理学療法士にとって脳画像読影は、評価と介入の精度を上げるための共通言語です
脳画像読影は、医師の診断を代替するためではなく、理学療法士が「どの機能障害を優先して評価し、どこから介入するか」を素早く決めるために欠かせません。病変の部位、広がり、時相を押さえるだけで、転倒・誤嚥・離床負荷のリスク管理がしやすくなります。
本記事では、 CT と MRI の違い、 5 分で回せる読影フロー、 病巣と症候の結び付けを、臨床ですぐ使える形に整理します。画像の知識を「点数化される評価」と「当日の介入方針」に直結させるのがゴールです。
脳画像読影が理学療法士に必要な理由
同じ「片麻痺」でも、皮質病変か内包病変かで、注意障害・失行・感覚障害の混在や回復パターンは変わります。画像で病変分布を把握すると、初回評価での見落としが減り、訓練の優先順位を合理的に決められます。
さらに急性期では、出血性変化や浮腫の進行など、病態が変化する時間帯を踏まえた負荷設定が重要です。「病変を読む → リスクを予測する → 介入量を調整する」の流れを習慣化すると、チーム内の説明も一貫します。
まずは CT と MRI の違いを押さえる
臨床で迷いやすいのは、「いま見るべき系列」と「その系列で何が見えるか」です。以下の表を最初の共通フレームとして使ってください。
| 項目 | CT | MRI | PT が読むときの要点 |
|---|---|---|---|
| 得意な情報 | 出血、骨性変化、緊急スクリーニング | 虚血の早期変化、白質病変、微小病変 | 急性の安全確認は CT、機能予測は MRI を重視 |
| 時相の把握 | 早期虚血変化は subtle | DWI/FLAIR の組み合わせで時相推定に有用 | 「いつの病変か」を必ず確認して介入負荷を調整 |
| 注意点 | 加齢性萎縮・白質変化との見分け | 撮像条件・アーチファクトの影響 | 単一画像で断定せず、所見文と神経所見を照合 |
理学療法士のための 5 分読影フロー
読影は「全部を見る」より、順番を固定して再現性を上げる方が現場で機能します。以下の 5 手順を毎回同じ順で回すと、情報の抜け漏れが減ります。
1 )前提確認:撮像時期・モダリティ・系列
発症からの時間、CT か MRI か、DWI/FLAIR/T2* などの系列を最初に確認します。ここが曖昧だと、古い病変と新規病変を混同しやすくなります。
2 )病変の位置:どこに、どの程度あるか
左右差、皮質/皮質下、内包、脳幹、小脳といった解剖学的位置を把握します。運動・感覚・高次機能のどこに影響しやすいかを、ここで一次仮説にします。
3 )広がりと併存所見:単発か多発か
多発病変、白質病変、萎縮の強さを確認します。複数要因が重なる症例では、単一病巣だけでは症候を説明しきれない前提で評価計画を立てます。
4 )神経所見と整合:画像とベッドサイドをつなぐ
画像所見を、意識、視空間、感覚、失行、体幹機能、歩行の所見と照合します。一致しない場合は、見落としより先に「評価の追加項目」を設定するのが安全です。
5 )介入に落とし込む:当日の優先順位を決める
離床可否、体幹・座位安定、立位での安全管理、歩行補助具の選択までを当日プランに反映します。評価指標の全体設計は、評価ハブで合わせて確認すると回遊しやすくなります。
病巣部位と症候を結ぶ実務ポイント
| 病巣部位 | 起こりやすい症候 | 評価での着眼点 | 初期介入の優先 |
|---|---|---|---|
| 皮質(前頭・頭頂など) | 注意障害、失行、半側空間無視 など | 指示理解、探索行動、課題遂行の質 | 環境調整+課題の段階づけ |
| 内包・放線冠 | 運動麻痺が前景化しやすい | 分離運動、姿勢制御、連合反応 | 体幹先行での運動再学習 |
| 脳幹 | 意識、嚥下、眼球運動、平衡障害 | バイタル変動、嚥下リスク、眼振 | 安全域を狭めた離床設計 |
| 小脳 | 失調、協調運動障害、体幹不安定 | 到達時振戦、測定障害、歩隔拡大 | 速度より精度を優先した反復 |
現場の詰まりどころ
最も多い詰まりは、「所見は読めるが介入に変換できない」ことです。対策は、読影メモを「病変」「症候仮説」「今日の禁止事項」「今日の実施項目」の 4 行で固定することです。記録の型を固定すれば、担当者が変わっても質がぶれにくくなります。
もう一つは、古い病変を主病変として扱ってしまう誤りです。時相(急性・亜急性・慢性)を先に確定し、病歴・発症経過と必ず照合してください。
よくある失敗( OK / NG )
| 場面 | NG | OK | 修正ポイント |
|---|---|---|---|
| 初回読影 | 画像だけで結論を急ぐ | 所見文+神経所見で照合 | 「画像単独で断定しない」を徹底 |
| 時相判断 | 新旧病変を混同する | 撮像日時と系列を先に確認 | 読影の 1 手目を固定する |
| 介入計画 | 病名ベースで画一的に進める | 病巣部位ベースで優先順位化 | 「部位→症候→介入」を 1 セット化 |
よくある質問
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Q1. 理学療法士はどこまで脳画像を読めればよいですか?
A. 診断名を付けることではなく、リスク管理と介入優先順位の設定に必要な範囲です。最低限、病変部位、左右差、広がり、時相を説明できることを目標にすると実務で使えます。
Q2. CT と MRI のどちらを優先して確認すべきですか?
A. 急性期の安全確認は CT、機能予測や病変の詳細把握は MRI が有用です。実際は「どちらが上」ではなく、撮像時期と系列を踏まえて役割分担して読むのが実践的です。
Q3. 画像所見と症候が一致しないときはどうしますか?
A. 画像の見落としだけでなく、複数病変や既往病変の影響を疑います。追加評価(注意・感覚・高次脳機能)を組み、翌日再評価で変化を追う運用が安全です。
次の一手
- 評価の全体設計をそろえる:評価ハブ
- 脳卒中領域の全体像を確認する:脳卒中ハブ
- 運用を整える:環境の詰まりも点検(無料チェックシート)
続けて読む:脳卒中重症度評価の全体像
参考文献
- Miyamoto S, et al. Japan Stroke Society Guideline 2021 for the Treatment of Stroke. Neurol Med Chir (Tokyo). 2022;62(9):375-419. doi:10.2176/nmc.st.2022-0217(PubMed)
- 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂 2025〕(公式PDF)
- Powers WJ, et al. Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update. Stroke. 2019;50:e344-e418. doi:10.1161/STR.0000000000000211(DOI)
- Thomalla G, et al. MRI-Guided Thrombolysis for Stroke with Unknown Time of Onset. N Engl J Med. 2018;379:611-622. doi:10.1056/NEJMoa1804355(DOI)
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


