このページのねらい(訪問リハの「1 日像」をつかむ)
訪問リハビリに興味はあるけれど、「実際の 1 日がイメージできない」「病院勤務と何が違うのか不安」という声をよく聞きます。担当件数や移動時間、記録や会議のボリュームは職場によって大きく異なり、パンフレットや求人票だけではイメージしにくいのが実情です。本記事では、あくまで一例として、理学療法士の訪問リハ 1 日の流れと、働き方の特徴を整理します。
あわせて、病院勤務との違い、訪問リハに向いている人・しんどくなりやすい人の傾向、件数や残業感など「転職前に知っておきたいポイント」もコンパクトにまとめました。実際の働き方は事業所ごとに大きく違うため、ここで得たイメージをもとに、見学や面談で具体的な質問をしていく土台として活用してみてください。
訪問リハを含めたキャリアの選び方を確認する( PT キャリアガイド)
訪問リハ PT の 1 日の流れ(タイムライン)
訪問リハの 1 日は、ざっくり言うと「準備 → 移動 → 訪問(評価・リハ)→ 移動 → 訪問… → 終業前の記録・連絡」というサイクルで進みます。朝は事業所でその日のスケジュールや連絡事項を確認し、書類や物品の準備、必要に応じて看護師・ケアマネとの情報共有を行います。その後、社用車や自転車などで利用者宅へ移動し、 1 件あたり 40〜60 分前後のリハと記録を繰り返していきます。
日中は訪問先と訪問先のあいだに移動が挟まれるため、「連続して 5 件」というよりは、移動時間も含めたブロックで 1 日を設計します。昼休憩は事業所に戻る場合もあれば、移動の合間に車内や近くのコンビニでとることもあります。終業前には、電子カルテや紙カルテへの入力、主治医やケアマネへの報告、翌日の準備などをまとめて行うケースが多く、ここをどれだけ効率よく進められるかが、残業時間に直結しやすいポイントです。
病院勤務との違い(裁量・責任・移動時間)
病院勤務と比べたときの大きな違いは、「一人で判断する場面が多いこと」と「移動が仕事の一部になること」です。病棟ではナースステーションや同僚の PT がすぐ近くにいますが、訪問では原則として一人で利用者宅へ向かい、その場で体調変化やリスクを評価しながらリハの実施可否を判断します。自由度が高い一方で、急変時の対応や中止・延期の判断など、責任の重さも増すイメージです。
もう一つの特徴は、移動時間が勤務時間のかなりの割合を占めることです。地域や事業所の体制によっては、片道 15〜30 分の移動を何度も繰り返すことになり、「実際にリハをしている時間」と「移動・準備・記録にかかる時間」のバランスが病院とは大きく異なります。そのため、運動負荷の設定や自主トレの工夫だけでなく、「限られた訪問時間で何を優先するか」を整理するスキルが求められます。
訪問リハに向いている人・しんどくなりやすい人
訪問リハに向いているのは、ある程度の自由度がある方が力を発揮しやすく、「自分で考えて動くこと」が好きなタイプです。 1 件ごとの状況に応じて、評価の順番や介入内容、家族への説明内容を組み立てていく必要があり、「正解が 1 つに決まっていない状況」で考えるのが得意な人には大きなやりがいがあります。また、在宅ならではの生活背景を見ることが好きな人、家族や他職種とのコミュニケーションを楽しめる人とも相性が良いです。
一方で、「常に誰かに確認しながらでないと不安」「マニュアル通りでない場面が苦手」というタイプは、最初のうちは負担を感じやすいかもしれません。また、運転や移動が大きなストレスになる人、オンとオフの切り替えが苦手で、仕事のことをずっと考えてしまう人は、件数が増えるほど疲弊しやすい傾向があります。ただし、教育体制や同行期間、相談しやすい先輩の有無によっても負担感は大きく変わるため、「職場のサポート体制」が自分に合うかどうかを見極めることが重要です。
件数・給与・残業感など働き方のポイント
訪問リハの 1 日あたりの担当件数は、地域や事業所によって差がありますが、移動時間を含めて 5〜7 件前後を目安にしているところが多い印象です。件数が多いほど経験は積めますが、そのぶん移動と記録がタイトになりやすく、無理なスケジュール設定は安全面にも影響します。求人を見るときは、単に「月何件」という数字だけでなく、「移動距離」「同一利用者の連続枠」「記録時間を勤務時間内とみなしているか」なども確認しておきたいポイントです。
給与については、病院と同程度のケースもあれば、インセンティブ制や歩合制で件数に応じて増減するケースもあります。固定給+インセンティブの場合は、「何件目から加算がつくのか」「残業代や直行直帰の扱いはどうなっているか」をチェックしておきましょう。残業感は、記録・会議・書類業務の扱いに左右されやすく、電子カルテやタブレット入力が整っている事業所では、比較的負担が少ない傾向があります。
現場の詰まりどころ(記録・移動・情報共有)
訪問リハの現場でよく詰まりやすいのが、「記録・移動・情報共有」の 3 点です。訪問時間を守ろうとすると、どうしても記録が後回しになりがちで、夕方にまとめて入力しようとしても、細かなニュアンスが思い出せないことがあります。また、渋滞や天候、駐車スペースの有無など、移動に関わる要因でスケジュールが崩れると、他の利用者にも影響が波及しやすいのが訪問ならではの難しさです。
情報共有では、主治医・看護師・ケアマネジャー・ヘルパーなど、関わる職種が多いぶん、「誰に・どこまで・どの頻度で報告するか」が曖昧になりやすいです。ここを個人の頑張りだけに任せると、連絡漏れや認識のズレが生じやすくなります。事業所として、報告方法(電話・書面・メール)、タイミング(急変時・定期・担当者会議前など)、記録フォーマットをあらかじめ決めておくことで、個々の負担を減らしつつ安全性を高めることができます。
よくある質問( FAQ )
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Q. 教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?
訪問リハは一人で判断する場面が多いため、教育体制や相談できる先輩の有無は安全面にも直結します。「同行期間が極端に短い」「急変時やリスク判断を相談できる窓口がはっきりしない」状態が続く場合は、まず上司や管理者に具体的な不安を伝え、改善の見込みがあるかを確認してみましょう。それでも状況が変わらない、または安心して学べるイメージが持てないときは、 PT キャリアガイド(職場選びのチェックポイント)なども参考にしつつ、情報収集や見学を含めて次の選択肢を検討して良いタイミングです。
おわりに(1 日の「型」を持つと見学が変わる)
訪問リハの 1 日は、「事前準備 → 移動 → 評価・リハ → 記録 → 情報共有・明日の準備」というリズムが見えてくるほど、働き方のイメージが具体的になります。今回のタイムラインや向き・不向きの整理を頭に入れておくと、見学や面談のときに「この事業所では移動や記録をどう扱っているのか」「新人フォローはどのタイミングで入るのか」など、具体的な質問がしやすくなります。自分に合うリズムかどうかを確かめながら、無理のない形でキャリアの選択肢を広げていきましょう。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

