下垂手と下垂指の違い【比較・使い分け】|見分け方・評価・リハ

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下垂手( drop hand )と下垂指( drop finger )の違い【比較・使い分け】

「どこが動かないか」を 1 分で整理できると、鑑別と連携が一気にラクになります。 評価の組み立て(全体の流れ)をまとめて見る

「手首が上がらない=下垂手」「指が伸びない=下垂指」は似て見えますが、原因(障害部位)が違うと評価の当たりも、リハの優先順位も変わります。とくに後骨間神経( PIN )障害は感覚が保たれやすく、見た目だけで橈骨神経麻痺と決め打ちすると、説明と連携が遅れがちです。

本記事では、臨床で迷いにくいように 結論→最短チェック→比較表→評価→リハ実装 の順で整理します。確定診断が目的ではなく、「所見の取りこぼしを減らし、共有を早める」ための実践ガイドとして使ってください。

結論:下垂手は「手関節背屈が落ちる」、下垂指は「 MP 伸展が落ちる」

下垂手( drop hand )は、手関節背屈が十分に出ず、手が屈曲位へ落ちてしまう状態です。典型は橈骨神経の高位障害や圧迫性障害で、手関節背屈と手指伸展がまとめて落ちやすく、感覚障害が伴うこともあります。圧迫性橈骨神経障害は、脳卒中や頸椎疾患と紛らわしく、不適切な評価につながることがある点も報告されています。

下垂指( drop finger )は、手関節背屈がある程度できるのに MP 伸展 が出ない(母指伸展も落ちる)状態で、後骨間神経( PIN )障害を疑う所見になります。 PIN は運動枝のため、感覚が保たれやすいのがヒントです(例外はあります)。

まず 1 分:下垂手 vs 下垂指の最短チェック

最初に「手関節背屈」と「 MP 伸展」を分けて観察すると、判断がブレにくくなります。加えて、手関節背屈が残る場合は 背屈時の偏位(橈側へ寄る) が重要なヒントです。これは、橈側手根伸筋( ECRL / ECRB )が保たれやすい一方で、尺側手根伸筋( ECU )などが弱いと起こりやすいパターンです。

この時点で確定しなくても OK です。次の表で「所見の整合性」を揃えると、共有の言語が整います。

最短 1 分チェック(目的:見え方を整理する)
観察 下垂手( drop hand )寄り 下垂指( drop finger )寄り 記録の言い回し例
手関節背屈 出ない/弱い(手が落ちる) ある程度できる 「手関節背屈は MMT ◯、自動で保持困難」
MP 伸展 弱い(背屈低下とセット) 顕著に低下(母指伸展も低下しやすい) 「 MP 伸展が出ず、把持後に指が戻りにくい」
背屈時の偏位 一定しない 橈側へ寄りやすい( ECU 低下の示唆) 「背屈時に橈側偏位が目立つ」
感覚(左右差) 手背橈側などに左右差が出ることがある 保たれやすい( PIN は運動枝) 「手背の触圧は左右差乏しい」

比較表:下垂手(橈骨神経)と下垂指( PIN )の違い

ここからが本題です。鑑別は「単発の所見」ではなく、分布(どの筋が落ちるか)+感覚+痛みの性質 を揃えて判断するとミスが減ります。 PIN 障害は「痛みが先行して運動が落ちる」ケースもあり、橈骨神経全体の障害と混同されがちです。

下表は、 PT / OT が初期評価で押さえたいポイントを、できるだけ現場の言葉に落としています(確定診断は医師判断)。

下垂手 vs 下垂指:見分けの軸(臨床向け)
観点 下垂手(橈骨神経麻痺) 下垂指( PIN 障害) 現場のコツ
主症状 手関節背屈が落ちる( wrist drop ) MP 伸展・母指伸展が落ちる( finger drop ) まず「背屈」と「 MP 伸展」を分けて確認
手関節背屈 低下しやすい 残ることがある(橈側偏位がヒント) 背屈できても「偏位」と「保持」を見る
感覚 出ることがある(手背橈側など) 基本は保たれやすい(運動枝) 領域暗記より「左右差」と「生活の困り」をセットで
痛み 圧迫・外傷の文脈が多い 肘外側〜前腕の疼痛が先行することがある 痛みが主のときは「橈骨トンネル」も視野
問診の鍵 睡眠姿勢・飲酒後・長時間圧迫、上腕骨骨折など 反復動作、肘周囲の違和感、局所圧痛 発症状況(いつ・何のあと)を具体化して記録
連携の言語 「橈骨神経の高位圧迫を疑う所見」 「感覚保たれ、指伸展優位に低下→ PIN を疑う所見」 「所見の整合性」で共有するとズレにくい

評価の順番:運動( MMT )→感覚(左右差)→頸部・中枢スクリーニング

評価は「やることを増やす」よりも、「順番を固定して抜けを減らす」ほうが効果的です。まず運動は 背屈・ MP 伸展・母指伸展 をセットで取り、次に感覚は領域の正確さより 左右差機能障害につながる訴え を押さえます。最後に、脳卒中や頸椎疾患の可能性を短時間で確認して、連携の優先度を決めます。

圧迫性橈骨神経障害(いわゆる Saturday night palsy )は、脳卒中や頸椎疾患と紛らわしいことがあると報告されており、上肢だけで思考停止しないためにもスクリーニングは有効です。

下垂手/下垂指で優先したい評価(最小セット)
カテゴリ 評価項目 見たいこと 記録の例
運動( MMT ) 手関節背屈、 MP 伸展、母指伸展 下垂手か下垂指かの軸 「背屈 MMT 3、 MP 伸展 MMT 1」
運動(補助) 上腕三頭筋、腕橈骨筋、前腕回外 高位か遠位かの当たり 「肘伸展は保たれる」
感覚 手背橈側の触圧(左右差) 橈骨神経寄りの材料 「手背の左右差は乏しい」
スクリーニング 顔面・言語・注意、頸部症状、反射・筋緊張の質 中枢/頸椎の見落とし回避 「中枢症状の新規所見なし」

リハの要点:装具で「使える形」→反復→再評価

下垂手/下垂指はいずれも、伸展が落ちることで把持が不安定になり、生活課題で反復量が稼げなくなりやすいのが共通点です。まずは装具でアライメントを整え、可動域と腱滑走を保ちながら「動かし方」を再学習します。とくに下垂指( PIN )は手関節背屈が残ることがあり、機能があるぶん代償が固定化しやすい点に注意します。

装具(静的/動的)の活用は、日常動作の反復量を増やす手段になり得ます。橈骨神経麻痺の文脈では、動的スプリントが巧緻性に寄与した報告もあり、目的(拘縮予防/作業性/反復量)で選ぶと迷いにくくなります。

介入の優先順位(実装しやすい並べ方)
優先 やること 狙い 失敗しやすい点
装具で背屈位/指伸展位を確保(目的別) 使える形を作り、反復量を確保 導入が遅れて「使わない手」になる
可動域・腱滑走・浮腫の管理 二次障害(拘縮・痛み)の予防 背屈が出ないまま屈曲位が固定
短レンジ反復→課題化(更衣・把持・入力など) 「伸展の出し方」を再学習 肩・体幹で代償してパターン化
再評価( MMT・保持・代償・作業性) 介入の有効性を見える化 評価が曖昧で方針がぶれる

現場の詰まりどころ:ここで迷いやすい

下垂手/下垂指の混乱は、「症状の見た目が似ている」よりも、評価が「一部だけ」になってしまうことが原因になりがちです。背屈だけ、指だけ、感覚だけ、のように単発所見で判断すると、説明と連携が噛み合わなくなります。逆に、順番を固定して所見を揃えると、迷いが減ります。

次の表は、実際に起こりやすい詰まりどころを「対策」と「記録」に落とし込んだものです。

よくある詰まりどころと対策
詰まりどころ 起こりやすいこと 対策 記録例
背屈が少しあるので安心する 下垂指( PIN )を見落とす 背屈の「偏位」と「保持」を必ず確認 「背屈は可能だが橈側偏位、 MP 伸展低下」
感覚が正常で迷う 末梢神経ではないと思い込む PIN は運動枝を前提に、運動分布を優先 「感覚は保たれるが指伸展が顕著に低下」
装具が後回し 反復量が稼げず回復が遅れる 日中/夜間の役割分担で早めに導入 「日中は作業性、夜間はポジション保持」

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

手関節は背屈できるのに、指が伸びません。これが「下垂指」ですか?

所見としては下垂指( drop finger )のパターンで、後骨間神経( PIN )障害を疑う材料になります。ポイントは「 MP 伸展・母指伸展が優位に落ちる」「感覚が保たれやすい」「背屈ができても橈側偏位や保持困難が出ることがある」です。確定は医師判断ですが、所見を揃えて共有すると検査や方針が進みやすくなります。

下垂手( wrist drop )は、脳卒中と間違えることがありますか?

あります。圧迫性橈骨神経障害は脳卒中や頸椎疾患と症状が似て、診断や評価が難しくなることがあると報告されています。だからこそ、上肢の所見だけでなく、言語・顔面・注意、反射や筋緊張の質などを短時間でスクリーニングし、所見を揃えて共有するのが安全です。

装具は静的と動的、どちらがよいですか?

「目的」で分けると迷いにくいです。夜間はポジション保持(拘縮予防)で静的、日中は作業性と反復量を増やすために動的、という役割分担が現場では実装しやすいです。橈骨神経麻痺の文脈では、動的スプリントが巧緻性に寄与した報告もあります。

この所見があるときは、早めに相談したほうがいい目安はありますか?

上肢だけで説明しづらい所見(言語・顔面・視野・意識、進行性の麻痺、強い頸部症状など)がある場合は、早めの共有が重要です。また「痛みが強い」「改善が乏しい」「分布が典型と合わない」ときも、追加検査の相談につながりやすいので、評価の結果を具体的に記録して共有してください。

まとめ:背屈と MP 伸展を分けて見ると、迷いが減る

下垂手( drop hand )と下垂指( drop finger )は似て見えますが、最初に 手関節背屈MP 伸展 を分けて観察し、背屈の偏位・感覚の左右差・痛みの性質を揃えていくと鑑別がブレにくくなります。下垂指は PIN 障害を疑う材料になり、感覚が保たれやすい点がヒントです。

介入は 装具で使える形を作る→可動域・腱滑走を保つ→短レンジ反復→生活課題で反復→再評価 のリズムで回すと、次の一手が決めやすくなります。面談準備チェックと「職場の評価シート」も必要なときに使えるよう、こちらに置いています:マイナビコメディカル|面談準備チェック&職場評価シート

参考文献

  1. Han BR, et al. Clinical Features of Wrist Drop Caused by Compressive Radial Neuropathy. J Korean Neurosurg Soc. 2014;55(2):78-83. PubMed Central
  2. Gragossian A, et al. Radial Nerve Injury. StatPearls. 2023. PubMed
  3. Wheeler R, et al. Posterior Interosseous Nerve Syndrome. StatPearls. 2023. PubMed
  4. Cantero-Téllez R, et al. Analyzing the functional effects of dynamic and static splints after radial nerve injury. Hand Surg Rehabil. 2020;39(6):564-567. doi:10.1016/j.hansur.2020.05.009. PubMed
  5. Ansari FH, et al. Compressive Radial Mononeuropathy. StatPearls. 2023. PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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