抹消課題のやり方・判定|まず押さえる結論
抹消課題(キャンセレーション)は、紙面上のターゲットを探索して印を付け、半側空間無視(USN)でみられる空間探索の偏りを確認する机上課題です。見るポイントは、見落とした数だけではありません。左右どこに見落としが分布したか、どちらから探索を始めたか、どのように探索したか、どの程度時間を要したかを合わせて記録します。
ただし、本記事で配布している課題用紙はrehabilikunblogが作成した自作レイアウトです。BIT行動性無視検査日本版やBells Testなどの標準化検査とは異なり、この用紙独自の診断用カットオフはありません。そのため、見落とし数だけで「USNあり/なし」を確定せず、探索過程、他の机上検査、ADLでの行動観察までつなげて解釈します。
重要:標準化検査と自作課題を分けて考えます
BITやBells Testには、それぞれの用紙・実施方法・採点方法に基づく判定基準があります。他の検査で報告されている見落とし数や左右差のカットオフを、本記事の自作シートへそのまま当てはめることはできません。本シートは、探索の偏りを拾い、同じ形式で所見を記録するための補助用紙として使用してください。
抹消課題のやり方|条件をそろえて探索過程を見る
実施では、細かな数値を一律の「正式基準」とするより、姿勢・用紙位置・視覚条件・教示・援助量をそろえ、その条件を記録することが重要です。標準化検査を使用する場合は、必ず各検査の正式なマニュアルに従ってください。
- 課題が成立する条件を確認する:覚醒、短い教示への理解、眼鏡の使用、視力・視野、眼球運動、上肢麻痺・失調、疼痛などを確認します。これらに問題がある場合は、見落としをUSNだけで説明しないようにします。
- 姿勢と用紙位置を決める:可能であれば安定した座位で、体幹を基準として用紙を中央に置きます。姿勢保持のために支持や介助が必要な場合は、無理に正中へ矯正せず、実際の条件を記録します。
- 教示をそろえる:本記事の配布シートでは「指定マークだけを、できるだけ早く、すべて消してください」と提示しています。探索開始位置を指差したり、一側から始めるよう誘導したりしません。
- 探索過程を観察する:最初に印を付けた位置、左右への探索範囲、同じ場所への戻り、探索の停止、見落としの位置、誤抹消などを観察します。
- 所要時間を記録する:開始から本人が終了したと判断するまでの時間を残します。ただし、本自作シートには所要時間による標準化されたカットオフはありません。
- 終了時の状況を残す:本人の終了申告、疲労、注意の逸脱、探索停止と再開などを記録します。一定時間停止したことだけを理由に、機械的にUSNの判定や検査終了を決めないようにします。
再評価では「同じ条件で実施できたか」も確認します
見落とし数だけでなく、姿勢、用紙位置、視距離、使用手、眼鏡、身体支持、認知的な援助の有無をそろえると経時比較しやすくなります。今回の記録用紙v6では、固定した視距離や一律の探索停止時間ではなく、実際の実施条件と探索停止・再開の状況を記録できる形にしています。
判定の見方|見落とし数だけでUSNを決めない
抹消課題では、①左右の見落とし分布、②探索開始側と探索経過、③誤反応、④所要時間を組み合わせて読みます。重要なのは、合計何個見落としたかだけでなく、一側空間へ偏って見落としているかです。

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| 確認項目 | 何を見るか | 記録方法 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 左右の見落とし | 一側へ偏った見落としがないか | 左・右を分けて見落とし数を記録する | 本自作シート独自の診断用カットオフはない |
| 見落としの位置 | 左外側、中央付近など、どこまで探索できたか | 用紙上の分布を確認する | 合計数が同じでも分布が異なることがある |
| 探索開始側・経過 | どちらから開始し、どの方向へ探索したか | 左/右/中央+探索の流れを短く記録する | 右開始だけでUSNとは判定しない |
| 誤反応 | ターゲット以外への反応や重複反応 | 誤抹消、二度塗り、迷い線などを記録する | 課題理解、視覚条件、運動条件も確認する |
| 所要時間 | 探索に要した時間と停止・再開の様子 | 秒単位+中断や停止の内容を記録する | 本自作シートに時間によるカットオフはない |
何個見落としたらUSNなのか
本記事の自作課題については、「○個以上ならUSN」というカットオフは設定していません。標準化検査では、その検査固有の用紙・対象者・採点法に基づいて基準値が定められています。そのため、BITやBells Testなどで報告されている数値を、レイアウトの異なる本シートへ流用しないでください。
本シートでは、見落とし数そのものを診断点に変換するのではなく、左右の分布、探索開始側、探索範囲、誤反応、時間経過を所見として残すことを目的とします。
結果を読む4ステップ
- 課題が成立していたか:覚醒、理解、視力・視野、姿勢、上肢機能などに大きな影響要因がなかったか確認します。
- 見落としの左右分布を見る:一側へまとまった見落としがあるか、左右へ散在しているかを確認します。
- 探索過程と合わせる:開始側、探索範囲、途中で戻る位置、停止や再開の様子を合わせて読みます。
- 必要な次の評価を決める:所見が一側へ偏る場合やADLとの不一致がある場合は、別の机上課題や生活場面の観察へ進みます。
標準化されたBITでも、カットオフ以下という結果だけでなく、見落としが左空間へ偏っているか、検査中にどのような探索を行ったかを確認することが重要です。
記録例|「点数」ではなく判断根拠まで残す
記録では「USNあり」の一言で終わらせず、どの条件で、どこを見落とし、どのように探索したかを残します。以下は書き方の例です。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 実施条件 | 座位。用紙は体幹正中。眼鏡使用。右手で実施。探索位置への誘導なし。 |
| 見落とし | 左側に4個、右側に0個。左外側に見落としが集中。 |
| 探索 | 右側から開始。右→中央へ進み、左端までの探索は乏しい。 |
| 誤反応 | 誤抹消なし。重複反応なし。 |
| 所要時間 | 86秒。途中に短い探索停止あり、その後は自発的に再開。 |
| 解釈 | 左空間への探索の偏りを示唆する所見あり。自作課題単独ではUSNを確定せず、別の机上課題とADLで一側への見落としを確認する。 |
このように、結果+条件+探索過程+次の評価まで書くと、再評価や多職種への申し送りでも「何を根拠に判断したか」が分かりやすくなります。
迷いやすい結果の読み方
抹消課題では、典型的な左右差が出ないケースほど判断に迷います。結果だけをUSNへ直結させず、課題が成立した条件とADL所見まで確認します。
左右とも見落としが多い
左右に見落としが散在する場合は、空間的な左右差だけでは説明しにくくなります。覚醒、全般性注意、視覚条件、課題理解、疲労、運動条件などを再確認します。「左右差がないからUSNではない」「全体に遅いから注意障害」と一つの所見だけで決めないことが重要です。
机上では見落とさないのにADLでぶつかる
机上検査で明らかな偏りがなくても、生活場面でUSN症状が残ることがあります。静かな机上では代償できても、歩行、車椅子操作、更衣、食事など複数の処理が必要な場面では一側への見落としが現れることがあるためです。
この場合は抹消課題を繰り返すより、実際に問題が起きている生活場面を観察し、どの刺激を見落とし、どの援助で修正できるかを確認します。
麻痺や失調でマーキングしにくい
使用手を変更した場合は、その条件を記録します。姿勢保持のための身体支持と、探索位置を指差す・ターゲットへ誘導するといった認知的な援助は分けて考えます。
探索位置そのものを誘導すると独立した探索行動を評価しにくくなるため、介助を行った場合は「どこまで介入したか」を必ず残します。
再評価で成績がよくなった
同じ課題を繰り返すと、用紙への慣れや探索方略の学習が成績へ影響する可能性があります。そのため、見落とし数だけで改善を判断せず、探索範囲、開始側、ADLでの危険行動、必要な援助量も合わせて比較します。
別レイアウトへ変更した場合は難易度やターゲット配置も変わるため、単純な点数比較は避けます。
抹消課題PDF・Excel|実施用シートと記録用紙
このページでは、実施用シートPDF、記録用紙PDF、編集できるExcel原本を配布しています。標準化検査の代替ではなく、短時間の探索所見を同じ形式で記録し、再評価や申し送りへつなげるための補助資料として使用してください。
抹消課題 実施用シート v2(A4横)
複数の図形から指定されたターゲットを探索する、rehabilikunblog作成の自作レイアウトです。開始位置は誘導せず、左右の見落とし分布と探索の進み方を観察します。
実施用シート PDF プレビュー(タップで表示)
抹消課題 記録用紙 v6(A4縦)
実施条件、左右の見落とし、探索開始側、探索経過、誤反応、所要時間、探索停止・再開、ADL所見、次に確認する評価までを1枚で残せる記録用紙です。「USNあり/なし」だけを選ぶのではなく、観察した事実と判断根拠を残せる構成にしています。
記録用紙 PDF プレビュー(タップで表示)
編集用 Excel 原本(実施用シート v2 + 記録用紙 v6)
院内で項目名や記入欄を調整したい場合は、Excel原本を使用できます。実施用シートv2と記録用紙v6をまとめて収録しているため、原本を残したまま施設用のコピーを作成して編集する運用がおすすめです。
再評価でそろえたい項目
- 使用した課題シートの版
- 姿勢と用紙位置
- 視距離・眼鏡などの視覚条件
- 使用手と身体支持の有無
- 探索位置への認知的な援助の有無
前回と条件が異なる場合は、その違いを記録してから結果を比較します。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。
Q1. 抹消課題で何個見落としたらUSNですか?
使用する検査によって異なります。BITやBells Testなどの標準化検査では、それぞれ固有の用紙と採点基準があります。一方、本記事の配布シートは自作レイアウトのため、「○個以上ならUSN」という独自カットオフは設定していません。左右の見落とし分布と探索過程を記録し、必要に応じて標準化検査やADL観察へ進みます。
Q2. このPDFはBITの代わりに使えますか?
BITの代替となる標準化検査ではありません。本PDFは、短時間に探索の偏りを確認し、同じ形式で記録するための自作補助シートです。BITとして判定・採点する場合は、正式なBIT行動性無視検査日本版とその手順を使用してください。
Q3. 探索が止まったら何秒で終了しますか?
本自作課題には、「○秒停止したら終了」という標準化された終了基準を設定していません。探索が停止した場合は、停止時間、その後に自発的に再開したか、疲労や注意逸脱がみられたかを記録します。本人の終了申告や課題継続が難しくなった状況も合わせて残してください。
Q4. ベッドサイドでも実施できますか?
課題を見渡せる視覚条件と安定した姿勢を確保できれば、ベッドテーブルなどで実施できます。ただし、通常の机上座位と条件が異なる場合は、用紙位置、頭部・体幹の向き、支持方法、使用手などを記録し、異なる条件で得た結果を単純比較しないようにします。
次の一手|机上の偏りを別課題とADLで確認する
抹消課題で一側への見落としや探索の偏りがみられた場合は、同じ課題だけを繰り返すのではなく、別の側面から所見を確認します。
- 線分二等分試験のやり方と記録:線分の主観的な中央がどちらへ偏るかを確認し、抹消課題とは異なる机上所見を追加したい場合に使用します。
- CBS評価の使い方:机上検査と移動・更衣・食事・物品探索などの生活場面にずれがある場合に、ADL上の影響を整理します。
参考文献
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

