廃用症候群の筋力トレーニング|始め方・中止基準・PDF

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廃用症候群の筋力トレーニング|RPE・中止基準・PDF【結論】

結論:リスク管理ができていれば、廃用症候群でも筋力トレーニングは有効で、むしろ回復を早める核になります。現場では「やらない」より「安全にやる」ほうが ADL の底上げにつながりやすく、まずは RPE 11–13(楽〜ややきつい)で小さく始めるのが実務的です。

この記事で答えるのは、今日どの段階から始めるか、どの強度で何回やるか、どこで止めるかです。一方で、診療報酬の算定要件や疾患別の詳細プロトコル、在宅向けの細かな自主トレ指導までは深掘りしません。読み終えると「今日の 1 セッション」を迷わず組める状態を目指します。

筋力トレーニングの処方で迷いやすい背景には、知識不足だけでなく、教育体制・相談相手・記録の見本がそろいにくい職場要因もあります。評価→実施→再評価の型を持っておくと、担当者が変わっても運用がぶれにくくなります。

臨床の不安を「型」で減らす:評価〜記録〜説明が一気に整うガイドをまとめています。

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廃用症候群の筋トレ 4 段階を示した図版
ベッド上 → 座位 → 立位 → 課題特異の順に、負荷と課題特異性を少しずつ上げていくと、処方の全体像を共有しやすくなります。

なぜ筋力が低下するのか(メカニズム)

廃用の筋力低下は「筋だけ」ではなく、神経の動員低下代謝の耐容量低下が重なって起こります。数日〜 1 週間の安静でも変化が出やすく、開始強度を誤ると「息切れで中止」「痛みで拒否」になりがちです。

実務では、抗重力筋(大腿四頭筋・下腿三頭筋)を中心に、フォームが崩れない負荷で神経適応を呼び戻し、徐々に反復と外的負荷を積み上げます。最初から「重さ」を狙わず、安全に続く量を先に作るのが近道です。

実施原則(安全第一の枠組み)

筋力トレーニングを「安全に継続」するために、開始条件とモニタリングを先に決めます。現場でブレやすいのは「どこまで頑張らせるか」よりどこで止めるかです。

基本は RPE 11–13 から開始し、症状(息切れ・胸部不快・めまい・痛み)とバイタルの変化を見て微調整します。可能なら短時間・少量を高頻度にして、離脱を防ぎます。

開始前→実施中→次回調整の 5 分フロー

廃用の筋力トレーニングで止まりにくいのは、「種目名」より進める順番が固定されているケースです。最初に 5 分フローを決めておくと、同じ患者さんでも日ごとの波に合わせて安全に微調整しやすくなります。

以下は、病棟〜回復期でそのまま使いやすい最小フローです。負荷量だけでなく、回復の速さと翌日の残り方まで含めて次回条件につなげると、プログラムが安定します。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群の筋力トレーニング:開始前→実施中→次回調整の 5 分フロー
段階 見ること 判断の軸 記録の要点
1.開始前確認 疼痛、呼吸苦、めまい、発熱、意識、バイタル その日やる/軽くやる/延期する 安静時の症状、基準値、保留理由
2.段階選択 ベッド上、座位、立位、課題特異のどこから始めるか 当日は 1 段階だけ上げる意識で進める 開始姿勢、支持物、介助量
3.負荷設定 RPE、反復数、セット数、テンポ フォームが崩れない範囲で確保できる量 RPE、回数、息こらえの有無
4.実施中確認 SpO₂、HR、BP、会話の余裕、顔色、動作速度 中止・減量基準に触れないかをみる 変化量、症状の有無、休憩での回復
5.次回調整 翌日に残った疲労、DOMS、拒否の有無 次回は維持/ 2–3 割減/ 1 段階アップ 次回条件、避けたい誘因、再試行の目安

段階づけ(ベッド上 → 座位 → 立位 → 課題特異)

廃用のプログラムは、急に高負荷へ飛ばさず、体位抗重力負荷課題特異性を少しずつ上げます。段階が明確だと、チーム内の申し送りと再現性が一気に良くなります。

下の表は「今日どこから始めるか」を決めるための簡易モデルです。次段階の目安を置くことで、セッションのゴールが明確になります。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群に対する筋力トレーニング:段階づけと代表ドリル(例)
段階 主目標 代表ドリル(目安) 次段階の目安
Stage 0:ベッド上 疼痛の最小化と筋活動の再学習 セッティング/足関節ポンプ/ヒールスライド/ブリッジ(許容範囲)
RPE 11・15–20 回× 2 セット
端座位 3–5 分を許容し、SpO₂・心拍が安定
Stage 1:座位 座位耐久性と下肢基礎筋力 膝伸展(LAQ)/足関節底背屈/セラバンド体幹・肩甲帯
RPE 11–12・15 回× 2–3 セット
立位試行で自覚症状が乏しく、回復が速い
Stage 2:立位 抗重力筋の強化と立位保持 ヒールレイズ/トゥレイズ/股外転・伸展(バンド)/部分 STS
RPE 12–13・10–15 回× 2–3 セット
立位 3–5 分と短距離歩行でバイタル安定
Stage 3:課題特異 起立・歩行・階段など機能課題 フル STS/ミニスクワット/ステップアップ/歩行反復
RPE 13(許容で 14)・8–12 回× 3 セット
ADL が拡大し、遅発性筋痛が軽度で支障が少ない

強度設定の実務(RPE ×反復の早見)

効果を出すには「頑張らせすぎて中止」を避けつつ、一定以上の負荷が必要です。現場で使いやすいのが RPE で、患者さんの体感に合わせて微調整できます。

下表は、RPE と反復の「ざっくり対応」です。まずは RPE 12–13 の範囲で、フォームが崩れない反復数を確保し、翌日に残りすぎない量で積み上げます。

※ 表は横スクロールできます。

RPE と概ねの反復回数・ねらい(目安)
RPE 反復回数の目安 主なねらい 注意点
11 15–20 回 可動域の維持/神経適応/フォーム習得 疼痛を増やさない。息こらえ回避。テンポ一定。
12–13 10–15 回 筋持久力〜基礎筋力の回復(初期〜中期) 翌日に残りすぎる場合は量を 2–3 割減。
14–15 6–10 回 筋力の向上(安全確認後) フォーム破綻/強い息こらえが出たら即減量。

起立-着座(STS)を“中核ドリル”にする

廃用の筋力づくりで「最も実装しやすく、ADL に直結」しやすいのが STS です。器具が少ない場面でも展開でき、筋力・バランス・持久力をまとめて刺激できます。

はじめは高座面・手すり・介助下で 5–10 回× 2–3 セット(RPE 11–12)から。高座面→標準→低座面、手支持→非支持、一定テンポ→降ろしをゆっくり(エキセントリック重視)の順に負荷を上げます。

器具を使う場合のコツ

器具は「効かせる」ためではなく「同じ運動を安全に再現する」ために使います。最初から重さを追うと代償が増え、痛みや中止につながります。

セラバンドは軽→中→高へ段階的に変更し、重錘は 0.25–0.5 kg から小刻みに増量します。負荷よりもフォームを優先し、息こらえが出る場合はテンポを落として呼吸を合わせます。

安全・中止基準(現場の目安)

「止めどき」が曖昧だと、スタッフ間で負荷がブレて疲弊します。先に中止基準を共有すると、説明も記録も一気に楽になります。

下表は、現場で使いやすい目安です。医師の指示や院内基準がある場合は、そちらを優先してください。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群の筋力トレーニング:中止・減量の目安(例)
区分 目安 対応 記録ポイント
即時中止 胸痛/新規の神経症状/失神・前失神/重度の呼吸困難 ただちに中止し、評価・報告を優先 発症時刻、運動内容、バイタル、自覚症状の推移
減量・中止 SpO₂ 90%未満、または安静時から −4%以上が持続 負荷・反復を下げ、回復しなければ中止 最低値、回復までの時間、介入(休憩・呼吸介助など)
要相談 著明な血圧変動(例:収縮期 200 mmHg 以上 / 90 mmHg 未満 相当) 医師と協議し、条件・量・種目を再設計 前後差、症状、内服・補液など背景
延期 発熱・感染徴候の増悪、DVT 急性期が疑わしい 再評価を優先し、プログラムは一旦延期 兆候の根拠(下腿腫脹、痛み、炎症所見など)

現場の詰まりどころ/よくある失敗

廃用の筋力トレーニングは「正しい種目」より、運用が続く形を作れるかで差が出ます。詰まりやすいのは「開始条件が曖昧」「記録がバラバラ」「翌日に残って中止」の 3 つです。

迷ったら先に 5 分フロー中止・減量の目安 を確認してください。離床そのものの再開条件までそろえたい場合は、離床の中止基準と再開基準 も合わせてみると、申し送りがぶれにくくなります。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群の筋力トレーニングで詰まりやすい場面と修正の型
詰まりどころ 起きやすい失敗 その場の修正 次回記録
量の上げ方 「頑張った=良い」で一気に増やし、翌日に拒否される 次回は量を 2–3 割減らし、回復後に戻す 翌日の疲労、DOMS、拒否の有無
呼吸との合わせ方 息こらえで血圧が跳ねる テンポを落とし、「吐きながら」で再実施する 息こらえ、会話の余裕、回復時間
段階づけ STS をいきなり低座面で実施する 高座面+手支持から入り、 1 段階ずつ進める 座面高、支持物、介助量
共有のしかた 「今日は軽め」など曖昧語で終わる RPE /回数/中止理由/次回条件を 1 行で残す 次回の開始段階と増減条件

評価とのつなぎ方

同じ安静期間でも回復スピードは個人差が大きく、「許容量の見立て」がない筋トレは危険です。筋力・持久力・起立耐性を同じ物差しで追うと、負荷調整が再現できます。

まずは「何を追うか」を揃え、毎回同条件で比較してください。たとえば、STS 回数、立位保持時間、歩行距離、RPE、SpO₂ の下がり方、回復時間などを固定しておくと、筋トレの記録がそのまま改善の証拠になります。

ダウンロード

記事内容に合わせて、現場でそのまま使える 筋力トレーニング記録シート(A4・印刷用)を用意しました。セッションの「実施内容」と「次回調整」が 1 枚で残せる形式です。

下のボタンから PDF を開けます。印刷して病棟・リハ室の運用に合わせてお使いください。

PDF を開く(印刷用)

PDF を記事内でプレビューする

プレビューが表示できない場合は、上の「PDF を開く(印刷用)」からご確認ください。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

高齢で低栄養でも筋トレはして良い?

基本的には有効です。ただし最初は RPE 11–12 から始め、運動後のたんぱく質摂取と水分補給をセットにします。嚥下や食思不振がある場合は、栄養チームと連携して形態・タイミングを調整します。

遅発性筋痛(DOMS)が出たら中止?

軽度の筋肉痛なら継続できます。次回は量を 2–3 割減らし、テンポを整えてフォーム優先にします。強い痛みや明らかな機能低下がある場合は、負荷設定を見直し休養を優先します。

RPE を言語化できない人はどうする?

表情・呼吸・会話の余裕・動作速度の低下を合わせて見ます。「話しながらできる」「終わった直後に 1 分以内で息が整う」など、チームで共通の観察ポイントを決めるとブレが減ります。

STS が痛い(膝痛・股関節痛)ときは?

まず高座面・手支持で負荷を下げ、疼痛が出にくい可動域で反復します。膝前面痛なら座面高を上げ、股関節痛なら足部位置を調整し、体幹前傾の量を減らします。

次の一手

まずは「段階」と「中止基準」をチームで共有し、今日からは記録シートで RPE /反復/次回調整 を残してください。 1 週間で「どの量が続くか」が見えてきます。

関連:廃用の全体像は 廃用ハブ で整理できます。

関連:評価 → 離床 → 再評価の流れを通して確認したい場合は 廃用症候群のリハビリ を続けて読むとつながりやすいです。


参考文献

  1. Fiatarone MA, Marks EC, Ryan ND, Meredith CN, Lipsitz LA, Evans WJ. High-Intensity Strength Training in Nonagenarians: Effects on Skeletal Muscle. JAMA. 1990;263(22):3029-3034. doi:10.1001/jama.1990.03440220053029. PubMed
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  3. Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019;33(8):2019-2052. doi:10.1519/JSC.0000000000003230. PubMed
  4. McKendry J, Breen L, Shad BJ, Greig CA. Mitigating disuse-induced skeletal muscle atrophy in ageing: resistance exercise as a critical countermeasure. Exp Physiol. 2024. doi:10.1113/EP091937. PubMed
  5. Guo X, Zhou Y, Li X, et al. Resistance exercise training improves disuse-induced skeletal muscle atrophy in humans: a meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Musculoskelet Disord. 2025;26:134. doi:10.1186/s12891-025-08384-7. DOI
  6. Morishita S, Tsubaki A, Nakamura M, Nashimoto S, Fu JB, Onishi H. Rating of perceived exertion on resistance training in elderly subjects. Expert Rev Cardiovasc Ther. 2019;17(2):135-142. doi:10.1080/14779072.2019.1561278. PubMed

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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