EIH が出ない慢性疼痛では「反応」と「運動条件」を分けて見直す
結論からいうと、EIH が確認できない、または運動後に痛みが増える慢性疼痛では、「運動が効かない」と判断する前に、同じ条件で反応を確認し、部位・運動様式・強度や量・分割のうち 1 つだけを変更して再評価します。重要なのは、1 回の反応だけで responder / nonresponder を固定しないことです。本稿では、慢性疼痛の成人を想定し、EIH が得られにくいときに「何を確認し」「次に何を変えるか」を実務の流れに沿って整理します。
EIH の定義・機序・一般的な運動条件は親記事で扱います。本稿では、非反応や痛み増悪がみられた後の分岐に絞ります。
EIH の基本から確認したい場合

図版を見るときの注意:図中の「低下・変わらない・増加」は、日常臨床で確認する痛みや動作の前後反応を整理したものです。NRS などの臨床症状が低下したことだけで、EIH の陽性・陰性を確定するものではありません。
最初に確認するのは安全性・比較指標・悪化条件
運動条件を変更する前に、安全に実施できること、前後で比較する指標、これまで症状が悪化した条件を確認します。慢性疼痛では急性運動後の反応に個人差があるため、最初から多数の評価を追加するより、次回も同じ条件で比較できる状態を作ることが重要です。
| 領域 | 確認すること | 使い方 |
|---|---|---|
| 症状 | NRS などの痛み、誘発動作、症状の広がり、過去のフレア | 同じ条件で運動前後を比較できる指標を決める |
| 安全性 | 新規・進行性の神経症状、全身状態の変化、著明な腫脹・熱感、運動に伴う強い呼吸循環器症状など | 通常の運動反応として説明できない変化があれば、運動処方より医学的評価を優先する |
| 悪化条件 | どの運動、部位、強度、時間で悪化しやすかったか | 同じ条件を無目的に反復せず、次に変更する変数を決める |
| 心理社会的要因 | 運動への不安、悪化予期、過去の失敗経験、本人が避けている動作 | 運動量を機械的に決める基準ではなく、説明方法や開始条件を調整する材料にする |
| 疼痛調節機能 | CPM などの定量的評価がすでに得られている場合は参考にする | 通常診療で EIH を判断するための必須項目とはしない |
NRS の前後差と EIH そのものは分けて考える
NRS や動作の前後差は臨床上の反応確認には使えますが、それだけで EIH を直接測定したことにはなりません。EIH の研究では、圧痛閾値などの実験的疼痛感受性を運動前後で比較する方法が多く用いられています。
一方、日常臨床では毎回そのような測定を行えるとは限りません。その場合は、「EIH 陽性・陰性」と断定するより、この運動条件で臨床症状が低下した・変わらなかった・増加したと記録するほうが実務上明確です。
| 見るもの | 意味 | 記録例 |
|---|---|---|
| 圧痛閾値など | EIH を検討するために研究で用いられる疼痛感受性指標 | 運動前後の測定条件をそろえて記録する |
| NRS | 本人が感じる臨床的な痛みの変化 | 運動前 5 → 運動直後 4 |
| 誘発動作 | 実際の活動や動作が行いやすくなったか | 立ち上がり時痛、歩行、挙上動作などを同条件で比較する |
| 時間経過 | 運動後の増悪がどの程度続いたか | 直後だけでなく、その後と翌日の反応も確認する |
この区別をしておくと、「EIH は測定していないが、臨床症状は改善した」「疼痛感受性は低下したが、日常動作は変わらなかった」といった結果も混同せず記録できます。
変わらない・増えるときは 1 変数だけ変更する
EIH が確認できない、または臨床症状が変わらない場合でも、その 1 回だけで運動療法が無効とは判断しません。急性運動後の疼痛反応には個人差があり、EIH 自体の再現性にも限界があります。次回は条件を 1 つだけ変更し、同じ指標で再評価します。
- 部位:疼痛部位で反応が悪ければ、非疼痛部位を使う運動も候補にする
- 運動様式:等尺性運動、有酸素運動、動的レジスタンスなど、別の様式へ変更する
- 強度・量:症状増悪が強ければ負荷や実施量を減らし、刺激不足が疑われる場合も一度に大きく増やさない
- 分割:連続運動で後半に症状が増える場合は、短い運動を複数回に分ける
| 反応 | まず確認すること | 次に変更する候補 | 再評価 |
|---|---|---|---|
| 症状が低下する | 同じ条件で再現するか | すぐに複数条件を変えず、まず成功条件を確認する | 同じ指標と時間経過を記録する |
| 変わらない | 運動量不足だけでなく、部位や運動様式が合っているか | 部位または運動様式など 1 変数だけ変更する | 変更前と同じ指標で前後比較する |
| 運動直後に増える | 運動中の症状、負荷、総量、フォーム、実施部位 | 負荷・量を下げる、分割する、非疼痛部位へ変更する | 直後だけでなく、その後の回復経過も確認する |
| 翌日まで明らかな増悪が残る | 前回の総負荷と症状経過 | 次回は負荷・量・頻度のいずれかを下げる | 同程度のフレアが再現するか確認する |
ポイントは「全部変えない」ことです。部位、運動様式、強度、時間を同時に変更すると、どの条件が反応に影響したのか分からなくなります。
EIH が出ないときに起こりやすい 4 つの詰まり
1.NRS が下がらないだけで EIH 非反応と決める
NRS は臨床的な疼痛強度を把握する指標ですが、EIH の実験的評価と同じものではありません。EIH を直接測定していない場合は、「EIH がない」と断定するより、今回の条件では臨床症状の低下を確認できなかったと整理します。
2.部位・運動様式・強度を同時に変える
複数の条件を同時に変更すると、反応が改善しても原因が分かりません。次回の処方につなげるため、原則として変更する変数は 1 つにします。
3.運動直後の痛みだけで良否を決める
慢性疼痛では、運動直後だけでなく、その後の症状推移や翌日の活動への影響も重要です。運動直後の変化と、持続するフレアは区別して記録します。
4.1 回の結果で responder / nonresponder を固定する
EIH の反応には測定間のばらつきがあります。そのため、1 回の結果だけから「この患者には EIH が起こらない」と固定的に分類するより、条件と反応を記録しながら再評価するほうが適切です。
迷ったときの 4 ステップ
- 同じ指標を決める:NRS、誘発動作など、臨床で再現できる指標を固定する
- 今回の反応を分類する:低下・不変・増加のどれだったかを整理する
- 次に変える変数を 1 つ選ぶ:部位、運動様式、強度・量、分割から選ぶ
- 時間経過まで記録する:直後だけでなく、その後と翌日の反応を次回処方へつなげる
この 4 ステップを繰り返すことで、「とりあえず運動を弱くする」「痛いから別の運動へ全部変える」といった場当たり的な処方を減らせます。
在宅では「症状・運動量・戻り方」を記録する
在宅運動では、複雑な記録表を作るより、開始前の症状、実施した運動と負荷・時間、終了後の症状、その後の回復経過を同じ形式で残します。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 開始前 | NRS、誘発動作の状態 |
| 運動内容 | 運動様式、部位、時間、負荷や RPE |
| 終了後 | 同じ NRS・誘発動作を再確認する |
| その後 | 症状が戻った時点、夜間・翌日の変化 |
同じ条件で症状増悪が繰り返される場合は、運動量だけでなく、運動様式や部位を含めて処方を再検討します。
運動調整より医学的評価を優先する場面
すべての運動後疼痛を EIH の問題として扱わないことも重要です。新規または進行する神経症状、明らかな全身状態の変化、著明な腫脹・熱感、運動に伴う強い呼吸循環器症状など、通常の慢性疼痛のフレアだけでは説明しにくい所見があれば、その日の運動条件調整より医学的評価を優先します。
既知の疾患や術後状態などで個別の運動制限・中止基準が設定されている場合は、そちらを優先してください。
患者説明は「効く・効かない」ではなく条件探しとして伝える
患者さんには、EIH という専門用語を前面に出すより、安全に動ける条件を一緒に探していると説明すると目的を共有しやすくなります。
「今日は、運動の前後で痛みや動きやすさがどう変わるかを確認します。変化がなくても失敗ではありません。運動する場所や種類、負荷、続ける時間を一つずつ変えて、無理なく続けられる条件を探していきます。痛みが増えた場合も、どのくらい続いたかを次回教えてください。」
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
NRS が 1 点下がれば EIH が起きたと判断できますか?
NRS の低下は臨床症状の前後変化として参考になりますが、それだけで EIH を直接確認したとは言えません。EIH の研究では圧痛閾値などの疼痛感受性が多く用いられています。日常臨床では「この運動条件で NRS が低下した」と記録し、EIH の測定結果とは区別して扱うほうが明確です。
EIH が出なければ、その運動はやめるべきですか?
1 回の反応だけで中止を決める必要はありません。EIH の反応には個人差や測定上のばらつきがあります。安全性を確認したうえで、部位、運動様式、強度・量、分割のうち 1 つを変更し、同じ指標で再評価します。
運動後に痛みが増えたら、どこを最初に変えますか?
まず、その増悪が通常の症状変動として扱える範囲か、安全面の再評価が必要な変化かを確認します。そのうえで運動負荷や量、実施部位、運動様式を確認し、一度にすべてを変更せず 1 つずつ調整します。
CPM は EIH が出るかどうかを判断するために毎回必要ですか?
通常診療で毎回測定する必須項目ではありません。CPM と EIH は疼痛調節機能を考えるうえで関連する概念ですが、同じ現象ではありません。すでに評価結果がある場合は仮説形成の材料にし、日常臨床では運動条件と反応を再現できる形で記録することを優先します。
次の一手
参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級

