- 手根管症候群を疑ったら、単独テストではなく所見を組み合わせて判断します
- CTSを疑ったら、症状分布・夜間症状・感覚・運動を先にそろえます
- CTS-6は「CTSらしさを統合する診断支援ツール」として使います
- Phalen・Durkan・Tinelは単独で確定診断に使いません
- CTSだけでは説明しにくい所見があれば鑑別を広げます
- 母指球筋萎縮・筋力低下・持続する感覚障害は医師共有を早めます
- 保存療法は固定順位ではなく、症状と目的から選びます
- 再評価では「夜間症状・感覚・運動・機能」を同じ条件で比較します
- 記録は「症状→所見→判断→対応→再評価条件」の順で残します
- よくある質問
- 次の一手|CTSだけで説明できるかを確認します
- 参考文献
- 著者情報
手根管症候群を疑ったら、単独テストではなく所見を組み合わせて判断します
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)を疑ったときは、症状分布・夜間症状・感覚/運動所見・誘発所見を組み合わせ、CTS-6などを用いてCTSらしさを整理することが重要です。PhalenテストやDurkanテストの陽性だけでCTSと判断するのではなく、所見が正中神経の手根管部での障害として整合するかを確認します。
本記事ではPT・OT向けに、CTSを疑ったときの評価、CTS-6の位置づけ、保存療法の考え方、再評価項目、医師へ共有したい変化までを整理します。ポイントは、「CTSらしさを整理する→重症化を疑う所見を確認する→介入する→同じ項目で再評価する」という一続きの判断です。
この記事の結論
- CTSはPhalen・Durkan・Tinelなど1つの誘発テストだけで確定・除外しません
- 症状・病歴・身体所見を統合する方法としてCTS-6を位置づけます
- 保存療法は「スプリント→神経滑走」のような固定順位で考えません
- 母指球筋の萎縮・筋力低下、持続する感覚障害、症状進行などは医師共有を早めます
- 再評価ではCTS-6の点数変化ではなく、症状・機能・感覚・運動所見の変化を追います

CTSを疑ったら、症状分布・夜間症状・感覚・運動を先にそろえます
CTSの評価では、誘発テストを最初の結論にするのではなく、病歴と神経学的所見から「手根管部の正中神経障害として説明できるか」を整理することが出発点です。
| 確認領域 | 確認すること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 症状分布 | 母指・示指・中指を中心としたしびれ、感覚異常 | 正中神経領域との整合性を確認する |
| 時間帯 | 夜間・早朝のしびれ、睡眠中の増悪 | 夜間症状はCTSを考える手掛かりの1つ |
| 誘発場面 | 手関節肢位、把持、反復作業などとの関連 | どの条件で症状が再現・増悪するかを記録する |
| 感覚 | 正中神経領域の感覚低下と左右差 | 分布がCTSだけで説明できるかを見る |
| 運動 | 母指外転・対立、巧緻動作、母指球筋の状態 | 明らかな筋力低下・萎縮は重症化を考える材料になる |
| 誘発所見 | Phalen、Durkan、Tinelなど | 単独結果ではなく、病歴・感覚・運動所見と統合する |
典型的な症状分布だけでなく、「夜に悪化するか」「日常のどの動作で困るか」「感覚障害だけでなく運動障害が出ていないか」までそろえると、その後の再評価にも使いやすくなります。
一方、小指側を中心とする感覚障害、頚部運動との明らかな関連、手根管より近位の正中神経障害を疑う所見などがある場合は、CTSだけに固定せず鑑別を広げます。
CTS-6は「CTSらしさを統合する診断支援ツール」として使います
CTS-6は、病歴と身体診察で得られる複数の臨床所見を重み付けして、CTSの可能性を整理するための臨床診断支援ツールです。大切なのは、CTS-6を「新しい誘発テスト」のように扱わないことです。夜間症状、感覚分布、母指球筋の状態、誘発所見などをまとめて解釈する枠組みとして位置づけます。
CTS-6の実務上のポイント:
CTS-6はCTSの診断可能性を整理するためのツールであり、治療効果を追跡するためのアウトカム尺度ではありません。再評価では「CTS-6が何点下がったか」ではなく、夜間症状、感覚、筋力、巧緻動作、生活上の支障がどう変化したかを比較します。
また、CTS-6を使うことは「追加検査が常に不要」という意味ではありません。症状が非典型的な場合、他疾患との鑑別が必要な場合、障害の程度を詳しく確認する必要がある場合、手術を含む治療方針を検討する場合などは、医師が追加検査の必要性を判断します。
Phalen・Durkan・Tinelは単独で確定診断に使いません
誘発テストはCTS評価に役立ちますが、陽性ならCTS、陰性ならCTSではないという使い方はできません。テスト結果は、病歴・感覚・運動所見などと組み合わせて解釈する必要があります。
| 結果 | 解釈 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 陽性 | CTSを支持する所見の1つ | 再現された症状の分布、夜間症状、感覚・運動所見 |
| 陰性 | 陰性だけではCTSを除外できない | 病歴、他の診察所見、CTS-6全体で再評価する |
| 複数テストで不一致 | テスト結果だけでは判断しない | 症状の再現性と神経学的所見の整合性を確認する |
特に圧迫による症状再現を確認するときは、「陽性・陰性」だけではなく、どの指に、どのような感覚症状が、どの程度再現されたかまで記録しておくと再評価しやすくなります。Durkanテストの具体的な実施方法は、Durkanテストのやり方と陽性基準で詳しく整理しています。
CTSだけでは説明しにくい所見があれば鑑別を広げます
CTSを疑う所見があっても、正中神経の手根管部での障害だけでは説明できない所見が混ざっている場合は、局在をいったん見直します。
| 所見 | 再検討する方向 |
|---|---|
| 小指優位の感覚障害 | 尺骨神経障害など |
| 母指球部の皮膚まで明確な感覚低下 | 手根管より近位の正中神経障害など |
| 頚部運動と症状が強く連動する | 頚椎神経根症など |
| 前腕部の症状や近位筋の所見を伴う | 回内筋部を含む近位正中神経障害など |
| 反射亢進、痙縮、神経分布で説明しにくい麻痺 | 中枢神経障害 |
CTSと近位正中神経障害、頚椎由来の症状を詳しく分けたい場合は、記事末の比較記事へ進むと局在を整理できます。
母指球筋萎縮・筋力低下・持続する感覚障害は医師共有を早めます
保存療法を漫然と続けないためには、「どの変化なら医師共有を早めるか」を最初に決めておくことが重要です。特に客観的な運動障害や感覚障害が明らかになっている場合は、症状の程度を改めて評価し、診断・治療方針について医師と共有します。
| 変化 | 共有したい情報 |
|---|---|
| 母指球筋の萎縮 | 左右差、出現時期、母指機能への影響 |
| 母指外転・対立の筋力低下 | 筋力所見と日常動作への影響 |
| 感覚低下が持続・進行 | 分布、程度、夜間だけか日中も持続するか |
| 巧緻動作・つまみ動作が低下 | 具体的に困っている活動と経時変化 |
| 保存的対応でも症状・機能が悪化 | 実施した対応、期間、症状の変化 |
| CTSだけでは説明できない所見 | 神経分布から外れる感覚・運動所見、頚部症状など |
「しびれがある」という主観症状だけでなく、感覚・筋力・機能がどう変化しているかを添えて共有すると、その後の診察や追加検査の判断につながりやすくなります。
保存療法は固定順位ではなく、症状と目的から選びます
CTSの保存療法では、「まずスプリント、次に神経滑走、最後に筋力訓練」という固定した優先順位は設けません。症状の程度、誘発場面、生活上の支障、患者さんの希望、医師の治療方針を踏まえて選択します。
| 対応 | 位置づけ | 再評価すること |
|---|---|---|
| 活動・作業の調整 | 症状を反復して誘発する手関節肢位や作業負荷を確認し、変更可能な条件を調整する | 誘発頻度、作業後の症状、生活上の支障 |
| 手関節装具・スプリント | 非重症例で検討される保存的選択肢の1つ。夜間使用が用いられることがある | 夜間覚醒、装着による症状変化、装着時の不快感 |
| 神経・腱滑走などの運動 | 個別に検討できるが、CTSの長期改善を保証する介入ではない | 実施中・実施後のしびれ、翌日までの増悪の有無 |
| 手指・母指機能への練習 | 筋力・巧緻性・活動制限がある場合に、その障害へ対応する | つまみ、ボタン操作、把持など具体的な活動 |
スプリントについても「装着すれば改善する」と断定はできません。低侵襲な選択肢として、症状や生活背景に合わせて検討します。
神経滑走・腱滑走についても、実施すること自体を目標にしません。症状が明らかに増える場合は回数や方法を見直し、介入を継続する理由があるか再評価します。
再評価では「夜間症状・感覚・運動・機能」を同じ条件で比較します
再評価の目的はCTSという診断名を再確認することではなく、症状と機能が改善・不変・悪化のどこに向かっているかを確認することです。初回と同じ観点を使うと、介入への反応と医師共有の必要性を判断しやすくなります。
| 領域 | 再評価する内容 | 変化の見方 |
|---|---|---|
| 夜間症状 | しびれによる覚醒、症状の頻度 | 減少・不変・増加 |
| 日中症状 | しびれの持続時間、誘発する活動 | 出現する条件が変わったか |
| 感覚 | 正中神経領域の感覚低下 | 範囲・左右差・持続性 |
| 運動 | 母指外転・対立、母指球筋の状態 | 筋力低下や萎縮が進行していないか |
| 手の機能 | つまみ、把持、ボタン操作、物品操作など | 具体的な活動が楽になったか |
| 介入への反応 | 活動調整・装具・運動後の症状 | 介入を続ける合理性があるか |
症状・機能をより定量的に追跡したい場合は、目的に応じて患者報告アウトカム尺度を検討します。診断支援用のCTS-6と、経過を追うアウトカム評価は役割を分けることがポイントです。
記録は「症状→所見→判断→対応→再評価条件」の順で残します
CTSの記録では、テスト結果だけを羅列するよりも、何を根拠にCTSを疑い、何を注意して経過を見るのかが分かる形にします。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 症状 | 分布、夜間症状、日中の持続、誘発動作 |
| 身体所見 | 感覚、母指機能、母指球筋、必要な誘発テスト |
| 所見の統合 | CTSとして整合する点と、説明しにくい点 |
| 対応 | 活動調整、装具、運動など実際に行った内容 |
| 再評価 | 次回比較する症状・感覚・運動・機能 |
| 共有 | 医師へ共有した所見とその理由 |
記録例
記録例:
右母指〜中指のしびれあり。夜間に増悪し、把持作業後にも出現。正中神経領域に感覚左右差あり。誘発テストは症状分布を含めて確認し、病歴・身体所見と合わせてCTSを疑う。現時点で明らかな母指球筋萎縮は認めない。症状を誘発する作業条件を調整し、次回は夜間覚醒、感覚、母指機能、日中症状の変化を再評価する。
実際の記録では、患者さんごとの測定結果・介入内容・医師の診断や指示に合わせて記載してください。
よくある質問
Q1. Phalenテストが陰性ならCTSを除外できますか?
除外できません。Phalenテストを含む誘発テストには診断精度のばらつきがあるため、陰性結果だけでCTSではないと判断せず、症状分布、夜間症状、感覚・運動所見、CTS-6などを組み合わせて評価します。
Q2. CTS-6を使えば神経伝導検査は必要ありませんか?
CTS-6は臨床所見を統合してCTSらしさを整理するために有用ですが、非典型例、他疾患との鑑別、障害程度の確認、治療方針の検討などでは追加検査が必要になることがあります。必要性は個別に医師が判断します。
Q3. CTSでは神経滑走を必ず行うべきですか?
必須ではありません。神経・腱滑走は症状、目的、反応を確認しながら個別に選択し、増悪する場合は方法や継続の必要性を見直します。
次の一手|CTSだけで説明できるかを確認します
参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Carpal Tunnel Syndrome Evidence-Based Clinical Practice Guideline. Published May 18, 2024.
- Shapiro LM, Kamal R, Brault J, et al. American Academy of Orthopaedic Surgeons/ASSH Clinical Practice Guideline Summary Management of Carpal Tunnel Syndrome. J Am Acad Orthop Surg. 2025;33(7):e356-e366. doi:10.5435/JAAOS-D-24-01179.
- Dabbagh A, MacDermid JC, Yong J, et al. Diagnostic Test Accuracy of Provocative Maneuvers for the Diagnosis of Carpal Tunnel Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Phys Ther. 2023;103(6):pzad029. doi:10.1093/ptj/pzad029.
- Karjalainen TV, Lusa V, Page MJ, O’Connor D, Massy-Westropp N, Peters SE. Splinting for carpal tunnel syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2023;2:CD010003. doi:10.1002/14651858.CD010003.pub2.
- Graham B, Regehr G, Naglie G, Wright JG. Development and validation of diagnostic criteria for carpal tunnel syndrome. J Hand Surg Am. 2006;31(6):919-924. doi:10.1016/j.jhsa.2006.03.007.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

