ALS の呼吸評価|初回 10 分の見方と在宅につなぐ測定・記録
ALS の呼吸は “数値” だけでなく、生活での息切れと疲労の出方をセットで見るのがコツです。 臨床力を体系化するロードマップを見る 初回は「危険の拾い上げ → 10 分評価 → 記録 → 次回の確認」で十分に回せます。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の呼吸評価は、早期から “兆し” を拾って支援につなげるほど、生活の持ち時間(会話・食事・外出)が保ちやすくなります。結論として、呼吸評価は①観察と問診で危険サインを拾う → ②簡易指標で負担を見える化 → ③測定( FVC / SNIP / PCF など)で裏付け → ④夜間の低換気も想定して情報を揃える → ⑤介入(排痰・姿勢・ NIV など)へ接続の順に進めると、病棟でも訪問でも迷いません。
このページの位置づけ(全体像の中でどこを深掘りする?)
ALS の評価は領域が広いので、まずは全体の “順番” を固定すると判断が速くなります。評価の全体像(初回 10 分 → 優先順位 → 領域別)を先に整理したい場合は、ALS リハ評価の全体像(総論)から読むと迷いが減ります。
初回 10 分:呼吸で “見落としやすい危険サイン” を拾う
初回は測定よりも、安全(急な悪化の可能性)と生活での詰まりを先に確認します。ALS は疲労で一気に崩れることがあるため、問診は短く、観察を重ねます。
| 見ること | 具体的な観察 | 短い質問(例) | 危険サイン | 次アクション |
|---|---|---|---|---|
| 安静時の負担 | 呼吸数、肩呼吸、会話の途切れ、起座呼吸 | 「座っていて息は苦しい?」 | 安静でも苦しい、会話が続かない | 医師・看護へ共有、評価の優先度を上げる |
| 夜間低換気の兆し | 日中の眠気、集中低下、頭痛、熟眠感の低下 | 「朝の頭痛/眠気はある?」 | 朝の頭痛+眠気、日中の強い傾眠 | 夜間評価( SpO2 / CO2 )の情報収集 |
| 咳と排痰 | 咳の弱さ、痰が切れない、湿性嗄声 | 「痰が出しにくい?」 | 痰が出せず苦しい、感染の反復 | PCF / CPF などで咳能力を評価、排痰支援へ |
| 姿勢の影響 | 座位で呼吸が浅い、頸部屈曲で悪化 | 「どの姿勢が一番ラク?」 | 座位で悪化し、背臥位でさらに悪化 | “楽な角度” を数値で記録(背角・座角) |
臨床で押さえる指標(何を測れば “次” が決まる?)
ALS の呼吸評価は、症状 → 簡易指標 → 測定の順に積み上げると、判断がブレません。ここでは現場で頻用される代表的な項目をまとめます。
| 項目 | 何を見る? | 臨床的な意味 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 呼吸数・会話 | 安静時の呼吸数、会話の途切れ | 日常での換気負担の目安 | 「会話 1 分で息切れ」など “状況” も書く |
| FVC(座位) | 努力肺活量 | 呼吸筋の全体像、経時変化の共有 | 測定条件(座位・時間帯・疲労)を併記 |
| 臥位 FVC / SVC | 姿勢での低下 | 横隔膜の弱化を疑うヒント | 座位との比較で “どれだけ落ちたか” を書く |
| SNIP / MIP | 吸気筋力 | 早期の変化を拾いやすい場面がある | 練習回数、最大値、本人の理解度を残す |
| PCF / CPF | 咳のピークフロー | 排痰能力の目安。低下で “痰が出せない” に直結 | 「自力」か「介助/補助後」かを区別する |
| SpO2(安静・夜間) | 低酸素の有無 | 夜間低換気や感染・無気肺の兆し | 体位・活動・時間帯(夜間)をセットで書く |
| CO2( ETCO2 / 血ガス ) | 高二酸化炭素 | 低換気の裏付け | 測定法(血ガス/モニタ)を明記する |
咳・排痰の評価( “出せない” を見える化する)
ALS では、感染や痰づまりが “しんどさ” を一気に上げます。評価では「痰の量」より出せるか(咳の力)と疲労で落ちるかを見ます。PCF( CPF )は短時間で測りやすく、咳の弱さの共有にも役立ちます。
| 観点 | 見るポイント | よくある所見 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 咳の質 | 単発で出るか、連続咳ができるか | 2 回目以降が弱い(疲労で落ちる) | 休息と分割、姿勢の工夫、排痰介助を検討 |
| PCF / CPF | ピークフローで咳能力を把握 | “出せない” を数値で共有できる | 必要時、機械的排痰( MI-E )などの適応相談 |
| 分泌物 | 痰の粘稠、湿性嗄声、喀痰困難 | “絡む” が増える | 加湿・水分・口腔ケア、嚥下との関連も確認 |
夜間低換気を疑うとき(生活情報の取り方)
夜間の低換気は、日中の息切れより先に出ることがあります。理学療法の場面では、まず症状(朝の頭痛、眠気、熟眠感)を拾い、可能なら夜間の SpO2や CO2 の情報を多職種から集めます。数値が揃わなくても、症状と観察を記録しておくと連携が進みます。
中止・緊急対応を考えるサイン(安全管理)
ALS の呼吸評価は “攻める” より “守る” が優先です。測定中や運動中にサインが出たら、無理に続けず共有します。
| サイン | 現場で起きること | 対応 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 安静でも強い息切れ | 会話ができない、呼吸数が高い | 評価中止、医師・看護へ共有 | 体位、時間、直前の活動を残す |
| めまい・冷汗・強い疲労 | 顔色不良、反応低下 | 休息、バイタル確認、必要時連絡 | SpO2、呼吸数、主観をセットで |
| 痰で苦しい・咳が出ない | “出せない” が増える | 体位・介助・加湿等を検討し共有 | 痰の性状、頻度、 PCF の有無 |
よくある失敗(現場の詰まりどころ)
呼吸評価がうまくいかない原因は、「測定値だけで判断する」「疲労と時間帯を見落とす」「姿勢の影響を残さない」の 3 つが多いです。次の表で “ NG → OK ” を押さえると、共有がスムーズになります。
| NG(起こりがち) | なぜ問題か | OK(修正) | すぐできる一言 |
|---|---|---|---|
| 数値だけを記録 | 生活の負担や再現条件が共有できない | 状況(姿勢・時間帯・疲労)を併記 | 「どの姿勢が一番ラク?」 |
| 1 回測って終わり | 学習効果や体調の影響が大きい | 練習回数と最大値を残す | 「練習 2 回後の最大」 |
| 座位だけで評価 | 姿勢で悪化するタイプを拾いにくい | 臥位での変化も確認(可能な範囲で) | 「臥位で苦しい」 |
| 夜間症状を聞かない | 低換気の兆しを見落とす | 朝の頭痛・眠気・熟眠感を確認 | 「朝の頭痛は?」 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 訪問で測定が難しいとき、最低限なにを残せばいい?
最低限は「安静時の観察(呼吸数・会話)」「夜間症状(朝の頭痛・眠気)」「咳・排痰(痰が出せるか)」の 3 点です。数値がなくても、体位・時間帯・疲労とセットで書くと、多職種連携が進みます。
Q2. “呼吸が苦しい” と言うけど SpO2 は保たれています。
SpO2 が保たれていても、低換気や呼吸筋疲労で “しんどさ” が強いことがあります。会話の途切れ、肩呼吸、疲労の出方、朝の頭痛や眠気など、症状と観察を丁寧に拾い、必要な情報(夜間の評価や CO2 )を集める流れが安全です。
Q3. PCF( CPF )はいつ測るべき?
痰が出しにくい、感染を繰り返す、咳が弱いと感じるときは早めに評価候補です。数値そのものより、「自力で出せるか」「疲労で落ちるか」「姿勢で変わるか」を一緒に記録すると、排痰支援の相談がしやすくなります。
おわりに
ALS の呼吸評価は、危険サインの拾い上げ → 簡易指標 → 測定( FVC / SNIP / PCF )→ 夜間症状の確認 → 記録 → 再評価の順で回すと、現場が変わっても迷いません。まずは “今日の最優先” を 1 つに絞り、次回までの確認項目を 2〜3 個に固定して運用してみてください。
あわせて、面談準備チェックと職場評価シートで “次の一手” を整理したい方は、こちらから確認できます:/mynavi-medical/#download
参考文献
- Van Damme P, Al-Chalabi A, Andersen PM, et al. European Academy of Neurology (EAN) guideline on the management of amyotrophic lateral sclerosis. Eur J Neurol. 2024;31:e16264. doi: 10.1111/ene.16264. PubMed: 38470068
- Rimmer KP, Kaminska M, Nonoyama M, et al. Home mechanical ventilation for patients with amyotrophic lateral sclerosis: A Canadian Thoracic Society clinical practice guideline. Can J Respir Crit Care Sleep Med. 2019. doi: 10.1080/24745332.2018.1559644
- Bourke SC, Tomlinson M, Williams TL, Bullock RE, Shaw PJ, Gibson GJ. Effects of non-invasive ventilation on survival and quality of life in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2006;5(2):140-147. doi: 10.1016/S1474-4422(05)70326-4. PubMed: 16426990
- Majmudar S, Wu J, Paganoni S. Rehabilitation in amyotrophic lateral sclerosis: Why it matters. Muscle Nerve. 2014;50(1):4-13. doi: 10.1002/mus.24202. PubMed: 24510737
- Brennan M, et al. The use of cough peak flow in the assessment of cough effectiveness in neuromuscular disease. Respir Med. 2022. (PDF): S0954-6111(22)00005-1
- McKim DA, Road J, Avendano M, et al. Home mechanical ventilation: a Canadian Thoracic Society clinical practice guideline. Can Respir J. 2011;18(4):197-215. PubMed: 22059178
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


