抹消課題のやり方と判定( USN を短時間でそろえる )
抹消課題(キャンセレーション)は、半側空間無視( USN )を机上で短時間に拾う代表的な検査です。このページで答えるのは、どう実施するか、何を判定に使うか、何を記録として残すかの 3 点です。ベッドサイドから病棟まで回しやすいように、左右見落とし数・探索開始側・所要時間を同じ型で残す前提で整理します。
逆に、このページで深掘りしすぎないのは、USN 全体の診かたや ADL 場面での重症度判断です。抹消課題はあくまで机上の入口なので、結果の解釈は別課題や生活場面の観察につなげて完成します。記事後半には、印刷してすぐ使える実施用の課題シートと記録用紙をまとめて置いているので、まずは「同じレイアウト」「同じ教示」「同じ記録項目」で再評価できる状態を作ることを優先します。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。
今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、見本になる先輩が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
PT キャリアガイドを見るやり方( 2〜3 分 )
やり方は「条件の標準化 → 統一した教示 → 計時 → 終了基準」の順に固定します。ここが揃うと、担当者が変わっても比較しやすくなります。
- 用紙・環境:A4 を横置きで机上に置き、用紙を中央に配置します。視距離は目安 35〜40 cm とし、可能なら実測します。椅子・机の高さを整え、頭部・体幹が正中を向くようにします。
- 対象確認:視力・視野、上肢麻痺/失調、理解面(失語・注意低下)を実施前に把握し、所見解釈に反映できるようにしておきます。
- 教示(統一):「指定マークだけを、できるだけ早く、すべて消してください。」と伝えます。開始位置は誘導しません。
- 実施:基本は練習なしで本番のみです。途中の質問や視線逸脱があれば、その内容をメモします。
- 計時:「はじめてください」から、本人の「終わり」申告までを秒単位で計測します。
- 終了基準:本人の終了申告、または探索停止が 3 秒以上続いた時点で終了し、理由(疲労・注意逸脱など)を記録します。
判定の指標(最小 3 点 )
最小セットは①左右の見落とし数、②探索開始側、③所要時間です。これだけでも、空間偏り・探索の向き・効率の 3 軸が揃います。加えて誤反応(誤抹消・二度塗り・迷い線)を残すと、注意の質や運動要因の混入が読みやすくなります。
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| 指標 | 目的 | 測り方/記録 | 所見例 | 注意 |
|---|---|---|---|---|
| 左右見落とし数 | 空間偏りを把握 | 左・右エリアごとに正解数/見落とし数をカウント(総ターゲット数も併記) | 左 8 / 40、右 1 / 40 | 配置は固定。拡大縮小・列行ずらしは避ける |
| 探索開始側 | 初期バイアスを評価 | 最初にチェックした側(左/右/中央)と、その後の進行を記録 | 右開始 → 右 → 中央 → 左 | 教示で開始位置を誘導しない |
| 所要時間(秒) | 探索効率/注意持続 | 開始合図から終了申告までを秒単位で測定(中断があれば別記) | 120 秒(中断なし) | 会話・離席などの中断は「あり/なし+内容」を残す |
| 誤反応・訂正 | 注意の質/衝動性 | 誤抹消、二度塗り、迷い線の有無と回数を記録 | 誤抹消 2、二度塗り 1 | 視力・上肢失調など運動要因の影響は併記 |
品質管理(落とし穴と対策 )
- 用紙が毎回違う:難易度差が混入し、経時変化が読めなくなります。基本は同一レイアウトで固定し、学習効果が問題になるときだけ代替用紙を準備します。
- 教示がブレる:「早く」だけを強調すると誤反応が増え、「丁寧に」だけだと時間が伸びます。教示は毎回同じ文に統一します。
- 併存症状を見落とす:視力・視野、上肢麻痺/失調、理解面の問題だけでも成績は悪化します。結果だけで断定せず、条件をセットで記録します。
- ADL につながらない:机上で軽く見えても、歩行・食事・更衣では左刺激の取りこぼしが残ることがあります。抹消課題は入口の 1 本として使い、必要時は生活場面の観察へつなげます。
判定・記録の型(コピペ可 )
記録の型が決まると、担当者が変わっても所見の粒度が揃います。最低限この 1 枚で「再現できる条件」と「比較できる指標」を残します。
| 項目 | 記入 |
|---|---|
| 見落とし数 | 左____ / 右____(総ターゲット____) |
| 探索開始側 | 左 / 右 / 中央(進行:__________) |
| 所要時間(秒) | ____ 秒(中断:なし / あり[内容:______]) |
| 誤反応・訂正 | 誤抹消____ 二度塗り____ 迷い線____ |
| 条件(必須) | 用紙(図形/記号/数字)・配置(中央ずれ__ cm)・視距離__ cm・利き手変更(あり/なし)・介助(あり/なし) |
| まとめ( 1〜2 行 ) | ____________________________ |
現場の詰まりどころ(よくある失敗 )
- 左右差が乏しく、全体に遅い:この場合は USN よりも注意低下の影響が強いことがあります。左右差・開始側・誤反応の組み合わせで見直し、必要なら 線分二等分試験 も追加して一貫性を確認します。
- 麻痺側が使えず条件が揃わない:利き手変更や介助ありで実施するなら、それ自体が重要な所見です。再評価の比較が崩れないように、条件まで残します。
- 結果がケアに落ちない:「 USN あり」で止めず、物品配置・立ち位置・歩行時の注意喚起へ翻訳します。机上課題の結果を ADL へつなぐ視点が大切です。
よくある質問
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Q1. 抹消課題だけで USN の有無を判断してよいですか?
スクリーニングとして有用ですが、抹消課題だけで「 USN あり/なし」を決め切るのは避けた方が安全です。左右差が明確なら USN を示唆しますが、注意低下・視力低下・理解面の問題でも成績は悪化します。少なくとも別課題や ADL 観察と合わせて総合判断するのがおすすめです。
Q2. どのくらいの見落とし数から「要注意」ですか?
課題レイアウトや対象者背景で変わるため、一律のカットオフだけで読むのは危険です。臨床では左右差の大きさ、探索開始側、所要時間、誤反応、 ADL での見落としの有無を合わせて解釈します。同一レイアウトで経時比較し、改善/悪化の方向を追う視点も重要です。
Q3. ベッドサイドでも実施できますか?
体位が安定していれば実施可能です。視距離が近すぎると用紙全体が視野に入りにくくなるため、可能な範囲で A4 全体を見渡せる距離を確保します。前腕支持が必要なら、ベッドテーブルやクッションで支持して疲労を減らします。
Q4. 線分二等分や CBS は、どのタイミングで追加しますか?
抹消課題で左右差が出たときは、机上の別角度として線分二等分を追加すると偏りの一貫性を確認しやすくなります。机上では軽く見えても、移動・更衣・食事で危険が残るときは CBS などの ADL 観察へ進めると、生活場面のズレを拾いやすくなります。
ダウンロード(実施用 + 記録用 )
このページでは、実施に使う課題シートと、結果を残す記録用紙を分けて配布しています。現場では「課題を実施 → 左右見落とし数・探索開始側・所要時間を記録」の順で使うと運用しやすいです。
抹消課題 実施用シート( A4 横 )
ターゲット見本と短い教示を載せた、自作レイアウトの実施用シートです。印刷してそのまま課題提示に使えます。
課題シート PDF プレビュー(タップで表示)
抹消課題 記録用紙( A4 縦 )
用紙・教示・終了基準を固定しつつ、左右見落とし数・探索開始側・所要時間が 1 枚で残せる記録用紙です。再評価や申し送りに使いやすい形にしています。
記録用紙 PDF プレビュー(タップで表示)
次の一手(臨床の運用 )
- 線分二等分試験のやり方と記録:抹消課題とあわせて、机上での偏りを別角度から確認したいときにおすすめです。
- CBS 評価の使い方:生活場面での危険や申し送りまでつなげたいときに役立ちます。
参考文献
- Terruzzi S, Albini F, Massetti G, Etzi R, Gallace A, Vallar G. The neuropsychological assessment of unilateral spatial neglect through computerized and virtual reality tools: a scoping review. Neuropsychol Rev. 2024;34:363-401. doi:10.1007/s11065-023-09586-3. PubMed
- Mancuso M, Damora A, Abbruzzese L, Navarrete E, Basagni B, Galardi G, et al. A new standardization of the Bells Test: an Italian multi-center normative study. Front Psychol. 2019;9:2745. doi:10.3389/fpsyg.2018.02745. PubMed
- Azouvi P, Olivier S, de Montety G, Samuel C, Louis-Dreyfus A, Tesio L. Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(1):51-57. doi:10.1053/apmr.2003.50062. PubMed
- Chen P, Hreha K, Fortis P, Goedert KM, Barrett AM. Functional assessment of spatial neglect: a review of the Catherine Bergego Scale and an introduction of the Kessler Foundation Neglect Assessment Process. Top Stroke Rehabil. 2012;19(5):423-435. doi:10.1310/tsr1905-423. PubMed
- Kwon S, Park W, Kim MY, Kim JM. Relationship Between Line Bisection Test Time and Hemispatial Neglect Prognosis in Patients With Stroke: A Prospective Pilot Study. Ann Rehabil Med. 2020;44(4):292-300. doi:10.5535/arm.19112. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


