LEFS(Lower Extremity Functional Scale)とは?|下肢機能をみる患者立脚指標
Lower Extremity Functional Scale(LEFS)は、股関節から足部までを含む下肢全体の「使いづらさ」を 20 項目で評価する患者立脚型質問票です。階段昇降やしゃがみ動作、片脚立位、長距離歩行など、日常生活から高次な活動までを幅広くカバーし、0〜80 点(または%表示)で下肢機能の程度をスコア化します。股関節・膝関節・足関節・足部の疾患を問わず用いることができ、変形性関節症や靭帯損傷、術前後フォローなどで広く活用されています。
LEFS は比較的短時間で実施でき、かつ反応性(変化の検出力)が高いことが示されており、TKA・THA・スポーツ整形など多様な領域で研究・臨床利用が進んでいます。理学療法士にとっては、10 m 歩行や TUG・6 MWT などの客観指標と組み合わせることで、下肢機能の「患者視点での困りごと」を定量的に捉えられる便利なツールです。
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LEFS の構成項目とカバーする活動レベル
LEFS は 20 項目・各 0〜4 点(0=まったくできない、4=問題なくできる)の 5 段階で構成され、合計 0〜80 点のスコアで下肢機能を評価します。項目は「立ち上がり」「椅子からの立ち上がり」「しゃがむ/膝立ち」「平地歩行」「階段昇降」「走る・跳ぶ」「長距離歩行」「不整地での歩行」「重い物を運ぶ」など、ADL からより高次な活動までを段階的にカバーしています。
下図は、LEFS の 20 項目を「基本動作」「歩行・階段」「仕事・家事」「スポーツ・高負荷活動」の 4 つの活動レベルに整理したイメージ図です。実際の設問文そのものではなく、「どのような場面を代表しているか」をチーム内で共有する際のメモとして活用してください。
LEFS の実施方法と採点ルール
LEFS は自己記入式で、評価時点における典型的な状態を想定して回答してもらいます。すべての項目について「どの程度困難か」を 0〜4 点の 5 段階で選択し、回答に迷う場合は「一番近い選択肢」を選ぶよう説明します。視力や読み書きに制限がある場合は代読・代筆も可能ですが、その際も選択は必ず本人に行ってもらうことが原則です。
採点は、各項目 0〜4 点の合計を求め、0〜80 点で表記します。必要に応じて、%表示=(合計点 ÷ 80)× 100 として扱うこともできます。未回答項目がある場合は、回答した項目の平均点に基づきスコアを推定する方法も提案されていますが、原則として全項目に回答が得られるよう実施の質を整えることが推奨されます。同一患者では、毎回同じ説明と条件(靴の有無・装具の有無など)で評価することが重要です。
スコアの解釈と MCID・MDC の目安
LEFS では、スコアが高いほど機能が良好であることを意味します。原著では、さまざまな下肢疾患を対象とした検討から、およそ 9 ポイント程度の変化 を「患者にとって意味のある最小限の変化(MCID)」とみなすことが提案されています。また、測定誤差を超えた変化を示す指標である最小検出可能変化(MDC)は、おおむね 9 ポイント前後と報告されており、単回の評価でそれ未満の変化を過大評価しないことが重要です。
※ 横スクロールで全体を確認してください。
| スコア範囲(80 点満点) | 機能レベルのイメージ | 臨床での捉え方の一例 |
|---|---|---|
| 0〜20 点 | 高度な機能障害 | 立ち上がりや短距離歩行にも介助・補装具が必要で、室内移動に大きな制限 |
| 21〜40 点 | 中等度〜重度障害 | 平地歩行は可能だが、階段や不整地・長距離歩行に顕著な制限がある状態 |
| 41〜60 点 | 軽度〜中等度障害 | 日常生活は自立だが、高速歩行・坂道・重い物の運搬などで支障が出る |
| 61〜80 点 | 軽度障害〜ほぼ正常 | スポーツや高負荷活動を除き、日常生活や多くの余暇活動が可能なレベル |
なお、MCID は対象疾患(TKA・THA・足関節靭帯損傷 など)や評価時期によって変動し、8〜12 ポイント程度の範囲で報告されています。実地では「少なくとも 9〜10 ポイント以上の変化があれば、変化ありとみる」一方で、痛みスケールや歩行テスト・患者の主観的な変化とも照らし合わせて判断するのが現実的です。
THA・TKA・スポーツ整形での LEFS 活用例
人工股関節全置換術(THA)や人工膝関節全置換術(TKA)では、術前のベースラインから術後 3 ヶ月・ 6 ヶ月・ 1 年といったタイムポイントで LEFS を繰り返し測定することで、「関節可動域の改善」と「生活レベルの向上」がどの程度連動しているかを確認できます。たとえば「ROM は十分だが LEFS スコアが頭打ち」のケースでは、歩行自体よりも恐怖感・外出機会・環境要因がボトルネックになっている可能性を考えることができます。
スポーツ整形の領域では、ACL 再建術や半月板損傷、アキレス腱断裂などの症例で、復帰までの経過を追う指標として利用されます。競技特異的なパフォーマンステスト(ジャンプテスト・アジリティテスト等)と組み合わせることで、「競技復帰はしているが日常生活ではまだ怖さが残る」といったギャップを可視化しやすくなります。LEFS 単独では拾いきれない競技レベルの要求は、別のスポーツ特異的スケールと併用するのがよいでしょう。
TUG・歩行テスト・WOMAC との組み合わせ方
LEFS はあくまで自己評価であり、歩行速度や筋力などの客観的な機能評価とは異なる側面を捉えます。そのため、下肢機能の全体像を把握するには、TUG・10 m 歩行・ 6 MWT などのパフォーマンステストや、WOMAC(変形性膝関節症の疼痛・硬さ・機能)など疾患特異的な質問票との組み合わせが有効です。たとえば TUG の改善に比べて LEFS の変化が乏しい場合、「見た目の歩行は改善しているが、患者はまだ自信を持っていない」状況が示唆されます。
逆に LEFS は改善しているのに歩行速度や TUG があまり変わらない場合は、日常生活の工夫や環境調整によって生活のしづらさは軽くなったものの、身体機能そのものは十分にトレーニングできていない可能性があります。こうした「指標同士の食い違い」を手がかりに、運動療法・生活指導・環境調整・心理社会的支援のバランスを再検討できるのが、複数スケール併用のメリットです。
LEFS を使うときの注意点と限界
LEFS は多くの下肢疾患で有用ですが、「文化・生活様式の違い」の影響を受けやすい面もあります。原著では北米の生活環境を前提とした項目が含まれており、日本語版でも翻訳・調整が行われているものの、日本の高齢者や農業従事者・重労働者などでは、項目の重要度が異なる場合があります。また、杖や歩行器などの補助具を使用しているかどうかによって、同じスコアでも生活の実際が異なる点にも留意が必要です。
さらに、自己記入式である以上、抑うつや不安、二次的利得(休業補償など)といった心理社会的要因の影響を受けることがあります。画像所見や関節機能と LEFS が大きく乖離しているときは、「データが間違っている」と決めつける前に、背景にある生活状況や心理面を丁寧に聴取することが大切です。LEFS はあくまで「患者が感じている下肢機能」の一側面を示すものであり、単独で治療効果や予後を断定することは避けましょう。
記録とチーム共有のコツ
カルテに記載する際は、「LEFS の絶対値」と「変化量」、そして「どのレベルの活動が改善/残存しているか」の 3 点をセットで残しておくと便利です。例えば「LEFS 32→48(16 点改善)。階段昇降・長距離歩行が中等度の制限から軽度へ改善し、買い物・通院は自立」といった書き方をすれば、医師や看護師、MSW も患者さんの生活像を具体的にイメージしやすくなります。
長期フォローの症例では、術前→術後 3 ヶ月→ 6 ヶ月→ 1 年といったタイムラインで LEFS の推移をグラフ化すると、患者さんへのフィードバックにも役立ちます。「痛みはまだ残るが、生活レベルとしてはここまで戻ってきている」といった肯定的な説明がしやすくなり、運動療法継続のモチベーション向上にもつながります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
LEFS は何点くらい良くなれば「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?
研究報告では、さまざまな下肢疾患を対象とした検討から、おおむね 9 ポイント前後 の改善が「最小限臨床的重要差(MCID)」として提案されています。一方で、対象疾患や評価のタイミングによって 8〜12 ポイント程度と幅を持って報告されているため、「少なくとも 9〜10 ポイント以上の変化があれば、意味のある変化の候補」と捉え、痛みスケールや歩行テスト、患者の主観とあわせて総合判断するのが現実的です。
それでも十分な改善が得られない場合、患者さんの努力不足というよりも、「介入時間」「職場や病棟の体制」「フォローアップの仕組み」など環境側の制約が影響していることも少なくありません。「今の職場では自分がやりたいレベルの下肢リハや評価を継続しづらい」と感じる状況が続くときは、働き方や職場選びを一度整理してみるタイミングかもしれません。そうしたサインを整理するには、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。
おわりに
実地では「危険徴候のスクリーニング→関節機能・筋力・歩容の評価→LEFS で下肢機能を患者視点から可視化→目標と介入方針の共有→経時的な再評価」というリズムを意識することで、下肢リハビリテーションの流れが整理しやすくなります。LEFS は、TUG や歩行テストとセットで運用することで、数値と生活像をつなぐ“翻訳ツール”として機能してくれます。
一方で、「良い評価軸を持っていても、職場の体制的に十分な介入やフォローに結びつけにくい」と感じる場面も少なくありません。そうしたときは、自分の働き方やキャリアの選択肢を一度整理してみることで、日々の臨床への向き合い方も前向きに変わりやすくなります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に使える面談準備チェック(A4・5 分)と職場評価シート(A4)を無料公開していますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。印刷してそのまま使えます。
参考文献
- Binkley JM, Stratford PW, Lott SA, Riddle DL. The Lower Extremity Functional Scale (LEFS): scale development, measurement properties, and clinical application. Phys Ther. 1999;79(4):371–383. PubMed
- Stratford PW, Kennedy DM, Hanna SE. Condition-specific outcome measures for orthopedic lower extremity interventions: Linking theory and practice. Phys Ther. 2004;84(12):1098–1108. PubMed
- Mehta SP, Fulton A, Quach C, Thistle M, Toledo C, Evans NA. Measurement properties of the Lower Extremity Functional Scale: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther. 2016;46(3):200–216. doi:10.2519/jospt.2016.6165. DOI
- Abbott JH, Schmitt J. Minimum important differences for the Lower Extremity Functional Scale in patients with hip osteoarthritis. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014;66(7):110–116. doi:10.1002/acr.22240. DOI/PubMed
- Martin RL, Christoforetti JJ, McGovern R, et al. The Lower Extremity Functional Scale as an outcome measure for hip labral pathology. Hip Int. 2012;22(5):522–529. doi:10.5301/HIP.2012.9577. DOI/PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

