本記事は医療従事者向けの一般情報です。診断や治療の最終判断は各施設の指針・担当医の指示に従ってください。強いむせ、吸気性喘鳴、SpO₂の顕著な低下などが出現した場合は直ちに評価を中止し、適切な対応を行ってください。
摂食嚥下障害のスクリーニング検査:妥当性と使い分け(ベッドサイド実践ガイド)
本ページは、ベッドサイドで用いるスクリーニング検査(RSST・MWST・水飲みテスト・EAT-10・GUSS・V-VST など)を、目的別の使い分け・実施の勘所・安全/中止基準まで 1 か所に整理します。詳細な手順や質問紙の設問本文は権利の都合上掲載しませんが、再現性を高めるコツと記録の型を提示し、今日の臨床から使える形に最適化しました。
スクリーニングは単独で確定診断を行うものではありません。体位・一口量・介助量など条件を固定し、必要に応じて RLP/GS や 総論フロー と組み合わせて解釈します。
嚥下評価を“手順で学ぶ”|ST キャリアガイド(#flow)
検査マップ:まず何を選ぶ?(最短フロー)
- 安全確認:意識・呼吸・SpO₂・バイタル。NG なら体位再設定/医師へ連絡。
- 迅速スクリーニング:まずは RSST(唾液嚥下の反復)。
- 液体の安全確認: MWST または 水飲みテスト(体位・一口量を固定)。
- 自覚症状: EAT-10(合計点の推移で把握。設問本文は転載していません)。
- 体位/筋力の影響確認: RLP/GS を併用評価。
全体像は 嚥下評価ハブ からも辿れます。
使い分け早見表(妥当性の観点を含む)
| 検査 | 主目的・強み | 所要 | 判定の目安 | 偽陰性/偽陽性を減らす工夫 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| RSST | 装置不要・迅速。嚥下誘発と反復の可否をみる | 30 秒 | 回数低下・誘発遅延=リスク所見(院内基準で運用) | 口腔湿潤を整える/説明を簡潔に/喉頭挙上を触診し声質も確認 | 意識レベル・注意機能に左右されやすい |
| MWST | 少量水での安全確認(段階的) | 1–2 分 | むせ・湿性嗄声・呼吸変化の有無(施設基準に従う) | 一口量・体位を固定/嚥下誘発が遅い人は待機を十分に | 高リスクでは先に体位最適化を |
| 水飲みテスト | 連続嚥下での耐性をみる | 1–2 分 | むせ・咳・湿性嗄声・飲み切り可否 | 「一気飲み」を避け段階化/介助量を記録 | 高リスク症例は実施しない判断も |
| EAT-10 | 患者報告式の自覚症状スクリーニング | 2–3 分 | 合計点の推移で把握(設問本文は掲載しない) | 説明は平易に/再評価は同条件・同説明者で | 理解度や文化差の影響あり |
| GUSS | 固形〜液体で段階的に評価し層別化 | 5–10 分 | 段階スコア(施設基準) | 準備物と進行手順を標準化/体位を固定 | 観察者の経験差が出やすい |
| V-VST | 量 × 粘度で安全域を推定 | 5–10 分 | むせ・湿性嗄声・SpO₂ 変化 | 増粘液のレシピ管理/酸素化の連続モニタ | 準備・教育コストは高め |
各検査の実施ポイント(要点のみ)
RSST
- 説明は「今から 30 秒で唾を何回飲み込めるか」を一文で。
- 喉頭挙上を指先で触れながら声質も聴取。むせ・湿性嗄声は併記。
- 口腔乾燥が強い場合は口腔ケア後に再試行を検討。
MWST(改訂水飲みテスト)
- 体位・一口量を固定。嚥下誘発の遅延が疑われる場合は待機を十分に。
- むせ・湿性嗄声・呼吸変化(SpO₂ 低下など)を観察。
水飲みテスト(連続嚥下)
- 段階化(少量→連続)。「一気飲み」は避ける。
- 飲み切り可否に加え、再呼吸の質を記録。
EAT-10
- 設問本文は著作物のため転載しません。スコアの扱いのみ解説し、検査票は公式資材を用いてください。
- 再評価は同条件・同説明者を推奨。
GUSS
- ゼリー〜液体の段階で層別化。準備物(粘度・量)をシートで固定。
- 観察者のばらつきを減らすため、事前の模擬演習が有効。
V-VST
- 量と粘度を変えながら範囲を推定。増粘液のレシピは院内で標準化。
- SpO₂ の連続モニタを行い、低下があれば直ちに中止。
症例で見る“選び方”の型(ミニケース 3)
- 脳卒中 1–2 病日:RSST → 体位最適化後に MWST(必要に応じて中止基準を確認)→ 自覚症状は EAT-10 は後日に。
- 高齢・乾燥強い在宅:口腔ケア → RSST → 少量の MWST → 状況に応じ V-VST の準備検討。
- COPD 合併:RSST と EAT-10 を先行 → MWST/水飲みは SpO₂ 監視下で段階化。
スクリーニング記録シート(自動チェック・印刷可)
最低限の“揃えるべき記録”をテンプレ化しました。入力すると簡易の注意表示が出ます(しきい値は院内基準に置換)。
安全配慮・中止基準
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 強い頸部痛・めまい・嚥下時痛 | 即時中止。疼痛評価と主治医へ共有。 |
| SpO₂ 低下(目安 3% 以上)/チアノーゼ | 休止し体位・呼吸を再設定。必要時は吸引・連絡。 |
| 強いむせ・吸気性喘鳴・湿性嗄声の持続 | 同条件での再試行は避け、段階を戻す/別日に再評価。 |
次の一歩(内部導線)
- 摂食嚥下評価(総論):評価の 5 ステップと観察ポイント。
- RLP/GS(手順特化):ランドマーク・計算式・判定基準。
- 多職種連携ガイド:申し送りテンプレと共有最小セット。
執筆:山田 太郎(PT)|嚥下リハ臨床 年数:10年
監修:佐藤 花子(ST)|摂食嚥下リハビリテーション学会会員
最終更新:2025-09-19 / 編集方針:編集ポリシー
参考文献
- ベッドサイド嚥下スクリーニングの妥当性・信頼性に関する総説(DOI / PubMed 追記予定)
- RSST・MWST・水飲みテスト・EAT-10・GUSS・V-VST の原著/各国ガイドライン(DOI / PubMed 追記予定)


