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理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪
呼吸筋サルコペニアとは(定義と病態)
呼吸筋サルコペニアは、呼吸筋量の低下と呼吸筋力(機能)の低下が併存する状態と定義され、全身性サルコペニアの影響に加えて、胸郭の硬化や低活動、低栄養、炎症、薬剤など多因子で進行します。
実務では、AWGS2019 等で全身性サルコペニアを評価したうえで、呼吸筋の量(横隔膜厚など)と機能(最大吸気圧MIP/最大呼気圧MEP等)を追加評価します。学会ポジションペーパーは、呼吸筋の評価を定期的な機能評価に組み込む意義を強調しています。
加齢で何が落ちるか(MIP/MEP・PEFR・横隔膜)
加齢に伴い、MIP・MEP は系統的に低下し、同年代でも男性>女性の傾向があります。地域高齢者では PEFR(ピークフロー)がサルコペニアと関連し、簡便なスクリーニング指標として有用との報告があります。
横隔膜超音波では安静呼吸から努力吸気での厚さ変化率(thickening fraction; TF)が量・機能の複合指標になり、成人の下限目安はおおむね 40 % 前後が示されています(研究間ばらつきあり)。値の絶対化より、再現性の高い同一条件での縦比較が重要です。
臨床での評価フロー(スクリーニング→確定)
まずスクリーニングとして、①全身サルコペニア(握力・歩行速度・骨格筋量)に加え、②呼吸筋の簡便指標を確認します。
呼吸筋簡便指標としての候補は PEFR、咳ピークフロー(CPF)、発声持続時間、SNIP(鼻吸気圧)などがあげられます。ポジティブなら確定評価へ進み、MIP/MEP(口腔内圧)、横隔膜超音波(厚さ・TF・可動性)を標準化手順で測定します。
得られた所見は呼吸機能検査や運動負荷試験と合わせて解釈し、訓練適応とリスクを判定します。手技・解釈は ATS/ERS/ERS 技術文書を参照し、再現性の担保(体位、鼻クリップ、リーク防止、3 ~ 5 回の再試行)を徹底します。
測定のコツ
- MIP/MEP
- 口周囲リーク対策、学習効果を見込み十分な練習
- 横隔膜US
- 同一肋間、同一呼吸相で撮像しTFを算出(%)
何が困るか(機能・合併症・予後)
呼吸筋力の低下は換気効率と排痰力を損ない、労作時の息切れ、運動耐容能低下、廃用症候群の進行、誤嚥・肺炎リスク増大に波及します。四肢筋と呼吸筋の筋力は連関し、ADL や自立度とも関連します。
特に CPF 低下は自己排痰能力の低下指標であり、気道感染時に重症化しやすい背景になります。呼吸筋サルコペニアを早期に捉え、栄養・身体活動・廃用症候群の評価と介入・呼吸リハ(IMT 含む)を包括的に処方することが、転倒・再入院・死亡など不良転機の抑制に重要です。
介入:吸気筋トレーニング(IMT)の実践
IMT は閾値負荷や可変抵抗デバイスで吸気筋に系統的過負荷を与え、MIP、息切れ、運動耐容能、生活の質の改善が期待できます。COPD のメタ解析では単独介入でも臨床的に意味のある効果が示され、最近のレビューでは <60%PImax の中等度負荷でも有用性が示唆されています。
標準的な処方は「30 呼吸 × 1 ~ 2 セット/日、週 5 ~ 7 日、6 ~ 8 週、初期 30 ~ 50 % PImax、RPE 4 ~ 6 で増負荷」。併行して歩行・下肢筋トレ・排痰法・栄養介入を組み合わせ、SpO₂、めまい、胸痛等のレッドフラッグに注意します。
初期設定と進め方
- 初回は MIP 測定→ 30 ~ 50 %で開始、3 ~ 7 日ごとに見直し
- 息切れ強い / 脆弱例は < 60 %で開始し、漸増(安全重視)
症例別の活用ポイント
- フレイル高齢者
- PEFR や発声持続時間で拾い、IMT+下肢筋トレを短時間・高頻度で併用する
- COPD
- 息切れの改善・運動療法の増量に IMT を組み込む
- 脳卒中・脊髄損傷
- MIP/MEP の低下が ADL と関連、咳介助・排痰法と併用(吸気保持・グロッサル法などは適応選択)
- 術後・長期臥床時の廃用対策
- 横隔膜 US で廃用性の変化を縦比較し早期介入
- 栄養(蛋白質十分化)と炎症・薬剤・活動量の是正をセットで評価・介入
まとめ
呼吸筋サルコペニアは、呼吸筋「量」と「筋力」低下が合併する臨床的に重要な状態です。スクリーニング(PEFR/CPF等)で拾い、MIP/MEP や横隔膜超音波で確定的に把握し、IMT を中心に全身運動・排痰・栄養を組み合わせて包括的に介入します。
測定手順の標準化と縦比較を徹底し、合併症・再入院・QOL 低下を未然に防ぐことが理学療法士の価値です。
参考文献
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