運動失調の評価|分類からSARA・ICARS・UMSARSを選ぶ
運動失調の評価では、最初からSARAやICARSを選ぶのではなく、まずどの条件で動作が崩れるかを整理し、評価したい目的に合う尺度を選ぶことが重要です。小脳性・感覚性・前庭性・大脳性などの特徴を確認し、歩行、方向転換、上肢操作など実際の破綻場面へつなげます。
このページでは、運動失調を分類 → 破綻場面 → 評価目的 → 尺度選択 → 条件固定 → 再評価の順で整理します。SARA・ICARS・UMSARSの詳しい採点方法ではなく、「どの尺度へ進めばよいか」「何を記録して再評価するか」を判断するための運動失調ハブです。
結論|運動失調は「分類→目的→尺度」の順で評価する
運動失調では、尺度を先に決めるのではなく、症状の特徴と破綻場面を確認してから評価目的を決めると整理しやすくなります。そのうえで、失調の重症度を簡潔に追うならSARA、より多面的に失調症状を見るならICARS、MSA全体の病勢や生活への影響を見るならUMSARSを候補にします。
| 確認したいこと | 主な評価 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 失調の重症度を簡潔に追いたい | SARA | 同じ条件で経時変化を確認する |
| 失調症状をより多面的に確認したい | ICARS | 姿勢・歩行、四肢、構音、眼球運動などの内訳を見る |
| MSA全体の病勢・生活影響を確認したい | UMSARS | 失調だけでなくADLや自律神経症状なども含めて整理する |
SARAの実施・採点を確認したい場合は、SARA評価のやり方で詳しく確認できます。
初回評価の流れ|安全確認から再評価条件まで決める
初回評価では、安全確認 → 症状の特徴 → 破綻場面 → 評価目的 → 尺度の順で整理します。突然出現した症状、新規の神経症状、急速な増悪などがある場合は、運動失調の評価を進めることより医師・看護師を含むチームでの確認を優先します。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 順番 | 確認すること | 目的 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 1. 安全確認 | 突然の発症、新規症状、急速な変化など | 評価継続より医学的確認を優先すべき変化を見逃さない | 「前回から急な神経症状の変化なし」 |
| 2. 症状の特徴 | 小脳性、感覚性、前庭性、大脳性などを示唆する所見 | 「ふらつき」だけでまとめない | 「閉眼条件で動揺増大。深部感覚も確認する」 |
| 3. 破綻場面 | 直線歩行、方向転換、停止、不整地、リーチ、上肢操作など | 生活上の問題へつなげる | 「方向転換終末で右外側への動揺が増える」 |
| 4. 評価目的 | 重症度、症状の内訳、疾患全体の病勢など | 必要な尺度だけを選ぶ | 「失調重症度の経過確認を目的とする」 |
| 5. 条件固定 | 時間帯、靴、補助具、介助、疲労など | 次回との比較可能性を高める | 「午前、T字杖使用、見守り条件」 |
運動失調の分類|1つの所見だけで決めない
運動失調の分類では、単一の所見だけで小脳性・感覚性・前庭性などを決めないことが重要です。たとえば閉眼で動揺が増えることだけで感覚性運動失調と断定せず、深部感覚、視覚への依存、めまい・眼振、四肢協調運動など複数の所見を組み合わせます。
PTの評価では診断名を決めることより、どの入力や課題条件で動作が崩れ、どの生活場面に影響しているかを明確にすると、その後の機能評価や介入へつなげやすくなります。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 分類 | 確認する所見 | 確認したい場面 | 記録のポイント |
|---|---|---|---|
| 小脳性 | 測定障害、企図振戦、反復変換運動の拙劣、体幹・歩行失調など | 方向転換、停止、リーチ、上肢操作 | ずれの方向、振幅、速度、課題終末での変化を残す |
| 感覚性 | 深部感覚低下、視覚への依存、閉眼条件での変化など | 暗所、不整地、立位、段差 | 開眼・閉眼、床面、視覚条件を区別する |
| 前庭性 | めまい、眼振、頭位や頭部運動との関連など | 起き上がり、頭部回旋、方向転換 | 誘発する頭位・運動と症状の時間経過を残す |
| 大脳性 | 前頭葉機能などを含む高次脳機能との関連を確認する | 二重課題、環境変化、複雑な手順 | 注意配分や課題条件による変化を残す |
SARA・ICARS・UMSARSの使い分け|評価対象が違う
SARA・ICARS・UMSARSは、単純に「簡易版・詳細版」と並べる尺度ではありません。SARAとICARSは失調症状の重症度評価、UMSARSはMSAを対象とした疾患特異的評価であり、まず何を評価したいかを明確にして選びます。
SARAは8項目で構成された失調重症度尺度です。ICARSは姿勢・歩行、四肢失調、構音、眼球運動などを複数の領域に分けて評価します。UMSARSはMSA患者を対象に、生活機能、運動機能、自律神経機能などを多面的に評価するために開発されています。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 尺度 | 主な評価対象 | 向いている目的 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SARA | 失調症状の重症度 | 比較的簡潔に失調重症度を評価・追跡したいとき | 点数だけでなく、どの場面で機能が破綻しているかも別に記録する |
| ICARS | 姿勢・歩行、四肢失調、構音、眼球運動など | 失調症状を複数の領域から詳しく確認したいとき | SARAより評価項目が多いため、評価目的を明確にして使用する |
| UMSARS | MSAの疾患全体 | MSAの病勢やADL、運動機能、自律神経機能などを共有したいとき | 失調だけを評価する尺度ではないため、目的を分けて解釈する |
ICARSの項目・採点を確認したい場合は、ICARSの評価方法で確認できます。
臨床では「毎回同じ尺度」より評価目的を固定する
原著論文やレビューは、特定の臨床現場で「経過観察では必ずSARA、初回だけICARS」といった一律の運用方法を定めているわけではありません。疾患、評価目的、患者の状態、必要な情報量に応じて尺度を選択します。
実務上は、同じ対象者を経時的に比較するときに尺度と測定条件をできるだけそろえると、前回との差を解釈しやすくなります。尺度を変更した場合は、変更した理由も記録しておくと共有しやすくなります。
MSAではUMSARSと失調評価の目的を分ける
MSAでは、UMSARSを「SARAの代わり」と考えるのではなく、評価対象の違いを理解して使い分けます。UMSARSはMSA全体を評価する疾患特異的尺度であり、失調症状だけを詳細に追うことが目的ではありません。
失調の変化を別に評価する必要がある場合は、その目的に合った失調評価を追加します。UMSARSの構成や採点については、UMSARSの評価方法で詳しく整理しています。
記録と再評価|点数+破綻場面+条件を残す
運動失調の再評価では、点数だけでなく「どこで崩れたか」「どの条件で測ったか」をセットで残すことが重要です。同じ点数でも、歩行・方向転換・上肢操作など生活上の問題は異なるためです。
特に時間帯、疲労、靴、補助具、介助条件などが変わった場合は、その違いを記録します。再評価では前回と同じ条件を基本にし、条件を変更した場合は「何を変えたか」を明確にします。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 項目 | 記録すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 尺度 | 使用した尺度と得点 | 「SARA ○点」 |
| 条件 | 時間帯、靴、補助具、介助、疲労など | 「午前、T字杖、見守り条件」 |
| 破綻場面 | どの動作のどの局面で崩れたか | 「方向転換終末で右外側への動揺が増える」 |
| 関連所見 | 感覚、前庭、高次脳機能など評価上関連する所見 | 「閉眼条件で動揺増大。深部感覚を追加確認」 |
| 次回 | 同条件で再確認する項目 | 「同じ歩行条件で方向転換時の動揺を再評価」 |
運動失調評価で詰まりやすい3つのポイント
運動失調の評価で詰まったときは、評価項目を増やすよりも、「尺度だけ」「分類だけ」「条件が違う」のどこで止まっているかを確認します。
| 詰まり | 問題 | 戻し方 |
|---|---|---|
| 尺度の点数だけ残っている | 生活上の問題との関係が分からない | 点数に「破綻場面」を1つ追加する |
| すべて「小脳性」として扱う | 感覚・前庭など他の要素を見落としやすい | 崩れる条件と関連所見を再確認する |
| 前回と点数が違う | 病態変化なのか測定条件の違いなのか判断できない | 時間帯、疲労、補助具、介助などを照合する |
よくある質問
運動失調の尺度選択や再評価で迷いやすい点をまとめます。
Q1. SARAとICARSはどちらを使えばよいですか?
どちらが常に優れているという関係ではありません。比較的簡潔に失調重症度を評価したい場合はSARA、姿勢・歩行、四肢失調、構音、眼球運動など複数領域を詳しく評価したい場合はICARSが候補になります。疾患と評価目的に合わせて選びます。
Q2. MSAではUMSARSだけ取ればよいですか?
UMSARSはMSA全体を評価する疾患特異的尺度であり、失調だけを評価する尺度ではありません。MSA全体の病勢を追うのか、失調症状そのものを詳しく確認するのかで必要な評価が変わります。
Q3. 閉眼でふらつきが増えれば感覚性運動失調ですか?
閉眼による悪化だけで感覚性と断定することは避けます。深部感覚、視覚への依存、前庭症状、四肢協調運動など他の所見と組み合わせて判断します。
Q4. 再評価では何をそろえるべきですか?
使用する尺度に加えて、時間帯、靴、補助具、介助条件、疲労など比較に影響する条件を確認します。前回と条件が異なる場合は、その違いを記録したうえで点数を解釈します。
次の一手|尺度の採点か評価→介入へ進む
このハブで「どの尺度を見るか」を決めたら、次は各尺度の採点方法を確認するか、運動失調の評価結果を介入へつなげます。このページでは各尺度の判定文や介入方法まで広げず、それぞれの詳細記事へ役割を分けています。
参考文献
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- Trouillas P, Takayanagi T, Hallett M, et al. International Cooperative Ataxia Rating Scale for pharmacological assessment of the cerebellar syndrome. J Neurol Sci. 1997;145(2):205-211. doi: 10.1016/S0022-510X(96)00231-6 / PubMed: 9094050
- Wenning GK, Tison F, Seppi K, et al. Development and validation of the Unified Multiple System Atrophy Rating Scale (UMSARS). Mov Disord. 2004;19(12):1391-1402. doi: 10.1002/mds.20255 / PubMed: 15452868
- Milne SC, Corben LA, Roberts M, et al. Rehabilitation for individuals with genetic degenerative ataxia: A systematic review. Neurorehabil Neural Repair. 2017;31(7):609-622. doi: 10.1177/1545968317712469 / PubMed: 28595509
- Perez-Lloret S, van de Warrenburg B, Rossi M, et al. Assessment of Ataxia Rating Scales and Cerebellar Functional Tests: Critique and Recommendations. Mov Disord. 2021;36(2):283-297. doi: 10.1002/mds.28313 / PubMed: 33022077
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

