- Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)とは?起床後の下垂手を最短で整理する
- 最短チェック:まずは「病歴 2 問」と「所見 3 点」
- 病歴聴取:本人が言わない情報を「こちらから聞く」
- 見落としたくない所見:中枢・頚椎・別疾患を疑う目安
- 評価:MMT は「3 筋」と感覚で十分(最小セット)
- 鑑別の実務:下垂手 vs 下垂指、そして中枢
- リハの基本:①守る(装具)→②固めない(ROM)→③回す(課題)
- 自主練の出し方:3 分×複数回で「反復量」を確保する
- 経過の見方:多くは数週で改善傾向、変化がなければ再評価へ
- 現場の詰まりどころ:よくある失敗 5 つ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:病歴→背屈/MP/感覚→守る→回す→再評価の順で迷いが減る
- 参考文献
- 著者情報
Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)とは?起床後の下垂手を最短で整理する
「評価の順番」を固定すると、脳卒中との鑑別や説明が一気にラクになります。 評価と介入の流れをまとめて確認する
Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)は、睡眠中などに上腕部(橈骨神経)へ長時間の圧迫がかかり、起床後に「下垂手(wrist drop)」を生じる状態です。典型例は、飲酒後に椅子の肘掛けへ腕を掛けたまま眠る、腕を枕の下に入れて眠る、などです。
症状が「突然の手の麻痺」に見えるため、脳卒中や頚椎疾患と紛らわしいのが臨床の詰まりどころです。本記事は、病歴→最短チェック→評価→リハ(装具・運動療法)→経過観察を、PT/OTが再現しやすい形にまとめます。
最短チェック:まずは「病歴 2 問」と「所見 3 点」
結論から言うと、Saturday night palsyは病歴(圧迫エピソード)と下垂手+感覚症状のパターンでかなり絞れます。逆に、この入口が曖昧だと「とりあえず頭部画像」「とりあえず頚椎」と遠回りしがちです。
| チェック | 見ること | 典型 | ズレるときに疑う |
|---|---|---|---|
| 病歴 1 | 睡眠姿勢・長時間の圧迫(椅子の肘掛け、腕枕、同伴者の腕の下など) | あり(本人が気づかないことも多い) | 外傷、手術、腫瘤、頚椎由来 |
| 病歴 2 | 飲酒・睡眠薬などで体位修正ができなかった | あり得る | 労作性・反復動作(絞扼)、中枢症状 |
| 所見 1 | 手関節背屈(wrist extension) | 低下~不能(下垂手) | 背屈が保たれるなら PIN 等 |
| 所見 2 | 指の MP 伸展 | 低下(下垂指を伴うことも) | 「下垂指のみ」なら PIN を強く疑う |
| 所見 3 | 感覚(手背橈側~ 1~3 指背側) | しびれ/感覚低下を伴うことが多い | 感覚が完全に保たれるなら PIN も鑑別 |
病歴聴取:本人が言わない情報を「こちらから聞く」
圧迫性ニューロパチーは、患者さんが「原因」と認識していないことが多いのが特徴です。起床後に気づく→原因が思い当たらないという流れになりやすく、誘導質問が重要です。
| 聞くこと | 具体例(言い換え) | 狙い | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 睡眠姿勢 | 椅子で寝落ち/腕を肘掛けに掛けたまま/腕枕 | 圧迫エピソードを拾う | 「椅子で 3 時間、右上腕圧迫」 |
| 飲酒・鎮静 | 飲酒量、睡眠薬、疲労で爆睡 | 体位修正不能の背景 | 「飲酒後に寝落ち」 |
| 外傷・骨折 | 転倒、打撲、骨折、ギプス | 構造的損傷の除外 | 「外傷なし」など |
| 医療機器・圧迫 | 松葉杖、血圧計カフ、締め付けの強い衣類 | 反復/医原性の可能性 | 「松葉杖使用あり」 |
| 経過 | 発症時刻、改善の有無、しびれの変化 | 予後推定と再評価計画 | 「改善なし/あり、日数」 |
見落としたくない所見:中枢・頚椎・別疾患を疑う目安
Saturday night palsyは予後が良いケースが多い一方で、「手が動かない」を中枢症状として捉えるべき状況もあります。臨床では、末梢っぽいと決め打ちしてしまうのが最大の落とし穴です。
| 状況 | 示唆 | 現場対応 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 顔面・構音・視野・下肢など他部位の症状 | 中枢病変の可能性 | 医師へ即共有(評価は安全範囲) | 発症時刻、随伴症状 |
| 強い頚部痛、放散痛、複数根領域のしびれ | 頚椎由来/神経根症 | 頚部負荷を上げず共有 | 誘発動作、痛みの分布 |
| 進行性に悪化、安静時痛・夜間痛が強い | 別疾患の除外が必要 | 負荷を下げ、原因検索へ | 悪化速度、夜間の有無 |
| 骨折/術後など構造イベント後に出現 | 損傷/絞扼の可能性 | 固定・装具と連携、整形へ共有 | 出現タイミング |
評価:MMT は「3 筋」と感覚で十分(最小セット)
評価で重要なのは、細かくやり過ぎることよりも、毎回同じ項目を同条件で追えることです。Saturday night palsyの入口では、次の「最小セット」を固定すると迷いが減ります。
| 項目 | やり方(要点) | 見方 | 示唆 |
|---|---|---|---|
| 手関節背屈(ECRL/ECRB) | 背屈「できる/できない」だけでなく橈屈偏位も確認 | 角度+偏位の有無 | PIN・肘周囲の鑑別に効く |
| 指 MP 伸展(ED) | 手関節を軽く背屈位で保持し評価 | どの指が落ちるか | 下垂指が主なら PIN を強く疑う |
| 母指伸展(EPL/EPB) | 「開く」「つまむ」の動作で確認 | つまみ開きの破綻 | 機能訓練の課題設定に直結 |
| 感覚(手背橈側) | 左右比較(軽擦・痛覚)で十分 | 範囲を短文で固定 | 感覚温存なら PIN も鑑別 |
鑑別の実務:下垂手 vs 下垂指、そして中枢
臨床で混乱が起きるのは「下垂手っぽい」で止まることです。ここで下垂指(finger drop)を意識すると、PIN(後骨間神経)や肘周囲の絞扼の可能性を自然に拾えます。
続けて読む:下垂手と下垂指の違い【比較・使い分け】
| 候補 | 目立つ所見 | 感覚 | ヒント |
|---|---|---|---|
| 圧迫性橈骨神経麻痺(上腕部) | 下垂手+指伸展低下 | しびれを伴うことが多い | 睡眠姿勢・圧迫エピソード |
| PIN 障害(後骨間神経) | 下垂指が目立つ/背屈は残ることがある | 保たれやすい | 肘周囲の痛み・絞扼 |
| 中枢(脳卒中など) | 随伴症状(顔面・構音・下肢など) | 分布が末梢神経に一致しないことがある | 発症時刻・他徴候の有無 |
リハの基本:①守る(装具)→②固めない(ROM)→③回す(課題)
Saturday night palsyでは、回復を待つ期間に手関節・MP が屈曲位で固まるのが最大の損失です。まずは「守る」介入を先に置くと、その後の回復がつながりやすくなります。
| 優先 | 目的 | 具体策 | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|---|
| ① | 過伸張・機能低下を防ぐ | コックアップ等で手関節背屈位を保持(生活条件に合わせて) | 無装具で反復して屈筋優位が固定化 |
| ② | 拘縮予防 | 手関節背屈・指伸展の他動/自動介助を短時間で毎日 | 痛みや不安で回避→拘縮が進む |
| ③ | 機能の再学習 | 「つかむ→離す」を課題化(更衣・食事・入力など) | 訓練室でできても生活につながらない |
自主練の出し方:3 分×複数回で「反復量」を確保する
長時間の練習は疲労と痛みで続きません。おすすめは、短時間を分割して、総反復量を稼ぐ形です。
| メニュー | 回数/時間 | 狙い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 手関節背屈の自動介助 | 10 回 × 3 セット | 関節の固さを作らない | 痛みが出ない範囲 |
| 指 MP 伸展の自動介助 | 10 回 × 3 セット | 下垂指の改善に向けた準備 | 手関節を軽く背屈位で |
| 生活課題(つかむ→離す) | 3 分 × 2~3 回/日 | 汎化(実生活で使う) | 装具や環境調整で成立させる |
経過の見方:多くは数週で改善傾向、変化がなければ再評価へ
文献では、圧迫性橈骨神経麻痺は予後が良いとされ、症状の改善が比較的早期に始まるケースが報告されています。たとえば、睡眠姿勢による圧迫性橈骨神経麻痺の報告では、主観的な改善が平均 2.4 週で始まったとされています。
一方で、改善が乏しい場合は、病態(圧迫だけではない/別部位/構造要因)を再検討する方が合理的です。PT/OTとしては、同条件での再評価を先に固定すると、共有がスムーズです。
| 時期 | やること | 見たい変化 | 共有ポイント |
|---|---|---|---|
| 初回 | 最小セット(背屈・MP伸展・母指伸展・感覚)を記録 | ベースライン固定 | 発症状況(圧迫エピソード) |
| 2 週前後 | 同条件で再評価、装具・自主練の継続可否を調整 | 主観症状/筋出力の変化 | 改善の有無、痛みやしびれの推移 |
| 数週~ | 改善が乏しければ原因の再検討(部位/構造/鑑別) | 停滞の理由 | 「何が変わらないか」を具体化 |
現場の詰まりどころ:よくある失敗 5 つ
| 失敗 | 起こること | 対策 | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| 病歴を聞き切らない | 原因不明のまま迷走 | 睡眠姿勢・飲酒・圧迫を誘導質問 | 「圧迫エピソード」を 1 行で |
| 下垂手で止まる | 部位推定と介入がズレる | 下垂指(MP伸展)と感覚で鑑別を進める | 背屈/MP/感覚の 3 点セット |
| 装具導入が遅い | 拘縮・代償が固定化 | まず「守る」装具、短時間でも導入 | 装着時間と皮膚所見 |
| 自主練が長すぎる | 痛み・疲労で中断 | 3 分×複数回で分割 | 実施回数(できた日数) |
| 中枢の兆候を見落とす | 対応が遅れる | 随伴症状(顔面・構音・下肢)を必ず確認 | 発症時刻と随伴症状 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. Saturday night palsy はどれくらいで良くなりますか?
多くは予後が良いとされ、報告では主観的な改善が平均 2.4 週で始まったとされています。ただし、回復速度は圧迫の強さや時間、病態(圧迫以外の要因)で変わります。変化が乏しいときは、同条件での再評価と原因の再検討が重要です。
Q2. 感覚が保たれているのに下垂指が強いです
その場合は PIN(後骨間神経)など、より末梢の運動枝優位の障害も鑑別に入ります。手関節背屈の方向(橈屈偏位)や肘周囲の痛みなども合わせて整理し、必要に応じて共有します。
Q3. 装具は必ず必要ですか?
生活課題を回すために有効なことが多いです。特に、回復を待つ期間に手関節・MP が屈曲位で固まるのを防ぐ意味で、短時間でも「守る」装具が役立ちます。皮膚トラブルが出る場合は、装着時間やフィットを調整します。
Q4. どんなときに追加検査が必要になりますか?
病歴と所見が典型であれば臨床的に進められることもありますが、改善が乏しい場合や鑑別が必要な場合は、筋電図/神経伝導検査で部位の同定や鑑別に役立つとされています。
まとめ:病歴→背屈/MP/感覚→守る→回す→再評価の順で迷いが減る
Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)は、睡眠姿勢などの圧迫エピソードと下垂手(背屈低下)を軸に、指MP伸展と感覚で整理するとブレにくくなります。介入は、装具で守る→ROMで固めない→課題で回すの順が安定です。
「同じ項目を同条件で記録し、経時変化で判断する」だけでも、チーム共有が速くなります。迷ったときは、最短チェックに戻って情報を整え直すのが近道です。
参考文献
- Han BR, Cho YJ, Yang JS, Kang SH, Choi HJ. Clinical features of wrist drop caused by compressive radial neuropathy and its anatomical considerations. J Korean Neurosurg Soc. 2014;55(3):148-154. doi: 10.3340/jkns.2014.55.3.148 / PubMed: 24851150
- Ansari FH, et al. Compressive Radial Mononeuropathy. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025-. NCBI Bookshelf
- Gragossian A, et al. Radial Nerve Injury. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023-. NCBI Bookshelf
- Bumbasirevic M, Palibrk T, Lesic A, Atkinson HDE. Radial nerve palsy. EFORT Open Rev. 2016;1(8):286-294. doi: 10.1302/2058-5241.1.000028 / PubMed: 28461960
- Gentle D. Radial Nerve Mononeuropathy. PM&R KnowledgeNow. Web
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


