頚部障害指数(NDI)の評価方法|頚部痛の生活障害と MCID の考え方

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頚部障害指数(NDI)とは?|頚部痛の“生活障害”をみる質問票

頚部障害指数(Neck Disability Index:NDI)は、頚部痛による日常生活の障害度を 10 項目・ 0〜5 点で評価する質問票です。痛みそのものではなく「身支度・仕事・趣味・睡眠」などへの影響をスコア化できるため、頚椎症やむち打ち、頚椎手術前後のアウトカム指標として世界的に用いられています。日本語版 NDI も信頼性・妥当性が確認され、理学療法・作業療法でも導入しやすいツールです。

リハビリの現場では、頚部の可動域や筋力だけでは患者さんの困りごとを十分に説明できない場面が多くあります。NDI を併用することで、「痛みの強さ」と「機能障害」を分けて捉え、手術適応・保存療法の経過観察・患者教育などに一貫した指標を持つことができます。本稿では、NDI の構成、実施手順、スコアの解釈と臨床での使い方を 1 ページに整理します。

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NDI の構成項目とカバーする生活機能

NDI は 10 項目からなり、それぞれ 0〜5 点の 6 段階で回答します。内容は「痛みの強さ」「身支度」「物を持ち上げる」「読書」「頭痛」「集中」「仕事」「運転」「睡眠」「趣味・レクリエーション」と、頚部痛に関連しやすい ADL / IADL を広くカバーしています。各項目で「頚の痛みのためにどの程度制限されているか」を尋ねる形になっており、単なる疼痛スケールよりも生活のしづらさが分かりやすく反映されます。

原版は Oswestry Disability Index を頚部痛向けに改変したもので、質問形式やスコアリングも類似しています。日本語版 NDI では文化・生活様式に合わせた翻訳と調整が行われており、患者さんが直感的に答えやすい表現になっています。急性期から慢性期まで幅広く用いられますが、特に慢性頚部痛や頚椎手術前後の経過を追うアウトカム指標として実績があります。

下図は、NDI の 10 項目を「痛み・体調」「基本的 ADL」「集中・認知」「仕事・社会参加」の 4 つの生活領域に整理したイメージ図です。どの領域にスコアが偏っているかを見ることで、目標設定や多職種連携のポイントが見つけやすくなります。

NDI 10 項目と生活機能領域 NDI の 10 項目を 4 つの生活領域(痛み・体調、基本的 ADL、集中・認知、仕事・社会参加)に整理した図 NDI 10 項目と生活機能の領域イメージ 痛み・体調 ・痛みの強さ ・頭痛 基本的 ADL ・身支度(更衣・洗面など) ・物を持ち上げる動作 集中・認知 ・読書 ・集中力の維持 仕事・社会参加 ・仕事(職業・家事を含む) ・運転/睡眠/趣味・レクリエーション

NDI の実施方法と説明のポイント

NDI は基本的に自己記入式で、外来や病棟で患者さんに用紙を渡し、静かな環境で 2〜3 分程度かけて回答してもらいます。多くのバージョンでは「最近 1 週間程度の状態」を想定して答えてもらうため、説明時に評価期間を明確にしておくことが大切です。視力や読み書きに支障がある場合は代読・代筆して構いませんが、その場合も選択肢は必ず患者さん自身に選んでもらいます。

頚椎症性神経根症など、頚部痛と上肢のしびれが混在するケースでは、「頚の痛みや腕のしびれのために、どのくらい生活が制限されているかをイメージしてください」など一言添えると回答が安定します。初回評価だけでなく、介入前後・手術前後・フォローアップ外来など、同じタイミング・同じ説明で繰り返し測定することが、経時変化を正しく読むうえで重要です。

スコアリングと重症度分類・カットオフの目安

NDI は各項目 0〜5 点で採点し、合計 0〜50 点を 0〜100 %に換算して解釈する方法がよく用いられます。一般的には 0〜4 点(〜 8 %)が「ほぼ障害なし」、5〜14 点(10〜 28 %)が「軽度」、15〜24 点(30〜 48 %)が「中等度」、25〜34 点(50〜 68 %)が「重度」、35 点以上(≧ 70 %)が「きわめて高度な障害」とされます。点数だけでなく、どの項目が高得点かを見ることで、患者さんの主訴に沿った目標設定や説明がしやすくなります。

変化量の解釈としては、慢性頚部痛ではおおむね 5〜10 点(10〜 20 %)程度の改善を「臨床的に意味のある変化」とみなす報告が多いです。測定誤差や日内変動も踏まえ、単回のスコアだけで判断するのではなく、痛みの Numerical Rating Scale(NRS)や可動域、仕事復帰状況などと合わせてトレンドで見ることが推奨されます。

※ 横スクロールで全体を確認してください。

頚部障害指数(NDI)の重症度分類の一例(成人・ 50 点満点を %換算)
NDI 合計点 %表記の目安 重症度 生活像の目安
0〜4 点 〜 8 % ほぼ障害なし 頚部痛はあるが生活や仕事の制限はごく軽度
5〜14 点 10〜 28 % 軽度障害 長時間のデスクワークや読書で症状が増悪しやすい
15〜24 点 30〜 48 % 中等度障害 身支度・家事・仕事に明らかな制限が出ている状態
25〜34 点 50〜 68 % 重度障害 痛みやしびれのために多くの ADL / IADL に介助や工夫が必要
35〜50 点 70〜 100 % きわめて高度 仕事や趣味活動がほぼ不可能で、生活全体が強く制限

理学療法・作業療法での NDI の活用例

リハビリ専門職にとって、NDI は「頚部痛による生活障害」を共通言語で伝えるための便利な指標です。たとえば手術前評価では、JOA スコアや神経学的所見に加えて NDI を提示することで、「痛みはこの程度で、生活への影響はここまで出ています」と患者・医師・看護師が同じイメージを共有しやすくなります。保存療法では、姿勢・エクササイズ指導や職場環境調整の効果を NDI の変化としてフィードバックすることで、患者さんのモチベーション向上にもつながります。

また、作業療法との連携では「身支度」「仕事」「趣味・レクリエーション」など項目別スコアをもとに、具体的な作業活動や環境調整のターゲットを決めることができます。例えば「運転」「読書」が特に高得点であれば、車両シート・モニター配置・書籍の持ち方などの環境設定を優先する、といった具合です。ベッドサイドから外来・在宅まで、継続的なフォローにも使いやすい評価と言えます。

NDI を使うときの注意点と限界

NDI は有用な指標ですが、「自己記入式」であるがゆえに、心理状態や二次的な利得(休業補償など)の影響を受けやすい点には注意が必要です。抑うつや不安が強い患者さんではスコアが高く出やすく、疼痛強度や神経学的所見と乖離することもあります。また、項目の一部は上肢症状の影響も受けるため、「頚部痛」「上肢のしびれ」「その他の要因」を面接で補足しながら解釈することが大切です。

急性外傷直後や高次脳機能障害・認知症が強いケースでは、質問の理解が難しくなることがあります。その場合は、別のアウトカム(例: NRS や他の頚部機能スケール)を選択したり、家族・介助者の意見を参考にしながら慎重に解釈しましょう。NDI 単独で治療効果や予後を断定するのではなく、「客観的所見+他の PRO(Patient-Reported Outcome)」と組み合わせて使うことが前提と考えた方が安全です。

NDI の記録とチームで共有するときのコツ

記録の際は「合計点」「%表示」「高得点項目」をセットで残しておくと、後から見返したときに解釈しやすくなります。例えば「NDI 22 / 50 点( 44 %)・高得点:仕事 4 点、睡眠 4 点、趣味 4 点」といった形です。カルテのサマリーには「頚部痛による生活障害は中等度で、特に仕事と睡眠に制限」といった短いコメントを添えておくと、カンファレンスや他職種への引き継ぎがスムーズになります。

経時的な変化を見るときは、「術前 → 術後 3 ヶ月 → 6 ヶ月 → 1 年」など一定のタイムポイントを決めてグラフ化すると、患者さんへの説明にも有用です。痛みが残存していても NDI が改善している場合には「生活のしづらさはこれだけ軽くなっています」とポジティブなフィードバックができますし、逆に NDI が高止まりしているときには、職場復帰支援や心理的アプローチの必要性をチームで共有するきっかけになります。

NDI に関するよくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

NDI は何点変化したら「リハビリの効果あり」とみなせますか?

研究報告では、慢性頚部痛の外来患者ではおおむね 5〜10 点(10〜 20 %)程度の改善が、患者が実感できる「最小限重要な変化」として扱われることが多いです。ただし、初期値が低い場合や急性期では、同じ 5 点でも意味合いが異なります。痛みの NRS、復職状況、活動量など他の指標と組み合わせて総合的に判断しましょう。

一方で、評価のたびに大きな改善が得られない場合、患者さんの努力不足というより「介入時間」「職場や病棟の体制」「教育・フォローの仕組み」など環境要因が影響していることもあります。もし「今の職場では評価やリハビリの質を高めにくい」と感じることが続くときは、自分の働き方や学び方を見直すタイミングかもしれません。そうしたサインの整理には、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。

おわりに

実地では「頚部所見の評価→ NDI などの PRO で生活障害を可視化→目標と介入方針の共有→経時的な再評価」というリズムを意識すると、頚部痛のリハビリテーションが組み立てやすくなります。NDI は短時間で実施できる一方、項目ごとの解釈を丁寧に行うことで、患者教育や多職種連携、手術適応の検討などに大きな示唆を与えてくれるスケールです。

また、「良い評価ができているのに、職場の体制的に十分な介入・フォローにつなげにくい」と感じる場面も少なくありません。そうしたときは、自分の働き方やキャリアの選択肢を一度整理してみると、患者さんへの関わり方も前向きに変わりやすくなります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に使える面談準備チェックと職場評価シート( A4 )も、下記のダウンロードページで無料公開しています。

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参考文献

  1. Vernon H, Mior S. The Neck Disability Index: a study of reliability and validity. J Manipulative Physiol Ther. 1991;14(7):409–415. PubMed
  2. MacDermid JC, Walton DM, Avery S, et al. Measurement properties of the Neck Disability Index: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39(5):400–417. doi:10.2519/jospt.2009.2930. DOI
  3. Nakamaru K, Vernon H, Aizawa J, et al. Crosscultural adaptation, reliability, and validity of the Japanese version of the Neck Disability Index. Spine (Phila Pa 1976). 2012;37(21):E1343–E1347. doi:10.1097/BRS.0b013e318267f7f5. DOI/PubMed
  4. Takeshita K, Hosono N, Kawaguchi Y, et al. Validity, reliability and responsiveness of the Japanese version of the Neck Disability Index. J Orthop Sci. 2013;18(1):14–21. doi:10.1007/s00776-012-0304-y. DOI/PubMed
  5. Jorritsma W, de Vries GE, Dijkstra PU, et al. Neck Pain and Disability Scale and Neck Disability Index: reproducibility of the Dutch language versions. Eur Spine J. 2010;19(10):1695–1701. doi:10.1007/s00586-010-1406-x. DOI

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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