呼吸筋サルコペニアとは?評価と IMT の組み立て

評価
記事内に広告が含まれています。

呼吸筋サルコペニアとは(要点)

呼吸筋サルコペニアは、呼吸筋力の低下呼吸筋量の低下が同時に進行する状態です。診断は possible → probable → 確定 の段階付けで行い、筋力は MIP/MEP、筋量は 横隔膜超音波 や CT などで評価します。高齢者や慢性呼吸器疾患では、呼吸困難や咳嗽力低下の背景に隠れていることが多く、早期から「呼吸筋サルコペニアの疑い」として拾う視点が重要です。

臨床では、まず 簡便な呼吸筋指標でスクリーニングし、疑わしい症例に対して MIP/MEP や横隔膜エコーで確定評価へ進む二段構えが実用的です。安静時 SpO₂ や歩行距離だけで判断すると見逃しやすいため、「咳が弱い」「深呼吸が浅い」といったベッドサイド所見も合わせて拾うようにします。

理学療法士のキャリアガイドを見る

加齢で何が落ちるか(スクリーニングの着眼点)

加齢に伴い、MIP・MEP の系統的低下に加えて、PEFR/CPF の低下や横隔膜厚さ変化率(thickening fraction:TF)の低下が生じます。絶対値だけで一喜一憂するよりも、同一条件・同一測定手順での縦比較と、息切れ・咳嗽・誤嚥などの症状や ADL と統合して解釈することがポイントです。

横隔膜 TF はカットオフがいくつか報告されていますが、研究間のばらつきが大きく、個人差もあります。現場では「入院時からどれくらい変化したか」「急性増悪後にどこまで戻ったか」といった推移を重視し、測定条件をぶらさないことが何よりのコツです。

評価フロー(簡便 → 確定)

まずは ①簡便指標:PEFR/CPF発声持続時間SNIP などで「怪しいかどうか」をふるい分けます。ここで陽性所見が出たら、MIP/MEP(口腔内圧)や 横隔膜エコー(厚さ・ TF ・可動性)による ②確定評価につなげる流れが現実的です。測定導線や記録フォーマットは 呼吸評価の実務ガイド と揃えておくと、チームでの共有がスムーズになります。

「現場の詰まりどころ」は、簡便指標だけで安心して確定評価に進まないこと、あるいは逆に MIP/MEP だけで全体像を判断してしまうことです。簡便指標 → 確定評価 → 機能・症状との統合という 3 段階をワンセットで考えるようにします。

呼吸筋サルコペニアの評価要素(目的と使いどころ)
指標 主目的 現場の使いどころ
PEFR/CPF 咳流量・排痰力の推定 感染期の重症化リスク把握、体位ドレナージや補助排痰法の要否判断
SNIP 吸気筋力の簡便推定 MIP 低値時に「努力不足か、本当に弱いのか」を見極める補助指標
MIP/MEP 確定的な呼吸筋力評価 IMT 初期負荷の設定、縦比較の基準化、治療方針変更の判断材料
横隔膜 US(厚さ・TF・可動性) 筋量・機能の複合評価 廃用や病態変化のモニタリング、IMT や体位ドレナージの適応/禁忌判断

測定のコツ(ATS/ERS に準拠)

  • MIP/MEP:鼻クリップで漏れを防ぎ、掛け声とデモを行ってから測定します。3〜5 回の反復で最良値を採用し、体位(端座位/半座位など)は経時で統一します。
  • SNIP:短く自然な努力で行い、「思い切り吸ってください」ではなく「鼻で勢いよくスッと吸ってください」と具体的に説明します。学習効果があるため、最初の数回は練習に充てるつもりで実施します。
  • 横隔膜 US:いつも同じ肋間・同じプローブ角度・同じ呼吸相で記録し、厚さ変化率( TF )をルーチンで残します。画像保存と数値記録をセットにしておくと、カンファレンスで共有しやすくなります。

介入:IMT(吸気筋トレーニング)の実践方針

標準的な例としては、30 呼吸 × 1〜2 セット/日・週 5〜7 日・ 6〜8 週 程度の継続が目安です。初期は 30〜50% PImax から開始し、RPE 4〜6(ややきつい〜きつい)の範囲を保つように週単位で負荷を漸増します。歩行訓練・下肢筋力トレーニング・排痰法・栄養介入と組み合わせて、全身持久力の底上げにつなげます。

よくある失敗は、「 IMT デバイスを渡しただけで終わる」「負荷を見直さない」ことです。週 1 回は MIP/MEP・症状・ RPE をチェックし、負荷・頻度・セット数を微調整します。IMT の詳細手順や増負荷ルールは別記事:IMT 手順と負荷設定【プロトコル】 に集約しておくと、スタッフ教育にも使いやすくなります。

安全管理(禁忌・中止基準)

  • 禁忌例:不安定狭心症や最近の心筋梗塞などの不安定な循環器疾患、急性呼吸不全、原因不明の急性胸痛、治療未調整の重度高血圧など。
  • 中止基準:著明な息切れや SpO₂ 低下(例: 4 ポイント以上の急激低下)、胸痛・失神前駆、強いめまい、新規の不整脈所見、患者が「これ以上は無理」と訴える場合。

既往歴や心電図所見に不安がある症例では、あらかじめ主治医や看護師と禁忌ラインを共有し、開始前の合意形成をしておくと現場で迷いにくくなります。

まとめ

呼吸筋サルコペニアへの対応は、簡便指標で拾う → 標準化手順で確定評価する → IMT と全身運動・排痰・栄養を組み合わせて介入するという流れで考えると整理しやすくなります。数値は「一度きり」ではなく、同じ条件での縦比較と症状・機能との統合で解釈し、変化を追うことで効果検証と早期の方針転換につなげていきます。

参考文献

  1. Sato S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2023;23:5–15. PMID / DOI
  2. Laveneziana P, et al. Eur Respir J. 2019;53:1801214. DOI
  3. Boussuges A, et al. Front Med. 2021;8:742703. Full text
  4. Langer D, et al. Phys Ther. 2015;95:1264–1273. Link
  5. Vázquez-Gandullo E, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:5564. Link
タイトルとURLをコピーしました