頚部障害指数と並んで使いたい|オスウェストリー障害指数(ODI)の評価方法と解釈

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オスウェストリー障害指数(ODI)とは?|腰痛の“生活障害”をみる質問票

オスウェストリー障害指数(Oswestry Disability Index:ODI)は、腰痛による日常生活の障害度を 10 項目・ 0〜5 点で評価する質問票です。痛みそのものではなく「身の回りの動作・歩行・座位・立位・睡眠・性生活・社会生活」などへの影響をスコア化できるため、慢性腰痛や腰椎疾患のアウトカム指標として世界的に最も広く用いられている尺度のひとつです。高いほど障害が強く、0〜 100 %で重症度を表現できます。

ODI は 1980 年に Fairbank らが開発した Oswestry Low Back Pain Questionnaire が原型で、その後 2000 年に Spine 誌で改訂版が示されました。日本語版 ODI も信頼性・妥当性・反応性が確認されており、保存療法から手術前後まで幅広いステージで用いられています。理学療法士にとっては、腰痛患者の「生活への影響」を他職種と共有する共通言語として非常に扱いやすい評価です。

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ODI の構成項目とカバーする生活機能

ODI は 10 項目からなり、それぞれ 0〜5 点の 6 段階で回答します。内容は「痛みの強さ」「身の回りの動作(洗面・更衣など)」「物を持ち上げる」「歩行」「座位」「立位」「睡眠」「性生活」「社会生活」「移動(旅行)」で構成され、腰痛に関連しやすい ADL / IADL を広くカバーしています。各項目で「腰痛や下肢痛のためにどの程度制限されているか」を尋ねる形式で、単なる疼痛スケールよりも生活のしづらさが分かりやすく反映されるのが特徴です。

原版では各項目に 6 つの選択肢が記載され、患者さんが自分の状態に最も近い文を 1 つ選びます。質問の順番は固定されており、痛み・基本的 ADL・移動・姿勢保持・睡眠・社会参加といった流れで生活全体を俯瞰できる構成です。日本語版 ODI では文化・生活様式に合わせた翻訳と調整が行われており、外来でも入院でも「腰の具合が日常生活にどれくらい影響しているか」を素早く共有できるツールになっています。

下図は、ODI の 10 項目を「痛み・体調」「基本的 ADL」「姿勢・移動」「社会生活・参加」の 4 つの生活領域に整理したイメージ図です。どの領域にスコアが偏っているかを見ることで、目標設定や多職種連携のポイントが見つけやすくなります。

ODI 10 項目と生活機能領域 ODI の 10 項目を 4 つの生活領域(痛み・体調、基本的 ADL、姿勢・移動、社会生活・参加)に整理した図 ODI 10 項目と生活機能の領域イメージ 痛み・体調 ・痛みの強さ ・睡眠への影響 基本的 ADL ・身の回りの動作(洗面・更衣など) ・物を持ち上げる動作 姿勢・移動 ・歩行・立位・座位 ・移動・旅行(乗り物の利用) 社会生活・参加 ・社会生活(家族・友人との交流) ・性生活・役割参加

ODI の実施方法と採点ルール

ODI は自己記入式で、外来・病棟ともに 5 分程度あれば回答できます。評価時には「最近 1 週間ほどの状態をイメージしてお答えください」など期間を明示し、各項目から最も近い文を 1 つ選んでもらいます。読み書きが難しい場合には代読・代筆も可能ですが、その際も選択自体は必ず本人に行ってもらうことが原則です。急性期では疼痛が急速に変化するため、再評価のタイミングを決めて実施することが大切です。

スコアリングは、各項目 0〜5 点の合計(最大 50 点)を 0〜 100 %に換算して用いる方法が一般的です。全 10 項目に回答がある場合は「合計点 ÷ 50 × 100」で算出し、未回答項目がある場合は「合計点 ÷(回答した項目数 × 5)× 100」で割合を求めます。値が高いほど腰痛による生活障害が強いことを意味し、後述の重症度分類や MCID の目安と組み合わせて解釈します。

スコアの解釈と重症度分類・MCID の目安

ODI の得点は 0〜 100 %で表記し、一般的には 0〜20 %「軽度」、21〜40 %「中等度」、41〜60 %「重度」、61〜80 %「極めて高度(crippled)」、81〜100 %は「寝たきりに近い、あるいは症状の誇張が疑われる」といった目安で解釈されます。臨床では「数値そのもの」だけでなく、ベースラインからの変化量や他の指標(痛み NRS、 JOABPEQ、 RDQ など)との整合性を見ながら判断することが重要です。

変化量の解釈としては、文献によってばらつきがあるものの、慢性腰痛ではおおむね 10 ポイント前後( 10 %)を「最小限臨床的に重要な変化(MCID)」とみなす報告が多く、4〜 10.5 ポイントの範囲で提案されています。一部の手術研究では 12〜 15 ポイント程度を MCID とするものもあり、対象や介入内容によって推奨値が変わります。そのため、「少なくとも 10 ポイント前後の改善があれば、生活障害として意味のある変化」といった目安を持ちつつ、患者ごとの背景で補正するのが現実的です。

※ 横スクロールで全体を確認してください。

オスウェストリー障害指数(ODI)の重症度分類の一例(成人・ 0〜 100 %)
ODI スコア 重症度 生活像の目安
0〜20 % 軽度障害 多くの生活活動は自立しているが、負荷が高い作業や長時間姿勢で症状増悪
21〜40 % 中等度障害 座位・立位・持ち上げ動作に痛みが強く、仕事や家事に明らかな制限が出ている
41〜60 % 重度障害 多くの ADL に介助や工夫が必要で、外出や社会参加が大きく制限されている
61〜80 % 極めて高度(crippled) 家の中での移動も困難で、ほぼ常に痛みが前景にあり生活全般が強く障害
81〜100 % 寝たきり相当/誇張の可能性 実際にはほとんどの患者でまれであり、回答の信頼性や心理社会的要因の再確認が必要

保存療法・手術前後での ODI の活用例

保存療法では、腰痛体操・筋力トレーニング・認知行動的アプローチ・職場調整など、多面的な介入の効果を ODI の変化としてまとめることができます。例えば「疼痛 NRS はあまり変わっていないが、ODI は 40 % → 24 % まで改善している」というケースでは、「痛みの感じ方は大きく変わっていないものの、生活のしづらさは明らかに減っている」と患者さんにフィードバックできます。逆に ODI が高止まりしている場合は、心理社会的要因や環境要因への追加介入を検討するきっかけになります。

手術前後では、腰椎椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄・すべり症などの症例で ODI が頻用されています。術直後からの変化だけでなく、 3 ヶ月・ 6 ヶ月・ 1 年といった中長期フォローで ODI の推移を追うことで、「神経学的所見の改善」と「患者が感じる生活障害の改善」の両方を確認できます。研究では ODI と RDQ・ SF-36・ JOABPEQ などとの関連も多く検討されており、低背部特異的アウトカムとしての位置づけが確立しています。

RDQ・慢性痛スケールとの使い分け

腰痛の機能障害をみる質問紙としては、ODI のほかに Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)や JOABPEQ、さらに広く慢性痛全般を扱う PDAS・ PDI などがあります。RDQ は 24 項目「はい/いいえ」で構成され、軽〜中等度の障害変化を捉えやすい反面、重度の患者では天井効果が出やすいとされます。一方 ODI は重症域までカバーしやすく、外科的治療のアウトカム指標として用いられることが多いです。

実務では、保存療法中心で軽〜中等度の慢性腰痛患者が多い場面では RDQ、外科介入を含め重症例も多い場面では ODI、といった使い分けが現実的です。また、痛みそのものの強さは NRS や VAS、生活全般への影響や心理社会的要因は PDAS・ PDI などで補うと、「疼痛強度」「腰痛特異的障害」「全身的な生活障害」の三層構造で評価を組み立てやすくなります。

ODI を使うときの注意点と限界

ODI は有用な指標ですが、「自己記入式」であるがゆえに心理状態や二次的利得の影響を受けやすい点には注意が必要です。抑うつや不安が強い患者さんではスコアが高く出やすく、画像所見や神経学的所見と乖離することもあります。また、性生活や社会生活の項目は文化的背景やプライバシー配慮の影響を受けやすく、未回答となることもあるため、そうした場合はスコア算出方法の調整が欠かせません。

急性期の強い痛みや高齢者での認知機能低下があるケースでは、質問の理解が難しくなることがあります。その際には、家族や介助者から生活状況を聴取しつつ、ODI に固執しすぎない柔軟な評価選択も必要です。ODI 単独で治療効果や予後を断定するのではなく、身体所見( ROM ・筋力・歩行)や他の PRO( RDQ ・ PDAS など)と組み合わせて総合的に判断することを前提にした方が安全です。

記録・グラフ化とチーム共有のコツ

カルテに記録する際は、「 OD I スコア」と「変化量」、そして「高得点項目」の 3 つをセットで残しておくと、後から見返したときに解釈しやすくなります。例えば「 ODI 44 → 26 %( 18 ポイント改善)・高得点項目:歩行・座位・社会生活」といった書き方です。サマリーでは「歩行・座位・社会参加に中等度の制限があり、保存療法と職場調整により改善傾向」といった短いコメントを添えると、カンファレンスや紹介状にも活用しやすくなります。

経時的な変化をグラフ化すると、患者さんへの説明が格段にしやすくなります。痛み NRS や 6 MWT など他の指標と同じ図にプロットすれば、「痛みは少し残っていますが、生活のしづらさはここまで改善しています」といったポジティブなフィードバックが可能です。逆に ODI が改善していない場合には、社会保険労務士や産業医との連携、職場復帰支援プログラムなど、医療の外側も含めた支援の必要性をチームで共有するきっかけになります。

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ODI に関するよくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

ODI は何ポイント変化したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?

研究報告では、慢性腰痛や腰椎術後ではおおむね 10 ポイント前後( 10 %)の改善を「最小限臨床的に重要な変化( MCID )」とみなすことが多く、 4〜 10.5 ポイントの範囲でさまざまな値が提案されています。一方で、初期値が高い例や外科的治療では 12〜 15 ポイント程度を MCID とする報告もあり、対象や介入内容によって最適値は異なります。そのため、実地では「少なくとも 10 ポイント前後の改善」をひとつの目安にしつつ、疼痛 NRS や復職状況など他の指標と合わせて総合的に評価するのが現実的です。

評価のたびに十分なスコア改善が得られない場合、患者さんの努力不足というよりも「介入時間」「職場や病棟の体制」「フォローアップの仕組み」など環境要因が影響していることも少なくありません。「この環境では、自分がやりたいレベルの評価とリハビリが提供しにくい」と感じることが続くときは、働き方や職場選びを一度整理してみるタイミングかもしれません。そうしたサインをまとめて確認したいときは、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。

おわりに

実地では「危険徴候の除外→身体所見( ROM ・筋力・神経学的所見)の評価→ ODI など腰痛特異的 PRO で生活障害を可視化→目標と介入方針の共有→経時的な再評価」というリズムを意識すると、腰痛のリハビリテーションが組み立てやすくなります。ODI は短時間で実施できる一方、項目ごとの背景(仕事・家事・睡眠・社会参加)を丁寧に読み解くことで、患者教育や多職種連携、職場調整の方向性を具体化できるスケールです。

同時に、「良い評価をしているつもりでも、職場の体制的に十分な介入・フォローにつなげにくい」と感じる場面も少なくありません。そうしたときは、自分の働き方やキャリアの選択肢を一度整理してみることで、患者さんへの関わり方も前向きに変わりやすくなります。面談準備チェックと職場評価シート( A4 )を活用すれば、腰痛リハの現場で感じているモヤモヤを言語化しつつ、次の一歩を検討しやすくなるはずです。

参考文献

  1. Fairbank JC, Pynsent PB. The Oswestry Disability Index. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(22):2940–2953. doi:10.1097/00007632-200011150-00017. DOI/PubMed
  2. Fairbank JC, Couper J, Davies JB, O’Brien JP. The Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire. Physiotherapy. 1980;66(8):271–273. Journal
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  5. Vianin M. Psychometric properties and clinical usefulness of the Oswestry Disability Index. J Chiropr Med. 2008;7(4):161–163. doi:10.1016/j.jcme.2008.07.001. DOI/PubMed
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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