肩関節の整形外科テスト一覧|病態別の選び方・記録シート付き

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肩関節の整形外科テストは「症状→仮説→必要なテスト」の順で選ぶ

肩関節の整形外科テストは、1つの陽性所見だけで腱板損傷、肩峰下痛、不安定性、SLAP損傷などを確定する検査ではありません。理学療法士が臨床で使うときは、受傷機転、痛みの部位と再現動作、AROM・PROM、筋力、不安感やクリックから事前仮説を作り、その仮説を確認するために必要なテストだけを追加します。

本記事では、肩関節の代表的な整形外科テストを病態・状態別に一覧化し、「どの場面で選ぶか」「陽性所見からどこまで言えるか」「何を記録するか」まで整理します。Neer・Hawkinsなど個々のテストを丸暗記するのではなく、初回評価から再評価まで同じ考え方で運用できることを目標にします。

重要:本記事でいう「最小セット」は、診断精度が検証された固定の診断クラスターを意味しません。疼痛を繰り返し誘発して情報価値を下げないために、1つの仮説に対して必要なテストだけを選ぶという実務上の運用方法です。実施数は症例に応じて調整してください。

肩関節の整形外科テスト一覧|病態・状態別に何を選ぶか

最初に覚えるべきなのはテスト名の数ではなく、事前情報とテストの役割を対応させることです。肩峰下痛・腱板関連疼痛、腱板断裂、不安定性、肩鎖関節、関節唇、上腕二頭筋長頭腱では、テストを選ぶ前に確認したい所見が異なります。

肩関節の代表的な整形外科テストと使い分け
疑う病態・状態 テスト前に見る所見 代表的なテスト 結果の読み方
肩峰下痛・腱板関連疼痛 挙上時痛、上腕外側痛、疼痛アーク、抵抗運動での疼痛 Neer、Hawkins-Kennedy、Painful Arc、外旋抵抗など 症状再現は仮説を補強するが、単独で障害組織を確定しない
腱板断裂を疑う 外傷歴、明らかな筋力低下、保持困難、AROMとPROMの差 Full / Empty Can、外旋抵抗、Lag sign、Drop Arm、Lift-off / Belly-pressなど 保持不能やlagは疑いを高める所見になり得るが、疼痛による筋出力低下と分けて解釈する
前方不安定性 脱臼・亜脱臼歴、外転外旋位での「外れそう」「怖い」感覚 Apprehension、Relocation 疼痛だけでなく、apprehension、防御反応、支持による変化を確認する
下方弛緩・多方向性要素 複数方向の不安定感、左右差、関節弛緩性 Sulcus Sign 下方への弛緩を示す所見であり、所見があるだけで症候性不安定性とは判断しない
肩鎖関節 肩上方の限局痛、局所圧痛、水平内転や支持動作での疼痛 Cross-body Adductionなど 肩鎖関節部に一致する局所症状の再現を確認する
関節唇・SLAP 投球・頭上動作、クリック、引っかかり、深部痛 O’Brienなど 単独陽性でSLAPと決めず、機転・症状・他の身体所見を組み合わせる
上腕二頭筋長頭腱 前方痛、結節間溝周囲の圧痛、肘屈曲・回外や肩屈曲負荷での症状 Speed、Yergasonなど 腱板や関節唇との症状重複を考慮し、補助所見として扱う
肩関節の整形外科テストを選ぶ5ステップを示した図版
安全確認・問診から事前仮説を立て、必要な整形外科テストだけを選び、結果を統合して次の一手へつなげます。

テストを選ぶまでの流れ|問診・ROM・筋力を先に確認する

整形外科テストから評価を始めるのではなく、安全確認→問診→AROM・PROM→筋力→必要な誘発テストの順で進めます。前半の情報で仮説が十分に絞れれば、一覧にあるテストをすべて実施する必要はありません。

肩関節の整形外科テストを選ぶまでの評価フロー
順序 確認すること 見るポイント 次の判断
1 安全確認 外傷後の変形、脱臼・骨折疑い、進行する神経症状、発熱などの全身症状 疑わしい場合は誘発テストを優先せず、医師への相談・連携を検討する
2 問診 受傷機転、痛みの主座、再現動作、脱臼歴、クリック、不安感 疑う病態・状態を1〜2個へ絞る
3 AROM / PROM 能動と他動の差、疼痛角度、可動域制限、代償 疼痛主体か、拘縮・筋力低下が大きいかを整理する
4 筋力・抵抗運動 疼痛による抑制、明らかな筋力低下、保持不能、左右差 腱板機能を追加評価する必要性を判断する
5 整形外科テスト 事前仮説に対応するテストを必要な範囲で選ぶ 結果を単独で診断せず、ここまでの所見と統合する

本記事と配布シートでは、選択したテストを記録する欄を4枠に整理しています。これは「4テスト行えば診断できる」という意味ではありません。必要な情報が1〜2個のテストで得られれば追加せず、判断に必要な場合のみ次のテストへ進むための運用上の枠です。

Neer・Hawkins・Painful Arcの違い|何を見て使い分けるか

Neer、Hawkins-Kennedy、Painful Arcはいずれも肩峰下痛や腱板関連疼痛を考える場面で使用されますが、症状を確認する条件が異なります。一方で、いずれも単独陽性から特定組織の障害を確定するテストではありません。

Neer・Hawkins-Kennedy・Painful Arcの違い
テスト 主な条件 臨床で見ること 解釈上の注意
Neer 肩甲骨の代償を抑えながら他動挙上 挙上に伴う症状の再現 疼痛再現だけで障害組織を特定しない
Hawkins-Kennedy 肩関節屈曲位から内旋方向へ誘導 挙上位・内旋条件での症状再現 強く押し切って疼痛を増悪させない
Painful Arc 自動挙上・外転 どの角度帯で症状が出現・軽減するか 「陽性・陰性」だけでなく角度と痛みの部位を残す

肩の身体診察テストに関するシステマティックレビューでは、NeerやHawkins-Kennedyを含む個々のテストには診断精度上の限界があり、単独所見ではなく事前情報や他の身体所見と統合して解釈することが重要です。

Neer・Hawkins-Kennedy・Painful Arcの実施方法や使い分けを詳しく確認したい場合は、肩インピンジメントのテスト|Neer・Hawkinsの違いで整理しています。

代表テストの読み方|「陽性=病名」にしない

整形外科テストで避けたいのは、テスト名と病名を1対1で結びつけることです。陽性所見は事前仮説を補強する材料であり、疼痛、筋力低下、保持不能、弛緩性、不安感など、テストによって引き出された反応の種類まで確認します。

代表的な肩関節テストで確認する反応と判断の境界
テスト 主な目的 重要な反応 短絡しないポイント
Full / Empty Can 棘上筋を含む腱板機能 疼痛、筋力低下、保持の可否 疼痛による筋出力低下だけで断裂とは判断しない
外旋抵抗・Lag sign 外旋筋群・腱板断裂の疑い 抵抗時痛、筋力低下、肢位保持の遅れ 疼痛による制限と明らかなlagを区別する
Lift-off / Belly-press 肩甲下筋機能 動作の可否、筋力低下、代償 内旋可動域制限がある症例ではテスト条件そのものに注意する
Drop Arm 大きな腱板断裂の疑い 挙上位を保持できるか、制御して下降できるか 陰性所見だけで腱板断裂を除外しない
Apprehension / Relocation 前方不安定性 外れそうな恐怖感、防御反応、支持による軽減 疼痛だけを陽性扱いせず、強いapprehensionが出たら無理に進めない
Sulcus Sign 下方弛緩 下方への陥凹、左右差、症状との一致 無症候性の関節弛緩と症候性不安定性を区別する
O’Brien 関節唇・肩鎖関節などの補助評価 痛みの位置、条件による変化、機械的症状 単独陽性でSLAP損傷と確定しない
Cross-body Adduction 肩鎖関節 肩上方の局所症状再現 肩前方・後方の伸張感や疼痛と区別する
Speed / Yergason 上腕二頭筋長頭腱・関節唇の補助評価 前方痛、結節間溝付近の症状 単独テストだけで判断せず、他の所見と統合する

腱板を筋別に評価する場面では、腱板テストまとめ|筋別の最小セットで各テストの位置づけを確認できます。

記録の型|テスト名より「条件・反応・解釈」を残す

再評価で重要なのは「Hawkins陽性」のようなテスト名だけではなく、なぜそのテストを選び、どの条件で、どこに、どのような反応が出たかです。今回の記録シートv2も、この流れに合わせて作り直しています。

肩関節の整形外科テストを再評価につなげる記録項目
項目 記録する内容
事前仮説 何を疑ってテストを選んだか
選択テスト 事前仮説を確認するために実施したテスト
条件・角度 体位、開始肢位、症状が再現された角度など
反応 疼痛、筋力低下、保持不能・lag、apprehension、クリック、症状再現なし、中止など
解釈 事前仮説を支持するか、反証するか、追加評価が必要か
再評価 次回も同じ条件で追う痛み角度、代表テスト、ADL・スポーツ動作など

たとえば「Hawkins陽性」だけではなく、「挙上時の上腕外側痛あり。Hawkins-Kennedyで同部位の疼痛を再現。明らかな筋力低下なし。肩峰下痛・腱板関連疼痛を作業仮説として負荷条件を調整し、同条件で再評価」のように残すと、テスト結果と臨床判断の境界が明確になります。

ダウンロード|肩の整形外科テスト記録シート【Excel・PDF】

本文の評価手順をそのまま記録へ落とせるように、「肩の整形外科テスト記録シート v2」をExcelとPDFの2形式で用意しました。

従来のように決められたテストを順番に埋めるのではなく、評価前チェック→事前仮説→必要なテストの選択→条件・反応・解釈→作業仮説→次の一手・再評価をA4 1枚で記録する構成です。

Excel版は院内運用に合わせて編集したい場合、PDF版はそのまま印刷して手書きで使用したい場合に向いています。


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よくある失敗|肩テストの情報価値を下げる6つのパターン

テストそのものを正しく実施していても、選び方や解釈がずれると情報価値は下がります。特に、疼痛が強い症例でテストを繰り返したり、単独陽性から病名を決めたりしないことが重要です。

肩関節の整形外科テストで避けたい判断
よくある失敗 問題点 修正する考え方
一覧にあるテストを全部行う 疼痛誘発が重なり、後半の所見を解釈しにくくなる 問診・ROM・筋力から事前仮説を作ってから選ぶ
痛い=その組織の損傷と判断する 複数の肩病態で似た疼痛が再現され得る 部位・角度・筋力・機転を統合する
筋力低下=腱板断裂と判断する 疼痛による筋出力抑制が混在する 疼痛の有無、保持不能、AROMとPROMなどを合わせる
O’Brien陽性=SLAPと判断する 単独テストでは病態の特定が難しい 頭上動作歴、クリック、痛みの位置、他所見を統合する
Sulcus Sign陽性=不安定症と判断する 関節弛緩性と症候性不安定性は同じではない 「外れそう」「怖い」など患者の症状との一致を見る
Apprehensionを押し切る 必要以上の恐怖感や防御反応を誘発する 強いapprehensionが再現されたら無理に進めず、肢位と反応を記録する

結果をどうまとめるか|「陽性所見」から作業仮説へ進む

評価のゴールは、陽性テストを多く集めることではありません。事前仮説に対して、どの所見が支持し、どの所見が反証したかを整理し、次の評価・介入・相談へつなげることです。

特に腱板関連の肩痛では、構造名を早い段階で決め切るより、疼痛が出る動作、可動域、筋力、負荷への反応を合わせて評価することが重要です。外傷後に明らかな筋力低下や保持不能がある場合など、腱板断裂を疑う所見がそろう場合は、負荷を上げる前に医師への相談や画像評価の必要性を検討します。

テスト後に整理する作業仮説と次の一手
整理すること 記録例
作業仮説 肩峰下痛・腱板関連疼痛を第一仮説とする
支持所見 挙上時外側痛、Painful Arcで同部位の症状再現、抵抗運動で疼痛あり
反証・不足所見 明らかな保持不能なし、外傷歴なし
次の一手 負荷条件を調整し、痛み角度と代表所見を同条件で再評価

よくある質問

NeerとHawkinsはどちらを優先すればよいですか?

一律にどちらかを優先するのではなく、先に挙上時痛の部位、疼痛アーク、AROM・PROM、筋力を確認します。そのうえで肩峰下痛・腱板関連疼痛の仮説を確認する必要があれば、NeerまたはHawkins-Kennedyを追加します。両テストとも単独で病態を確定する検査ではありません。

肩の整形外科テストは何個行えばよいですか?

エビデンスに基づく一律の「正しい個数」はありません。本記事と記録シートでは最大4枠を用意していますが、これは4つ実施することを推奨する意味ではありません。事前仮説を確認するために必要なテストだけを選び、1〜2個で必要な情報が得られれば、無理に追加しません。

O’Brienテストが陽性ならSLAP損傷と考えてよいですか?

単独では判断できません。O’BrienはSLAP病変などを考える際の補助所見の1つですが、肩鎖関節など別の部位でも症状が誘発されることがあります。受傷・投球歴、クリックや引っかかり、痛みの位置、他の身体所見を組み合わせて解釈します。

Apprehensionテストで患者さんが怖がる場合はどうしますか?

強いapprehensionや防御反応が再現された場合は、必要以上に外転・外旋方向へ押し進めません。その時点の肢位と反応を記録し、安全性を優先します。不安定性テストの実施条件やRelocationとの組み合わせは、肩関節不安定性テスト|Apprehension・Relocation・Sulcusで詳しく整理しています。

次の一手|疑う病態が決まったら各論で深掘りする

この親記事では、肩関節の整形外科テストを「何を選ぶか」まで整理することを役割としています。疑う病態・状態が絞れたら、必要な各論だけ確認してください。

  • 挙上時痛・肩峰下痛:Neer・Hawkins-Kennedy・Painful Arcの実施と使い分けを確認する
  • 腱板機能:筋別テストと、疼痛による筋力低下・保持不能の違いを確認する
  • 不安定感:Apprehension・Relocation・Sulcusを安全に使い分ける

参考文献

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  3. Alqunaee M, Galvin R, Fahey T. Diagnostic accuracy of clinical tests for subacromial impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2012;93(2):229-236. doi:10.1016/j.apmr.2011.08.035
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  6. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Rotator Cuff Injuries: Evidence-Based Clinical Practice Guideline. Rosemont, IL: American Academy of Orthopaedic Surgeons; 2025. Clinical Practice Guideline

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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