廃止委員会と重なる部分も多く、「どのリスクを優先的に対策するか」「年間で何をどこまでやるか」を整理する場として機能します。
本記事では、リスクマネジメント委員会の役割と、インシデント集計から重点リスクを決めて対策・評価につなげる流れを整理します。加えて、 PT ・ OT ・ ST が関わりやすいリスク(転倒・誤嚥・褥瘡・医療機器など)を具体的にイメージできるようにしつつ、自己点検用チェックシートと年次の重点リスク対策計画シート( A4 )のダウンロードも用意しました。施設基準の確認と現場運用の両方に役立てていただくことを狙いとしています。
インシデント集計から「重点リスク」を決める流れ
リスクマネジメント委員会の出発点になるのが、インシデント・アクシデント報告です。報告ルール(対象・期限・方法)が決まっていなかったり、「重大なものだけでよい」という雰囲気があると、データが偏ってしまい、重点リスクが見えません。まずは報告書の様式を統一し、できるだけ広く「ヒヤリハット」も含めて集めることが重要です。種類(転倒・誤薬 等)、発生場所、関連職種、重症度などで分類すると、傾向が見えやすくなります。
一定期間の集計結果から、頻度が高いもの・重症度が高いもの・外部通知や社会的関心が高いものなどを踏まえて、毎年度の「重点リスク」を数個選定します。例えば「夜間の転倒」「嚥下障害患者の誤嚥」「患者誤認・誤薬」「医療機器の取り扱い」などです。ここでリハビリテーション部門のデータや経験を持ち寄ると、リハ関連のリスクを適切に位置づけることができます。
リスクマップ・年次目標・指標設定の考え方
重点リスクを決めたら、「どのくらい重要か」「どの対策から着手するか」を可視化するために、頻度と影響度を軸にしたリスクマップを作成することが多いです。縦軸を影響度(患者の傷害の大きさ)、横軸を発生頻度としてプロットすると、「めったに起こらないが重篤なリスク」と「頻度は高いが影響が比較的小さいリスク」が整理されます。これにより、限られた資源でどこに力を入れるかが決めやすくなります。
あわせて、各リスクに対して「何をもって改善とみなすか」の指標( KPI )を決めます。件数そのものの減少だけでなく、「インシデント報告件数の増加(見える化の促進)」「評価・記録の実施率」「研修参加率」「手順書の整備率」などプロセス指標も有効です。 PT ・ OT ・ ST にとっては、「転倒リスク評価の実施率」「嚥下スクリーニングのカバー率」「褥瘡リスク評価の実施率」などが候補になります。
PT・OT・ST が関わる主要リスク(転倒・誤嚥・褥瘡・機器)
リハビリテーション部門に直結するリスクとして、まず挙がるのが転倒・転落です。ベッドサイド・リハ室・廊下・トイレなど、動きが大きくなる場面でのインシデントが多く、身体機能と環境が複雑に絡みます。 PT ・ OT ・ ST は、筋力・バランス・認知機能などを踏まえたリスク評価と、歩行補助具・車椅子・ポジショニングなどの選択・調整を通じて、転倒リスクの低減に貢献できます。転倒インシデント分析会では、「動きの設定が難しすぎなかったか」「環境要因がどう影響したか」の視点が重要です。
嚥下障害を有する方の誤嚥・誤嚥性肺炎、長期臥床の方の褥瘡、リハ室で使用するエルゴメータ・電気刺激装置・牽引装置など医療機器の安全使用も大きなテーマです。例えば、嚥下スクリーニングの導線を整備することで、誤嚥リスクの「見える化」が進み、リスクマップや重点リスク対策と連動できます。褥瘡では、 Braden スケールや褥瘡対策加算とあわせて、リハ部門がポジショニング・シーティング・離床支援でどう関わるかを整理しておくと、リスク委員会で発言しやすくなります。
年次評価と次年度計画:委員会で見るべきポイント
リスクマネジメントは「やりっぱなし」では意味がないため、年度末には「重点リスクごとに何がどこまでできたか」を評価します。ここで有用なのが、リスク名・対策内容・担当部署・指標・達成度・次年度への提案を 1 枚にまとめる年次評価シートです。委員会では、指標の達成・未達だけでなく、「なぜうまくいったのか」「どこにボトルネックがあったのか」を振り返り、次年度の重点リスク候補や対策の方向性を議論します。
評価のポイントとしては、①インシデント件数や重症度の変化、②プロセス指標(評価・記録・研修など)の改善、③現場職員の認識の変化(アンケートやヒアリング)、④患者・家族からのフィードバックなどが挙げられます。 PT ・ OT ・ ST は、自部署での取り組み結果(転倒予防プログラム、嚥下スクリーニング導入、褥瘡予防バンドルなど)を具体的な数字や事例とともに持ち寄ることで、リスクマネジメント委員会の議論を「現場に還元しやすい内容」にしやすくなります。
リスクマネジメント自己点検シート/重点リスク対策計画シート(ダウンロード)
この記事の内容を院内でそのまま活用できるよう、リスクマネジメント委員会向けの A4 シートを 2 種類用意しました。いずれも HTML 形式なので、自施設のルールや様式に合わせて編集し、印刷してご利用いただけます。
- 医療リスクマネジメント自己点検チェックシート( A4 )
リスクマネジメント体制・委員会・インシデント集計・重点リスク選定・研修・情報共有・リハ部門の関わり方を一覧で確認できる自己点検用シートです。 - 重点リスク対策計画・年次評価シート( A4 )
年度ごとの重点リスク名、背景、対策内容、担当部署、指標、評価、次年度への提案を 1 ページに整理するためのシートです。委員会の議論を記録しやすくなります。
医療リスクマネジメント自己点検チェックシート( A4・無料ダウンロード)
重点リスク対策計画・年次評価シート( A4・無料ダウンロード)
おわりに:リスクを「見える化」して現場に戻すサイクルをつくる
リスクマネジメント委員会やインシデント集計は、どうしても「事務的な仕事」と感じられがちですが、本来の目的はリスクを見える化し、現場の行動に落とし込むことです。 PT ・ OT ・ ST が委員会に参加し、転倒・誤嚥・褥瘡・医療機器などの事例を身体機能と環境の観点から分析して共有できれば、「再発防止策」がより具体的で実行しやすいものになります。今回のチェックシートや年次計画シートは、その橋渡しを少しでも助けるためのツールです。
一方で、委員会業務や資料作成が重なりすぎると、臨床・教育・自己研鑽の時間が圧迫されてしまいます。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、「今の職場でできる工夫」と「環境を変える選択肢」の両方を整理するツールとして活用してみてください。ダウンロードページを見る。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
リスクマネジメント委員を任されて負担が大きいとき、転職はいつ検討すべきですか?
リスクマネジメント委員は、組織全体の安全文化をつくるうえで重要な役割ですが、十分な研修やサポートがないまま資料作成や説明役だけを担わされると、大きな負担になります。まずは上司や医療安全管理者に、業務量・役割分担・研修機会について率直に相談し、それでも改善が見込めない場合は職場環境の見直しを検討してよいタイミングと言えます。
「どのラインを越えたら赤信号と考えるか」を整理したいときは、PT キャリアガイドの『赤信号チェックリスト』も参考にしてみてください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

