考え方(再発を防ぐ“型”)
転倒は要因の重なりで起こります。発生後は 48 時間で評価→環境→教育→提案を一気通貫で回し、同時に記録の標準化まで行うことで再発リスクを下げられます。本記事では、院内で共有しやすい「流れ」と「チェックリスト」「SBAR テンプレ」を 1 セットで提示し、誰が対応しても一定水準を担保できることを目指します。
48 時間の流れ(院内標準)
- 0–2 時間:外傷・意識・疼痛の一次評価、バイタルサイン確認、原因仮説(排泄・夜間・薬剤・環境・せん妄など)の整理。
- 2–24 時間:歩行・バランス評価(BBS/TUG/FES-I/ABC など)、 5xSTS や歩容観察を含めた運動機能評価、環境是正(床・照度・動線・コール導線)。
- 24–48 時間:SBAR 形式での多職種カンファレンス・提案(杖・歩行器や介助量、離床時間、薬剤の見直し)、家族説明、記録と再発防止策の共有。
再発防止チェックリスト
| 領域 | 実施項目 | 担当 | 記録/基準 |
|---|---|---|---|
| 身体 | 疼痛・ DVT 徴候・直近の低血糖/低血圧・ふらつき | PT/NS | 起立試験、疼痛 NRS、血糖/血圧ログ |
| 運動機能 | BBS/TUG、5xSTS、歩容観察 | PT | 基準値比較・前回からの差 |
| 環境 | 床材、スリッパ、照明、トイレ動線、コール位置 | NS/介護 | 是正前後の写真・図 |
| 薬剤 | 鎮静/抗コリン/降圧/低血糖薬の有害事象 | 医師/薬剤師 | 薬剤変更の有無と理由 |
| 補助具 | 杖・歩行器の適合、グリップ高さ、練習計画 | PT | 採寸値・練習レベル |
現場の詰まりどころ(よくある抜け漏れ)
現場で多いのは、「転倒直後の処置で終わってしまう」パターンです。外傷確認や疼痛コントロールは実施できても、歩行・バランス評価や環境是正、薬剤・離床時間の見直しが「時間切れ」で後回しになりがちです。また、チェックした内容が個人メモのまま終わり、多職種へ十分共有されない点も詰まりやすいポイントです。
もう一つは、「原因を 1 つに決め打ちする」ことです。夜間・トイレ・スリッパなど一見わかりやすい要因だけに着目すると、起立性低血圧やせん妄、ポリファーマシーなどの背景が見落とされます。48 時間の中で「身体・環境・薬剤・補助具」を 1 セットで確認し、SBAR で提案まで落とし込むことで、再発防止策が“行動レベル”に落ちやすくなります。
SBAR テンプレ(提案の型)
- S:夜間トイレ移動中に転倒。幸い受傷軽微で、頭部 CT 上も新規病変を認めず。
- B:FES-I 高値で転倒への不安が強く、降圧薬調整後から起立性低血圧の所見あり。夜間のトイレ回数増加と眠前薬の影響が疑われる。
- A:夜間離床の頻度と薬剤投与時間、動線上の暗所・段差が重なり、バランス低下と注意散漫が合併して転倒した可能性が高い。
- R:就寝前の水分量調整、夜間は固定型歩行器を使用、トイレまでの動線にモーションセンサー付きライトを設置。薬剤は主治医と相談し、眠前薬と降圧薬の時間帯を調整することを提案。
日常的な転倒リスク評価の考え方やスケールの選び分け自体は、BBS や TUG、FES-I、ABC などの評価を「いつ・誰に・何と組み合わせて使うか」を院内で統一しておくと、インシデント後のプロトコルにも一貫性を持たせやすくなります。
関連記事(導線)
- FES-I(転倒への不安評価)
- ABC スケール(活動特異的バランス自信度)
- BBS・TUG の読み替えと使い分け
- 杖・歩行器の選び方
- ポリファーマシー対策チェックリスト
- FSST(4 スクエアステップテスト)
- 5xSTS(5 回椅子立ち上がりテスト)
おわりに
転倒インシデントへの対応は、「急性期の安全確認 → 48 時間以内の再発防止策立案 → 経時評価と共有」というリズムで考えると、現場で迷いにくくなります。記録のフォーマットと SBAR の“型”をそろえておくことで、担当者が変わっても一定の質を担保しやすく、多職種との信頼関係づくりにもつながります。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
よくある質問
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転倒インシデント後、PT が最初の 2 時間で必ず確認しておきたいポイントは何ですか?
最初の 2 時間は「安全確認」と「大まかな原因仮説づくり」に集中します。具体的には、頭部外傷の有無や意識レベル、疼痛の程度、バイタルサイン(血圧・心拍・ SpO2・体温)、低血糖や急性疾患の兆候をチェックします。同時に、転倒直前の状況(トイレ・移乗・離床直後など)や使用していた補助具、服薬状況を聞き取り、どの要因が重なったかを大づかみに整理しておくと、その後の 48 時間プロトコルにつなげやすくなります。
48 時間プロトコルをすべて回せない日があるのですが、どこを優先すべきでしょうか?
時間が限られる日は、優先順位を「身体安全 > 環境是正 > 共有」の順に置くと現実的です。まずは転倒による二次的合併症(頭部外傷・骨折・ DVT・急性期の血圧変動など)がないかを確認し、その次に動線や照明、履物などの環境を早めに修正します。詳細な歩行評価やスケール記録は翌日以降の再評価に回してもよく、最低限「何を確認し、どこまで対策したか」を簡潔に記録しておくことが再発防止につながります。
転倒インシデント後の記録は、どのくらい具体的に書くべきですか?
再発防止に役立つレベルの具体性が目安です。場所や状況だけでなく、「どの方向へ崩れたか」「どのタイミングでふらついたか」「補助具や介助者との位置関係」「患者さん自身の自覚(めまい・立ちくらみ・足が出にくいなど)」を含めて残しておくと、後から原因分析やカンファレンスを行う際に非常に有用です。数値化できる項目(血圧・スコア・距離・時間など)はできるだけ数字で記録し、主観的情報と客観的情報をセットで残すことを意識しましょう。


