- 心不全患者のリハビリは病状の安定性と評価所見から介入を選びます
- 運動開始前にうっ血・低灌流・症状悪化を確認します
- 心不全患者の評価は症状・循環動態・身体機能を組み合わせます
- 評価所見別に運動療法・ADL練習・医学的相談を選びます
- 安定期の運動処方はFITTと自覚症状を組み合わせます
- 高齢・フレイル患者では運動耐容能だけでなくADLを目標にします
- 運動中は継続・調整・中止・相談を判断します
- 症例で考える|心不全患者の介入選択3例
- 再評価は同じ活動条件で症状・循環反応・生活機能を比較します
- 多職種で病状の変化と運動・ADLの条件を共有します
- 根拠と適用範囲|心不全の病期・病型・身体機能を区別します
- まとめ|心不全の安定性を確認し、症状と活動反応から負荷を選びます
- 参考文献・一次情報
- 著者情報
心不全患者のリハビリは病状の安定性と評価所見から介入を選びます
心不全患者のリハビリでは、心拍数や血圧が一定範囲にあるという理由だけで運動を開始・継続しません。まず、心不全が代償されているか、うっ血や低灌流を疑う所見がないか、直近で症状が悪化していないかを確認します。そのうえで、息切れ、疲労、運動時の循環反応、回復を評価し、運動療法の内容と負荷を選択します。
本記事では、成人の心不全患者を対象に、急性期の離床と安定期の運動療法を区別しながら、評価所見別の介入選択、安全管理、運動処方、再評価、架空症例3例、診療記録例を解説します。薬物療法や急性心不全の医学的治療は対象外とし、理学療法士などが臨床で判断する際の考え方に焦点を当てます。

最初に確認する3つの判断
- 医学的安定性:うっ血・低灌流・症状悪化・不整脈などから、運動療法を検討できる状態か確認する。
- 活動制限因子:息切れ、疲労、筋力低下、循環反応、ADL上の困難のうち、何が活動を制限しているかを整理する。
- 次の一手:運動開始・負荷調整・中止と医学的相談を選び、同じ条件で再評価する。
評価所見別の介入選択早見表
| 評価所見 | 追加評価 | 介入判断 |
|---|---|---|
| うっ血の悪化が疑われる | 呼吸困難、起坐呼吸、浮腫、体重推移、肺うっ血など | 運動負荷を進めず医学的評価を相談する |
| 低灌流が疑われる | 意識、冷汗、四肢冷感、血圧、尿量など | 運動を中止・見送り、速やかに報告する |
| 安定しているが息切れが強い | 活動条件、呼吸数、SpO₂、Borg、回復 | 原因を確認し、活動量・速度・休息を個別調整する |
| 下肢筋力低下・易疲労性が目立つ | 筋力、身体機能、栄養、フレイル、ADL | 低負荷から筋力・活動耐容能への介入を検討する |
| 運動時に血圧・心拍異常が出る | 心電図、リズム、症状、服薬、回復 | 負荷を中断・調整し、必要時は医学的評価を依頼する |
| 安定して運動を継続できる | 運動耐容能、目標活動、負荷への反応 | 個別の有酸素運動・レジスタンス運動を進める |
この6分類は臨床判断を整理するための独自の枠組みです。公式の診断アルゴリズムではなく、患者の病態、医師指示、施設の安全管理体制を優先します。
運動開始前にうっ血・低灌流・症状悪化を確認します
心不全患者の運動療法では、病状の安定性を確認することが最優先です。2025年の心不全診療ガイドラインでは、回復期の運動療法は運動耐容能や生活の質の改善を目的として推奨されています[1]。一方、急性期の早期離床は、医学的治療や監視のもとで段階的に実施するものであり、安定期の運動トレーニングと同じ条件ではありません。
うっ血を疑う所見
労作時呼吸困難の増悪、安静時呼吸困難、起坐呼吸、夜間の呼吸困難、浮腫の増悪、急な体重増加、肺うっ血を示す情報などを確認します。単一所見だけでうっ血の有無を確定せず、症状の経時変化、身体所見、検査結果、治療経過を組み合わせます。
とくに、直近で呼吸困難が悪化している患者では、運動負荷を上げる前に医学的評価を相談します。浮腫があることだけで全例の運動を禁止するのではなく、心不全の代償状態と活動許可を確認します。
低灌流を疑う所見
意識状態の変化、四肢冷感、冷汗、著しい倦怠感、血圧低下、尿量減少などは、組織灌流が不十分な可能性を考える所見です。ただし、これらは非特異的であり、感染や脱水など他の病態でも生じます。
低灌流が疑われる場合は、運動によって循環を改善させようとせず、運動を見送り、必要な医学的評価を優先します。
運動療法の禁忌・慎重判断を確認する
| 状態 | 対応の方向性 |
|---|---|
| 直近の心不全症状悪化 | 運動療法を進めず、病状と治療方針を再確認する |
| 不安定狭心症・症候性虚血 | 運動療法を見送り、医学的評価を優先する |
| 血行動態に影響する制御不良の不整脈 | 運動を実施せず、評価・治療方針を確認する |
| 活動性心筋炎・心膜炎など | 原疾患の治療と活動制限を優先する |
| 重症弁膜症などの高リスク病態 | 病態と専門医の指示に従って判断する |
| 発熱・急性感染症など全身状態の悪化 | 運動療法を見送り、原因と安定性を確認する |
禁忌の詳細は「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」の運動療法に関する項目を確認してください[2]。上表は主な状態を要約したものであり、公式表の完全な転載ではありません。
急性期の離床と安定期の運動トレーニングを区別する
急性心不全で入院した患者でも、過度な安静による身体機能低下を防ぐことは重要です。医学的に許可され、循環・呼吸状態を監視できる場合は、急性期からベッドサイドでの運動や段階的離床を検討します[1]。
一方、心不全が非代償状態にある患者へ、運動耐容能の向上を目的とした積極的なトレーニングを一律に実施することは避けます。なお、重症心不全であっても血行動態が安定している患者では、専門的な監視下で個別の低負荷運動を検討できる場合があります[1]。離床の目的、負荷、監視体制、再開条件を医療チームで共有します。
心不全患者の評価は症状・循環動態・身体機能を組み合わせます
運動負荷を決めるには、心機能の検査値だけでなく、患者がどの活動で症状を訴え、どの程度回復するかを把握します。左室駆出率(LVEF)だけで運動の可否や強度を決定することはできません。
| 評価領域 | 主な項目 | 判断への活用 |
|---|---|---|
| 心不全の状態 | 症状推移、体重、浮腫、呼吸状態、画像・検査所見、治療経過 | 代償状態と悪化徴候を確認 |
| 循環動態 | 血圧、心拍、リズム、起立時・活動時の反応 | 負荷への反応と安全性を確認 |
| 自覚症状 | 息切れ、疲労、動悸、胸部症状、めまい | 活動制限因子と中止・相談の必要性を判断 |
| 運動耐容能 | CPET、6分間歩行試験、活動時Borgなど | 運動処方と経時評価に活用 |
| 身体機能 | 筋力、歩行速度、立ち上がり、バランス、フレイル | 介入内容と介助量を選択 |
| 生活機能 | 移乗、更衣、排泄、歩行、階段、家庭内活動 | 患者の生活目標と運動の優先順位を設定 |
NYHA分類は症状と活動制限の把握に使う
NYHA心機能分類は、身体活動による症状と活動制限を把握するために用いられます。ただし、分類のみで運動療法の適応や具体的な負荷を決めることはできません。直近の病状、身体機能、医師指示を組み合わせます。
BNP・NT-proBNPは単独の運動中止基準にしない
BNPやNT-proBNPは心不全の評価に役立つ指標ですが、腎機能、年齢、肥満、心房細動などの影響を受けます。数値の単独評価ではなく、患者ごとの基準値、経時変化、症状、治療状況と合わせて解釈します。
検査値が高いことだけを理由に一律の運動中止基準を設定したり、数値が低いことだけで安全と判断したりしないことが重要です。
運動耐容能は患者の状態に応じた方法で評価する
医学的に安定し、検査実施が可能な患者では、心肺運動負荷試験(CPET)が運動処方に役立ちます。6分間歩行試験も身体機能の評価方法として利用できます[2、3]。
ただし、急性増悪中や安全性が確保できない患者に、運動耐容能を確認する目的で負荷試験を実施しません。検査の適応と監視体制を事前に確認します。
評価所見別に運動療法・ADL練習・医学的相談を選びます
心不全患者の介入選択では、症状があること自体よりも、症状が悪化傾向にあるか、医学的に安定しているか、どの活動で制限が生じるかを区別します。
① うっ血の悪化が疑われる場合
評価:安静時・労作時呼吸困難、起坐呼吸、浮腫、体重推移、呼吸状態、治療経過を確認します。
介入判断:直近で症状が悪化している場合は、運動負荷を進めず医学的評価を相談します。急性期のベッドサイド活動は、病状と活動許可を確認して個別に判断します。
再評価:呼吸困難、浮腫、体重推移、安静時・活動時の循環反応、治療による変化を確認します。
② 低灌流が疑われる場合
評価:意識、四肢冷感、冷汗、血圧、尿量などの情報を確認します。
介入判断:運動を中止または見送り、速やかに医師・看護職へ報告します。重篤な状態が疑われる場合は施設の緊急対応手順に従います。
再評価:医学的評価と治療方針を確認し、状態が安定した後に活動再開の可否を判断します。
③ 安定しているが息切れが強い場合
評価:息切れの出現活動、呼吸数、SpO₂、Borg、心拍・血圧、回復を確認します。心不全の増悪以外に、呼吸器疾患、貧血、身体機能低下などの影響も考慮します。
介入判断:医学的に安定している場合は、活動速度、時間、休息、動作方法を調整します。新たな息切れや急激な悪化がある場合は、負荷調整だけで対応せず医学的評価を優先します。
再評価:同じ活動条件で息切れ、心拍・血圧、休息の必要性、回復を比較します。
④ 下肢筋力低下・易疲労性が目立つ場合
評価:筋力、立ち上がり、歩行、栄養状態、フレイル、ADL、活動後の疲労を確認します。
介入判断:心不全が安定していれば、身体機能に合わせた低負荷のレジスタンス運動、歩行、ADL練習を検討します。運動耐容能の向上だけでなく、必要な生活動作の維持・改善を目標にします。
再評価:同じ動作での介助量、反復回数、症状、疲労、回復を確認します。
⑤ 運動時に血圧・心拍異常が生じる場合
評価:運動前・中・後の血圧、心拍、リズム、胸部症状、めまい、息切れ、回復を確認します。β遮断薬やペースメーカーなどによって心拍応答が変化することも考慮します。
介入判断:不安定な循環反応、新たな不整脈、胸痛、失神などが疑われる場合は運動を中止し、医学的評価を優先します。安定した患者の負荷調整は、個別の運動処方と監視体制に従います。
再評価:同一負荷での循環反応、症状、回復を比較します。
⑥ 安定して運動を継続できる場合
評価:心不全症状の安定性、運動耐容能、身体機能、患者の生活目標を確認します。
介入判断:個別に処方した有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせ、症状・循環反応・疲労を確認しながら段階的に進めます。
再評価:運動時間、強度、歩行能力、ADL、生活の質、症状悪化の有無を継続して確認します。
安定期の運動処方はFITTと自覚症状を組み合わせます
心不全が代償され、運動療法の適応が確認できた患者では、頻度(Frequency)、強度(Intensity)、時間(Time)、種類(Type)のFITTを用いて運動を処方します。可能であればCPETなどの客観的評価に基づいて強度を設定します[1、2]。
| 要素 | 設定の考え方 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 頻度 | 患者の耐容能と回復を踏まえて設定する | 翌日まで残る疲労、症状悪化 |
| 強度 | CPET・自覚的運動強度・循環反応から個別化する | 心拍応答、血圧、息切れ、Borg |
| 時間 | 短時間から開始し、許容範囲で延長を検討する | 運動中と終了後の回復 |
| 種類 | 歩行・自転車エルゴメータ・筋力運動・ADL練習など | 目的、身体機能、転倒リスク |
有酸素運動は低負荷から開始し反応を確認する
2021年改訂の心血管疾患リハビリテーションガイドラインでは、心不全患者の運動療法について、状態に応じて短時間・低負荷から開始し、症状や身体所見を確認しながら段階的に進める考え方が示されています[2]。
初期負荷の参考としてBorgスケール11〜13程度が示される場面がありますが、これはすべての心不全患者に一律に適用する目標ではありません。病状、CPET所見、心拍応答、併存疾患、運動経験などを踏まえて個別化します。
レジスタンス運動は呼吸と循環反応に注意する
筋力低下やフレイルがある患者では、低負荷のレジスタンス運動を検討します。立ち上がり、下肢運動、ゴムバンド運動などから、患者の能力に合った内容を選びます。
息こらえや過度ないきみを避け、反復中の息切れ、血圧・心拍、疲労を確認します。運動量を増やす際は、強度・反復回数・セット数を同時に大きく増やさず、反応を確認します。
心拍数だけで運動強度を決めない
β遮断薬、心房細動、ペースメーカーなどによって心拍応答が変化する患者では、心拍数のみを強度設定の基準にすると実際の負荷と一致しない場合があります。
運動処方に用いる心拍指標の妥当性を確認し、Borg、症状、血圧、運動耐容能、回復を組み合わせます。運動時に不整脈が疑われる場合は、適切な監視と医学的評価を優先します。
高齢・フレイル患者では運動耐容能だけでなくADLを目標にします
高齢心不全患者では、心肺機能に加えて筋力低下、フレイル、低栄養、認知機能低下、転倒リスクなどが活動を制限する場合があります。運動療法の目的を歩行距離や運動時間の改善だけに限定せず、移乗、排泄、更衣、病棟内移動などの生活動作につなげます。
歩行が難しい患者でも介入目的を明確にする
医学的に安定し、個別の活動許可がある場合は、ベッド上での運動、座位活動、移乗練習、ADL練習などから選択します。重症心不全患者やNYHA IVの患者では、病態や血行動態の安定性を慎重に確認し、身体機能低下の予防や生活動作の維持を目的とした個別の低負荷介入を検討します[1]。
ただし、低負荷であれば常に安全という意味ではありません。呼吸循環状態が不安定な場合は、ベッド上運動であっても実施の可否を確認します。
栄養・服薬・活動量を多職種で確認する
食事摂取量、体重変化、筋量、浮腫、利尿薬などの治療状況は、運動時の反応や身体機能に影響します。体重減少があっても、体液量の変化と筋量・栄養状態の変化は区別して考えます。
理学療法士のみで判断せず、医師、看護職、管理栄養士、薬剤師などと情報を共有し、生活機能を維持するための介入計画につなげます。
運動中は継続・調整・中止・相談を判断します
運動中の判断では、開始前の状態と比較して、症状や循環反応がどう変化したかを確認します。数値だけでなく、胸部症状、意識、呼吸困難、めまい、疲労、回復の程度を重視します。
| 運動中の状態 | 対応 |
|---|---|
| 症状が安定し、循環反応が許容される | 個別の運動処方に沿って継続を検討する |
| 息切れ・疲労が増えるが、危険徴候は認めない | 負荷を下げる、休息を入れるなど調整し、回復を確認する |
| 症状の回復が遅い、普段と異なる反応が続く | 運動を中断し、病状・負荷・医学的評価の必要性を見直す |
| 新たな胸痛、失神、意識変化、急激な呼吸困難 | 直ちに中止し、施設の緊急対応手順に従う |
| 新たな不整脈や血行動態の不安定化が疑われる | 運動を中止し、速やかに医学的評価を相談する |
具体的な血圧・心拍・心電図の中止基準は、患者の病態、運動処方、施設の安全管理基準に従います。本記事では独自の一律閾値を設けません。
症例で考える|心不全患者の介入選択3例
以下は臨床判断の考え方を説明するための架空症例です。実在する患者の情報ではなく、特定の介入効果を保証するものではありません。
症例A:心不全症状が悪化し、安静時にも息切れがある
状態:心不全で入院中の患者。前日より呼吸困難が強く、安静時にも息苦しさを訴える。下腿浮腫の増悪も認められる。
評価:症状の経時変化、呼吸数、SpO₂、血圧、心拍、浮腫、体重推移、治療状況を確認します。
介入判断:歩行練習や運動耐容能向上を目的とした負荷を進めず、心不全増悪の可能性について医師・看護職へ報告します。
再評価:医学的治療後の症状、呼吸循環状態、活動許可を確認し、離床や運動療法の再開条件を検討します。
この症例では、息切れを運動不足と判断してトレーニングを継続しないことが重要です。
症例B:病状は安定しているが、歩行で息切れと疲労が出る
状態:心不全の治療後、全身状態が安定している患者。短距離歩行は可能だが、歩行を続けると息切れと下肢疲労が増加する。
評価:歩行距離、速度、心拍・血圧、Borg、SpO₂、休息の必要性、回復を確認します。
介入判断:運動処方と活動許可を確認し、歩行時間、速度、休息間隔を調整します。状態に応じて有酸素運動と筋力運動を組み合わせます。
再評価:同じ歩行条件で息切れ、疲労、循環反応、回復を比較します。
この症例では、歩行距離だけでなく、同じ距離をどの程度の症状と休息で歩けたかを評価します。
症例C:高齢・フレイルを伴い、歩行より移乗が課題となっている
状態:高齢の心不全患者。医学的状態は安定しているが、長期の活動量低下により立ち上がりと移乗に介助を要する。
評価:下肢筋力、座位・立位保持、移乗時の循環反応、疲労、栄養状態、ADLを確認します。
介入判断:低負荷の筋力運動、座位・立位活動、移乗練習を生活目標に合わせて実施します。歩行距離の延長を最優先にせず、必要な生活動作を安全に行うことを目標とします。
再評価:移乗の介助量、立ち上がり能力、症状、活動後の疲労、回復を確認します。
この症例では、心不全の安定性を確認したうえで、身体機能とADLの両面から介入を選びます。
再評価は同じ活動条件で症状・循環反応・生活機能を比較します
心不全患者のリハビリでは、運動時間や歩行距離が増えたことだけで改善と判断しません。症状、循環反応、回復、翌日への疲労の残り方、ADLへの影響を組み合わせて評価します。
| 再評価所見 | 次の判断 |
|---|---|
| 同一活動で息切れが軽減した | 循環反応と回復も確認し、負荷の継続・調整を検討する |
| 歩行距離が増えたが疲労が強い | 運動量、休息、翌日の状態を見直す |
| 筋力や移乗能力が改善した | 生活動作への波及と介助量を確認する |
| 浮腫・呼吸困難などが悪化した | 負荷を進めず心不全の状態を再評価する |
| 運動時の心拍・血圧反応が変化した | 服薬・病態・測定条件を含めて確認する |
診療記録例:安定期の短距離歩行
以下は架空の記録例です。数値は患者の安全基準や中止基準を示すものではありません。
心不全症状の明らかな増悪なく、医師の活動許可範囲内で歩行練習を実施。開始前は血圧118/70mmHg、心拍数78回/分、安静時呼吸困難なし。歩行器使用で20m歩行し、終了時に息切れBorg 12、心拍数96回/分。胸痛、めまいなし。座位休息後に息切れ軽減を確認。次回も同一条件で症状・心拍反応・回復を比較し、運動負荷の調整を検討する。
実際の診療記録では、測定した値、実施条件、症状、回復、判断理由を記載します。未確認の所見や実施していない対応を記録しないでください。
多職種で病状の変化と運動・ADLの条件を共有します
心不全患者のリハビリは、運動療法だけで完結しません。治療経過、体液量、薬剤、栄養、活動量、生活環境を踏まえ、医師・看護職・管理栄養士・薬剤師などと連携します。
| 項目 | 共有する内容 |
|---|---|
| 病状 | 症状悪化の有無、うっ血・低灌流を疑う所見、治療経過 |
| 活動許可 | 離床範囲、運動処方、監視体制、個別の制限 |
| 運動反応 | 活動内容、心拍・血圧、息切れ、疲労、回復 |
| 身体機能 | 筋力、歩行、移乗、ADL、介助量 |
| 再評価・相談 | 症状変化、負荷調整の理由、次回の確認事項 |
申し送りでは「心不全なので負荷をかけない」「数値が安定しているので問題ない」といった単純化を避け、どの活動で何が起こり、どの程度回復したかを共有します。
根拠と適用範囲|心不全の病期・病型・身体機能を区別します
心不全患者の運動療法には、運動耐容能や生活の質を改善する根拠があります[1〜4]。ただし、研究対象や推奨の適用範囲は、病状の安定性、心不全の病型、身体機能、運動監視体制によって異なります。
| 根拠 | 活用する内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| JCS/JHFS 2025[1] | 心不全の病期、早期離床、運動療法の適応・禁忌 | 急性増悪期と安定期を区別する |
| JCS/JACR 2021[2] | 心臓リハビリ、運動処方、安全管理 | 患者の病態と監視体制に応じて適用する |
| AHA/ACC/HFSA 2022[3] | 心不全患者の運動・身体機能評価 | 適応となる患者・検査条件を確認する |
| JACC専門家提言[4] | 包括的心臓リハビリの役割 | 運動療法以外の多職種介入も含めて考える |
本記事の6分類と評価所見別介入選択は、ガイドラインを踏まえて構成した独自の臨床判断整理です。公式の治療アルゴリズムや全患者に適用できる運動処方ではありません。
まとめ|心不全の安定性を確認し、症状と活動反応から負荷を選びます
心不全患者のリハビリでは、最初に病状の安定性を確認し、うっ血・低灌流・症状悪化などの危険徴候を見逃さないことが重要です。
安定期には、運動耐容能、筋力、ADL、患者の生活目標を踏まえて、有酸素運動・レジスタンス運動・生活動作練習を個別に選びます。運動中は血圧・心拍の数値だけでなく、息切れ、疲労、胸部症状、回復を確認します。
「医学的安定性の確認→活動制限因子の評価→介入選択→運動中の反応確認→再評価」を一連の流れとして実施し、必要な生活活動を安全に広げることを目標にします。
次の一手
心不全患者の運動療法を考える際は、日本心臓リハビリテーション学会のガイドライン一覧から心血管疾患リハビリテーションの公式資料を確認し、患者ごとの活動許可、負荷設定、再評価条件を整理してください。
参考文献・一次情報
- Kitai T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circulation Journal. 2025;89:1278-1444. ガイドライン本文.
- Makita S, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circulation Journal. 2023;87:155-235. 原著.
- Heidenreich PA, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure. Journal of the American College of Cardiology. 原著.
- Bozkurt B, et al. Cardiac Rehabilitation for Patients With Heart Failure: JACC Expert Panel. Journal of the American College of Cardiology. 2021;77(11). 原著.
情報確認日:2026年10月17日。本記事は医療従事者向けの情報提供を目的としています。実際の運動療法では、医師の指示、患者の病態、施設の安全管理基準を優先してください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
2022年にrehabilikun blogを開設。急性期・回復期・療養病棟、介護施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションなどを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
