IADL低下で生じる生活の支障と介護ニーズ【まず“どこに困りごとが出るか”を可視化】
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IADL(手段的日常生活動作)が低下すると、単なる「手伝いが必要」では済まず、安全・衛生・金銭・服薬・社会参加といった生活の根幹に連鎖します。結果として見守り・代行・同意能力の代替が必要となり、家族や介護サービスの負担増につながります。下表は、代表的な支障と介護ニーズの対応関係です。
| IADL領域 | 生活の支障 | 起こりうるリスク | 必要となる介護・支援 |
|---|---|---|---|
| 服薬管理 | 飲み忘れ・重複服用・中止指示の不履行 | 急変・再入院・副作用 | 薬の仕分け代行、服薬見守り、薬局連携(月1レビュー) |
| 金銭管理 | 請求滞納、詐欺被害、家計破綻 | ライフライン停止、資産流出 | 支払い自動化、代理人カード、成年後見等の検討 |
| 買い物・調理 | 食料確保不全、栄養の偏り、火気事故 | 低栄養、火傷・火災 | 買物代行・配食、IH化、見守り調理 |
| 家事・洗濯 | 居住環境の不潔化、衣類管理不良 | 転倒・感染・褥瘡リスク増 | 家事援助、清掃サービス、週次ルーティン化支援 |
| 交通機関の利用 | 通院・買物・社会参加の断絶 | 受診中断、閉じこもり、迷子 | 送迎・デマンド交通、同行、生活圏再設計(宅配活用) |
| 電話・連絡 | 受診予約/緊急連絡ができない | 治療遅延・詐欺応答 | 短縮ダイヤル設定、連絡カード、連絡プロトコル整備 |
スコアから介入へ:PT/OTの意思決定フレーム(合計点は“入口”)
合計点(0–8)は重症度の目安にすぎません。重要なのは下位項目の具体像→危険予測→代償・環境・教育→再評価の循環を作ることです。
| 合計点 | 生活像の仮説 | 優先課題 | 再評価 |
|---|---|---|---|
| 6–8 | 概ね自立・弱点限定 | 高リスク領域の事故予防 | 2–4週(教育定着・ヒヤリ確認) |
| 3–5 | 部分自立・環境/認知の影響 | 代償と環境整備の実装 | 1–2週(サービス導入後の効果検証) |
| 0–2 | 広範支援・安全最優先 | 多職種連携・見守り体制 | 1週以内(早期フォロー) |
下位項目別の具体介入(代償/環境/教育+PT/OTの専門性)
以下は臨床でそのまま使える手順レベルの介入です(施設SOP・主治医指示を優先)。
服薬管理:一包化+アラーム+レビューを“セット化”
- 代償:一包化(朝・昼・夕・就寝)、ピルケース(曜日×時刻)を患者と一緒にセットアップ。
- 環境:服薬スポットを固定(ダイニング左上棚など)、視認性の高い位置に「服薬カレンダー」。
- 教育:“もし飲み忘れに気づいたら”の分岐(時間帯別の対応)をカード化。
- PT/OTの役割:手指巧緻性・視覚注意・二重課題に配慮した実動作訓練(開包→取り出し→服用→記録)。
- 評価指標:残薬量、一日の服薬完了チェック率、アラームに対する反応時間。
金銭管理:支払いの“自動化”と詐欺ガード
- 代償:固定費の口座振替/クレカ自動化、代理人カード(利用上限付き)。
- 環境:請求書トレーを「到着→処理済み」で二分、月末ルーティンをカレンダー化。
- 教育:電話詐欺のトーク例と拒否スクリプトを練習(役割演技)。
- PT/OTの役割:支払い動作の連続課題(書類分類→スマホ/ATM操作→記録)を遂行機能訓練として実施。
- 評価指標:滞納ゼロ、怪しい通話の報告件数、家族ダブルチェックの遵守率。
買い物:迷いを減らす“プロンプト設計”
- 代償:定期配送の固定、標準買物リスト(写真付き)をスマホに実装。
- 環境:キャッシュレス1方式に統一(例:ICカードのみ)。
- 教育:店舗での手順書(入店→カゴ→リスト→レジ→袋詰め)を持ち歩きサイズで。
- PT/OTの役割:実店舗での同行訓練(視空間探索・二重課題歩行・決済操作)。
- 評価指標:買い忘れ件数、レジ所要時間、支援依存度。
調理:安全最優先のIH化+タイマー
- 代償:ミールキット導入、電子レンジ中心のレシピ、包丁はセーフティタイプ。
- 環境:コンロはIHへ、自動消火・タイマー・センサーを活用。
- 教育:三品ローテ(汁・主菜・副菜)を7日テンプレに。
- PT/OTの役割:台所レイアウト最適化(到達距離・立位耐久)、段取り訓練(前工程→後工程)。
- 評価指標:自炊回数、配食依存率、火気ヒヤリ件数。
家事・洗濯:ルーティン×ラベリング
- 代償:家事援助の曜日固定、乾燥機活用、ネット分け簡素化。
- 環境:収納に写真ラベル、掃除道具を各部屋に分散配置。
- 教育:一日一タスク(5–10分)方式で「達成感」を維持。
- PT/OTの役割:安全な物品の持上げ動作・バランス訓練、疲労マネジメント。
- 評価指標:室内清潔度(主観+写真)、洗濯完了率。
交通:生活圏を“再設計”
- 代償:デマンド交通に登録、通院は送迎サービスへ集約。
- 環境:受診は午前中に固定、乗換最少ルートのみ使用。
- 教育:迷い時のプロトコル(立ち止まる→人に聞く→家族へ連絡)。
- PT/OTの役割:外出同行で実地評価+訓練(地図アプリ、券売機操作、歩行耐久)。
- 評価指標:単独移動成功回数、ヒヤリ件数、迷い時間。
電話・連絡:ショートカットと台本
- 代償:スマホの短縮ダイヤル(家族・主治医・ケアマネ)。
- 環境:受話器の定位置化、着信音量の最適化。
- 教育:受診予約・緊急時の台本(スクリプト)を練習。
- PT/OTの役割:注意・記憶課題を絡めた電話ロールプレイ。
- 評価指標:自発発信成功率、誤発信/無応答件数。
退院支援プロトコル(テンプレ)
- 弱点抽出:下位項目×課題×リスクを1行で要約(例:服薬0点=重複服薬の危険)。
- 介入選定:代償(サービス/ツール)+環境調整+教育+家族役割をセットで。
- 書面化:ケアマネ共有文に「提案・根拠・期限・再評価項目」を明記。
- 実装&訓練:自宅/模擬環境で実動作訓練(PT/OTが主導)。
- 再評価:1–2週で効果検証。未達なら代替案に即切替。
連携文例(コピペ)
例|ケアマネ宛:
「IADL:服薬0、金銭0。重複服薬と請求遅延あり。
対策:①一包化+アラーム+服薬カレンダー、②固定費の自動化+代理人カード。
再評価:2週後。目標=飲み忘れゼロ/滞納ゼロ。」
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まとめ
IADL低下は生活の安全・衛生・経済・治療継続を直撃します。合計点に頼らず下位項目の具体像から、代償・環境・教育・訓練を一体で設計し、1–2週の再評価で回す——それが療法士の専門性です。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
医療機関/介護福祉施設/訪問リハの経験に基づき、臨床現場で使える評価・プロトコルを発信。
- 脳卒中 認定理学療法士/褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士/3 学会合同呼吸療法認定士


