体圧分散マットレスの種類と選び方|褥瘡予防と離床を両立する理学療法士の視点

臨床手技・プロトコル
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体圧分散マットレスの種類と選び方|褥瘡予防と離床を両立する理学療法士の視点

体圧分散マットレスは、骨突出部への圧集中と、同一部位への持続圧を減らすための支持面です。臨床的には ①圧の再分配(接触面積を広げるフォーム等の reactive surface)と、②圧の時間的移動(交互圧・自動体位変換など active surface)の 2 つのメカニズムが中心となります。国際ガイドラインでは「圧再分配・摩擦/ずれの低減・マイクロクライメイト管理」を満たす支持面を、患者のリスクに応じて選択することが推奨されています。

理学療法士にとっては「褥瘡予防マットレスの選び方」だけでなく、マットレスの種類が離床動作・呼吸・睡眠の質にどう影響するかを含めて評価することが重要です。本稿では、フォーム/交互圧/自動体位変換付きといった体圧分散マットレスの種類と特徴を整理し、Braden スケールなどのリスク評価から、離床・環境調整までを一連のフローとして解説します。

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定義と基本メカニズム

体圧分散用具は「支持面と接触する単位体表面が受ける圧力を軽減する用具」と定義されます。臥位では特殊寝台用マットレス・上敷き・交換用マットレス、座位では車いすクッションなどが該当し、ウレタンフォーム、ゲル、エア、ウォーターなど多様な材質が用いられます。狙いは、点でなく面で支えることで局所圧を下げることに加え、時間的に圧を動かし、皮膚血流が回復する「オフ」の時間を確保することです。

臨床運用では、体圧測定・皮膚所見・睡眠の質・離床時の安定性を総合して評価し、マットレスの種類や設定(圧・サイクル・傾斜)を動的に調整します。高機能なマットレスが常に最善とは限らず、「リスク・活動性・介助体制」に対して過不足がないことが選定の基本方針になります。

体圧分散マットレスの主要タイプと“使い分け”早見表

ここでは成人の褥瘡リスク管理を想定し、体圧分散マットレスの代表的な種類(フォーム/交互圧/自動体位変換付き)を比較します。フォームは reactive support surface、交互圧・自動体位変換は active support surface に相当します。

体圧分散マットレスのタイプ別比較(成人・2025 年版)
タイプ メカニズム 適応の目安 メリット 留意点
静止型(フォーム/ゲル等) 面で支え圧再分配(フォーム密度・多層構造など) 自発的体位変換あり・軽〜中等度リスク(Braden 中等度以上で検討) 電源不要・静音・故障リスクが少ない・メンテナンス容易 長時間同一体位では圧集中が残るため、定期的な体位変換は必須
交互圧(エアマットレス) セルの膨張収縮により圧の時間的移動を繰り返す 自力体位変換が乏しい・中等度〜高リスク(SSI やステロイド使用などを含む) 同一部位への持続圧を避けやすく、高リスク患者の褥瘡予防に有効 電源・作動音・故障時の停止リスクあり。沈み込み過多による ADL・呼吸への影響に注意
自動体位変換付き 交互圧に加え、傾斜/側方移動などで体位そのものを変化 夜間の体位変換が困難・介助負担が大きい・非常に高リスクの症例 夜間介助負担の大幅軽減。マンパワーが限られた場面でも高リスクに対応 高価・大型で設置条件を要する。音や振動による睡眠障害、めまいや疼痛の訴えに留意

選び方(理学療法士の臨床フロー)

体圧分散マットレスを「種類から選ぶ」のではなく、「評価から逆算して選ぶ」ことが重要です。具体的には ①褥瘡リスク評価(Braden 等でリスク層別化)、②活動性と自力体位変換(寝返り・起き上がり・ベッド上座位の可否)、③夜間マンパワー(スタッフ配置・家族介護力)、④既存マットレスでの問題点(疼痛・皮膚所見・睡眠障害・離床動作の安定性)、⑤リスクと目標に合ったタイプ選択の順で検討します。

フォームのみで十分なケースも多く、「リスクは高くないが体幹が不安定」「離床リハビリを優先したい」といった症例では、沈み込みの少ないフォームマットレス+ポジショニングで対応した方が、歩行練習や呼吸リハと両立しやすいこともあります。一方、体動が乏しく高リスクな症例では、交互圧や自動体位変換を早期から併用し、皮膚所見と体圧測定を定期的にチェックしてフィードバックすることが理学療法士の役割です。

理学療法士が押さえたい評価とフォローのポイント

マットレスの種類によって、リハビリ場面で観察すべきポイントも変わります。フォームでは「沈み込み過多による起き上がり困難」「端座位での骨盤後傾・滑り座り」を、交互圧では「ポンプ作動時の体幹揺れによる平衡障害」「エア圧低下時の呼吸パターン変化」などを確認します。自動体位変換付きでは、傾斜角度とサイクルが疼痛・めまい・睡眠の質に与える影響の聴取が欠かせません。

また、リハスタッフが関与できるのは「導入前の評価」「導入直後のフィッティング」「離床プログラムとの調整」「多職種カンファレンスでの情報共有」です。看護師・栄養士・医師と連携し、体重変化や浮腫、鎮静レベルの変化に応じてマットレス種別や設定を見直すことで、「褥瘡予防」「離床促進」「睡眠の質」のバランスを取りやすくなります。

おわりに

体圧分散マットレスの選び方は、「種類の知識」だけでなく、褥瘡リスク・活動性・介助体制・離床目標を一体として考えることがポイントです。まずはフォームマットレスを基準に、リスクが高い・自力体位変換が乏しい・夜間の体位変換が困難といった条件が揃ったときに、交互圧や自動体位変換付きへのステップアップを検討します。その際、皮膚所見・体圧測定・睡眠の質・離床動作の安定性を定点観測し、「導入して終わり」ではなく、設定やポジショニングを継続的に最適化していく姿勢が大切です。

実地では「褥瘡リスク評価→マットレス選定→ポジショニング・離床→再評価」というリズムをチームで共有しておくと、用具選定の判断がぶれにくくなります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック(A4・5分)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。

参考文献

  1. EPUAP/NPIAP/PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries – International Guideline(2019)Support Surfaces 章. PDF
  2. Guideline Governance Group. Support Surfaces — International Guideline(更新:2025-02-25)SS3「圧再分配フォーム推奨(Strong)」. Link
  3. 日本皮膚科学会. 褥瘡診療ガイドライン 第 3 版(2023). J-STAGE

よくある質問

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教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?

マットレス選定や褥瘡予防の実務を任されているのに、評価やカンファレンスのサポートが得られない状況が続くと、学習機会だけでなく患者さんの安全面でも不安が大きくなります。「インシデントは個人責任で処理される」「指導者が変わっても教育方針が共有されない」といった状態が慢性化している場合は、早めに情報収集を始めた方が良いサインです。教育体制や安全文化をチェックする視点については、理学療法士の転職ガイド(要注意サインのチェックリスト)も参考にしてみてください。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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