ALS の呼吸評価は「初回で型を作り、経時で変化を拾う」と運用しやすくなります
ALS の呼吸評価は、単回の数値だけで判断すると見落としが増えます。実務では「初回で評価セットを固定」し、「同じ条件で経時比較」する流れにすると、悪化サインを早く拾えて多職種共有もしやすくなります。本記事は、病棟・外来・在宅で共通して使える最小構成として、スクリーニング→測定→判定→次アクションを整理します。
とくに迷いやすいのは、どの指標をどの頻度で追うか、値の変化をどう解釈するか、記録をどう共有するかです。読み終えると、ALS の呼吸評価を「現場で回る型」に落とし込めます。
評価フローは「スクリーニング→測定→判定→共有」の 4 段で固定します
ALS の呼吸評価は、毎回ゼロから考えるよりも、4 段の流れを固定した方が再現性が上がります。まず息切れ・起座呼吸・睡眠時症状などのスクリーニングで変化を捉え、次に肺活量や呼吸筋力、咳関連指標を同条件で測定します。判定では「前回比」と「生活機能への影響」をセットで確認し、最後に記録を短く共有します。
記録は「症状」「測定値」「前回比」「判断」「次回計画」の 5 点に絞ると、カンファレンスで使いやすくなります。細かな所見を増やすより、時系列で比較できる項目を固定することが実務上の近道です。
| 段階 | 主な確認項目 | 記録ポイント |
|---|---|---|
| スクリーニング | 息切れ、起座呼吸、夜間症状、日中傾眠、痰喀出困難 | 症状の有無と前回からの変化を記録 |
| 測定 | FVC(座位 / 必要時臥位)、呼吸筋力(MIP / MEP / SNIP など)、咳関連指標 | 体位・時間帯・補助具など条件を固定 |
| 判定 | 絶対値だけでなく前回比、機能変化、症状との整合を確認 | 悪化サインの有無と次アクションを明記 |
| 共有 | 医師・看護・リハ間で優先課題を統一 | 要点 3 行(問題・根拠・対応)で共有 |
よくある失敗は「単回値で判断」「条件不一致」「共有不足」です
ALS の呼吸評価で現場が詰まりやすいのは、値そのものより運用の不一致です。単回の測定値だけで判断すると、症状とのズレを見落としやすくなります。また、座位と臥位、測定時間帯、疲労度が揃っていない比較は、変化の解釈を難しくします。さらに、記録の粒度が人によって異なると、次の介入が遅れます。
失敗回避のコツは、毎回同じ入力フォーマットを使い、判断基準を「数値+症状+機能」の 3 点で揃えることです。嚥下評価ワークフローのように、関連領域も同じ考え方で連携すると運用が安定します。
| 場面 | NG | OK |
|---|---|---|
| 値の解釈 | 単回値のみで結論を出す | 前回比と症状を合わせて判断する |
| 再評価 | 体位や時間帯が毎回異なる | 条件を固定して時系列比較する |
| 共有 | 長文記録で要点が不明 | 問題・根拠・対応の 3 点で要約する |
記録シート(PDF)
この記録シートは、ALS の呼吸評価を「単回の点」ではなく「前回比を追う線」で管理するためのフォーマットです。症状スクリーニング・測定値・判定・次アクションを 1 枚にまとめることで、再評価時に迷いにくくなります。
また、医師・看護・リハで同じ項目を共有できるため、連携時の解釈のズレを減らせます。とくに「問題・根拠・対応」の 3 行要約を固定すると、カンファレンスでの意思決定が速くなります。
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記録シートの書き方( 3 分 )
1 分目:症状スクリーニング(息切れ・起座呼吸・夜間症状・日中傾眠・喀痰困難)を有 / 無で記録します。主観所見は短く、変化の有無を優先します。
2 分目:FVC(座位 / 臥位)、MIP / MEP または SNIP、咳関連指標を入力します。体位・時間帯・補助具などの測定条件を毎回そろえ、比較可能性を確保します。
3 分目:前回比(↑ / → / ↓)を付け、判定(安定 / 要注意 / 要対応)を選択し、次アクション(再評価時期、医師連携、介入変更)を記入します。最後に「問題・根拠・対応」を 3 行で共有します。
| 項目 | 記載内容 | 記録のコツ |
|---|---|---|
| 基本情報 | 記録日、病期、実施場所(外来 / 病棟 / 在宅) | 実施場所は固定語で記録する |
| 症状スクリーニング | 息切れ、起座呼吸、夜間症状、日中傾眠、喀痰困難(なし / あり) | 前回からの変化を一言追記する |
| 測定値 | FVC(座位 / 臥位)、MIP / MEP または SNIP、咳関連指標 | 測定条件(体位・時間帯)を同時記録する |
| 前回比 | ↑ / → / ↓ | 絶対値と前回比をセットで判断する |
| 判定 | 安定 / 要注意 / 要対応 | 症状と測定値の整合を確認する |
| 次アクション | 再評価時期、医師連携、介入変更 | 「いつ・誰が・何を」を明記する |
| 共有欄 | 問題・根拠・対応( 3 行要約 ) | カンファレンスでそのまま読める文にする |
症例ベースの分岐(外来 / 病棟 / 在宅)
同じ ALS 呼吸評価でも、現場が変わると優先順位は変わります。ここでは、運用をそろえやすいように外来・病棟・在宅の 3 パターンで整理します。
外来
想定ケース:短時間で経時変化を捉えたい。
- 優先評価:症状スクリーニング、FVC(同条件)、前回比
- よくある失敗:評価ごとに測定条件が変わる
- 回避策:体位・時間帯・手順を固定した運用シートを使う
- 記録の要点:問題・根拠・対応の 3 行で共有する
病棟
想定ケース:全身状態の変動が大きく、日内差がある。
- 優先評価:夜間症状、喀痰困難、呼吸筋力系、咳関連
- よくある失敗:数値のみで判断して症状変化を取りこぼす
- 回避策:数値+症状+機能の 3 点で判定する
- 記録の要点:悪化サインと次アクションを先頭に書く
在宅
想定ケース:家族・介護者と観察項目を共有したい。
- 優先評価:呼吸苦の訴え、夜間症状、痰喀出状況、日中活動性
- よくある失敗:専門用語が多く、共有が定着しない
- 回避策:観察項目を平易な言葉で固定し、チェック式にする
- 記録の要点:連絡基準(いつ相談するか)を明文化する
現場の詰まりどころ
ALS の呼吸評価は、評価項目の多さよりも「どこまでを毎回の標準にするか」で迷いやすいです。まずは最小セットを固定し、必要時に追加評価する運用へ寄せると回りやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
初回評価で最低限そろえる項目は何ですか?
症状スクリーニング(息切れ・起座呼吸・夜間症状)、肺活量系、呼吸筋力系、咳関連指標、そして前回比を記録する欄をそろえるのが実用的です。項目を増やしすぎるより、同条件で継続できるセットを優先してください。
再評価の頻度はどう決めますか?
病期や変化速度で調整しますが、原則は「症状変化があれば前倒し」「安定期でも定期的に同条件で再評価」です。頻度そのものより、比較可能なデータを蓄積できる設計が重要です。
数値と症状が一致しないときはどうしますか?
測定条件の再確認(体位・時間帯・疲労・手順)を先に行い、そのうえで機能面(会話・睡眠・咳・活動量)の変化を再聴取します。単一指標で結論を急がず、複数情報の整合で判断してください。
外来と在宅で評価の優先順位は変えるべきですか?
変えるべきです。外来は短時間で比較可能なデータを優先し、在宅は介護者が再現できる観察項目を優先します。どちらも「前回比で変化を拾う」軸は共通にしてください。
次の一手
- 運用を整える:評価ハブ(全体像)
- 共有の型を作る:ALS 呼吸評価フォロー記録シート(PDF)(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al. EFNS guidelines on the Clinical Management of Amyotrophic Lateral Sclerosis (MALS) – revised report. Eur J Neurol. 2012;19(3):360-375. PubMed
- Bourke SC, Tomlinson M, Williams TL, et al. Effects of non-invasive ventilation on survival and quality of life in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2006;5(2):140-147. PubMed
- Lechtzin N, Wiener CM, Clawson L, et al. Use of noninvasive ventilation in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Amyotroph Lateral Scler. 2004;5(1):9-15. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


