歩行アウトカム評価とは?(結論:迷ったら「速度+耐久+起居移動」、必要なら歩行安定性も)
歩行アウトカム評価とは、歩行の状態を標準化されたアウトカム指標で数値化し、介入前後の変化を同じ条件で追跡することです。歩行は「できる/できない」だけでは変化が見えにくいため、速度・距離・時間・スコアの形で残すことで、治療方針と再評価が噛み合いやすくなります。
迷ったら、最小セットは 10 m 歩行(速度)+ 6 分間歩行(耐久)+ TUG(起居移動)です。屋外や多課題下での不安定さが主課題なら FGA(歩行安定性)を追加します。時間やスペースの制約が大きい場合は、 6 分間歩行の代替として 2 分間歩行を補足的に選ぶ考え方もあります(本記事では運用の中心を 4 つに絞り、代替は要点のみ触れます)。
歩行アウトカム指標の選び方(目的 × 実施条件 × 解釈)
選び方のコツは 3 つです。①目的(速度/耐久/起居移動/歩行安定性)を先に決める、②実施条件(回廊長・物品・補助具・声かけ)を固定できるかを確認する、③解釈(信頼性・妥当性・ MDC / MCID の目安)を踏まえ「変化が意味あるか」を判断する、です。
特に落とし穴になりやすいのが「今日は条件が違うのに、数字だけ比べてしまう」ことです。補助具・装具・靴・酸素、声かけ、休憩の扱いまで含めて標準化すると、アウトカムが“評価として使える数字”になります。
まず全体像(親記事)
歩行アウトカム評価を含む「歩行・バランス評価」の全体像は、歩行・バランス評価ハブで整理しています(検査の選び方と配置の考え方をまとめています)。
4 種の使い分け早見表(成人・臨床一般)
まずは「どの歩行アウトカム評価を、いつ使うか」の全体像です。所要時間・必要物品・強み・注意点を一望でき、歩行評価方法の選択に役立ちます。
| テスト | 主指標(単位) | 所要時間 | 必要物品 | 強み(拾いやすい変化) | 注意点(標準化の鍵) |
|---|---|---|---|---|---|
| 10 m 歩行( 10 MWT ) | 歩行速度( m/s ) | 約 1–2 分 | 10 m の直線路・ストップウォッチ・マーカー | 最小限の準備で速度を高精度に把握/経時変化に敏感 | 静的 or 動的スタートの統一/助走・減速域の設定/補助具条件の固定 |
| 6 分間歩行( 6 MWT ) | 歩行距離( m )・自覚症状 | 約 10 分 | 30 m 回廊・ストップウォッチ・ BP / SpO₂ ・声かけ文例 | 持久性・活動耐容能の変化を捉えやすい | 回廊長と標準化された声かけ/酸素・休憩基準の事前合意 |
| Timed Up & Go( TUG ) | 起立–歩行–方向転換–着座の時間( s ) | 約 1–2 分 | 椅子(座面 45–46 cm 目安)・ 3 m 距離・ストップウォッチ | 起居移動+方向転換を含む機能評価/スクリーニングに便利 | 椅子高・靴・補助具を固定/合図と計測開始のタイミングを統一 |
| Functional Gait Assessment( FGA ) | 10 項目合計( /30 ) | 約 10–15 分 | 評価票・ 10 m 路・段差/障害物(施設に応じて) | 多課題下の歩行安定性/転倒リスク分類や弱点抽出に強い | 採点基準の事前共有/テスト順序・デモの統一/練習試行の扱い |
10 m 歩行( 10 MWT )
10 m 歩行は、最小限の準備で歩行速度( m/s )を定量化できる、もっともベーシックな歩行アウトカム指標です。介入効果の検出や予後推定に有用で、経時変化の解釈では 0.05 m/s(小)〜 0.10 m/s(大) 程度の臨床的に意味ある変化( MCID の目安 )が参照されることがあります※。
現場で詰まりやすいのは、静的 vs 動的スタートが日によって変わる、杖や AFO がその日によって違う、計測区間(助走・減速域)をスタッフごとに変えてしまうケースです。試行回数も含めて「うちの 10 m 歩行はこう測る」を決め、記録様式に条件(靴・補助具・コース・スタート)をセットで残すと再現性が上がります。
※ 集団特性・測定設定により目安は変動します。院内データで妥当範囲を都度アップデートしてください。
6 分間歩行( 6 MWT )
6 分間歩行は活動耐容能をみる代表的な歩行アウトカムで、心肺機能や日常生活での歩行自立の目安にもなります。理想は 30 m 直線回廊とし、標準化された声かけを用いることで比較可能性が担保されます。変化量は概ね 20–50 m が臨床的に意味のある範囲( MCID の目安 )として扱われます。
声かけ例(標準化):
「残り 4 分です。可能な範囲で歩行を続けてください。体調不良があればすぐ知らせてください。」/「残り 1 分です。呼吸に合わせて無理のない範囲で続けましょう。」
よくある間違いは、励まし方が人によってバラバラ、回廊長が日ごとに変わる、酸素投与や休憩の扱いが記録されていないことです。酸素投与の有無・流量、休憩回数とタイミング、自覚症状(息切れ・下肢疲労)をチェックボックス化しておくと、「前回より頑張らせただけか?」を見抜きやすくなります。
補足: 2 分間歩行( 2 MWT )は、時間・スペース制約が大きい場面での代替として選択肢になります。運用する場合は、コース長を固定し、 6 MWT と同様に「条件・声かけ・休憩」を標準化してから反復評価に回すのがポイントです。
Timed Up & Go( TUG )
TUG は、起立・方向転換・着座を含む基本的移動の複合テストで、歩行自立のアウトカムと転倒リスクの両方を押さえたいときに便利な歩行評価スケールです。椅子の座面高(目安 45–46 cm )、合図、計測開始のタイミング(「用意・スタート」)を統一するだけで再現性が向上します。カットオフは集団や設定でばらつくため、単独解釈は避け、他の所見と組み合わせて判断します。
よくある失敗は、椅子の種類や高さが日によって違う、手をどこまで使ってよいか(肘掛け・膝押し)のルールが人によって異なる、方向転換の向きや速度を口頭で誘導してしまうことです。「いつも使う椅子を 1 台決める」「手の使用条件を明記する」だけで、経時変化の信頼性が変わります。
Functional Gait Assessment( FGA )
FGA は 10 項目( /30 点 )で、頭部回旋・視覚条件・障害物・狭路など多課題下の歩行安定性を評価する歩行評価スケールです。転倒リスク分類や訓練ターゲットの抽出に適し、 22/30 が地域在住高齢者の分類に用いられる代表的な目安です(対象により解釈を調整)。
現場での詰まりどころは、採点の主観差とテスト順序・デモの揺れです。グレード境界があいまいになりやすいポイントほど、院内で「この例は 2 点」「この例は 1 点」などをすり合わせると共有がスムーズになります。項目ごとの弱点を訓練メニューに直結させると、評価が「測りっぱなし」になりにくくなります。
測定の落とし穴と現場の詰まりどころ(標準化と MDC / MCID )
4 種に共通する大きな落とし穴は、コース長・スタート方法・試行回数・声かけ・補助具条件のバラつきです。特に 6 分間歩行では「回廊長」「標準化された声かけ」「酸素・休憩基準」をプロトコル化することで、前後比較の信頼性が大きく上がります。 10 m 歩行では静的 vs 動的スタートや靴・補助具条件の揃え忘れに要注意です。
もう一つの詰まりどころは、「歩行アウトカムは変わったが、それが意味ある変化なのか判断に迷う」場面です。ここで役立つのが MDC(最小検出可能変化)と MCID(臨床的に意味ある最小変化)の考え方です。MDC は“測定誤差を超えた変化か”の目安、MCID は“患者にとって意味ある変化か”の目安です。速度・距離だけでなく、自覚症状(息切れ・疲労)、バイタル( BP / SpO₂ )、介助量、補助具の変化を併せて記録すると、変化の質が見えやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 歩行アウトカム評価は「いつ」測ればいいですか?
基本は「初期評価 → 短期の再評価 → 節目(退院前・外来フォローなど)」です。実務では、同じ曜日・同じ時間帯・同じスタッフ(可能なら)で条件を揃えると比較が安定します。急性期や状態変動が大きい時期は“頻回に測っても条件が揺れる”ため、数値の上下よりも、バイタル・症状・介助量の変化をセットで追うのが安全です。
Q2. m/s の計算が不安です。
速度( m/s )=距離( m )÷時間( s )です。例: 10 m を 8 秒で歩いた場合は 10 ÷ 8 = 1.25 m/s となります。小数第 2 位までで十分です。カルテには「条件(靴・補助具・コース)」とセットで記録しておくと、後から見返したときに解釈しやすくなります。
Q3. 屋内歩行/地域歩行の目安はありますか?
臨床的には、 0.4 m/s 未満で主に屋内歩行、 0.4–0.8 m/s で限定的な地域歩行、 ≥ 1.0 m/s で地域自立歩行の目安として扱われることがあります。ただし、年齢・併存症・環境(坂道や信号の多さ)によって解釈は変わるため、「速度だけで決めない」ことが重要です。実際の生活場面での様子とセットで評価します。
Q4. 30 m 回廊が確保できません。どうしたらよいですか?
30 m 回廊が難しい場合は、院内で使える回廊長を 1 つに固定し、「曲がり角の数」「床材」「人通り」など環境をできるだけ一定にした上で運用します。条件が揺れやすい病棟では、 6 分間歩行に加えて、短時間で測れる TUG や FGA を併用し、アウトカムを多面的に解釈するのが現実的です。
Q5. TUG と FGA はどう使い分けますか?
TUG は「起居移動(立つ・歩く・曲がる・座る)」の総合時間で、短時間に全体像を押さえるのに向きます。一方、FGA は多課題下の歩行安定性を項目別に分解できるため、「どこで崩れるか」「何を練習すべきか」を具体化しやすいのが強みです。転倒不安が主訴で“場面特異的”なつまずきがあるときは FGA が役立ちます。
まとめ( 1 分で復習)
歩行アウトカム評価は、歩行を標準化された指標で数値化し、同条件で前後比較するための実務です。迷ったら 10 m 歩行(速度)+ 6 分間歩行(耐久)+ TUG(起居移動)、屋外・多課題下の不安定さが課題なら FGAを追加します。数値の変化は、条件の固定と、MDC / MCID の考え方で「意味ある変化か」を判断していきましょう。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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参考文献
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