正中神経障害の鑑別: CTS vs 回内筋症候群 vs 頚椎【比較・使い分け】

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正中神経障害の鑑別: CTS vs 回内筋症候群 vs 頚椎神経根症【比較・使い分け】

手のしびれは「分布 → 夜間 → 前腕痛」の順で切り分けると、迷いが減ります。 評価 → 介入 → 再評価の流れを 3 分で復習する( PT キャリアガイド )

「親指〜中指がしびれる=すぐに手根管症候群( CTS )」と決め打ちすると、回内筋症候群(前腕近位での正中神経絞扼)や頚椎神経根症、ダブルクラッシュ(複数部位の圧迫)を見落とすことがあります。本記事では、現場で再現性が高い“鑑別の順番”と、評価所見のまとめ方リハでできる介入を「比較・使い分け」で整理します。

関連:評価を体系で整理したい方は 評価ハブ もあわせてどうぞ(本記事内の内部リンクは本項のみ)。


結論:鑑別は「分布 → 夜間 → 前腕痛」で 7 割決まる

手のしびれ鑑別のコツは、最初に“どこが・いつ・何で増悪するか”を固定の順番で拾うことです。正中神経領域のしびれでも、夜間に悪化しやすいなら CTS をまず疑い、前腕近位の鈍痛回内・把持の反復で増悪が強いなら回内筋症候群を上位に置きます。頚椎神経根症は頚部〜肩甲帯の症状皮膚分節に沿う放散がヒントです。

この 3 つを比較しつつ、筋力低下(母指球・前腕屈筋群)感覚(手掌枝の影響)誘発テストを足して確度を上げます。判断に迷う症例ほど、所見の取り方(体位・負荷・時間)を揃えて、再評価できる形で記録するのが安全です。


まずは早見表: 3 疾患の“らしさ”を並べる

正中神経領域のしびれ: CTS ・回内筋症候群・頚椎神経根症の比較(成人の臨床目安)
観点 手根管症候群( CTS ) 回内筋症候群(前腕近位) 頚椎神経根症
痛み・しびれの場所 手関節〜手指(親指〜中指)中心 前腕近位の鈍痛+正中神経領域のしびれ 頚部〜肩〜上肢へ放散(皮膚分節)
夜間症状 出やすい(就寝中に増悪しやすい) 出にくい(活動で増悪が目立つことが多い) 姿勢・頚部肢位で変動(夜間一定とは限らない)
前腕痛 主訴になりにくい 主訴になりやすい 肩甲帯〜上腕の関連痛が混在しやすい
母指球の感覚(手掌側) 保たれることがある(手掌枝は手根管外) しびれに含まれやすい 分布は神経根に依存(一定しない)
誘発の“方向” 手関節・手指の使用、手関節屈曲保持で増悪しやすい 回内・把持・反復動作、前腕近位の圧痛で増悪しやすい 頚部の伸展・側屈・回旋などで増悪しうる
リハの第一手 負荷調整+手関節中間位の保持(必要に応じ装具) 前腕の過負荷調整+近位要因(肩甲帯)も含めた負担軽減 頚部・肩甲帯の負担軽減+神経症状の増悪回避

評価の順番:問診 → 観察 → 誘発 → 神経学的所見 → 介入テスト

鑑別で大事なのは、個々のテストの“当たり外れ”よりも、順番を固定して情報の抜けを減らすことです。ここでは、 PT が現場で再現しやすい並びで整理します(診断や検査の最終判断は医師と連携して行います)。

1)問診: 5 つだけは必ず聞く

  • しびれの分布(親指〜中指か、環指・小指も混ざるか、手掌までか)
  • 夜間症状(就寝中に悪化し、手を振ると軽くなるか)
  • 前腕近位の痛み(鈍痛・張り・圧痛の有無)
  • 増悪動作(回内・把持・キーボード・工具・育児など反復)
  • 既往と背景(糖代謝、甲状腺、妊娠・浮腫、外傷、頚部痛)

2)観察:母指球・巧緻・把持パターン

母指球の萎縮、母指対立のぎこちなさ、つまみ動作(側方つまみ・指腹つまみ)を見ます。痛み回避で力が出ないのか、神経支配の問題で出ないのかを切り分けるため、左右差痛みの再現をセットで確認します。

3)誘発: “どこで”症状が出るかを特定する

誘発テストは「陽性/陰性」よりも、どの肢位・どの圧で・どこに症状が出たかを記録するのがポイントです。 CTS を疑う誘発は手関節周囲、回内筋症候群は前腕近位(回内筋周囲や lacertus 付近)での再現が手掛かりになります。頚椎由来が疑わしい場合は、頚部肢位での変化や肩甲帯の緊張と症状の連動を見ます。

4)神経学的所見:筋力と感覚を“地図化”する

感覚は「正中神経領域」だけでなく、環指・小指(尺骨神経)や前腕外側(橈骨神経領域)も触れて、混在(ダブルクラッシュや多発単神経障害)を疑う材料を取ります。筋力は母指対立だけでなく、前腕屈筋群や手指の巧緻も合わせて“機能として”捉えます。

5)介入テスト:負荷を変えると症状は動くか

評価の最後に、短時間でできる「負荷の変更」を入れます。例として、作業姿勢の修正、手関節中間位の保持、回内・把持の量を減らす工夫などで、症状が軽くなるなら機械的負荷の寄与が大きいと推定できます。ここまでをセットにすると、次回の再評価が速くなります。


現場の詰まりどころ:よくある失敗と、回避のコツ

正中神経領域のしびれ:よくある失敗(詰まりどころ)と対策
よくある失敗 なぜ起きる? 対策(今日から) 記録の型
「正中神経= CTS 」で決め打ち 夜間症状・前腕痛の確認が抜ける 分布 → 夜間 → 前腕痛の 3 点を必ず取る 分布(図)/夜間(有無)/前腕痛(有無)
誘発テストの“陽性”だけを書く 肢位や圧の違いで再現性が落ちる 肢位・保持時間・症状部位までセットで記録 肢位/時間/再現部位(親指〜中指など)
母指球筋力だけで重症度判断 痛み回避・学習性の低下と混ざる つまみ動作+巧緻+痛みの再現で評価 つまみ(可/不可)/巧緻(所見)/疼痛
頚部・肩甲帯を見ない ダブルクラッシュの可能性を落とす 頚部肢位で症状が動くかを必ず確認 頚部肢位(変化あり/なし)

リハビリの考え方:疾患別の“やること”を整理

リハは「神経を伸ばす」よりも先に、増悪する負荷(姿勢・反復・保持)を減らすのが基本です。そのうえで、症状の強さと再現パターンに合わせて、運動・装具・作業調整を組み立てます。

手根管症候群( CTS ):まずは“手関節中間位”と負荷調整

  • 作業の棚卸し:反復・強い把持・手関節屈曲保持を減らす
  • 手関節中間位の確保:就寝時や作業時に姿勢を崩しにくくする(必要に応じ装具)
  • 運動は低刺激:痛みやしびれが増えるメニューは避け、症状が落ち着く範囲で行う

“効いているか”は、夜間症状の頻度、起床時のしびれ、作業後の残り方で評価します。

回内筋症候群:前腕近位の過負荷を減らし、近位も含めて整える

  • 回内・把持の反復量を減らす:道具・グリップ・作業高さの調整を優先
  • 前腕近位の負担軽減:局所の圧痛や緊張を増悪させない範囲で介入
  • 肩甲帯〜上肢連動の見直し:近位が不安定だと前腕に負担が集中しやすい

“効いているか”は、活動後の前腕痛の残り方と、作業中にしびれが出るまでの時間で見ます。

頚椎神経根症:頚部肢位で症状が動くなら“増悪肢位を減らす”

  • 頚部の増悪肢位を避ける:伸展・側屈など、症状が強くなる姿勢を特定して回避
  • 肩甲帯の負担を下げる:上肢の保持・挙上が続く場面を調整
  • しびれの再現を基準に運動量を決める:悪化するなら介入を戻し、再評価へ

頚部症状(強い痛み、進行する筋力低下など)が目立つ場合は、早めに医師へ共有し、画像や神経学的評価の必要性を検討します。


受診・相談の目安:この所見は“早めに共有”

  • 急に進む筋力低下(つまめない、母指対立が急に落ちた など)
  • 感覚障害の拡大(分布が短期間で広がる、左右差が強い)
  • 夜間痛が強く睡眠が破綻している
  • 頚部痛+放散痛が強く、姿勢で悪化が顕著
  • 外傷・腫瘤・感染を疑う所見がある

よくある質問(FAQ)

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Q1.夜間症状があると、 CTS が濃厚ですか?

A.夜間にしびれが増悪し、手を振ると軽くなるパターンは CTS を疑う材料になります。ただし、ダブルクラッシュや他の要因が混ざることもあるため、「分布」「前腕痛」「頚部肢位での変化」を合わせて確認し、所見の整合性で判断します。

Q2.回内筋症候群は、どういう人に多いですか?

A.回内・把持・反復動作が多い作業やスポーツで負荷が増えやすいです。前腕近位の鈍痛が主訴になり、手関節よりも前腕で症状が再現しやすい場合は、 CTS 以外の可能性として上位に置きます。

Q3.リハで“神経の滑走”はやった方がいいですか?

A.症状を増悪させない範囲なら選択肢になりますが、まずは負荷(姿勢・反復・保持)を減らして症状の土台を整える方が安全です。実施する場合も、しびれが強くなるなら中止し、介入量を戻して再評価します。

Q4.検査( NCS / EMG )は全例で必要ですか?

A.症状の組み合わせや治療方針によって必要性は変わります。臨床所見で概ね判断できるケースもありますが、手術を含む方針検討や、所見が混在する症例では有用な場合があります。医師と所見を共有し、目的に応じて検討します。


参考文献

  1. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Carpal Tunnel Syndrome Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2024. 公式 PDF
  2. Shapiro LM, Kamal RN, et al. American Academy of Orthopaedic Surgeons/ASSH Clinical Practice Guideline Summary: Management of Carpal Tunnel Syndrome. J Am Acad Orthop Surg. 2025;33(7):e356-e366. doi: 10.5435/JAAOS-D-24-01179 (PubMed: 39637428
  3. Balcerzak AA, et al. How to Differentiate Pronator Syndrome from Carpal Tunnel Syndrome: A Comprehensive Clinical Comparison. Diagnostics (Basel). 2022;12(10):2433. doi: 10.3390/diagnostics12102433 (PubMed: 36292122
  4. Atroshi I, et al. Prevalence of carpal tunnel syndrome in a general population. JAMA. 1999;282(2):153-158. doi: 10.1001/jama.282.2.153 (PubMed: 10411196
  5. Bickel KD. Carpal tunnel syndrome. J Hand Surg Am. 2010;35(1):147-152. doi: 10.1016/j.jhsa.2009.11.003 (PubMed: 20117319

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

しびれの評価は「分布の確認 → 夜間症状 → 前腕痛 → 誘発 → 神経学的所見 → 介入テスト」の順番を固定すると、迷いが減って再評価も速くなります。臨床の棚卸し(評価の型・面談準備チェック・職場評価シート)をまとめて見直したい方は マイナビコメディカルの活用ガイド(チェックリスト付) も参考にしてください。

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