身体障害者手帳(肢体)で「評価依頼」が来る理由
身体障害者手帳(肢体不自由)の申請では、医師が作成する「診断書・意見書」に、障害の状態を裏づける所見が求められます。現場では、その裏づけに使える ROM ・筋力・ ADL などの情報を、リハ職に依頼して集めるケースが多いです。
ポイントは「数値を出す」よりも、測定条件(体位・方法・補助具の有無)と、生活場面(どこで・何が・どれだけできないか)がセットになっていることです。ここが揃うと、書類作成側(医師)の手戻りが減り、あなたの評価も“使える情報”になります。
※本記事は「身体障害者手帳(肢体)」の評価依頼に限定し、障害年金や介護保険の書類は別記事で扱います(必要に応じて下記リンク先へ)。
まず確認する 4 点(ここが曖昧だと手戻りが増える)
依頼を受けたら、測定に入る前に「何を、どの条件で、いつの状態として」残すかを合わせます。ここが揃わないと、同じ ROM でも意味がズレます。
とくに自治体や様式で書き方が微妙に違うことがあるため、“様式ベース”で整えるのが安全です。
| 確認ポイント | なぜ重要か | 聞き返す一言(例) |
|---|---|---|
| ① どの様式か(総論/肢体、該当部位) | 様式で求める所見(関節・筋力・移動など)が変わる | 「様式(肢体のどの用紙)を共有いただけますか?」 |
| ② 時点(障害固定/悪化直後/術後など) | “いまの状態”か“固定後の状態”かで解釈がズレる | 「この書類は “いつの状態” として作成しますか?」 |
| ③ 対象(片側/両側、利き手、主要症状) | 比較対象(健側)や生活影響の読みが変わる | 「主症状(例:右上肢優位)をどれで押さえますか?」 |
| ④ 補助具・装具の扱い | “装着あり/なし” の条件が揃わないと数値の意味が揺れる | 「装具・杖・義肢は “評価時の条件” をどうしますか?」 |
最小セット(肢体)|まずはこの 5 つを揃える
肢体不自由は、関節単体の数値だけでは伝わりにくいです。そこで「数値(機能)+生活(活動)」のセットで、最低限そろえると書類が強くなります。
迷ったら、 ROM →筋力/運動機能→移動・ ADL →条件(体位・補助・安全)の順で整理すると、医師が転記しやすいです。
| 項目 | 最低限の書き方 | 記録ポイント(例) |
|---|---|---|
| ROM | 体位/他動・自動/角度/制限因子 | 「肩屈曲:座位・他動 0–90°、疼痛で終末制限」 |
| 筋力・運動機能 | 主要筋の段階+協調性/分離運動の所見 | 「股関節外転: MMT 3 、代償あり」 |
| 移動(歩行/車いす) | 屋内外/距離/介助量/安全上の制限 | 「屋内: T 字杖・監視、 20 m で休息」 |
| ADL | 介助量+“できない理由” を短文で | 「更衣:上衣は片手操作困難で一部介助」 |
| 条件(再現性) | 補助具・装具/疼痛/疲労/日内変動 | 「午後に疼痛増悪、同条件で再現性あり」 |
医師へ返すメモ( 3 行テンプレ )
依頼元が忙しいほど「長文」は読まれません。 3 行(条件 → 数値 → 生活)に圧縮すると、転記されやすく手戻りが減ります。
| 行 | 書く内容(型) | 例 |
|---|---|---|
| 1 行目(条件) | 様式/時点/装具・補助具条件 | 「肢体(右下肢)、障害固定後、装具あり(普段条件)で評価」 |
| 2 行目(数値) | ROM ・筋力の要点(体位・方法つき) | 「足関節背屈:背臥位・他動 0–0°、腓腹筋の硬さで終末制限/ MMT 3 」 |
| 3 行目(生活) | 移動・ ADL (介助量+理由+場面) | 「屋内:杖で監視、 20 m で休息/浴槽またぎは疼痛・恐怖で介助必須」 |
ROM の書き方テンプレ(条件がない数値は弱い)
ROM は「何度」だけだと、書類側が解釈に困ります。体位・方法・制限因子の 3 点を固定すると、同じ数値でも情報量が跳ね上がります。測定法は、国内で標準化された資料に沿わせると安心です(参考:評価の全体像(まとめ))。
おすすめは、次のテンプレに当てはめる書き方です。
| 要素 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 体位 | 立位/座位/背臥位など | 「背臥位で測定」 |
| 方法 | 自動/他動、固定の要点 | 「他動、骨盤固定で実施」 |
| 角度 | 開始・終末角度(必要なら左右) | 「股関節屈曲: 0–80°」 |
| 制限因子 | 疼痛/痙縮/拘縮/恐怖など | 「大腿後面の伸張痛で終末制限」 |
| 再現性 | 同条件で再測定し同程度か | 「 2 回測定で差は 5° 以内」 |
ADL を短文化するコツ(介助量+理由+場面)
肢体の書類では、生活影響(活動制限)が伝わると強いです。そこで ADL は「自立/介助」だけで終わらず、介助量+できない理由+場面(どこで起きるか)を短文で添えます。
文章は長くしなくて大丈夫です。むしろ “ 1 行で具体” が最強です。
| 項目 | NG 例 | OK 例( 1 行で具体) |
|---|---|---|
| 更衣 | 「更衣:介助」 | 「上衣:片手操作困難で袖通しに一部介助」 |
| 移乗 | 「移乗:見守り」 | 「立ち上がりで膝折れあり、手すり必須で監視」 |
| 入浴 | 「入浴:不可」 | 「浴槽またぎで疼痛・恐怖が強く、介助なしでは危険」 |
| 屋外歩行 | 「歩行:可能」 | 「屋外: T 字杖で 30 m まで、段差は介助が必要」 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
よく詰まるのは、この 2 つです。(リンク先はこの記事内の該当節です)
| NG (起こりがち) | なぜ弱いか | OK (直し方) |
|---|---|---|
| 角度だけ返す(体位・方法なし) | 同じ数値でも意味が変わり、転記できない | 体位/自動・他動/制限因子を 1 行で添える |
| ADL が「介助」だけ | どの動作で、なぜ介助かが不明 | 介助量+理由+場面を 1 行で具体化する |
| 補助具条件が混在 | 装具あり/なしが混ざると解釈不能 | 「装具ありで測定」など条件を先に固定して記載 |
| 最大努力の一発勝負 | 再現性がなく、強制された一時的能力になる | 同条件で再測定し、差(例: 5° 以内)を添える |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 装具や杖は「あり」で評価していいですか?
原則は、依頼元の意図(様式・認定の考え方)に合わせます。実務では「評価条件を明示したうえで」装具あり/なしのどちらかに揃えると安全です。迷ったら、“普段の生活で使っている条件”を基本にし、例外がある場合だけ注記します。
Q2. 痛みで ROM が出ません。どう書けばいいですか?
“出ない” を隠す必要はありません。むしろ 疼痛で終末制限と明記し、体位・方法を揃えた上で「どこで痛むか(部位)」「どの動作で生活が止まるか( ADL )」をセットで返すと、書類として意味が通ります。
Q3. 日によって状態が変わります(疲労・浮腫など)。
変動は“条件”として価値があります。午前/午後など、書類側が理解しやすい単位で「どの方向に変わるか」「安全上の問題が出る場面」を短く残します。評価日を増やせない場合は、同日内で条件を揃えて再測定し、再現性の範囲を添えるだけでも強くなります。
Q4. 依頼が曖昧で、何を測ればいいか分かりません。
この場合は「様式の確認」が最優先です。次に、最小セット( ROM ・筋力/運動機能・移動・ ADL ・条件)だけを先に揃え、追加が必要なら後追いで増やします。最初から全部盛りにすると、かえって条件が混ざりやすく手戻りが増えます。
次の一手(運用を整える → 共有の型 → 環境も点検)
書類対応は「個人の頑張り」で回すほど消耗します。次の順で整えると、現場がラクになります。
- 運用を整える:最小セットとテンプレを、チームで共通言語にする
- 共有の型を作る:返却メモ( 1 行具体)をフォーマット化して、手戻りを減らす
- 環境の詰まりも点検:教育体制や標準化が噛み合わないなら、外部の選択肢も確認する
参考文献
- 身体障害者障害程度等級表(PDF)
- 身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)(PDF)
- 身体障害者診断書の書き方:総論・肢体不自由(PDF)
- 身体障害者福祉法施行規則(e-Gov 法令検索)
- 関節可動域表示ならびに測定法( 2022 年 4 月改訂)(PDF)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

