在宅版 K 式スケール運用プロトコル( PT 版 )
本稿は、在宅版 K 式スケール(在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケール)の結果を、訪問リハに入る PT が「今日の介入」へ落とし込むための実務マニュアルです。スコアそのものの解説や項目の構成比較は総論に任せ、ここでは 10 分で回せるフロー・チェック表・多職種共有の型に絞って整理します。
ねらいは、看護職が中心となる評価結果を PT が 体位・動作・介護動線・用具提案へ確実に翻訳することです。K 式/在宅版 K 式の「点数の目安・読み方」は 総論記事で先に押さえ、ここでは「陽性の要因」を軸に、訪問 1 回内で 最初の 1 手と 次回の再評価ポイントまで決めることを目標にします。
評価から介入までのフロー(現場 10 分版 )
在宅版 K 式そのものの採点は、訪問看護側が担うケースも多いです。PT は結果を「点数」ではなく 陽性になった要因と生活場面として読み替え、以下の 4 ステップで 10 分以内に介入へつなげるイメージを持ちます。
- 観察( 2–3 分 ):玄関〜ベッドまでの動線を含めて、突出部・寝具の硬さ・シーツのしわ・湿潤(失禁・発汗・滲出)・ずれが出やすい場面をざっと確認します。同時に、介護者人数や時間帯、リフト・スライディングシートなどの用具の有無も押さえます。
- 判定の確認( 2 分 ):在宅版 K 式の結果(前段階要因/引き金要因/介護力・栄養)を共有し、「どの要因が一番ボトルネックか」を 1〜2 点に絞ります。ここでは新たにスコアリングするよりも、既にある評価結果を動作・姿勢の言葉に翻訳することが PT の役割です。
- 初期介入( 3–4 分 ):体位変換頻度・ポジショニング・失禁/発汗対策・ずれ低減(背上げ角度・滑走防止)・栄養連携のうち、今日から実行可能な内容を選びます。「 1 訪問につき 1〜2 個の変更 」に絞ると、家族の負担感が減り定着しやすくなります。
- 共有( 1 分 ):家族・訪問看護・ケアマネジャーに、在宅版 K 式の結果と今日の変更点を短文でフィードバックし、48–72 時間後の再評価をあらかじめ合意します。可能なら「誰が・いつ・何をするか」まで 1 行で記録しておきます。
在宅版 K 式:観察・記録・対応のチェック表
以下は、在宅版 K 式の主要項目に対応する「観察 → 記録 → 即時対応」の PT 目線の例です。すべてを一度に変えるのではなく、在宅版 K 式で陽性がついた項目から優先して 1〜2 個に絞るのがポイントです。
(表の見方)左から順に「見る → 書く → その場で変える」を 1 行で揃えます。横スクロールで確認してください。
| 観察ポイント | 記録(例) | 即時対応(例) |
|---|---|---|
| 体圧(突出部・寝具硬さ・しわ) | 仙骨に軽度発赤あり/マットレス硬め/シーツにしわ多い | シーツのしわ伸ばし・30° 側臥位の導入・体圧分散具の検討(写真を撮って次回の比較用に保存) |
| 湿潤(失禁・発汗・滲出) | 夜間の失禁 2 回/背部に発汗多い(朝の更衣時) | 吸収材交換回数の見直し・背部の通気性改善・更衣タイミングの共有(「夜〜早朝」は看護側と役割分担) |
| ずれ(背上げ・移乗・端座位) | 背上げ 45° で骨盤が足元へ滑走/車いす移乗時に前方へずれ込み | 背上げは 30° 以内を基本とし、滑走低減シーツやフットレスト位置調整を提案。移乗手順を 1 パターンに統一。 |
| 栄養(摂取・体重・補助栄養) | 食事摂取 6 割程度/過去 3 か月で体重 −2 kg/補助栄養なし | 食事量と体重変化を簡易グラフ化して共有し、栄養補助食品や訪問栄養の導入を主治医・栄養士へ相談。 |
| 介護力(人数・時間帯・用具) | 日中 1 名介護/夜間介護者不在・リフトなし/体位変換「できれば 2 時間ごと」のみ指示 | 「現実的に続けられる頻度」を家族と合意(例:日中 3 回+就寝前 1 回)し、その範囲で最大効果が出る体位と用具配置を一緒に決める。 |
リスク解釈の目安と再評価( PT 視点 )
PT が押さえたいのは「どの組み合わせなら 姿勢・動作・介護動線の介入を最優先するか」です。点数ではなく陽性の要因で層別し、再評価のタイミングまで先に決めます。
| パターン | まずやること( 1〜2 個に絞る ) | 再評価 |
|---|---|---|
| 引き金要因 0(前段階要因のみ) | 教育中心。寝具配置や体位変換手順の確認、座位時間の見直しを行い「続けられる頻度」に落とし込む。 | 1〜2 週間後 |
| 引き金要因 ≥ 1(体圧/湿潤/ずれ/栄養のいずれか陽性) | 即時介入。体位変換・湿潤対策・ずれ低減・栄養連携のうち、訪問内で実行できる変更を決める。 | 48–72 時間後 |
| 介護力不足が明らか(夜間不在・用具なし等) | 理想より継続できるプランを優先。「誰が・いつ・どの体位」を 1 行で決め、用具導入やサービス調整へつなぐ。 | 48–72 時間後(負担の確認を優先) |
どのパターンでも、写真・簡単なスケッチ・短文メモなどで「ビフォー → アフター」を見える化しておくと、次回訪問時の再評価がスムーズになります。
多職種共有テンプレ(短文 1 本でまとめる )
在宅版 K 式の強みは、看護・介護・リハが同じ言葉でリスクを語れることです。PT の記録は、評価→介入→再評価の流れを 3 行程度でまとめると、チーム内で共有しやすくなります。
記載例( 3 行 )
在宅版 K 式:体圧=陽性・湿潤=陽性・ずれ=陰性・栄養=疑い。
初期介入:30° 側臥位(クッション 2–3 個)・シーツしわ伸ばし・夜間の吸収材追加・背部発汗時の更衣タイミング調整。
次回:48–72 時間後に皮膚所見と介護者負担を再評価。必要時、体圧分散マットレスとスライディングシート導入を検討。
このように「要因 → 今日の変更点 → 次回の約束」をセットで書くと、誰が読んでも次のアクションが分かるカルテになります。
現場の詰まりどころ( PT 目線 )
在宅版 K 式の運用でつまずきやすいのは、スコアではなく 生活場面への落とし込みの部分です。詰まりを「よくある間違い → 影響 → 1 手で直す」に分解しておくと、現場で迷いにくくなります。
| よくある間違い | 何が起きる? | まず直す 1 手 |
|---|---|---|
| ベッド上だけで完結してしまう | 椅子座位・トイレ動作での「ずれ・圧」を見落とし、再発赤の理由が分からない。 | ベッド以外の 1 場面(椅子座位など)を必ず観察し、ずれが出る動作を 1 つ特定する。 |
| PT 評価(筋力・移乗)と褥瘡リスクが分断される | 運動機能評価が「訓練計画」だけに終わり、体位・座位時間・用具へ反映されない。 | 「滑走しやすい姿勢」など、PT 評価を 1 文で在宅版 K 式の要因に接続して書く。 |
| 「 2 時間ごと体位変換」をそのまま伝える | 介護力と合わず、家族が「できない指示」と感じて運用が崩れる。 | 家族と「続けられる回数」を合意し、その範囲で最大効果が出る体位と用具配置に変える。 |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
採点は看護が担当です。PT は何を持ち帰ればいいですか?
点数よりも「どの要因が陽性か」を持ち帰ります。体圧・湿潤・ずれ・栄養・介護力のうち、今日の訪問で変えられるものを 1〜2 個に絞り、家族に伝える言葉(短文)と再評価タイミング( 48–72 時間など)までセットにします。
再評価は 48–72 時間で固定ですか?
固定ではありません。引き金要因が陽性で「今日、具体的に変えた」場合は 48–72 時間で確認するとズレが少ない一方、前段階要因のみで教育中心のときは 1〜2 週間後でも回ります。迷ったら「介護負担が増えたかどうか」を早めに確認できる間隔に寄せます。
写真は撮っていいですか?記録のコツは?
施設のルールと同意手続きに従う前提で、同じ条件で比較できる形(同じ距離・角度・体位)に揃えると有用です。写真が難しい場合は、部位・体位・時間帯だけを固定して短文メモにし、「ビフォー → アフター」が追えるようにします。
家族が体位変換を続けられません。何から調整しますか?
頻度を理想に寄せるより、まず続けられる回数を合意します。次に、その回数でも効果が出る体位( 30° 側臥位など)と用具配置(クッションの置き場)を一緒に決めます。ここまで決まると、ケアマネへのサービス調整相談も具体化しやすくなります。
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参考文献・参考資料
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


