WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)とは?
WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)は、変形性膝関節症・変形性股関節症に対する運動療法や手術の効果を評価するために開発された患者立脚型質問票です。痛み(pain)・こわばり(stiffness)・身体機能(physical function)の 3 サブスケールからなり、主観的な痛みの程度と日常生活動作の難しさを定量化できます。自己記入式で 10 分以内に回答できる一方、ガイドラインや多くの臨床研究で標準的アウトカムとして用いられており、変形性関節症領域では最もポピュラーな PROM の 1 つです。1,2,6
原版は 24 項目(痛み 5・こわばり 2・身体機能 17)のリッカート式スケールで構成され、各項目のスコアを合計してサブスケールスコア・総スコアを算出します。日本語版についても、膝関節・股関節術後患者を対象とした信頼性・妥当性の検証が行われており、国内の臨床研究やガイドラインでも広く利用されています。3,4,7,9
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WOMAC の構成項目とカバーする生活機能
WOMAC v3.1 は、痛み(5 項目)・こわばり(2 項目)・身体機能(17 項目) の 3 サブスケールから構成されます。各項目は「〇〇するときの痛み」「起床時・日中のこわばり」「歩行・階段・立ち上がり・靴下の着脱・買い物」など、変形性膝・股関節症で問題となりやすい具体的な場面を扱っています。2,6 ここでは設問文そのものは示さず、どのような生活機能をカバーしているかをイメージ図で整理します。
図のように、「痛み」は動作時痛を中心とした 5 場面、「こわばり」は起床時と日中の 2 場面、「身体機能」は ADL・IADL を含む 17 場面を広くカバーしており、TKA・THA の前後で「患者の感じる生活のしやすさ」を追うのに適した構造になっています。3,6
評価方法とスコアリング|0〜4 のリッカートと 0〜100 換算
原版 WOMAC では、各項目を 0〜4 の 5 段階(0=なし/4=非常に強い)で評価し、サブスケールごとの合計点を用います。代表的なスコアレンジは、痛み 0〜20 点、こわばり 0〜8 点、身体機能 0〜68 点、総スコア 0〜96 点です。2,6,10 点数が高いほど症状が強く、日常生活が制限されている状態を示します。
臨床や研究では、サブスケールおよび総スコアを 0〜100 に正規化して扱うことが多く、たとえば総スコアは {合計点 ÷ 96 × 100} のように換算します(0=症状なし/100=最重症)。10 日本語版(準 WOMAC)でも同様の構造で運用されており、変形性膝関節症診療ガイドライン等でも運動療法のアウトカム指標として広く採用されています。9 臨床記録では「WOMAC(0–100)」とレンジを明記しておくと、解釈ミスを防ぎやすくなります。
スコアの解釈と MCID(最小限臨床的重要差)
WOMAC の MCID は、対象や解析方法によって幅がありますが、TKA・HTO・保存療法などの研究を総合すると、0〜100 スケール換算でおおよそ 10〜20 ポイント前後の改善 が、臨床的に意味のある変化の一つの目安とされています。例えば、TKA 患者の検討では、痛みサブスケールで約 13〜21 ポイント、身体機能で 16 ポイント前後、総スコアで 16 ポイント程度が報告されています。1,5,19
一方、より厳密な統計手法を用いると、同じデータでも MCID がやや小さく推定されることもあり、システマティックレビューでは「痛みで 7〜10 ポイント前後」「機能で数ポイント〜十数ポイント」といったレンジも示されています。9,19,22 実地では、「数ポイントの変化」を細かく追うよりも、患者さんの主観的な回復感・歩行テストや 6MWT・TUG など客観指標と合わせて、「この変化が意味のある改善かどうか」を総合的に判断することが重要です。
日本語版(準 WOMAC)と実務上のポイント
日本国内では、英語版 WOMAC をもとにした自己記入式の日本語版質問票が作成され、TKA・THA 患者を対象に信頼性・妥当性・反応性の検証が行われています。3,4,6,7,21 変形性膝関節症診療ガイドラインでも患者立脚型評価法の 1 つとして WOMAC が採用されており、運動療法や薬物療法の効果判定で頻用されます。9
実務では、院内で使う質問票を統一し、説明文や評価手順を「ひな型」として用意しておくことがポイントです。たとえば「過去 1 週間の状態について、各項目ごとに当てはまる程度を選択してもらう」など、評価対象期間と回答方法を明示しておくと、再評価での再現性も高めやすくなります。質問票そのものの入手や詳細な運用方法については、原著論文や関連学会・研究グループの資料を確認し、施設内で統一ルールを整備しておくと安心です。
臨床での活用例|TKA・THA・保存療法
TKA・THA を扱う整形外科では、術前・術後 3 ヶ月・6 ヶ月・1 年といったタイミングで WOMAC を実施し、痛み・こわばり・身体機能の経時的な変化を追う使い方が一般的です。3,6,10 例えば「WOMAC 総スコア 60 → 30(30 ポイント改善)」といった変化に、歩行速度や TUG、片脚立位時間の改善を重ねて解釈することで、介入の妥当性をより立体的に評価できます。
保存療法(運動療法や体重管理、装具療法など)においても、WOMAC を 3〜6 ヶ月ごとにフォローし、「痛みは軽減したが身体機能の改善が乏しい」「こわばりは残存している」といったパターンを整理することで、プログラムの見直しや目標設定の修正に役立ちます。また、変形性膝関節症診療ガイドラインでは、運動療法後の WOMAC 改善がエビデンスとしてまとめられており、患者説明の際にも客観的な根拠として提示しやすい指標です。9
LEFS・HOOS・KOOS など他指標との使い分け
下肢機能評価では、WOMAC のほかに LEFS(Lower Extremity Functional Scale)、股関節 OA 向けの HOOS、膝 OA 向けの KOOS など、多くの PROM が存在します。WOMAC は「変形性膝・股関節症」をターゲットにした歴史の長い指標であり、ガイドラインやメタ解析の多くが WOMAC を基準にしている点が強みです。2,6,13
一方で、スポーツ復帰や高機能レベルの評価には LEFS や KOOS のスポーツサブスケールが適する場合もあります。日常診療では、「変形性膝・股関節症の痛みと ADL の全体像」には WOMAC、「活動レベルの高い症例の下肢機能」には LEFS といった棲み分けも選択肢になります。当ブログ内の評価まとめ(評価ハブ)などで各スケールの特徴を一覧化しておくと、症例ごとの組み合わせをチームで検討しやすくなります。
記録とチーム共有のコツ
カルテには、「サブスケールごとのスコア」と「総スコア」の両方を記載しておくと、データの解釈がスムーズになります。例えば「WOMAC(0–100):痛み 65→20、こわばり 60→25、身体機能 70→35、総合 68→30(術前→退院時)」のように書くと、「症例全体の改善」と「どの領域の改善が目立つか」が一目で伝わります。加えて、10m 歩行・TUG・片脚立位・階段昇降時間など、客観指標とセットで残しておくと、退院後フォローや研究データとしても活かしやすくなります。
カンファレンスでは、「WOMAC の変化」と「患者さん自身のコメント」を一緒に取り上げることで、医師・看護師・リハ・MSW 間での共有が深まります。例えば「WOMAC 上は階段動作の困難さが残っているが、本人は『日常生活でそこまで困っていない』と感じている」ようなギャップも、ゴールのすり合わせや生活指導の内容を見直すヒントになります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
WOMAC は何点くらい改善したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?
WOMAC の MCID は対象や解析方法によって変わりますが、TKA・HTO・保存療法などの研究では、0〜100 スケール換算で おおむね 10〜20 ポイント前後の改善 が、臨床的に意味のある変化として報告されています。1 つの研究では、痛みサブスケール 21 ポイント、身体機能 16 ポイント、こわばり 13 ポイント、総スコア 17 ポイントといった値が示されています。1,19 一方、別の報告では、より小さな値が提示されているものもあり、必ずしも単一の閾値に固定できるわけではありません。9,19,22
実地では、「患者さんの主観的な回復感」「歩行・バランス評価」「体重や活動量の変化」などと合わせて、「このスコア変化は意味があるか?」を判断するのが現実的です。それでも、「評価はしているのに、十分な介入時間やフォロー体制が整わずもどかしい」と感じる場面が続くときは、今の職場の体制や自分の働き方を一度整理してみるのも 1 つの選択肢かもしれません。そうした“危険サイン”を整理するには、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。
おわりに
変形性膝・股関節症のリハビリでは、「危険徴候のチェック → X 線や関節可動域・筋力などの身体機能評価 → 歩行・バランス評価 → WOMAC など患者立脚型指標での日常生活の把握 → ゴール設定と介入計画 → 再評価」というリズムを押さえておくと、評価結果を治療戦略に結びつけやすくなります。WOMAC は、TKA・THA だけでなく保存療法の効果判定にも使いやすく、ガイドラインや研究エビデンスとの接続もしやすい指標です。
一方で、「本当は WOMAC や他の PROM をもっと活かしたいのに、時間や体制の制約で十分に使い切れない」と感じることも少なくありません。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。
参考文献
- Clement ND, Bardgett M, Weir D, et al. What is the minimum clinically important difference for the WOMAC index after total knee arthroplasty? Clin Orthop Relat Res. 2018;476(10):2005–2014. doi:10.1097/CORR.0000000000000456. PubMed Central
- Ebrahimzadeh MH, et al. The Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC) in patients with knee osteoarthritis. Arch Bone Jt Surg. 2014;2(1):57–63. PubMed Central
- Hashimoto H, Hanyu T, Sledge CB, Lingard EA. Validation of a Japanese patient-derived outcome scale for assessing total knee arthroplasty: comparison with WOMAC. J Orthop Sci. 2003;8(3):288–293. doi:10.1007/s10776-002-0629-0. PubMed
- 藤田君支ほか. 人工股関節患者における日本語版 WOMAC の信頼性と妥当性の検討. 日本看護科学会誌. 2007;27(2):53–62. J-STAGE
- Holtz N, et al. Minimal important differences for the WOMAC osteoarthritis index after total knee arthroplasty. BMC Musculoskelet Disord. 2020;21:401. doi:10.1186/s12891-020-03415-x. Journal site
- Bellamy N, et al. Validation study of WOMAC: a health status instrument for measuring clinically important patient-relevant outcomes in antirheumatic drug therapy in patients with osteoarthritis of the hip or knee. J Rheumatol. 1988;15(12):1833–1840.
- Salaffi F, et al. Reliability and validity of the Western Ontario and McMaster Universities (WOMAC) osteoarthritis index in Italian patients with osteoarthritis of the knee. Osteoarthritis Cartilage. 2003;11(8):551–560. doi:10.1016/S1063-4584(03)00089-X.
- Conaghan PG, et al. Measurement properties of the WOMAC Osteoarthritis Index: a systematic review. Arthritis Care Res. 2011;63(S11):S226–S252.
- 日本整形外科学会. 変形性膝関節症診療ガイドライン 2023. 日本整形外科学会; 2023.
- American College of Rheumatology. Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC) v3.1 Scoring Manual. (公式サイト参照)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

