結論|腰痛の整形外科テストは「症状パターン × 赤旗 × 最小セット」で選ぶ
腰痛・坐骨神経痛の評価で大切なのは、テスト名を数多く実施することではなく、症状パターンから必要な評価を絞り、危険サインを確認し、結果を次の判断へつなげることです。下肢への放散痛・しびれでは神経学的所見とSLR、伸展で増悪する腰痛では負荷反応、殿部〜鼠径部痛ではSIJ・腰椎・股関節の切り分けから始めます。
このページでは、理学療法士など医療従事者向けに、腰部で最初に何を選ぶか、どこで負荷を止めるか、何を記録して再評価するかを整理します。単体テストだけで疾患を確定するのではなく、問診・神経学的所見・動作・複数所見を組み合わせて判断するための実務ガイドです。
まずはここから|症状パターン別の最小セット
最初からテスト数を増やすのではなく、主症状から評価の入口を決めると整理しやすくなります。陽性・陰性だけで終わらせず、「どの条件で、どこに、どのような症状が再現されたか」を残すことがポイントです。

※表は横にスクロールできます。
| 症状パターン | まず確認する | 必要に応じて追加 | 次の判断 |
|---|---|---|---|
| 殿部〜下肢への放散痛・しびれ | SLR + 神経学的所見(筋力・感覚・反射) | crossed SLR / Bragard / FNS | 神経根症状を疑う所見がそろうか、追加評価や共有が必要か |
| 伸展・立位保持で腰痛が増悪 | 伸展・回旋方向への軽い負荷 + 立位での症状変化 | Kemp / 反復動作 / 歩行後の反応 | どの方向・負荷量で症状が変わるか |
| 殿部〜鼠径部・片側の奥の痛み | SIJ疼痛誘発テストを組み合わせて確認 | 腰椎評価 / 股関節ROM / FABERなど | SIJだけで決めず、腰椎・股関節を含めて仮説を絞る |
| 安静時にも強い痛み・全身症状・進行する神経症状など | 危険サインのスクリーニング | 必要な神経学的・全身状態の確認 | 負荷テストを続けるか、共有・精査を優先するか |
テスト前に確認する|赤旗と「負荷を上げない」判断
整形外科テストの前には、通常の運動器評価を続けてよい状態かを確認します。赤旗は1項目だけで重大疾患を確定するものではありません。症状の経過、全身状態、既往、神経学的変化などを組み合わせて、通常の腰痛評価とは異なる対応が必要かを判断します。
特に、急速に進行する筋力低下、排尿・排便機能の新たな変化、会陰部・サドル領域の感覚変化などがみられる場合は、馬尾症候群など緊急性のある病態も考慮し、症状誘発を目的とした負荷テストを続けるより速やかな共有・医学的評価を優先します。
| 確認する所見 | 考え方 | 記録すること |
|---|---|---|
| 安静時にも強い痛み・夜間の増悪 | 単独で判断せず、経過や他の症状と合わせて確認する | 発症時期、時間帯、睡眠への影響、増悪・軽減因子 |
| 発熱・全身倦怠・原因不明の体重減少など | 感染症や全身性疾患を含め、運動器だけで説明できるか再検討する | バイタル、随伴症状、既往、経過 |
| 進行する筋力低下・排尿排便機能の変化・会陰部感覚の変化 | 通常の負荷テストより速やかな共有・医学的評価を優先する | 発症時期、左右差、神経学的所見、進行の速さ |
| 冷感・蒼白・腫脹・発赤など | 腰椎・筋骨格系だけで説明しようとしない | 皮膚所見、末梢循環、左右差、発症経過 |
画像検査は、非特異的腰痛に一律で行うものではありません。専門的な評価が必要な場面では、検査結果によってその後の対応が変わるかも含めて判断します。
下肢へ放散痛・しびれがある|SLRと神経学的所見を組み合わせる
殿部から大腿後面・下腿へ広がる放散痛やしびれでは、SLRなどの神経伸張テストだけで判断せず、筋力・感覚・反射などの神経学的所見と合わせて評価します。単独テストの結果だけで神経根障害や椎間板ヘルニアを確定することはできません。
SLRでは挙上角度だけでなく、患者さんが訴えている症状がどの角度で、どこに、どのような性状で再現されたかを確認します。局所の腰痛や大腿後面の伸張感だけの場合は、目的とする神経症状が再現されたのかを分けて記録します。
| テスト | 主な狙い | 記録すること | 解釈の注意 |
|---|---|---|---|
| SLR | 下肢症状の再現を確認する | 角度、再現部位、痛み・しびれの性状、左右差 | 角度だけ、腰痛だけで陽性と決めない |
| crossed SLR | 健側挙上時の患側症状を確認する | 健側挙上角度、患側の再現症状 | 陰性だけで神経根症状を否定しない |
| Bragard | 足関節背屈による症状変化を確認する | 背屈前後の症状部位・性状の変化 | 局所組織由来の症状との違いも確認する |
| FNS | 前大腿部に生じる症状を確認する | 症状部位、左右差、股関節・膝関節の条件 | 筋・関節由来の伸張痛と区別して解釈する |
伸展・立位保持で増悪する|Kempは病態確定ではなく負荷反応の一材料
伸展や立位保持で腰痛が増悪する場合は、どの方向・どの程度の負荷で症状が変化するかを確認します。Kempテストは椎間関節由来の疼痛を確定する検査ではなく、単独で病態を決める用途には適しません。
そのため、「Kemp陽性」とだけ残すのではなく、伸展・側屈・回旋を加えたときの症状部位や強さ、下肢症状の有無を記録し、立位・歩行など実際の活動での反応と合わせて解釈します。
| 確認できた反応 | 次に確認すること | 評価上の判断 |
|---|---|---|
| 軽い伸展で症状変化が少ない | 反復動作や立位保持で変化するか | 単回のテストだけでなく活動時の反応を見る |
| 伸展で増悪し、姿勢変更で軽減する | 立位保持時間、歩行距離、反復による変化 | 症状が出る負荷量・条件を整理する |
| 伸展・回旋で下肢症状が強くなる | 筋力・感覚・反射などの神経学的所見 | 症状誘発を反復せず、神経症状の評価へ戻る |
殿部〜鼠径部痛がある|SIJは陽性テストの数だけで確定しない
殿部〜鼠径部周辺の痛みでは、SIJ、腰椎、股関節など複数の発痛源が候補になります。SIJ疼痛誘発テストは、複数のテストで患者さんの「いつもの痛み」が再現されるかを確認しますが、陽性所見が複数そろっただけでSIJを発痛源と確定することはできません。
一方で、疼痛誘発テストのクラスターが陰性の場合は、SIJ由来の疼痛である可能性を下げる材料として使いやすいと報告されています。したがって、陽性所見は「SIJを候補に残す材料」、陰性所見がそろえば「他の候補へ戻る材料」と考え、腰椎・股関節の評価と組み合わせます。
| 確認すること | 見るポイント | 次の判断 |
|---|---|---|
| 複数の疼痛誘発テスト | 患者さんの「いつもの痛み」が同じ部位に再現されるか | 陽性クラスターだけでSIJ由来と確定しない |
| 疼痛誘発テストがそろって陰性 | 目的とする症状が再現されないか | SIJ由来の可能性を下げ、他の仮説を優先する |
| 腰椎・股関節の所見 | ROM、症状誘発、荷重・動作時の変化 | 腰椎・股関節を含めて原因仮説を整理する |
よくある失敗|陽性・陰性だけで判断しない
よくある失敗を見る / 記録の型を見る / 記録シートを見る
腰痛の整形外科テストでは、手技そのものよりも結果をどう解釈するかで迷いやすくなります。陽性・陰性のラベルだけでは、次の評価や再評価、申し送りに使える情報が不足します。
| よくある失敗 | 問題点 | 修正方法 | 記録すること |
|---|---|---|---|
| 陽性/陰性だけ記録する | 再現された症状の情報が残らない | 症状が出た条件・部位・性状を残す | 角度、方向、部位、性状、左右差 |
| 患者さんの「いつもの症状」を確認しない | 目的とは異なる痛みや伸張感を陽性と解釈しやすい | テスト前に普段の症状部位・性状を確認する | 通常症状との一致・不一致 |
| Kempで病態を断定する | 単独テストの診断精度を過大評価する | 方向・負荷反応を記録し、他所見と合わせる | 方向、強さ、再現部位、下肢症状 |
| SIJを陽性テスト数だけで決める | 腰椎・股関節由来の症状と混同しやすい | 陽性クラスターは確定に使わず、陰性所見や他部位の評価も確認する | 再現症状、陰性所見、腰椎・股関節所見 |
| 危険サインが疑われても負荷を続ける | 通常評価より医学的評価を優先すべき場面がある | 負荷を上げず、必要な共有・精査へ切り替える | 経過、神経症状、全身症状、共有内容 |
評価で終わらせない|所見 → 判断 → 再評価の3行テンプレ
整形外科テストは、結果を列挙するだけでは次の介入につながりません。「何が再現されたか」「その結果から何に注意するか」「次回は何を同じ条件で比べるか」まで1セットで残します。
再評価も毎回すべてのテストを繰り返すのではなく、その時点の仮説に直結する2〜3項目へ絞ると、患者さんへの負担を抑えながら変化を比較しやすくなります。
| 見えた所見 | その日の判断 | 再評価する指標 |
|---|---|---|
| SLRで下肢のいつもの放散痛が再現 | 神経学的所見と合わせ、症状を強く誘発する負荷は避ける | 同条件での角度、症状部位・性状、神経学的所見 |
| 伸展・立位保持で腰痛が増悪 | 症状が出る方向・時間・負荷量を整理する | 立位保持時間、歩行後の症状、同方向への反応 |
| SIJ疼痛誘発テストで複数の症状再現 | SIJ由来と確定せず、腰椎・股関節所見と合わせて判断する | 疼痛誘発テスト、腰椎・股関節所見、荷重動作時の症状 |
カルテ記載例:
右SLR 45°で殿部〜大腿後面に普段と同様の放散痛を再現。筋力・感覚・反射を併せて確認。伸展・回旋で腰部痛は増悪するが、Kemp単独では病態を判断しない。SIJ疼痛誘発テストでは普段の痛みの再現が一貫せず、腰椎・股関節所見も継続して確認する。
本日は症状を強く誘発する負荷を避け、症状が変化する姿勢・活動条件を整理した。
次回は右SLRの角度と再現症状、神経学的所見、立位保持後の症状を同条件で再評価する。
腰痛整形外科テスト記録シート|PDF・Excelを無料配布
腰痛の評価を「症状パターン → 安全確認 → テスト所見 → 判断 → 再評価」の流れで記録できるA4記録シートを用意しました。SLR、神経学的所見、Kemp、SIJ、股関節所見などを同じ用紙で整理し、次回の再評価項目まで残せます。
PDFはそのまま印刷して使用できます。Excel版は、施設や評価場面に合わせて入力・保存したい場合に利用してください。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
SLRは角度だけで陽性・陰性を判断しますか?
角度だけでは判断しません。挙上したときに患者さんが普段訴えている下肢症状が、どの角度・どの部位に再現されたかを確認します。筋力・感覚・反射などの神経学的所見も合わせて解釈します。
Kempが陽性なら椎間関節由来の腰痛と考えてよいですか?
単独で確定することはできません。Kempテストは椎間関節痛を診断する検査としての精度が十分ではないため、どの方向・負荷量で症状が変化したかを確認する一材料として扱い、他の所見と組み合わせて判断します。
SIJ疼痛誘発テストはいくつ陽性ならSIJ由来と判断できますか?
陽性テストの数だけでSIJ由来と確定することはできません。複数のテストで普段の痛みが再現されても、腰椎・股関節など他の候補を合わせて確認します。一方、疼痛誘発テストのクラスターが陰性の場合は、SIJ由来の可能性を下げる材料として利用できます。
整形外科テストはどこで中止すべきですか?
症状を強く誘発し続ける必要はありません。特に、急速に進行する筋力低下、排尿・排便機能の新たな変化、会陰部の感覚変化など緊急性を疑う所見があれば、通常の負荷テストを続けず、必要な共有・医学的評価を優先します。
次の一手
腰部のテスト選択を確認したら、次は整形外科テスト全体の位置づけと部位をまたいだ選び方を整理すると、単体テストに依存しにくい評価へつながります。
- 部位別にテストを確認する:整形外科的テスト一覧(部位別)
- テストの選び方を整理する:整形外科的テストの使い分け(総論)
参考文献
- Bernstein IA, Malik Q, Carville S, Ward S. Low back pain and sciatica: summary of NICE guidance. BMJ. 2017;356:i6748. PubMed
- van der Windt DAWM, Simons E, Riphagen II, Ammendolia C, Verhagen AP, Laslett M, Devillé W, Deyo RA, Bouter LM, de Vet HCW, Aertgeerts B. Physical examination for lumbar radiculopathy due to disc herniation in patients with low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(2):CD007431. DOI
- Devillé WLJM, van der Windt DAWM, Dzaferagić A, Bezemer PD, Bouter LM. The test of Lasègue: systematic review of the accuracy in diagnosing herniated discs. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(9):1140-1147. DOI
- Tawa N, Rhoda A, Diener I. Accuracy of clinical neurological examination in diagnosing lumbo-sacral radiculopathy: a systematic literature review. BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):93. DOI
- Stuber K, Lerede C, Kristmanson K, Sajko S, Bruno P. The diagnostic accuracy of the Kemp’s test: a systematic review. J Can Chiropr Assoc. 2014;58(3):258-267. PubMed
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- National Institute for Health and Care Excellence. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NICE guideline NG59. London: NICE; 2016. Updated 2020. NICE
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、臨床で使いやすい実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

