ディックス・ホールパイクは「 BPPV を見分ける入口」を固定する検査です
頭位変換で短時間の回転性めまいが出るときは、いきなり前庭リハを始めるより、まず BPPV かどうかを見分ける ことが大切です。 Dix-Hallpike は、後半規管型の良性発作性頭位めまい症を確認するときの代表的な検査で、現場では「評価 → 判定 → 次の一手」をつなぐ入口になります。
すでに公開している BPPV と前庭リハの違い でも触れたように、 BPPV は「戻す」、前庭リハは「立て直す」が基本です。つまり、発作性の頭位めまいをみたら、最初に病態を分ける軸として Dix-Hallpike を固定しておくと、介入の順番が整理しやすくなります。
Dix-Hallpike は後半規管型の確認で出番が多いです
Dix-Hallpike の目的は、頭位変換で誘発されるめまいと眼振をみて、後半規管型の BPPV を疑うかどうかを判断することです。現場では「めまいが出たか」だけに目が向きやすいですが、実際には眼振の有無と向き、どの頭位で誘発されたか、左右差があるかをまとめてみる必要があります。
この検査の価値は、症状の訴えを客観所見に変えられる点です。患者さんの主観だけで判断すると「気分不良」や「ふわふわ感」も同じ箱に入りやすくなりますが、 Dix-Hallpike で頭位と反応をそろえると、 BPPV を疑う場面と、別の末梢・中枢性めまいを考える場面を分けやすくなります。
まず適応と実施前チェックをそろえます
検査を考えやすいのは、寝返り、起き上がり、上を向く、下を向くなどの頭位変換で、数秒から数十秒の回転性めまいが繰り返し出る場面です。こうした病歴は BPPV と相性がよく、検査の優先順位が上がります。反対に、持続するめまい、強い神経症状、頭位と関係の薄いふらつきでは、別の原因も視野に入れて進めます。
実施前には、頸部伸展が可能か、安全に臥位へ移行できるか、嘔気や不安が強すぎないかを確認します。検査は短時間でも、頭位変換そのもので症状が強く出ることがあるため、最後まで安全に行える条件を先にそろえておくと、途中で判断がぶれにくくなります。
| 確認項目 | みるポイント | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 症状の出方 | 寝返り・起き上がり・上向きで短時間の回転性めまいが出る | BPPV を疑う入口になりやすい |
| 頸部可動性 | 頸部伸展や回旋が安全に可能か | 検査手順をそのまま実施できるかを決める |
| 体位変換耐性 | 介助下で臥位へ移行できるか、転倒リスクは高くないか | 安全管理と介助位置を決める |
| 症状の強さ | 嘔気・不安・恐怖感が強すぎないか | 途中中止や説明量の調整に関わる |
| 赤旗の有無 | 強い頭痛、複視、構音障害、麻痺、意識変容など | PT 単独で進めず医師評価を優先する |
Dix-Hallpike のやり方は「頭位をそろえて反応を見る」が基本です
Dix-Hallpike は、ベッド端の座位から頭部を検査側へ 45 ° 回旋し、そのまま素早く仰臥位へ移行して頸部をやや伸展位に保ち、検査側の耳が下になる位置を作る流れが基本です。現場では「どちらに向けるか」で迷いやすいですが、検査したい側の後半規管に刺激が入りやすい位置を意識して頭位をそろえると再現性が上がります。
大切なのは、姿勢を作った直後から眼振と訴えを観察することです。症状が強く出る人では、患者さんへの声かけだけで終わってしまい、眼振を十分にみられないことがあります。あらかじめ「少し回る感じが出ても数十秒でおさまりやすい」「終わったらゆっくり戻す」と説明しておくと、観察の質が上がります。
実施の流れ
① ベッド端で座位をとります。
② 頭部を検査したい側へ 45 ° 回旋します。
③ 頭部を支持したまま、素早く仰臥位へ移行します。
④ 頸部を軽く伸展し、検査側耳が下になる位置を作ります。
⑤ めまいの訴えと眼振を観察します。
⑥ 症状が落ち着いたら、ゆっくり座位へ戻します。
⑦ 必要に応じて反対側も同条件で行います。
観察のコツ
検査の質を上げるコツは、頭位・観察開始のタイミング・左右比較を毎回そろえることです。めまいの訴えが出ても、すぐに体を起こしてしまうと眼振を見落としやすくなります。逆に、反応が乏しいからといって数秒で打ち切ると、潜時のある反応を拾いにくくなります。条件を固定して、左右を同じ基準でみることが実務では重要です。
陽性所見は「めまい」だけでなく眼振までセットで判断します
後半規管型を疑うときは、頭位変換で回転性めまいが誘発されるだけでなく、回旋成分を伴う上向き眼振を確認できるかが重要です。患者さんが「回ります」と言っても、眼振の情報がなければ BPPV と断定しにくいことがあります。症状と眼振、どちらも確認できてはじめて、次の一手が取りやすくなります。
カルテや申し送りでは、単に「陽性」と書くより、「右で実施し、回転性めまいあり、回旋成分を伴う上向き眼振あり」のように、頭位と反応を残した方が再評価につながります。評価を 1 回で終わらせず、次に誰がみても同じ流れで追える形にすることが大切です。
| 場面 | みえた所見 | 考え方 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 陽性 | 頭位変換で回転性めまいが誘発され、回旋成分を伴う上向き眼振がみられる | 後半規管型の BPPV を疑いやすい | 病態説明を行い、耳石置換法の適応を検討する |
| 陰性 | 症状も眼振もはっきりしない | 1 回だけで否定しきれないことがある | 反対側で再実施し、病歴とあわせて判断する |
| 非典型 | 水平成分が目立つ、または症状はあるが眼振が乏しい | 水平半規管型や別のめまいも考える | supine roll test や医師相談を検討する |
陰性だったときは「終わり」ではなく次の分岐に進みます
Dix-Hallpike が陰性でも、その 1 回だけで BPPV を完全に否定しきれないことがあります。実務では、まず反対側で同条件にそろえて再実施し、病歴との整合を見直します。頭位変換で毎回短時間の回転性めまいが出るのに、片側 1 回の陰性だけで終了してしまうと、評価の取りこぼしが起きやすくなります。
病歴が BPPV とよく合うのに、 Dix-Hallpike で水平成分が目立つ、あるいは眼振がはっきりしない場合は、水平半規管型を考えて supine roll test へ進む流れが有用です。大切なのは、陰性=問題なしではなく、陰性=別の分岐を考える合図として扱うことです。
陰性時の実務フロー
まず反対側で再実施し、それでも非典型なら水平半規管型や他の末梢前庭障害を考えます。赤旗が混ざる場合や、症状の説明がつきにくい場合は、 PT 単独で抱えず医師評価を優先します。頭位めまいは似た訴えが多いからこそ、次の一手を型で持っておくと迷いにくくなります。
赤旗があるときは PT 単独で進めないことが大切です
めまい対応では、 BPPV を見つけることと同じくらい、 BPPV ではなさそうな所見を見逃さないことが重要です。強い頭痛、複視、構音障害、麻痺、急な意識変容などがある場合は、頭位変換だけで説明できない中枢性要素も考える必要があります。
また、頸部の強い痛みや不安定性、急性外傷後、体位変換そのものが危険な場面では、検査手順を優先しない判断も必要です。めまい評価は「できるかどうか」だけでなく、「いま安全にやってよいか」を先に見極めると、チームで共有しやすくなります。
カルテには「頭位・反応・次の一手」を残すと共有しやすいです
記録の目的は、検査をした事実を残すことより、次回も同じ条件で再評価できる形にすることです。少なくとも、どちら側で行ったか、めまいの有無、眼振の有無と向き、嘔気の強さ、安全面の問題点は残しておくと、経過比較と申し送りがしやすくなります。
長文でなくても構いません。たとえば「右 Dix-Hallpike で回転性めまいあり、回旋成分を伴う上向き眼振を認める。後半規管型を疑う。次回は耳石置換法を検討」のように、頭位・反応・判断の 3 点が入っていれば、臨床では十分に使いやすい記録になります。
記録例
右 Dix-Hallpike にて短時間の回転性めまい出現。回旋成分を伴う上向き眼振を認める。嘔気は軽度、検査後に速やかに軽快。後半規管型の BPPV を疑うため、病態説明のうえ次回は耳石置換法を検討する。
現場の詰まりどころは「めまいだけで判断すること」です
いちばん多い失敗は、患者さんの「回る」という訴えだけで陽性と決めてしまうことです。 Dix-Hallpike は症状を誘発する検査ですが、判定では眼振の情報が重要です。逆に、症状が強すぎて早く終わらせたくなり、観察が雑になることもあります。だからこそ、説明・介助・観察の順番を先に決めておくと、反応を落ち着いて見やすくなります。
もう 1 つの詰まりどころは、陰性で止まることです。反対側の再実施や supine roll test への移行を持っていないと、「陰性だったが何となく気になる」で終わりやすくなります。頭位めまいは似た訴えが多いので、陰性時の分岐まで含めて運用を作ると、評価の質が安定します。
よくある失敗
・めまいの訴えだけで陽性とする
・左右比較をせずに終える
・陰性でそのまま終了する
・ BPPV を除外せず前庭リハへ進む
・赤旗確認を飛ばす
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. Dix-Hallpike が陰性なら BPPV ではありませんか?
陰性 1 回だけでは否定しきれないことがあります。反対側で再実施し、病歴が BPPV によく合うのに非典型な反応なら、水平半規管型や他の末梢前庭障害も考えて次の検査へ進みます。
Q2. 陽性は「めまいが出た」だけで判断してよいですか?
それだけでは不十分です。頭位変換でのめまいに加えて、眼振の有無と向きまで確認して、頭位・反応・左右差をセットで判断する方が実務では安全です。
Q3. Dix-Hallpike のあとに何をするべきですか?
後半規管型を疑う所見がそろったら、病態説明を行い、耳石置換法の適応を検討します。症状が残る場合は、経過を追いながら別の末梢前庭障害や中枢性要素も見直します。
Q4. 検査後に症状が少し残っても大丈夫ですか?
短時間のふらつきや軽い気分不良が残ることはありますが、症状の強さ、回復の速さ、安全に離床できるかを確認してから終了します。強い神経症状や非典型な経過では医師相談を優先します。
Q5. どのくらいで見直しますか?
初回評価後は、症状の変化と次の介入方針が分かるように早めの再確認が有用です。耳石置換法を行う場合も、頭位めまいの残存と再発の有無を追えるように記録条件をそろえておくと比較しやすくなります。
次の一手
次に読むなら、まずは「 BPPV と前庭リハの違い」で病態ごとの考え方を整理し、そのあとに「前庭リハビリテーションのやり方」で残存するふらつきへの進め方を確認すると流れがつながります。感覚依存の崩れ方まで整理したい場合は、 mCTSIB の記事もあわせてみると評価の幅が広がります。
関連:BPPV と前庭リハの違い
続けて読む:前庭リハビリテーションのやり方
評価を広げる:mCTSIB のやり方と判定
参考文献
- Bhattacharyya N, Gubbels SP, Schwartz SR, et al. Clinical Practice Guideline: Benign Paroxysmal Positional Vertigo (Update). Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;156(3 Suppl):S1-S47. doi:10.1177/0194599816689667
- Dix MR, Hallpike CS. The pathology, symptomatology and diagnosis of certain common disorders of the vestibular system. Ann Otol Rhinol Laryngol. 1952;61(4):987-1016. doi:10.1177/000348945206100403
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

