フレイルに対するリハビリテーション|判定→介入→モニタリングの実践フロー
本記事では、改訂 日本版フレイル基準( J-CHS 基準 )を起点に、フレイルの実践的マネジメントを① スクリーニング( J-CHS 中心)→ ② 多面的介入(運動・栄養・口腔・薬剤・社会)→ ③ モニタリングの 3 段で整理します。現場でそのまま使えるよう、J-CHS の A4 評価用紙(印刷・自動スコア付き)を埋め込み、フォロー時の指標( SPPB 、握力、5 回椅子立ち上がり、6 分間歩行など)もセットで提示します。
結論としては、「まず測る → 小さく始める → 短サイクルで見直す」運用が最短距離です。プレフレイルであれば、歩行+下肢レジスタンス+たんぱく質摂取の 3 点セットを少量・高頻度で開始し、フレイル運動療法として 1〜2 週間ごとに再評価していくことで、変化が掴みやすくなります。
臨床で迷わない評価→介入の流れを 5 分で確認( PT キャリアガイド )
スクリーニング|まずは J-CHS で「いま」を把握する
J-CHS(ジェイ・シーエイチエス)は、「改訂 日本版フレイル基準( J-CHS 基準 )」として提案された表現型フレイルの評価法で、いわゆる「j chs 基準 フレイル 診断」の入口となる指標です。正式名称は「改訂 日本版フレイル基準( Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria:J-CHS )」とされ、文献によっては「日本版 CHS 基準」と表記されることもあります。
評価項目は、体重減少・易疲労感・身体活動量低下・歩行速度低下・握力低下の 5 つです。数値基準としては、例えば歩行速度はおおむね 1.0 m/s 未満、握力は男性 < 26 kg・女性 < 18 kg を目安とします。特に「j-chs 歩行速度」は、患者さんには「青信号のあいだに横断歩道を渡り切れるかどうか」というイメージで説明すると理解されやすく、「j chs 基準 フレイル 診断 横断 歩道」の説明にも対応します。
なお、資料によっては「 J-CHS 」ではなく「 j chs 基準 」のようにスペース入りで表記されることもありますが、どちらも同じ J-CHS 基準を指します。本記事では、評価後にそのままリハビリ(理学療法)へ繋げられるよう、「j chs 基準 リハビリ」「j chs 基準 理学療法」を意識した流れで解説していきます。
J-CHS A4 評価用紙(印刷・自動スコア)
補助的なスクリーニング指標の使い分け
| 指標 | 主目的 | 所要 | 判定の目安 | 使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| J-CHS | 表現型(体力・活動)に基づく判定 | 3–5 分 | 0 = 健常/1–2 = プレフレイル/3–5 = フレイル | 標準的な一次スクリーニング |
| CFS | 臨床的フレイルの重症度スケール | 1–2 分 | 9 段階(上位ほど脆弱) | 病棟・在宅での迅速な重症度把握 |
| FRAIL | 5 問の自己申告式 | 1–2 分 | 0 = 健常/1–2 = プレ/3–5 = フレイル | 外来・集団での素早いふるい分け |
| 基本チェックリスト | 生活機能の幅広い把握 | 5–10 分 | 8 点以上でフレイル該当 | 包括的な生活機能評価 |
多面的介入|運動 × 栄養 × 口腔 × 薬剤 × 社会
フレイルは 1 領域だけでは改善しづらく、運動(レジスタンス・バランス・歩行/二重課題)+栄養(十分なたんぱく質・エネルギー)+口腔機能+薬剤適正化+社会参加を同時並行で回す方が効果的です。J-CHS 基準でプレフレイル/フレイルを押さえたうえで、「どの項目がどれだけ障害されているか」を手掛かりに、理学療法士が中心となってフレイル運動療法のゴール設定とプログラム立案を行うイメージです。
運動:レジスタンスは週 2〜3 回・主要筋群を RPE 13 程度から段階的に。バランスは反応的/予測的課題や支持基底面の縮小、二重課題化を組み合わせます。歩行は通常歩行と速歩を交互に 2〜3 セット、方向転換・段差・不整地なども段階的に追加します。
栄養:たんぱく質 1.0–1.2 g/kg/日(必要に応じ 1.2–1.5 g)を目安に、低栄養・サルコペニアの併発に注意しながら食事記録と体重変化をフォローします。
口腔:咀嚼・嚥下・口腔清掃、口腔乾燥の是正などで「食べる力」を下支えします。
薬剤:鎮静・起立性低血圧・食欲低下などを招く薬剤を多職種で見直します。
社会参加:役割・交流・外出機会を意図的に作り、「運動習慣」と「生活の張り」を両輪で整えます。
モニタリング|フォロー時に見るべき指標
介入開始後は、以下のような指標を組み合わせてモニタリングします。すべてを毎回測る必要はなく、施設や場面に応じて 2〜3 項目を軸にすると現場でも継続しやすくなります。
- SPPB:バランス・歩行・立ち上がりの 3 要素をまとめて評価。
- 握力:最大値で判定する代表的な身体機能バイオマーカー。
- 5 回椅子立ち上がり( 5xSTS ):下肢筋力と瞬発的立ち上がり能力の指標。
- 6 分間歩行( 6MWT ):持久力と「どのくらい歩けるか」の実用的なアウトカム。
機能指標だけでなく、「外出が増えた」「疲れにくい」「転倒不安が減った」といった主観的変化も記録しておくと、患者さんのモチベーション維持や多職種カンファレンスでの共有に役立ちます。
現場の詰まりどころ(J-CHS とフレイル運動療法)
実際の現場では、J-CHS を導入しても「評価だけして終わってしまう」「どの程度の強度で運動療法を始めてよいか分からない」といった詰まりがよく見られます。特に、プレフレイルの段階では「まだ元気だから様子見で良いのでは」という空気になりやすく、早期介入のタイミングを逃しやすい点が悩みどころです。
- J-CHS 1 項目でも「プレフレイル」として、週単位でのフォロー計画をセットにしておく。
- 運動は RPE 13 前後・ 10 回 × 2 セット程度から始め、「きつすぎないが、楽すぎない」ラインを患者さんと共有する。
- J-CHS の項目変化だけでなく、「階段を避けなくなった」「外出が増えた」といった行動レベルの変化もカンファレンスで共有する。
また、「j-chs 正式 名称」や「j chs 基準 読み方」など基本情報がスタッフ間で統一されていないと、院内勉強会や文書で用語が混在しがちです。イントラネット用の簡単な説明シートを 1 枚作っておき、読み方・正式名称・主なカットオフ・評価手順を整理して共有しておくと、フレイル運動療法の共通土台づくりがスムーズになります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
J-CHS でプレフレイル( 1–2 項目 )だったら何から始めますか?
まずは歩行+下肢レジスタンス+たんぱく質摂取の 3 点セットを少量・高頻度で始めます。歩行は通常歩行と速歩を交互に 2〜3 セット、下肢は椅子立ち上がりやカーフレイズを 10 回 × 2 セット程度から。食事は主菜を「手のひら 1 枚分」を毎食で確保するところからスタートします。
自宅でも測れる簡単なチェックはありますか?
体重の週 1 回記録と、4 m 歩行のストップウォッチ計測は自宅でも実施しやすいです。助走 1〜2 m の後に 4 m のみを計測し、4 秒を超える場合は「歩行速度低下」の可能性があります。握力計があれば左右 1〜3 回の最大値を記録しましょう。
どのくらいの頻度で再評価すべきですか?
運動と栄養介入を始めたら、1〜2 週間ごとにミニ再評価を行うことを推奨します。体重、主観的疲労、活動量(歩数や実施回数)、4 m 歩行時間、握力のうち 2 つ以上を追うと変化が掴みやすいです。4 週間前後で小目標を見直すと定着しやすくなります。
変化の目安はどれくらいで出ますか?
個人差はありますが、歩行や立ち上がりなどの機能面は2〜4 週間で体感的な改善が出ることが多いです。体重・筋量はより長めのスパンで評価します。数値だけでなく「外出が増えた」「疲れにくい」といった行動変化も重要な成果指標です。
安全面での注意点は?中止基準はありますか?
胸痛・強い息切れ・めまい・失神感・冷汗・発熱・著しい血圧変動などがあれば即中止し、医療者へ相談してください。運動前後の水分補給、薬剤(降圧薬・睡眠薬など)の影響、起立性低血圧への配慮も重要です。
おわりに|フレイル評価を「日常のルーチン」に落とし込む
フレイルは、一度評価して終わりではなく、「小さく始めて、短いサイクルで振り返る」ことでじわじわと変化が積み重なっていく状態だと思います。J-CHS 基準で入口をそろえ、フレイル運動療法・栄養・口腔ケア・社会参加をセットで回すことが、長期的な自立支援や入院・要介護の予防にもつながります。
一方で、忙しい現場の中でフレイル評価や介入の時間をひねり出すには、チームの理解や組織のサポートも欠かせません。職場選びや働き方の見直しを含めて整理したいときは、マイナビコメディカルの特集ページ(面談準備チェック&職場評価シート)も参考に、今の環境でできることと、今後のキャリアの伸ばし方をセットで考えてみてください。
参考文献
- Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146–M156. PubMed / DOI
- Studenski S, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50–58. PubMed
- Bohannon RW. Grip Strength: An Indispensable Biomarker for Older Adults. Clin Interv Aging. 2019;14:1681–1691. PubMed
- Clegg A, et al. Frailty in elderly people. Lancet. 2013;381(9868):752–762. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


