膝関節の整形外科テスト【半月板・靱帯】

評価
記事内に広告が含まれています。

膝関節の整形外科テストとは

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT キャリアガイド)

膝関節の整形外科テストは、半月板損傷、前十字靱帯(ACL)・後十字靱帯(PCL)損傷、側副靱帯損傷、関節水腫、膝蓋大腿関節障害などを切り分けるための基本ツールです。代表的なものに、膝蓋跳動テスト、Apley 圧迫/牽引テスト、McMurray テスト、前方/後方引き出しテスト、Lachman テスト、Pivot Shift テスト、内反/外反ストレステスト、膝蓋骨圧迫テスト、膝蓋骨不安感テストなどがあります。

ただし、画像所見や受傷機転、年齢・活動レベル、荷重時痛や可動域制限といった情報と組み合わせて解釈することが前提であり、テスト単独で診断を確定できるわけではありません。本記事では「水腫」「半月板」「十字靱帯」「側副靱帯」「膝蓋大腿関節」という 5 つの視点でテストを整理し、理学療法士が押さえておきたい禁忌やリハビリへのつなぎ方を解説します。

関節水腫・血腫を疑うテスト(膝蓋跳動)

外傷後の膝腫脹や、変形性膝関節症での反復する水腫では、まず関節内液体貯留の程度を把握することが重要です。膝蓋跳動テスト(Patella Floating Test)は、膝蓋骨周囲を軽く圧迫しつつ膝蓋骨を押し下げ、「ぷかぷかと浮いている感じ」や弾発感があるかを評価するテストです。明らかな浮揚感があれば、中〜高度の関節水腫が疑われます。

急性外傷後に高度の水腫・血腫がある場合、ACL 断裂などの重度靱帯損傷や骨折が隠れていることも多く、無理に他のストレステストを繰り返すのは禁忌です。まずは疼痛と腫脹の程度を評価し、必要なら医師による穿刺・画像検査を優先します。変形性膝関節症での慢性的な水腫では、運動量・体重・炎症コントロールとの関係を意識しながら、荷重調整と筋力トレーニングを組み立てていきます。

半月板損傷を疑うテスト(Apley・McMurray など)

膝のロッキング感、屈伸時のひっかかり、特定角度での鋭い関節裂隙部痛などがある場合には、半月板損傷を疑います。代表的なテストが Apley 圧迫テストと McMurray テストです。Apley 圧迫テストでは腹臥位で膝を屈曲し、脛骨を圧迫しながら回旋することで半月板に圧縮ストレスをかけ、裂隙部痛の再現を狙います。McMurray テストでは、股・膝関節の屈伸と下腿回旋を組み合わせて、内側・外側半月板を介した疼痛やクリックの出現を評価します。

半月板テストの所見とおおよその解釈
テスト・動き 疼痛部位・所見 考えられる病態
Apley 圧迫+内旋 内側裂隙部の鋭い痛み 内側半月板損傷の可能性
Apley 圧迫+外旋 外側裂隙部の鋭い痛み 外側半月板損傷の可能性
McMurray 内旋位から伸展 外側でのクリック・痛み 外側半月板前〜中節の関与
McMurray 外旋位から伸展 内側でのクリック・痛み 内側半月板後節の関与

ただし、関節裂隙部の圧痛や水腫、変形性変化が強い場合には、半月板損傷がなくても偽陽性が出ることがあります。ロッキングやクリックの訴えの有無、日常生活やスポーツでの疼痛パターン、画像所見(MRI など)と組み合わせて解釈することが重要です。疼痛や水腫が強い急性期には、強い圧迫・回旋を繰り返すことは避けましょう。

前十字靱帯・後十字靱帯損傷を疑うテスト群

ACL 損傷では、ジャンプ着地や急停止・方向転換での受傷、受傷時のポップ音、急な腫脹などが典型的です。前十字靱帯損傷を疑うテストとして、前方引き出しテスト、Lachman テスト、Pivot Shift テスト、N テスト(Nakajima Test)などがあります。Lachman テストは 20〜30° 屈曲位で前方引き出しを行うため、関節包の影響が少なく、ACL 評価でよく用いられます。一方、Pivot Shift テストは回旋ストレスを加えながら伸展→屈曲させ、回旋不安定性を評価するテストであり、患者への負担も大きいため慎重な実施が必要です。

PCL 損傷では、後方引き出しテストや Sagging 徴候(脛骨後方落ち込み)が代表的です。脛骨近位関節面が大腿骨顆に対して後方に位置していないか、片側と反対側の比較を行います。PCL 損傷は見逃されやすく、単純な「膝崩れ」や階段降段時の不安定感として現れることもあります。

いずれの靱帯損傷でも、強い痛み・水腫がある急性期にストレステストを繰り返し行うのは禁忌です。Lachman を軽く確認する程度にとどめる、あるいは急性期は画像検査と医師の診察を優先し、理学療法士は荷重制限や装具管理、周囲筋の安全な活動をサポートする役割に徹する場面も多くなります。

側副靱帯損傷を疑うテスト群(内反/外反ストレス)

内側側副靱帯(MCL)・外側側副靱帯(LCL)損傷は、外傷時の外反・内反ストレスと関連することが多く、ACL 損傷など他靱帯との合併も少なくありません。膝関節の外反ストレステスト(Valgus)、内反ストレステスト(Varus)は、0° 伸展位と 20〜30° 屈曲位の両方で行い、疼痛や不安定性の程度を評価します。

伸展位での明らかな不安定性は、多靱帯損傷や関節包損傷の可能性を示唆し、高い重症度が疑われます。屈曲位のみでの軽い不安定性であれば、単独 MCL・LCL 損傷の低〜中グレードであることも多く、保存療法の適応となるケースもあります。ただし、評価中に強い痛みや抵抗がある場合には、無理にストレスを強めず、医師への報告と画像検査を優先しましょう。

リハビリテーションの立場では、急性期はストレステストを必要最低限にとどめ、支持性確保のための装具やテーピング、荷重制限の範囲を医師と共有することが重要です。回復期以降は、側方安定性を高めるためにハムストリングス・大腿四頭筋・股関節外転筋などの協調的な筋活動を引き出し、側方への荷重移動やカッティング動作に向けて段階的なトレーニングを進めます。

膝蓋大腿関節部のテスト(圧迫・不安感)

階段昇降やしゃがみ込み、長時間座位からの立ち上がりで前面膝痛を訴える場合には、膝蓋大腿関節部の問題を疑います。膝蓋骨圧迫テスト(Patella Grinding Test)は、膝蓋骨を大腿骨に押し付けつつ滑動させ、疼痛の有無や粗造感(クリーピタス)を評価するテストです。また、膝蓋骨不安感テスト(Patella Apprehension Test)は、膝蓋骨を外側に押し出すようなストレスを加えた際の不安感や脱臼感を確認します。

過去に膝蓋骨脱臼の既往がある症例では、軽い外側ストレスでも強い apprehension が出ることがあり、無理にストレスを増すのは禁忌です。評価はごく軽い力から開始し、患者の表情や筋緊張の変化をよく観察します。大腿四頭筋のタイトネスや内外側バランス、Q 角、足部アライメント、骨盤・股関節の回旋なども膝蓋大腿関節へのストレスに影響するため、局所のテスト結果だけでなく下肢全体のアライメントを含めて評価します。

リハビリテーションでは、膝蓋骨の可動性や関節周囲の軟部組織性状に配慮しつつ、股関節外転・外旋筋群や体幹の働きを高めて、膝蓋大腿関節への偏った荷重を軽減することが重要です。階段・しゃがみ込み動作を段階的に練習し、疼痛が出にくい角度・スピード・荷重ラインを患者と一緒に探っていきます。

評価結果をリハビリテーションにどう活かすか

膝関節の整形外科テストは、「どの靱帯・半月板・関節面がどのようなストレスで症状を出すか」を整理するためのツールです。まずは膝蓋跳動で水腫の程度を把握し、重度の水腫や外傷直後には侵襲的なストレステストを控える、という安全管理が第一です。そのうえで、半月板テストや十字靱帯テスト、側副靱帯テスト、膝蓋大腿関節テストを組み合わせて、病態仮説を絞り込みます。

理学療法では、評価結果をもとに「痛みを悪化させる動き」と「比較的安全にできる動き」を言語化し、患者と共有することが重要です。ACL 損傷例なら剪断ストレスやジャンプ着地、半月板症例なら深屈曲・ねじれ、PF 関節症例なら深い膝屈曲位での荷重など、避けるべき肢位・動作を明確にしつつ、代わりにどのような動作から再開するかを一緒に決めていきます。

再評価では、すべてのテストを毎回繰り返す必要はなく、病態に直結する 1〜3 個のテストと機能指標(疼痛スケール、歩行距離、階段昇降など)を追うと効率的です。整形外科テストを「チェックリスト」で終わらせず、「評価→治療→再評価」を循環させるためのナビゲーションとして活用しましょう。

配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)

膝の症例は、手術適応の判断や長期フォロー、在宅・通所・外来へのつなぎなど、多職種・多施設にまたがる支援が必要になることが多い領域です。症例ごとの評価・治療フローを整理することに加えて、「どんなチームや勤務形態であれば、自分が納得できる膝のリハビリを提供し続けられるか」を考えることも、キャリアを守るうえで大切な視点です。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードページを見る

おわりに

膝関節の整形外科テストは、「水腫の評価 → 半月板・靱帯・膝蓋大腿関節の評価 → 動作への翻訳 → 再評価」という流れを作るうえで頼りになる道具です。テスト名や手順にとらわれすぎず、「なぜこのテストを今行うのか」「何がわかれば次の一手が決まるのか」を意識することで、膝症例で迷いにくくなります。

面談準備チェックと職場評価シートも活用しながら、自分の学び方・働き方を定期的に振り返り、膝関節評価と歩行・階段評価に強いセラピストとしての引き出しを少しずつ増やしていきましょう。日々の臨床で得た気づきをチーム内で共有することが、患者さんのアウトカムと自分自身のキャリアの両方を支えてくれます。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

膝蓋跳動テストが陽性のとき、他のストレステストは行わないほうがよいですか?

急性外傷後で高度の水腫・血腫があり、膝蓋跳動テストが明らかに陽性の場合、強い痛みを伴うストレステストを繰り返すことは避けるべきです。必要最低限の安全確認にとどめ、画像検査や穿刺の適応を含めて医師に報告することが優先されます。慢性の軽度水腫であれば、疼痛と相談しつつ限定的なストレステストを行うこともありますが、その場合も必要以上に強い力を加えないことが重要です。

Lachman テストと前方引き出しテストはどちらを優先すべきですか?

ACL 評価では、一般に Lachman テストのほうが感度が高いとされています。膝を 20〜30° 屈曲位で評価できるため、関節包やハムストリングスの影響が少なく、前方引き出しよりもわずかな前方移動を捉えやすいという利点があります。一方で、急性期の痛みが強い場合や体格・筋緊張により評価が難しい場合もあるため、前方引き出しテストや他の所見と組み合わせて総合的に判断することが大切です。

半月板テストが陽性でも、すぐに手術適応と考えてよいですか?

半月板テスト陽性は半月板損傷を示唆しますが、年齢や活動レベル、変形性変化の程度、ロッキングの有無、他の靱帯損傷の有無などにより治療方針は大きく異なります。症状が軽度であれば保存療法で改善するケースも多く、テスト陽性=手術適応とは限りません。ロッキングが頻発する、日常生活に大きな支障があるなどの場合には、整形外科での詳細評価と治療方針の検討が必要です。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました