DASH/QuickDASH とは?
DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)と QuickDASH は、肩〜肘〜手まで 上肢全体の機能障害と症状 をまとめて評価できる患者立脚型アウトカム指標( PROM )です。DASH は 30 項目版、QuickDASH は 11 項目版で、いずれも上肢の筋骨格系疾患に対して「どのくらい困っているか」を 0〜100 点スケールで可視化できます。3,8,9
腱板断裂・インピンジメント・上腕骨骨折・肘関節障害・遠位橈骨遠位端骨折・手根管症候群など、部位や診断名を問わず使用できるのが特徴です。3,8,12 肩だけ・手だけの質問票( SPADI や PRWE など)と異なり、「上肢全体を 1 本の PROM で追える」ため、外来フォローや術前後比較、作業・スポーツ復帰の評価軸としても使いやすい指標です。
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DASH の構成項目とカバーする生活動作
DASH の 30 項目は、「セルフケア」「家事・仕事」「趣味・スポーツ」 といった上肢の使用場面を幅広くカバーするよう設計されています。質問文そのものはここでは示しませんが、日常の「できる/困難」を次のようなイメージで聞き取る構造になっています。3,8,12,16
図のように、セルフケアから始まり、家事・作業、より負荷の高い趣味・スポーツへと難易度が上がっていくため、「どの層で困難感が強いか」を見れば、現状の活動レベルやゴール設定の目安をつけやすくなります。例えば、高齢者ではセルフケアと軽い家事、就労者やスポーツ愛好家では家事・仕事〜趣味領域の項目が鍵になることが多いです。
QuickDASH とオプションモジュール
QuickDASH は、DASH 30 項目から 11 項目を抽出した短縮版で、回答負担を減らしつつ、元スケールと高い相関を保つ ことを目的に開発されています。1,8,17 スコアレンジは DASH と同じ 0〜100 点で、「 0 点=障害なし」「 100 点=最重度の障害」を表します。
さらに、スポーツ・音楽、仕事に特化した オプションモジュール(各 4 項目) が用意されており、必要に応じて QuickDASH 本体に追加する形で使えます。8,12 臨床では「通常は QuickDASH を基本に、スポーツ復帰や作業負荷を詳しく見たい症例ではモジュールを追加」「研究や詳細な評価が必要な場面ではフル版 DASH」という使い分けが現実的です。
評価手順とスコアリング| 1〜5 段階から 0〜100 点へ
DASH/QuickDASH は、各項目を 1〜5 の 5 件法 で評価します( 1 =全く困難なし〜 5 =全くできない)。3,12,16 回答後、次の式で 0〜100 点スケールに換算します( n は有効回答項目数)。
スコア = {(各項目の合計 − n) ÷( 4 × n)} × 100
欠測への対応は、公式では「一定数までの欠測なら平均値で代入し算出する」などのルールが示されていますが、ブログ上では詳細な規約には踏み込まず、「原版または施設マニュアルに従う」ことを前提とするのが安全です。3,12 カルテの記録では、「DASH 32/100」「QuickDASH 18/100」のように、スケール名と 0〜100 点であることが分かる表記を心掛けると良いでしょう。
スコアの解釈と MCID・改善の目安
DASH/QuickDASH の MCID(最小限臨床的重要差)は、筋骨格系上肢疾患を対象とした研究で、DASH がおよそ 10〜15 点、QuickDASH がおよそ 14〜20 点 の範囲と報告されています。4,9,15 例えば Franchignoni らの研究では DASH 10.8 点、QuickDASH 15.9 点程度が下限の目安とされ、DASH 公式サイトでは DASH 15 点・QuickDASH 20 点といったやや大きめの値が示されています。4,9
実務的には、「DASH で 10 点前後、QuickDASH で 15 点前後の改善」があれば、測定誤差を超えた変化とみなせるケースが多いと考えられます。ただし、ベースラインや職業・競技レベルにより、同じ 10 点の変化でも意味合いは異なります。PROM の点数だけで「リハが効いた/効いていない」と断定せず、痛みスケール・ ROM ・筋力・就労状況などと合わせて総合的に評価することが重要です。
臨床での活用例|肩・肘・手のリハビリテーション
肩関節では、腱板断裂・インピンジメント・人工肩関節置換術などで、術前・術後・外来フォローの各タイミングに DASH/QuickDASH を用いて、痛みスケールや ROM ・筋力とともに経時変化を追います。3,8,12 肘・前腕では上腕骨顆上骨折後や上肢外傷後、手関節・手指では遠位橈骨遠位端骨折や手根管症候群などで、家事・仕事・趣味への影響を可視化するために活用されます。
特に就労・復職場面では、「痛みは軽減したが、QuickDASH の家事・仕事項目はまだ高得点(=障害大)」という状況も多く、ROM や筋力だけでは見えない「主観的負担」の把握に有用です。また、作業療法士が実施した DASH/QuickDASH スコアを、理学療法士が歩行やバランス評価と合わせて読み解くことで、「全身・全活動の中で上肢の課題をどう位置づけるか」を整理しやすくなります。
SPADI・PRWE など上肢特異的スケールとの使い分け
上肢の PROM には、肩特異的な SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)や ASES、手関節・手指に特化した PRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation)や Hand20 など、数多くの指標があります。6,8,10,12 DASH/QuickDASH はそれらと比べて、部位を問わず上肢全体を対象とする領域特異的スケール という位置づけで、「どの関節が主病変か分かりにくい症例」「複数関節に障害がある症例」でも使いやすい点が特徴です。3,6,8
実務的には、肩関節疾患では「SPADI(または ASES)+DASH/QuickDASH」、手関節・手指疾患では「PRWE(または Hand20)+DASH/QuickDASH」といった組み合わせが選択肢になります。症例数や評価時間に制約がある場面では、まず QuickDASH を標準とし、必要に応じて関節特異的スケールを追加する構成を検討すると良いでしょう。
記録とチーム共有のコツ
カルテ記載では、「スケール名」「 0〜100 点スケールであること」「測定時期」を明記したうえで、他の評価とセットで残すと共有しやすくなります。例えば「入院時 DASH 52/100、退院時 30/100。肩屈曲 ROM 90→135 度、痛み NRS 6→2」といった形です。3,12,16 QuickDASH を用いる場合も、必ず「QuickDASH」であることを明示し、DASH と混同しないようにします。
カンファレンスや退院サマリーでは、「セルフケア」「家事・仕事」「趣味・スポーツ」のどこに課題が集中しているかを具体的な動作名と結びつけて説明すると、医師や看護師、 SW にもイメージが伝わりやすくなります。また、患者さん・家族には、「今は 0〜100 点中 40 点くらいで、生活は自立しているけれど、仕事や趣味にはまだ制限が残る」といったように、点数を生活像に翻訳して伝えることが大切です。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
DASH/QuickDASH は何点くらい変化したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?
代表的な研究では、DASH の MCID が約 10.8 点、QuickDASH が約 15.9 点と報告されており、DASH 公式サイトでは DASH 15 点・QuickDASH 20 点といったやや大きめの値も紹介されています。4,9,15 メタ解析では、DASH 12〜14 点、QuickDASH 12〜15 点程度のレンジが妥当とする報告もあり、「おおよそ 10〜15 点の改善が一つの目安」 と考えると臨床的には扱いやすい印象です。2,5
ただし、軽作業中心の高齢者と重労働の就労者では、同じ 10 点の改善の意味合いが異なりますし、患者さんの期待値やベースラインによっても受け止め方が変わります。PROM の変化量だけで介入の成否を判断するのではなく、「本人の主観的な変化」「就労や家事・趣味の再開状況」「 ROM ・筋力・痛みなどの客観評価」を合わせて解釈することが重要です。それでも「評価やエビデンスを追いかけているのに、今の職場では十分に活かしきれない」と感じる場面が続くようであれば、働き方そのものを含めて選択肢を整理してみるのも一手です。その際は、転職判断の赤旗ポイントを整理した理学療法士のキャリアガイドも参考になります。
おわりに
上肢疾患のリハビリでは、「危険徴候の除外 → 痛み・ ROM ・筋力評価 → 手先の巧緻性や肩機能のテスト → PROM(DASH/QuickDASH)による主観的障害度の把握 → 作業・就労復帰も含めたゴール設定 → 再評価」というリズムを押さえておくと、評価結果を治療戦略に結びつけやすくなります。DASH/QuickDASH は上肢全体を 1 本のスケールで追えるため、肩・肘・手のどこに課題が残るかを俯瞰しやすく、他の関節特異的スケールと組み合わせることで、より立体的なゴール設定が可能になります。
一方で、「 PROM や作業評価を丁寧に回したいのに、外来や病棟の時間配分の中で十分に活かしきれていない」と感じる場面も多いはずです。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。
参考文献
- Beaton DE, Wright JG, Katz JN, Upper Extremity Collaborative Group. Development of the QuickDASH: comparison of three item-reduction approaches. J Bone Joint Surg Am. 2005;87(5):1038–1046. doi:10.2106/JBJS.D.02060.
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- Hudak PL, Amadio PC, Bombardier C; Upper Extremity Collaborative Group (UECG). Development of an upper extremity outcome measure: the DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand). Am J Ind Med. 1996;29(6):602–608. doi:10.1002/(SICI)1097-0274(199606)29:6<602::AID-AJIM4>3.0.CO;2-L.
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- Galardini L, et al. Minimal Clinically Important Difference of the Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand (DASH) and the shortened version of the DASH (QuickDASH) in people with musculoskeletal disorders: supplementary data. Phys Ther. 2024;104(5):pzae033.
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- Imaeda T, Toh S, Wada T, et al. Validation of the Japanese Society for Surgery of the Hand version of the QuickDASH. J Orthop Sci. 2006;11(3):248–253. doi:10.1007/s00776-006-1013-1.
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- Sigirtmac IC, Oksuz C. Systematic review of the quality of the cross-cultural adaptations of Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand (DASH). Med Lav. 2021;112(4):279–292. doi:10.23749/mdl.v112i4.11124.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

