HOOS(Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score)とは?
HOOS(Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score)は、変形性股関節症や股関節手術( THA など)に対する症状・機能障害・ QOL を評価する患者立脚型アウトカム指標( PROM )です。股関節周囲の痛みやこわばりだけでなく、歩行や階段昇降、靴下・靴の着脱、スポーツ・レクリエーション、股関節に関連した QOL までをカバーしており、疾患特異的 PROM として術前後や保存療法の経過観察に広く用いられています。1–5
HOOS は Pain・Symptoms・ADL・Sport/Rec・Hip-related QOL の 5 サブスケールから構成され、それぞれ 0〜100 点スケール( 0 =最大の問題、100 =問題なし)で算出します。1–4 WOMAC をベースに股関節特有の項目を拡張した指標であり、KOOS(膝)と並んで「関節別にみた OA 患者の主観的アウトカム」を捉える代表的なスケールです。日本語版 HOOS( J-HOOS )の信頼性・妥当性も報告されており、国内でも研究・臨床で使用されています。6,7
股関節・下肢評価を「強み」にしたい理学療法士へ|学び方とキャリアの整え方を見る
HOOS のサブスケールとカバーする生活機能
HOOS は、WOMAC を拡張した 5 つのサブスケールから構成されます。Pain(痛み)、Symptoms(症状:こわばり・可動性など)、ADL(日常生活動作)、Sport/Rec(スポーツ・レクリエーション)、QOL(股関節関連 QOL) の 5 領域です。1–4 設問文そのものはここでは示しませんが、図のように「どの領域の生活機能をみているか」をイメージしておくと、得点変化と臨床像を結びつけやすくなります。
高齢の変形性股関節症では Pain・ADL のサブスケールが中心になりますが、若年・中年でスポーツや重労働に復帰したい症例では Sport/Rec や QOL のスコアが鍵になります。また、THA 術後では「Pain は改善したが ADL が伸び悩む」「ADL は改善したが Sport/Rec や QOL が頭打ち」といったパターンを見極めることで、荷重指導や筋力強化、活動制限の調整につなげやすくなります。
評価手順とスコアリング| 0〜4 段階から 0〜100 点へ
HOOS は各項目を 5 段階(通常 0〜4 または 1〜5)で評価し、サブスケールごとに 0〜100 点スケールへ換算します。1–4 KOOS と同様に、0 点は最大の問題、100 点は問題なしを意味するため、得点が高いほど状態が良好 です。具体的な換算式は原著・マニュアルに従う必要がありますが、基本的には「各サブスケールの合計点から理論上の最小値・最大値を用いて 0〜100 に線形変換する」考え方です。
臨床では、各サブスケールをそのまま点数で記録してもよいですし、「Pain 72/100、ADL 65/100、Sport/Rec 40/100」などと並べて記載すると、どこに課題が残るかを直感的に把握しやすくなります。欠測項目がある場合の扱い(一定数までは平均で補完など)は、施設ごとの運用ルールや研究プロトコルに準拠するのが安全です。
スコアの解釈と MCID・回復の目安
HOOS の MCID(最小限臨床的重要差)は、サブスケールや対象集団によって異なりますが、多くの研究で おおよそ 8〜12 点前後 の範囲と報告されています。2–5,8,9 THA 患者を対象にした検討では、Pain や ADL で 8〜10 点程度、Sport/Rec や QOL では 10〜12 点程度を MCID とする報告があり、「 HOOS の各スコアが 10 点前後改善していれば、患者が意味のある改善として認識しやすい」とイメージすると実務的です。
ただし、ベースラインが非常に低い症例や若年・高活動度の症例では、同じ 10 点の変化でも意味合いが異なります。また、THA 術後のように自然経過だけでも改善が見込まれる場面では、「対照群との差」や他の指標を踏まえて解釈する必要があります。PROM の点数だけで介入の成否を判断するのではなく、痛みスケールや歩行・ ADL 、筋力評価とあわせて総合的にみることが重要です。
臨床での活用例|保存療法・ THA 術前後・若年 OA
変形性股関節症の保存療法では、初診時・数か月後・ 1 年後といったフォローアップのタイミングで HOOS を実施し、痛みスケールや歩行テスト( 6 分間歩行・ TUG など)とあわせて、「薬物療法・運動療法・体重管理の組み合わせでどの程度 QOL が改善したか」を評価します。3,4,8 特に ADL と QOL のサブスケールは、日常自立や仕事・趣味との両立をみるうえで有用です。
THA 術前後では、術前→術後 3 ヶ月→ 6 ヶ月→ 1 年といった時系列で HOOS を記録し、股関節の痛み・可動性・ ADL ・スポーツ復帰・ QOL の各面でどのように変化しているかを患者さんと共有します。3,5,8,9 若年・中年の OA では、将来の再置換リスクや活動制限への不安が強いことも多く、QOL や Sport/Rec のスコア変化を丁寧に説明することで、「どの範囲までなら安全に活動を広げられそうか」を一緒に考える材料になります。
WOMAC・KOOS・ LEFS など他指標との使い分け
股関節疾患では、WOMAC や Harris Hip Score、 LEFS など、複数の評価指標が併用されます。HOOS は WOMAC をベースに股関節特異的項目や高活動度向け項目を追加したスケールであり、変形性股関節症・ THA を対象とした PROM の中でも「症状〜 QOL まで一貫して評価できる指標」 として位置づけられます。1–4,8
実務的には、股関節 OA・ THA では「 HOOS+ LEFS」、膝 OA・ TKA では「 KOOS または WOMAC+ LEFS」といった組み合わせが、主観と客観をバランスよく押さえやすい構成です。汎用 PROM( SF-36 ・ EQ-5D など)を併用する場合は、「疾患特異的 PROM( HOOS )→ 下肢全体の PROM( LEFS )→ 汎用 QOL」という階層構造を意識しておくと、評価負担を増やしすぎずに情報を整理できます。当ブログの 評価ハブ では、股関節周囲の PROM と歩行・筋力評価を組み合わせたフローも順次まとめていく予定です。
記録とチーム共有のコツ
カルテには、「サブスケール名」「得点( 0〜100 )」「測定時期」を明記して記録します。例えば「 HOOS Pain 78/100、Symptoms 70/100、ADL 68/100、Sport/Rec 40/100、QOL 55/100(術後 3 ヶ月)」のように書き、歩行テストや筋力評価と並べておくと、医師・看護師・ PT ・ OT 間の共有がスムーズです。3–5,8
カンファレンスや退院サマリーでは、「痛みは十分改善しているが Sport/Rec と QOL が低く、本人は趣味・仕事への復帰に不安が強い」といったように、スコアを具体的な生活像と結びつけて説明すると理解されやすくなります。患者さんや家族には、「 0〜100 点中いまは 60 点くらいで、日常生活はほぼ自立だが、長時間歩行や重い荷物運びではまだ注意が必要」といった形で、点数を生活上の注意点に翻訳して伝えることが大切です。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
HOOS は何点くらい改善したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?
HOOS の MCID は、サブスケールや対象集団により異なりますが、THA 患者や変形性股関節症を対象とした研究では、多くのサブスケールで おおよそ 8〜12 点前後 が目安とされています。2–5,8,9 例えば、Pain 68→80(+12 点)、ADL 55→66(+11 点)などは、測定誤差を超えた改善と捉えやすいレンジです。一方、2〜3 点の変化は日による変動の範囲に収まることも多く、「良くなった/悪くなった」と判断するには慎重さが必要です。
ただし、 PROM の変化量だけでリハビリの成否を評価することはできません。本人の主観的な満足度や不安の程度、痛みスケール・歩行テスト・筋力評価、仕事や趣味への復帰状況などと合わせて総合的に判断することが重要です。それでも「評価やエビデンスの勉強は続けているのに、今の職場では HOOS や他の PROM を十分に活かしきれない」と感じる場面が続く場合は、働き方そのものを見直すタイミングかもしれません。そうした“危険サイン”を整理するには、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。
おわりに
股関節疾患のリハビリでは、「レッドフラッグの除外 → ROM ・筋力・疼痛評価 → 歩行・ ADL 評価 → PROM( HOOS ・ LEFS など)で患者視点を把握 → ゴール設定と介入計画 → 再評価」というリズムを押さえておくと、評価結果を治療戦略に結びつけやすくなります。HOOS は痛み・症状からスポーツ・ QOL までを一貫して評価できるため、THA 術前後や保存療法の経過を患者さんと共有しながら、“どこまで回復すれば満足できるか” を話し合うツールとしても有用です。
一方で、PROM や歩行評価を丁寧に回したくても、外来や病棟の時間配分の中で十分に活かしきれないと感じる場面も多いはずです。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。
参考文献
- Nilsdotter AK, Lohmander LS, Klässbo M, Roos EM. Hip disability and osteoarthritis outcome score (HOOS)–validity and responsiveness in total hip replacement. BMC Musculoskelet Disord. 2003;4:10. doi:10.1186/1471-2474-4-10.
- Roos EM, Toksvig-Larsen S. Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS) and Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score (HOOS)–validation and responsiveness in total joint replacement. Health Qual Life Outcomes. 2003;1:17. doi:10.1186/1477-7525-1-17.
- de Groot IB, Reijman M, Terwee CB, et al. Validation of the Dutch version of the Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score. Osteoarthritis Cartilage. 2007;15(1):104–109. doi:10.1016/j.joca.2006.06.014.
- Lyman S, Lee YY, Franklin PD, et al. Validation of the HOOS, JR: A short-form hip replacement survey. Clin Orthop Relat Res. 2016;474(6):1472–1482. doi:10.1007/s11999-016-4719-1.
- Wright JG, et al. Sensitivity to change of the Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score (HOOS) following total hip arthroplasty. (二次資料・サマリーを通じて MCID のレンジを参照)
- 土屋弘行ほか. 日本語版 Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score(HOOS)の開発と信頼性・妥当性の検討. 日本整形外科学会雑誌.(J-HOOS に関する国内報告)
- Shirley Ryan AbilityLab. Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score (HOOS). Rehabilitation Measures Database. (2025 年アクセス)
- Paulsen A, Roos EM, Pedersen AB, et al. Minimal clinically important improvement (MCII) and patient-acceptable symptom state (PASS) in total hip arthroplasty patients. Acta Orthop. 2014;85(1):39–48. doi:10.3109/17453674.2013.867782.
- Collins NJ, Roos EM. Patient-reported outcome measures for total hip and knee arthroplasty: a review of the literature. J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(12):815–825. doi:10.2519/jospt.2013.4804.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

