橈骨神経麻痺の障害部位は「保たれている機能」から絞る
橈骨神経麻痺の障害部位を推定するときは、低下している筋だけでなく「どの機能が保たれているか」を上流から確認することが重要です。肘伸展、手関節背屈とその方向、指・母指伸展、感覚を組み合わせると、腋窩〜上腕近位、螺旋溝周辺、後骨間神経(PIN)、浅橈骨神経などのどこを疑うか整理しやすくなります。
この記事では、橈骨神経障害を疑ったあとに、理学療法評価で得られる運動・感覚所見から障害レベルを絞る考え方を整理します。単一の筋力低下だけで局在を確定せず、神経の分枝順序に沿って複数所見を統合することがポイントです。
肘伸展まで低下していれば、螺旋溝より近位の障害を考えます。肘伸展が保たれ、手関節・指伸展が低下するなら上腕部の橈骨神経本幹、手関節背屈が比較的残って指・母指伸展が低下し、皮膚感覚が保たれるならPINが候補です。運動障害がなく手背橈側の感覚症状が中心なら浅橈骨神経を考えます。
肘伸展→手関節背屈→指・母指伸展→感覚の順に確認する
局在では、橈骨神経が近位から遠位へ分枝する順序を利用します。「下垂手だから螺旋溝」「橈屈するからPIN」と1所見だけで決めるのではなく、近位で支配される機能が保たれているかを一段ずつ確認します。
- 肘伸展:上腕三頭筋の明らかな筋力低下があるか
- 手関節背屈:背屈できるか、背屈時に橈側偏位を伴うか
- 指MP伸展・母指伸展:手関節背屈との解離があるか
- 感覚:手背橈側、とくに第1背側指間腔付近に左右差があるか

1.肘伸展が低下しているか
上腕三頭筋は橈骨神経の比較的近位で支配されます。そのため、手関節・指伸展の低下に加えて肘伸展まで明らかに低下している場合は、螺旋溝より近位の橈骨神経障害を考える材料になります。
一方、螺旋溝周辺の障害では肘伸展は保たれることが一般的です。したがって、肘伸展が保たれていることは「病変が上腕三頭筋への主要な運動枝より遠位にある可能性」を考える手掛かりになります。
2.手関節背屈の有無だけでなく方向を見る
次に、手関節背屈が可能かを確認します。橈骨神経本幹が上腕部で障害されると、手関節伸筋と指伸筋の両方が影響を受け、典型的には下垂手を呈します。
PIN障害では、橈側手根伸筋群が比較的保たれることで手関節背屈が残ることがあります。その一方で尺側手根伸筋などが低下すると、背屈時に橈側偏位が目立つことがあります。
ただし、橈側偏位はPIN障害を支持する所見の1つであり、単独でPINと確定する所見ではありません。橈側手根伸筋、とくに短橈側手根伸筋の神経支配には解剖学的な変異があるため、指・母指伸展や感覚所見と組み合わせて判断します。
3.指MP伸展と母指伸展を手関節背屈と比較する
手関節背屈が比較的保たれているのに、指MP関節や母指の伸展が明らかに低下している場合はPIN障害を考えやすくなります。これは、長橈側手根伸筋などへの運動枝がPINより近位で分岐する一方、総指伸筋、長母指伸筋、示指伸筋などがより遠位の深枝・PIN系に支配されるためです。
「手首が上がるか」だけでなく、示指〜小指のMP伸展、母指伸展を分けて確認すると、下垂手と下垂指を区別しやすくなります。
4.感覚障害の有無からPIN・浅橈骨神経を分ける
PINは主に運動を担う枝であるため、典型的なPIN障害では皮膚の感覚障害を伴いません。指・母指伸展が低下していても、手背橈側の皮膚感覚が保たれていることが局在を考える重要な手掛かりになります。
反対に、運動機能が保たれているにもかかわらず手背橈側にしびれ・感覚低下がある場合は、浅橈骨神経の障害を考えます。感覚評価では広い範囲を曖昧に確認するだけでなく、左右差を比較しやすい第1背側指間腔付近も確認します。
障害レベル別にみる運動・感覚所見の早見表
局在は「この筋が弱い」ではなく、肘伸展・手関節背屈・指伸展・感覚の組み合わせで考えます。以下は代表的なパターンであり、損傷範囲や解剖学的変異によって所見は変化します。
| 推定レベル | 肘伸展 | 手関節背屈 | 指・母指伸展 | 皮膚感覚 | 局在のポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| 腋窩〜上腕近位 | 低下し得る | 低下 | 低下 | 障害し得る | 肘伸展まで低下するなら、より近位の障害を考える |
| 螺旋溝周辺 | 保たれやすい | 低下 | 低下 | 手背橈側で障害し得る | 肘伸展温存+下垂手が手掛かり |
| 肘周囲・分岐前 | 保たれる | 病変位置により異なる | 低下し得る | 浅枝を含めれば障害し得る | 手関節伸筋への枝と、浅枝・深枝への分岐位置を考える |
| 後骨間神経(PIN) | 保たれる | 比較的残ることがある | 低下 | 皮膚感覚は保たれる | 指・母指伸展低下、背屈時の橈側偏位が支持所見 |
| 浅橈骨神経 | 保たれる | 保たれる | 保たれる | 手背橈側で異常 | 明らかな運動麻痺がなく感覚症状が中心 |
神経分枝には個体差があります。特に短橈側手根伸筋などは神経支配の変異が報告されているため、1筋だけを根拠に障害部位を確定せず、複数の運動・感覚所見を統合してください。
局在推定で確認したい運動・感覚所見
初回評価では、筋力値だけでなく「どの運動が保たれ、どの運動が低下しているか」を比較できる形で残します。とくに手関節背屈は、可否だけでなく運動方向も記録すると再評価しやすくなります。
| 確認項目 | 見るポイント | 局在での意味 |
|---|---|---|
| 肘伸展 | 左右差、明らかな筋力低下 | 低下があれば、より近位の病変を考える材料 |
| 腕橈骨筋 | 肘屈曲時の収縮・左右差 | 上腕部から肘周囲までの局在を補助する |
| 手関節背屈 | 筋力、可動範囲、橈側偏位の有無 | 本幹障害とPIN障害を考える手掛かり |
| 指MP伸展 | 示指〜小指を分けて確認 | PIN系の運動障害を確認する |
| 母指伸展 | 左右差、保持可能か | PIN系の運動障害を補足する |
| 感覚 | 手背橈側、第1背側指間腔付近の左右差 | PIN、浅橈骨神経、本幹障害の区別を補助する |
局在で迷いやすい3つの境界
橈骨神経麻痺では、1つの所見をそのまま障害部位へ置き換えないことが重要です。とくに次の3点は判断を誤りやすい境界です。
肘伸展が保たれていれば螺旋溝障害といえるか
いえません。肘伸展が保たれていることは、上腕三頭筋への主要な運動枝より遠位の障害を考える材料になりますが、螺旋溝だけに病変部位を限定する所見ではありません。
手関節背屈、指伸展、腕橈骨筋、感覚障害の分布を追加して、より遠位の障害との違いを確認します。
手関節背屈で橈側偏位すればPINか
橈側偏位はPIN障害を支持しますが、それだけでは確定できません。PIN障害では長橈側手根伸筋などの機能が残る一方、尺側手根伸筋などが低下することで、背屈時に橈側へ偏ることがあります。
ただし神経分枝には個体差があるため、指MP伸展・母指伸展の低下と皮膚感覚の温存がそろっているかを確認します。
感覚障害がなければPIN障害か
感覚障害がないことだけではPINと確定できません。PINは皮膚感覚を担わないため感覚温存は局在を支持しますが、運動所見との組み合わせが必要です。
とくに、手関節背屈が比較的保たれ、指・母指伸展が低下し、手背橈側の皮膚感覚が保たれるという組み合わせはPIN障害を考えるうえで重要です。
記録は「筋力」だけでなく所見の組み合わせを残す
再評価では、MMTの数値だけでなく、運動方向・低下している指・感覚領域まで同じ条件で比較できる記録が有用です。局在の判断根拠まで残しておくと、経時変化や他職種との共有がしやすくなります。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 肘伸展 | MMT5、左右差なし |
| 手関節背屈 | 可能、筋力低下あり、背屈時に橈側偏位 |
| 指MP伸展 | 示指〜小指で低下 |
| 母指伸展 | 低下 |
| 感覚 | 第1背側指間腔を含む手背橈側に明らかな左右差なし |
| 解釈 | PIN障害に整合する所見。単一所見では確定せず、経過・原因・追加検査と統合する |
再評価では「毎週」など一律の頻度を固定するのではなく、発症時期、原因、症状変化、治療方針に応じて設定します。比較するときは、肢位、運動課題、抵抗のかけ方、感覚を確認する部位などの条件をそろえることが重要です。
局在推定だけで診断を完結させない
理学所見から行う局在推定は、障害部位を絞るための手掛かりであり、原因や病変部位を確定する検査ではありません。外傷、上腕骨骨折、圧迫、腫瘤、神経炎など原因はさまざまで、必要に応じて神経伝導検査・筋電図、超音波、MRIなどと組み合わせて評価されます。
また、急に手指が動かなくなった場合でも、末梢神経障害だけとは限りません。発症様式や他の神経学的所見が末梢神経の分布で説明できない場合は、中枢神経障害を含めて評価範囲を広げます。急な下垂手で中枢との鑑別に迷う場合は、脳梗塞と橈骨神経麻痺の鑑別も確認してください。
局在だけでなく橈骨神経麻痺の原因、評価、初期対応まで全体像を整理したい場合は、記事末の総論へ進んでください。
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参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

